「家族が亡くなった後、遺産分割協議書の作成が必要になったけど、どう書けばいいの?」
相続が発生した際、遺言書がない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成します。
この書類は、後のトラブルを防ぎ、各種相続手続きをスムーズに進めるために非常に重要です。
この記事では、遺産分割協議書の書き方や注意点について、具体例を交えながら、分かりやすく解説していきます。
初めての方でも安心して作成できるよう、丁寧に説明しますので、ぜひ最後までお読みください。
遺産分割協議書とは?作成は義務?
遺産分割協議書とは、相続人全員で遺産の分け方について話し合い(遺産分割協議)、合意した内容をまとめた書類です。
誰がどの財産をどれだけ相続するかを明確にすることで、後のトラブルを防ぐ役割があります。
遺産分割協議書の作成は義務ではないが、事実上必須
法律上、遺産分割協議書の作成は義務ではありません。口頭での合意でも遺産分割は成立します。
しかし、口約束だけでは「言った、言わない」のトラブルになりやすく、後々の紛争の原因となることも。
また、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の払い戻しなどの手続きには、原則として遺産分割協議書が必要になります。
これらの手続きを進めるためにも、遺産分割協議書の作成は事実上必須と言えるでしょう。
相続開始から遺産分割協議書作成までの流れ
一般的な流れは以下の通りです。
- 相続人の確定: 戸籍謄本などを収集し、相続人を確定します。
- 相続財産の調査: 預貯金、不動産、株式など、すべての遺産をリストアップし、評価額を調べます。
- 預貯金:金融機関で残高証明書を取得(例:〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇 残高1,000,000円)
- 不動産:固定資産評価証明書を取得し、評価額を確認(例:〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇所在の土地 評価額2,000万円)
- 株式:証券会社に問い合わせ、残高証明書を取得
- 遺産分割協議: 相続人全員で、誰がどの財産を相続するかを話し合います。
- 遺産分割協議書の作成: 合意内容をまとめ、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書はいつまでに作成すべき?
遺産分割協議書の作成に期限はありません。
しかし、相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
相続税の申告が必要な場合は、申告期限に間に合うように遺産分割協議を終え、遺産分割協議書を作成しましょう。
申告期限までに遺産分割がまとまらないと、「小規模宅地等の特例」などの税額軽減措置が受けられず、相続税額が高くなる可能性があります。
誰でもできる!遺産分割協議書の書き方【ひな形付き】
遺産分割協議書には、決まった書式はありません。手書きでもパソコンで作成しても大丈夫です。
ここでは、一般的な遺産分割協議書の書き方と、ひな形(サンプル)をご紹介します。
パソコンでの作成がおすすめ
手書きでも問題ありませんが、パソコンで作成すると、修正や加筆が容易で、複数枚作成する際にも便利です。
A4サイズの用紙を使用するのが一般的です。
遺産分割協議書のひな形(例)
遺産分割協議書
被相続人 〇〇 〇〇(令和〇年〇月〇日死亡)の相続につき、相続人全員により遺産分割協議を行った結果、下記のとおり合意した。
第1条(不動産の相続)
相続人 〇〇 〇〇は、次の不動産を相続する。
記
土地
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇
地番 〇〇番〇
地目 宅地
地積 〇〇.〇〇㎡
建物
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇
家屋番号 〇〇番〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 〇〇.〇〇㎡ 2階 〇〇.〇〇㎡
第2条(預貯金の相続)
相続人 〇〇 〇〇は、次の預貯金を相続する。
記
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇
〇〇信用金庫〇〇支店 定期預金 口座番号〇〇〇〇
第3条(株式の相続)
相続人〇〇〇〇は、次の株式を相続する。
記
〇〇株式会社 〇〇株
第4条 (その他の財産)
本協議書に記載のない遺産及び後日判明した遺産については、相続人〇〇〇〇が全て取得する。
第5条(債務の負担)
被相続人の債務については、相続人〇〇〇〇が全て負担する。
上記のとおり、遺産分割協議が成立したことを証するため、本協議書を〇通作成し、相続人全員が署名押印のうえ、各1通を所持する。
令和〇年〇月〇日
(住所)〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
(氏名)〇〇 〇〇 実印
(住所)〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
(氏名)〇〇 〇〇 実印
(住所)〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
(氏名)〇〇 〇〇 実印
遺産分割協議書の作成ポイント
作成日付の記載
遺産分割協議が成立した日を記載します。
被相続人(亡くなった方)の情報を正確に記載
- 氏名
- 死亡年月日
- 最後の住所
- 本籍
これらの情報は、戸籍謄本(除籍謄本)で確認できます。
相続人全員の情報を記載
- 氏名(自署が望ましい)
- 住所
