海外にお住まいの方で、「日本の実家や土地を相続することになったけれど、手続きはどうすればいいの?」と不安に思われている方は多いのではないでしょうか。結論からお伝えしますと、海外在住であっても日本の不動産を相続し、相続登記を行うことは十分に可能です。ただし、日本国内に住んでいる方とは準備する書類や手続きの手順が少し異なります。この記事では、海外に住みながら日本の不動産をスムーズに相続するための具体的な手続きや必要書類、費用などについて、詳しくわかりやすく解説していきます。
海外在住でも日本の不動産は相続できるのか?
海外に生活の拠点を移していても、日本国籍を持っていれば、日本の不動産や預貯金を受け継ぐ権利は日本に住んでいる方と全く同じです。日本の民法では、相続人の居住地によって相続の権利が変わることはないと定められています。まずは、基本的なルールから確認していきましょう。
海外在住者の相続権と日本の法律
被相続人(亡くなられた方)が日本国籍であれば、原則として日本の法律(民法)が適用されます。そのため、アメリカやヨーロッパ、アジアなど、どこの国に住んでいても、法定相続人としての順位や、受け取れる財産の割合(法定相続分)は、日本に住んでいる兄弟姉妹などの親族と変わりません。安心してくださいね。
相続税の納税義務はどうなる?
相続権があるということは、同時に相続税の納税義務が発生する可能性があるということです。日本の不動産を相続した場合、その不動産は日本国内にある財産ですので、海外在住であっても日本の税務署に対して相続税の申告と納税が必要になります。相続税がかかるかどうかの基準となる基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。遺産の総額がこの金額を超える場合は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告を行わなければなりません。
| 被相続人と相続人の居住状況 | 日本の相続税の課税範囲 |
|---|---|
| 双方が10年を超えて海外に居住 | 日本国内の財産のみ課税対象 |
| どちらかが10年以内に日本に居住歴あり | 国内外すべての財産が課税対象 |
非居住者の相続における注意点
海外在住者(非居住者)が相続税を納める場合、日本国内に住んでいないため、ご自身に代わって税務署とのやり取りや納税を行ってくれる「納税管理人」を選任して税務署に届け出る必要があります。納税管理人は、日本国内に住んでいる親族のほか、税理士や司法書士などの専門家に依頼することも可能ですので、状況に合わせて無理のない方法を選びましょう。
海外在住者が日本の不動産を相続登記するには?
遺産分割の話し合いがまとまり、ご自身が不動産を引き継ぐことになった場合、法務局で名義変更(相続登記)を行う必要があります。海外からでもこの手続きは可能ですが、いくつかの注意点があります。
相続登記は海外からでも可能
相続登記の手続き自体は、郵送などを利用することで、日本に一時帰国することなく海外からでも完了させることができます。不動産の所在地を管轄する日本の法務局に対して申請を行いますが、専門的な知識が必要なため、日本国内の司法書士に依頼して代理で進めてもらうのが一般的です。不動産の名義変更には、固定資産評価額の0.4%にあたる登録免許税という国税を納める必要があります。たとえば、評価額が2,000万円の土地であれば、8万円の登録免許税がかかることになります。
2024年4月からの相続登記義務化について
ここで非常に重要なポイントがあります。日本では2024年4月1日から相続登記が法律で義務化されました。不動産を相続によって取得したことを知った日から3年以内に名義変更の手続きを行わなければなりません。このルールは海外在住者にも適用され、正当な理由なく期限を過ぎてしまうと、10万円以下の過料を科される可能性があります。遠方に住んでいるからといって放置せず、早めに手続きを進めることがとても大切です。
海外在住者の相続手続きにおける必須書類
日本国内に住んでいる方は、遺産分割協議書に実印を押し、市役所で取得した印鑑証明書と住民票を添付して相続登記を行います。しかし、海外に住所を移して日本の住民票を抜いている方は、日本の実印や印鑑証明書を持っていません。そこで、代わりに現地の日本領事館などで取得できる公的な証明書が必要になります。
| 国内在住者の必要書類 | 海外在住者の代替書類 |
