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【換価分割】代表売却後の確定申告、相続人ごとの書き方を徹底解説

2025-02-18
目次

相続した不動産を代表者一人の名義で売却し、その代金を相続人みんなで分ける「換価分割」。この方法、手続きがスムーズで公平に分けられるのが魅力ですよね。でも、その後の確定申告って「誰が」「どうやって」するのか、迷っていませんか?特に、代表者じゃない相続人も申告が必要なのか、どんな書類を書けばいいのか、不安に思う方も多いはずです。この記事では、そんなお悩みを解決するために、換価分割をした後の各相続人の確定申告書の書き方や注意点を、わかりやすく解説していきます。

換価分割と確定申告の基本

まずは、なぜ換価分割をすると確定申告が必要になるのか、基本的なところから確認していきましょう。「代表者が全部やってくれるんじゃないの?」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそうではないんです。

そもそも換価分割とは?

換価分割とは、相続した不動産や株式などを売却して現金に換え、その現金を相続人同士で分け合う遺産分割の方法のことです。例えば、実家の土地と建物を兄弟2人で相続したけれど、どちらも住む予定がない…といった場合に、不動産を売却して、得られたお金を半分ずつ分ける、というようなケースですね。物理的に分けにくい財産でも、現金にすることで公平に分割できるのが大きなメリットです。

なぜ相続人全員が確定申告する必要があるの?

ここが一番大切なポイントです。たとえ手続きをスムーズにするために代表者一人の名義で不動産を売却したとしても、税法上は「相続人全員が、それぞれの持ち分を売却した」と見なされるんです。不動産を売却して利益(これを譲渡所得といいます)が出た場合、その利益を得た人には所得税(譲渡所得税)がかかります。そのため、売却代金を受け取った相続人それぞれが、自分の利益分について税金を計算し、国に報告する必要があるのです。これが確定申告です。

申告するのは誰?代表者だけでいい?

結論から言うと、代表者だけでは不十分です。売却によって利益(譲渡所得)が発生した場合は、売却代金の分配を受けた相続人全員が、それぞれ確定申告を行う必要があります。遺産分割協議で決めた自分の取り分に応じて、各自が所得を計算し、申告・納税する義務を負う、と覚えておいてくださいね。

確定申告の準備をしよう!必要書類と申告期間

「全員が申告しなきゃいけないのはわかったけど、じゃあ何をいつまでにやればいいの?」という疑問にお答えします。申告には期限がありますし、揃えるべき書類もいくつかありますので、早めに準備を始めましょう。

確定申告の期間はいつまで?

譲渡所得の確定申告は、不動産などを売却した年の翌年2月16日から3月15日までに行うのが原則です。この期間内に、税務署へ申告書を提出し、納税まで済ませる必要があります。もし期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があるので、くれぐれもご注意ください。

各相続人が用意する必要書類リスト

確定申告には、主に以下の書類が必要になります。相続人それぞれが自分の申告のために用意しましょう。

書類名 概要・入手先
確定申告書 税務署や国税庁のウェブサイトで入手できます。
譲渡所得の内訳書 譲渡所得を計算するための明細書です。確定申告書に添付します。
遺産分割協議書の写し 「換価分割」であることや、各相続人の「分配割合」が明記されていることが重要です。
売買契約書の写し(売却時) いくらで売れたか(収入金額)を証明します。
譲渡費用の領収書 仲介手数料や印紙代など、売却にかかった費用の証明になります。
取得費がわかる書類 被相続人がその不動産を購入した時の売買契約書や領収書などです。見当たらない場合もあります。
本人確認書類 マイナンバーカード、または通知カードと運転免許証などです。

譲渡所得の計算方法【各相続人編】

確定申告で最も重要なのが、税金の元となる「譲渡所得」の計算です。ここでは、各相続人が自分の申告のために所得を計算する方法を、ステップバイステップで見ていきましょう。

譲渡所得の基本計算式

譲渡所得は、以下の計算式で算出します。難しく見えるかもしれませんが、一つひとつの意味がわかれば大丈夫ですよ。

譲渡所得 = 収入金額 − (取得費 + 譲渡費用)

  • 収入金額:不動産を売却して買主から受け取った金額です。
  • 取得費:被相続人がその不動産を購入したときの代金や手数料などです。
  • 譲渡費用:今回の売却のために直接かかった費用(仲介手数料など)です。

収入金額・取得費・譲渡費用の分け方

代表者がまとめて手続きした場合、売買契約書や領収書は1通しかないことがほとんどです。各相続人は、これらの書類に記載された全体の金額を、遺産分割協議書で決めた自分の分配割合に応じて按分(あんぶん)して、自分の計算に使います。

【例】不動産を5,000万円で売却。取得費が1,000万円、譲渡費用が200万円。相続人AとBが1/2ずつ分ける場合。

項目 相続人Aさんの計算に使う金額(全体の1/2)
収入金額 5,000万円 × 1/2 = 2,500万円
取得費 1,000万円 × 1/2 = 500万円
譲渡費用 200万円 × 1/2 = 100万円

この場合、Aさんの譲渡所得は、2,500万円 – (500万円 + 100万円) = 1,900万円 となります。この1,900万円に対して、税率を掛けて所得税を計算します。

取得費がわからない場合は?

