ご家族が亡くなられた後の相続手続き、本当に大変ですよね。たくさんの財産を確認する中で、「まだ受け取っていないお金」の扱いに戸惑うことはありませんか?特に、故人がアパート経営をしていた場合の「未収家賃」や、株を持っていた場合の「未収配当金」は、相続財産に含めるかどうか悩みがちなポイントです。そして、この二つは判断基準が全く違うので、さらに混乱してしまうかもしれません。なぜ未収家賃は「受取日」で判断するのに、未収配当金は「配当基準日」という別の基準で判断するのでしょうか?今回は、この素朴な疑問をスッキリ解決できるよう、分かりやすく解説していきますね。
そもそも相続財産になる「未収」の収入とは?
まず、相続財産になる「未収」の収入の基本をおさらいしましょう。これは、故人が亡くなった日(相続開始日)までにもらう権利は発生していたけれど、まだ実際には受け取っていなかった収入のことを指します。亡くなった時点ですでに故人の財産になる権利があった、と考えるのがポイントです。
未収家賃とは?
未収家賃とは、故人がアパートやマンションなどの不動産を貸していて、亡くなる前に受け取るはずだったのに、まだ入金されていなかった家賃のことです。例えば、毎月末日が家賃の支払日だったのに、借主の都合で支払いが遅れていた場合などがこれにあたります。
未収配当金とは?
未収配当金とは、故人が株式会社の株式を保有していて、配当金をもらう権利は確定していたものの、まだ故人の手元には支払われていなかった配当金のことです。株式の配当は、権利が確定してから実際に支払われるまでに数ヶ月かかることが多いため、その間に相続が発生すると未収配当金が生じやすくなります。
なぜ判断基準が違うの?
どちらも「まだ受け取っていないお金」なのに、なぜ相続財産になるかどうかの判断基準が違うのでしょうか。それは、それぞれの収入が発生する「権利」の性質が、法律的に見てまったく異なるからなんです。この違いが、今回のテーマの一番大切なポイントになります。次から詳しく見ていきましょう。
未収家賃の判断基準は「家賃受取日」
未収家賃が相続財産になるかどうかは、賃貸借契約で決められた「家賃の支払日(受取日)」が、故人が亡くなった日より前か後かで判断します。とてもシンプルですよね。
具体例で見てみましょう
例えば、こんなケースを考えてみましょう。
- 賃貸契約の内容:家賃10万円、毎月末日までに翌月分を支払う(前家賃)
- 故人が亡くなった日(相続開始日):6月15日
この場合、5月末に支払われるはずだった6月分の家賃がまだ支払われていなかったらどうなるでしょう?
支払日である5月31日は、相続開始日の6月15日より前ですよね。この場合、故人が亡くなった時点ですでに受け取る権利が発生していたことになるので、この未払いの10万円は「未収家賃」として相続財産になります。
では、6月末に支払われる7月分の家賃はどうでしょうか?
支払日である6月30日は、相続開始日の6月15日よりも後です。そのため、この家賃を受け取る権利は、相続が始まった後で発生したものと見なされます。したがって、これは相続財産ではなく、不動産を相続した相続人の収入(所得)となり、所得税の対象になります。
なぜ「受取日」が基準なの?
家賃を受け取る権利は、賃貸借契約という当事者間の「約束」に基づいて発生します。契約で「毎月末日に支払う」と決めていれば、その日が来て初めて「家賃をください」と具体的に請求できる権利(債権)が生まれる、と考えるからです。つまり、契約上の支払日が到来しているかどうかが、権利発生の判断基準になるわけです。
未収配当金の判断基準は「配当基準日」
一方、未収配当金は「受取日」では判断しません。ここで登場するのが「配当基準日」というキーワードです。配当金をもらえる権利は、この配当基準日に株主であったかどうかで決まるのです。
配当金の流れを理解しよう
なぜ配当基準日が重要なのかを理解するために、配当金が支払われるまでの一般的な流れを知っておきましょう。
- 配当基準日(権利確定日):会社の決算日などに設定される日で、「この日に株主名簿に載っている人に配当金を支払いますよ」と決める基準の日です。例えば3月決算の会社なら、3月31日が基準日になることが多いです。
- 配当確定日(株主総会決議日):配当基準日から2~3ヶ月後に開かれる株主総会で、1株あたりの配当金の具体的な金額が正式に決まる日です。
- 配当支払日:株主総会の後、実際に株主の口座に配当金が振り込まれる日です。
このように、権利が確定する日と、実際にお金が支払われる日には数ヶ月のタイムラグがあるんですね。
なぜ「配当基準日」が基準なの?
