会社のルールブックである「定款」。事業の成長や変化に合わせて内容を見直すことがありますよね。でも、定款変更をした後、「どこに何を届け出るの?」と手続きで迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。実は、変更する内容によって、法務局や税務署への届出が必要なケースと不要なケースがあるんです。今回は、どんな場合に届出が必要になるのか、具体的な手続きと一緒に優しく解説していきますね。
定款変更の基本的な流れ
まず、どんな内容の定款変更であっても、必ず行わなければならない手続きがあります。それは「株主総会の特別決議」です。定款は会社の根幹をなす重要なルールなので、株主の皆さんの特別な承認が必要になるんですね。
特別決議は、議決権を行使できる株主の過半数が出席し、その出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決されます。この決議を経て、はじめて定款の変更が正式に認められることになります。そして、決議の内容を証明するために「株主総会議事録」を作成し、会社で大切に保管します。この株主総会での決議が、すべての定款変更手続きのスタート地点になることを覚えておきましょう。
法務局への届出(登記申請)が必要なケース
定款で変更した内容が「登記事項」に関わる場合、法務局で変更登記申請を行う必要があります。登記事項とは、会社の重要な情報を社会に公示(オープンに)するためのもので、取引先などが会社の情報を確認する際に使われます。この手続きは、変更があった日から2週間以内に行う決まりなので注意が必要ですよ。
登記申請が必要な主な定款変更事項
法務局への登記申請が必要になるのは、主に会社の骨格に関わるような重要事項を変更したときです。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
変更事項 | 具体例 |
商号(会社名) | 株式会社Aを株式会社Bに変更する |
事業目的 | 新しくコンサルティング事業を追加する |
本店所在地 | 本社を東京都中央区から神奈川県横浜市へ移転する |
発行可能株式総数 | 将来の増資に備えて発行できる株式の上限を増やす |
公告方法 | 公告を官報から電子公告に変更する |
機関の設置・廃止 | 取締役会や監査役を新たに設置する、または廃止する |
登記申請の手続きと費用
登記申請には、いくつかの書類と費用が必要です。自分で手続きすることもできますが、司法書士にお願いすることも可能です。
【主な必要書類】
- 変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- (その他、変更内容に応じた書類)
【登録免許税(費用)】
登記申請には、登録免許税という税金がかかります。費用は変更内容によって異なります。
- 商号変更や目的変更など:30,000円
- 役員変更(資本金1億円以下の会社):10,000円
- 本店移転(管轄の法務局が変わらない場合):30,000円
- 本店移転(管轄の法務局が変わる場合):旧所在地と新所在地の両方で申請が必要なため合計60,000円
期限を過ぎてしまうと過料(罰金のようなもの)が科される可能性もあるので、早めに準備を進めましょう。
税務署などへの届出が必要なケース
法務局への登記とは別に、税金の申告に関わる情報を変更した場合、税務署や都道府県税事務所、市町村役場へ届出が必要です。これは、税務署などが税金の計算や通知を正しく行うために必要な手続きです。
「異動届出書」の提出が必要な変更事項
税務署などへは「異動届出書」という書類を提出します。この届出には特に費用はかかりません。主に以下のような変更があった場合に提出が必要です。
変更事項 | 届出先 |
商号(会社名)の変更 | 税務署、都道府県税事務所、市町村役場 |
本店所在地の変更 | 税務署、都道府県税事務所、市町村役場 |
事業年度(決算期)の変更 | 税務署、都道府県税事務所、市町村役場 |
代表者の変更 | 税務署、都道府県税事務所、市町村役場 |