- 被相続人との続柄(例:長男、長女、妻など)
- 実印での押印(印鑑登録証明書と同じ印鑑を使用)
相続財産を具体的に、漏れなく記載
誰がどの財産を相続するのかを明確にするために、財産の種類ごとに具体的に記載します。
- 不動産: 登記簿謄本(登記事項証明書)の通りに記載(所在、地番、地目、地積、家屋番号、種類、構造、床面積など)
- 預貯金: 金融機関名、支店名、口座の種類(普通・定期など)、口座番号
- 株式: 証券会社名、銘柄、株式数
- 自動車: 車名、登録番号、車台番号
- その他: 骨董品、美術品なども具体的に記載
- 債務(借金など): 借入先、借入金額、残高
後日判明した遺産の取り扱いを記載
遺産分割協議後に新たな遺産が見つかることもあります。
その場合に備えて、「本協議書に記載のない遺産及び後日判明した遺産については、相続人〇〇〇〇が全て取得する。」などと記載しておくと、再度協議する手間が省けます。
相続人全員の署名と実印での押印
遺産分割協議書には、相続人全員の署名と実印での押印が必要です。
一人でも欠けると無効になります。
必ず実印を使用し、印鑑登録証明書を添付しましょう。
複数ページにわたる場合は契印
遺産分割協議書が複数ページになる場合は、相続人全員の実印で各ページに契印(割印)をします。
ホチキスで綴じた場合は、製本テープと用紙にまたがるように契印します。
相続人全員分の原本を作成
遺産分割協議書は、相続人の数だけ原本を作成し、各相続人が1通ずつ保管します。
原本は、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどの手続きで使用します。
遺産分割協議書でよくある疑問
生命保険金や死亡退職金は記載する?
生命保険金や死亡退職金は、受取人固有の財産とされ、原則として遺産分割の対象となりません。
したがって、遺産分割協議書に記載する必要はありません。
ただし、受取人が被相続人本人になっている場合などは、相続財産となるため注意が必要です。
代償分割を行う場合の記載方法は?
代償分割とは、特定の相続人が法定相続分を超える財産を取得する代わりに、他の相続人に対して金銭などを支払う方法です。
代償分割を行う場合は、
「相続人〇〇〇〇は、第〇条記載の遺産を取得する代償として、相続人〇〇〇〇に対し、金〇〇〇万円を支払う。」
のように、誰が誰に、いくらを支払うのかを明確に記載します。
相続人の中に未成年者がいる場合は?
未成年者は単独で遺産分割協議に参加できません。
親権者(通常は親)が法定代理人として参加します。
ただし、親権者も相続人である場合は、利益相反となるため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。
遺産分割協議書作成後の手続き
遺産分割協議書が完成したら、それを使って、相続した財産の名義変更などの手続きを行います。
相続税の申告
遺産総額が基礎控除額(3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告が必要です。
相続税の申告書には、遺産分割協議書の写しを添付します。
不動産の名義変更(相続登記)
法務局で相続登記を行います。遺産分割協議書の原本、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本・印鑑登録証明書などが必要です。
(参考:法務局 相続登記の申請書には、どのような書類を添付する必要がありますか。)
預貯金の名義変更・解約
金融機関で手続きを行います。遺産分割協議書の原本、被相続人の戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本・印鑑登録証明書などが必要です。
株式の名義変更
証券会社で手続きを行います。遺産分割協議書の原本、被相続人の戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本・印鑑登録証明書などが必要です。
まとめ
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を明確にし、後のトラブルを防ぐために重要な書類です。
ご自身で作成することも可能ですが、不備があると無効になる可能性もあります。
不安な場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
専門家は、遺産分割協議書の作成だけでなく、遺産分割協議のサポートや、相続に関する様々な手続きの代行も行ってくれます。
この記事が、皆様の円満な相続の一助となれば幸いです。
遺産分割協議書のよくある質問まとめ
Q. 遺産分割協議書って絶対に必要?
A. 法定相続分と異なる割合で遺産分割する場合や、不動産の名義変更をする場合は、原則として必要です。
Q. 遺産分割協議書は自分で作れる?
A. はい、作成できます。ただし、不備があると無効になる可能性もあるため、専門家(弁護士や行政書士など)に依頼する方が安心です。
Q. 遺産分割協議書の書き方に決まった形式はある?
A. いいえ、特に決まった形式はありません。ただし、法律上有効なものにするために、記載すべき事項は決まっています。
Q. 相続人全員の署名・押印が必要? 実印じゃないとダメ?
A. はい、相続人全員の署名と実印での押印が必要です。印鑑証明書も添付します。
Q. 遺産分割協議書に期限はある?
A. 遺産分割協議書自体に期限はありません。ただし、相続税の申告期限(被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内)などを考慮して、早めに作成しましょう。
Q. 遺産分割協議書作成後、内容を変更できる?
A. 相続人全員の合意があれば変更可能です。ただし、再度、全員の署名・実印での押印が必要になります。