その理由は、会社法という法律で「配当を受け取る権利は、配当基準日時点の株主に帰属する」と定められているからです。つまり、配当基準日さえ過ぎていれば、たとえその翌日に株を売ってしまったとしても、配当金をもらう権利はなくなりません。
相続においてもこの考え方は同じです。故人が亡くなった日が、配当基準日より後であれば、その時点で故人は配当金をもらう権利を法的に得ていたことになります。たとえ株主総会で金額が決まっていなくても、実際にお金が支払われていなくても、その「権利」そのものが相続財産になるのです。
「配当期待権」と「未収配当金」の違い
実は、故人が亡くなったタイミングによって、この権利の呼び方が変わります。でも、どちらも相続財産になる点は同じなので安心してください。
- 配当期待権:亡くなった日が「配当基準日の翌日」から「配当確定日(株主総会決議日)」までの間の場合。まだ配当金額が確定していないため、「将来配当金がもらえるだろう」という期待の権利、という意味合いです。
- 未収配当金:亡くなった日が「配当確定日の翌日」から「配当支払日」までの間の場合。すでに配当金額が確定しているので、文字通り「まだ受け取っていない配当金」となります。
どちらも相続税の計算対象となり、評価の方法も同じです。
判断基準の違いを一覧表でスッキリ整理!
ここまでのお話を表にまとめてみました。これで違いが一目瞭然ですね。
項目 | 未収家賃 |
---|---|
判断基準となる日 | 契約上の支払日(受取日) |
法的根拠 | 賃貸借契約(民法) |
ポイント | 支払日が相続開始日より前か後か |
項目 | 未収配当金 |
判断基準となる日 | 配当基準日 |
法的根拠 | 会社法 |
ポイント | 配当基準日が相続開始日より前か後か |
相続税申告での注意点
未収家賃も未収配当金も、亡くなった方の預金通帳には記録が残らないため、相続税申告の際に漏れてしまいがちな財産です。しっかり確認しましょう。
未収家賃の評価方法
未収家賃の評価額はシンプルです。まだ支払われていない家賃の金額そのものが、相続財産としての評価額になります。例えば、10万円の家賃が未払いであれば、評価額は10万円です。
未収配当金の評価方法
未収配当金(配当期待権)の評価額は、少しだけ計算が必要です。配当金からは所得税などが天引き(源泉徴収)されますよね。そのため、実際に受け取る手取り額で評価します。
計算式:配当金額 - 源泉徴収される税額 = 評価額
源泉徴収される税率は、株式の種類によって異なります。
- 上場株式の場合:20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)
- 非上場株式の場合:20.42%(所得税及び復興特別所得税のみ)
例えば、上場株式の配当金が10万円だった場合、10万円から20,315円を引いた79,685円が相続財産としての評価額になります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?未収家賃と未収配当金の判断基準が違う理由、お分かりいただけましたか?
ポイントをもう一度おさらいすると、
- 未収家賃は、貸主と借主の「契約(約束)」に基づくため、約束の「支払日」が基準。
- 未収配当金は、「会社法」という法律で定められた権利のため、権利が確定する「配当基準日」が基準。
という、権利の性質の違いが理由でした。この違いを理解しておけば、相続財産の調査で混乱することが少なくなりますね。未収の収入は申告漏れが起こりやすい項目ですので、もし判断に迷った場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
未収家賃と未収配当金の相続財産判断に関するよくある質問
Q.なぜ未収家賃と未収配当金で相続財産になるかの判断基準が違うのですか?
A.権利が確定するタイミングが異なるためです。未収家賃は「家賃の支払期日」が到来した時点で請求する権利が確定します。一方、未収配当金は「配当基準日」に株主であることで受け取る権利が確定します。この権利確定の考え方の違いが、判断基準の違いにつながっています。
Q.相続開始時にまだ支払われていない家賃は、すべて相続財産になりますか?
A.いいえ、なりません。相続開始日までに支払期日が到来している未収家賃のみが、被相続人の相続財産となります。支払期日が相続開始日より後の家賃は、その不動産を相続した相続人の財産となります。
Q.配当基準日が相続開始前で、配当金の支払日が相続開始後の場合、その配当金は誰のものですか?
A.被相続人の相続財産となります。配当金を受け取る権利は、実際に支払われる日ではなく、配当基準日に株主であった被相続人に帰属するためです。
Q.具体例として、4月10日に亡くなり、家賃支払日が毎月末日の場合、4月分の家賃はどうなりますか?
A.その4月分の家賃は相続財産には含まれません。なぜなら、家賃の支払期日である4月末日は、相続開始日(4月10日)より後だからです。この家賃は、不動産を相続した相続人が自身の収入として受け取ることになります。
Q.配当金の「配当基準日」とは何ですか?
A.配当金を受け取る権利を持つ株主を確定させるための基準となる日です。この日に株主名簿に名前が記載されている株主に対して、後日配当金が支払われます。
Q.結局、未収の家賃や配当金を相続財産に含めるかは、何を見れば判断できますか?
A.未収家賃は「家賃の支払期日」が相続開始日以前か、未収配当金は「配当基準日」が相続開始日以前かどうかで判断します。実際の入金日ではない点に注意が必要です。