資本金の変更 | 税務署、都道府県税事務所、市町村役場 |
これらの届出は、変更後「遅滞なく」提出することとされています。明確な期限はありませんが、手続きが完了したら速やかに提出するのが安心ですね。
法務局・税務署の両方に届出が必要なケース
お気づきかもしれませんが、変更内容によっては、法務局と税務署の両方に手続きが必要になることがあります。特に、以下の2つは代表的な例です。
変更事項 | 必要な手続き |
商号(会社名)の変更 | 法務局への登記申請と、税務署などへの異動届出書の提出 |
本店所在地の変更 | 法務局への登記申請と、税務署などへの異動届出書の提出 |
これらの変更を行った場合は、まず法務局で登記申請を済ませ、登記が完了したら登記事項証明書(登記簿謄本)を添付して税務署などに異動届出書を提出する、という流れで進めるとスムーズですよ。
届出が不要なケース
すべての定款変更で届出が必要なわけではありません。登記事項や税務上の届出事項に該当しない内容の変更であれば、法務局や税務署への届出は不要です。
ただし、届出が不要な場合でも、株主総会の特別決議と議事録の作成・保管は必須ですので、忘れないようにしてくださいね。
届出が不要な主な変更事項には、以下のようなものがあります。
- 役員の員数(例:「取締役は3名以内とする」を「5名以内とする」に変更)
- 株主総会の招集時期の変更
- 事業年度の定めがない定款に、事業年度を新しく定める
これらの変更は、あくまで会社内部のルール変更にとどまるため、外部への届出は必要ない、と考えると分かりやすいかもしれません。
まとめ
定款変更の手続きは、少し複雑に感じるかもしれませんが、ポイントを押さえれば大丈夫です。最後に、大切なことをおさらいしましょう。
- どんな定款変更でも株主総会の特別決議と議事録の保管は必ず必要です。
- 商号や本店所在地、事業目的など「登記事項」を変更した場合は、法務局へ2週間以内に登記申請が必要です。
- 商号や本店所在地、事業年度など税金に関わる情報を変更した場合は、税務署などへ異動届出書の提出が必要です。
- 変更内容によっては、法務局と税務署の両方に手続きが必要なケースもあります。
- 役員の員数など、内部的なルールの変更であれば、届出は不要なこともあります。
ご自身の会社の変更内容がどのケースに当てはまるかを確認し、手続き漏れがないように慎重に進めてくださいね。もし手続きに不安がある場合は、司法書士や税理士などの専門家に相談するのも一つの方法ですよ。
参考文献
異動事項に関する届出|国税庁
商業・法人登記の申請書様式|法務局
定款変更後の届出に関するよくある質問まとめ
Q. 定款変更をしたら、必ず法務局への登記が必要ですか?
A. いいえ、必ずしも必要ではありません。商号、目的、本店所在地など法律で定められた「登記事項」を変更した場合に登記が必要です。事業年度の変更など、登記事項でない変更は登記不要です。
Q. 会社名(商号)を変更した場合、どのような届出が必要ですか?
A. 株主総会での定款変更決議後、法務局で変更登記が必要です。登記完了後、税務署や都道府県税事務所、市町村役場に「異動届出書」を提出します。
Q. 事業目的を追加・変更した場合、届出は必要ですか?
A. はい、事業目的は登記事項のため、法務局での変更登記が必要です。登記完了後、税務署などにも「異動届出書」を提出するのが一般的です。
Q. 本店(会社の住所)を移転した場合の手続きを教えてください。
A. 法務局での本店移転登記が必要です。移転先が同じ法務局の管轄内か管轄外かで手続きが異なります。登記完了後、税務署や地方自治体にも「異動届出書」を提出します。
Q. 役員が新しく就任しました。税務署への届出は必要ですか?
A. 役員の変更は登記事項なので、法務局での変更登記は必要です。しかし、役員変更だけでは、原則として税務署への届出は不要です。
Q. 決算期(事業年度)を変更しました。法務局への登記は必要ですか?
A. 決算期の変更は登記事項ではないため、法務局への登記は不要です。ただし、定款変更後、すみやかに税務署や地方自治体に「異動届出書」を提出する必要があります。