相続した不動産が、被相続人の方がずっと昔に購入したもので、売買契約書などが見つからず取得費がわからない…というケースは少なくありません。その場合は、「概算取得費」として、収入金額(売却価格)の5%を取得費として計算することが認められています。ただし、実際の取得費が5%より少ないことが明らかな場合は、実際の取得費で計算する必要があります。

【書き方ガイド】譲渡所得の内訳書の記入例

確定申告の中でも、特に記入が複雑なのが「譲渡所得の内訳書」です。ここでは、各相続人が記入する際のポイントを解説します。国税庁のウェブサイトにある記載例も参考にしながら進めると、より分かりやすいですよ。

譲渡所得の内訳書(1面)のポイント

まず、売却した不動産の情報を記入します。「所在地番」や「面積」などは、不動産全体の情報を記載します。そして、「あなたの持分」の欄に、遺産分割協議書で定められた自分の持分割合(例:「2分の1」)を忘れずに記入しましょう。
次に、収入金額や費用の欄です。ここには、先ほど計算した「自分の持分で按分した後の金額」を記入します。全体の金額ではなく、あくまでご自身の取り分に対応する金額を書く、という点が最大のポイントです。

譲渡所得の内訳書(2面)のポイント

2面では、取得費や譲渡費用の具体的な内訳を記入します。例えば、譲渡費用であれば「仲介手数料」として支払先と金額を書きます。ここも、自分の持分に応じた金額を記入してください。領収書が代表者宛で1枚しかない場合は、その領収書のコピーを添付し、内訳書の余白に「遺産分割協議に基づき1/2を負担」のようにメモ書きをしておくと、税務署に対して状況が伝わりやすくなります。

確定申告書への転記

譲渡所得の内訳書で計算した所得金額や税額を、確定申告書の「第三表(分離課税用)」という様式に転記します。譲渡所得は給与所得などとは別に税金を計算するため、この専用の様式を使います。転記する場所は内訳書に案内が書いてあるので、それに従って正確に書き写しましょう。

税負担を軽くする!使える特例を知っておこう

譲渡所得税は高額になりがちですが、一定の要件を満たすことで税負担を軽減できる特例が用意されています。換価分割の場合でも使える可能性がありますので、ご自身の状況に当てはまるものがないか、ぜひ確認してみてください。

相続税を払った人は必見!「取得費加算の特例」

この特例は、相続にあたって相続税を納めた方が対象です。相続が始まってから3年10ヶ月以内にその相続した不動産を売却した場合、納めた相続税のうち一定額を、譲渡所得の計算上の「取得費」に加算できます。取得費が増えるということは、その分、利益である譲渡所得が減り、結果的に所得税が安くなる、という仕組みです。相続税申告をされた方は、必ずチェックしたい特例ですね。

実家(空き家)を売った場合に使える「空き家特例」

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」というもので、一般的に「空き家特例」と呼ばれています。これは、亡くなった方が一人で住んでいたご実家などを相続し、一定の要件を満たして売却した場合に、譲渡所得から最高3,000万円を控除できるという、非常に効果の大きい特例です。

主な要件には、以下のようなものがあります。

  • 昭和56年5月31日以前に建てられた家屋であること
  • 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 家屋を取り壊して土地だけを売る、または耐震リフォームをして売るなどの要件を満たすこと

この特例は、先ほどの「取得費加算の特例」と同時に使うことはできないので、どちらが有利になるか、よく検討する必要があります。

まとめ

相続不動産を代表者が売却して換価分割した場合の確定申告について、ポイントを振り返ってみましょう。

  • 売却で利益が出た場合、代金を受け取った相続人全員が確定申告をする必要があります。
  • 申告書に記入する金額は、全体の金額を自分の持分割合で按分したものです。
  • 譲渡所得の内訳書」に、自分の持分と、それに応じた金額を正確に記入することが大切です。
  • 取得費加算の特例」や「空き家特例」など、使える特例がないか確認し、賢く節税しましょう。

換価分割後の確定申告は、少し複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ手順を踏めばきっと大丈夫です。それでも、ご自身での計算や書類作成に不安がある場合は、管轄の税務署に相談したり、税理士などの専門家に依頼したりすることも検討してみてくださいね。

参考文献

相続不動産の換価分割における確定申告のよくある質問まとめ

Q.代表者一人の名義で不動産を売却した場合、確定申告は誰がするのですか?

A.売却の代表者だけでなく、その売却代金を分配された相続人全員が、それぞれご自身の持分に応じて確定申告をする必要があります。

Q.確定申告書の「譲渡所得の内訳書」は、どのように書けばよいですか?

A.不動産全体の売却価格や取得費を記載し、「共有持分」の欄にご自身の法定相続分や遺産分割協議で決めた割合を記入します。これにより、ご自身の所得金額を計算します。

Q.売却にかかった仲介手数料などの経費は、どのように申告しますか?

A.仲介手数料や印紙代などの経費総額に、ご自身の持分割合を掛けた金額を「譲渡費用」として計上することができます。領収書などを保管しておきましょう。

Q.親から相続した不動産で、取得費がわかりません。どうすればよいですか?

A.売買契約書などが見つからず取得費が不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算する方法があります。まずは書類がないか探してみましょう。

Q.換価分割の場合、確定申告で特別な添付書類は必要ですか?

A.通常の譲渡所得の添付書類に加え、相続人全員で換価分割することに合意した旨が記載されている「遺産分割協議書」のコピーを添付すると、税務署への説明がスムーズです。

Q.相続税を納税しました。譲渡所得の税金が安くなる特例はありますか?

A.はい、「相続税の取得費加算の特例」があります。相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合、納付した相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できる可能性があります。

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