|---|---|
| 印鑑証明書 | 署名証明書(サイン証明書) |
| 住民票 | 在留証明書 |
印鑑証明書の代わりになる「署名証明書(サイン証明書)」
印鑑証明書の代わりとなるのが署名証明書(サイン証明書)です。これは、書類に書かれたサインが間違いなくご本人のものであることを、領事が証明するものです。不動産の相続登記で使用する場合は、必ず作成済みの遺産分割協議書を現地の日本領事館に持参し、領事の目の前でサインをして証明書と綴り合わせて割り印を押してもらう「貼付型」と呼ばれる方式を選ぶ必要があります。単独で発行される形式では、法務局で受け付けてもらえないことが多いので十分に注意してくださいね。
住民票の代わりになる「在留証明書」
不動産を相続してご自身の名義にするためには、現在の住所を証明する書類が必要です。日本の住民票がない海外在住者は、現地の日本領事館で在留証明書を発行してもらいます。これには、日本国籍を持っていること、現地に3ヶ月以上滞在していること、そして現住所を証明できる公的な書類(現地の運転免許証や公共料金の請求書、住宅の賃貸契約書など)を提示する必要があります。また、相続登記に使う場合は、必ず「本籍地」が記載された在留証明書を発行してもらうよう依頼してください。
取得にかかる具体的な費用と期間
現地の日本領事館等で証明書を発行してもらう際の手数料は、為替レートによって多少変動しますが、日本円に換算して署名証明書が約1,700円、在留証明書が約1,200円です。支払いは現地の通貨で行うことが一般的です。窓口に直接出向けば即日発行されることが多いですが、事前の予約が必要な領事館も増えていますので、あらかじめホームページなどで確認をしてから足を運ぶようにしましょう。
遺産分割協議を海外から進める方法
相続人が複数いる場合、誰がどの財産を引き継ぐかを話し合う「遺産分割協議」を行わなければなりません。日本にいるご家族と離れて暮らしていても、工夫次第でスムーズに話し合いを進めることができます。
オンラインでの協議の進め方
遺産分割協議は、必ずしも全員が同じ場所に集まって対面で行う必要はありません。時差を考慮して時間を合わせ、ビデオ通話などのオンラインツールを活用して話し合うことが法律上も認められています。画面越しにお互いの顔を見ながら、預貯金の残高証明書や不動産の評価額の資料を共有することで、遠く離れていても意見をまとめやすくなります。
遺産分割協議書への署名と書類のやり取り
話し合いがまとまったら、その内容を書面にした「遺産分割協議書」を作成します。日本にいる代表の相続人や依頼した専門家が協議書を作成し、PDFデータでメール送信、または国際郵便で海外へ郵送します。書類を受け取ったら、先ほど説明した通り、現地の領事館へ出向いて領事の面前でサインをし、署名証明書と一体化してもらった上で、日本へ返送するという流れになります。郵便の往復には時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールを組んでくださいね。
相続した日本の不動産をどうするか?
無事に海外在住のまま日本の不動産を相続できたとしても、その後の運用や管理をどうするかを決めておく必要があります。大きく分けて「維持・管理する」か「売却する」かの選択肢があります。
そのまま維持・管理する場合の費用と手続き
日本の不動産を所有し続ける場合、毎年固定資産税や都市計画税を納める必要があります。海外に住んでいると日本の税金の納付書を受け取って支払うことが難しいため、日本国内に住む親族などを「納税管理人」に指定して、市区町村へ届け出る必要があります。また、空き家のまま放置すると建物が傷んでしまうため、月額5,000円から10,000円程度の費用を払って、現地の空き家管理サービスなどを利用し、定期的な見回りをお願いすることも検討しましょう。
売却して海外送金する場合の注意点
ご自身が日本に戻る予定がなく、管理が負担になる場合は、不動産を売却して現金化するのも一つの選択です。不動産を売却した代金を海外の口座へ送金する場合、日本の銀行から海外送金の手続きを行いますが、外為法(外国為替及び外国貿易法)により、高額な送金には資金の出所(遺産分割協議書や不動産の売買契約書など)を証明する書類の提出が求められます。また、一度に高額を送金すると、数千円から一万円以上の送金手数料に加え、為替レートの影響も大きく受けますので、タイミングを見極めることが大切です。
まとめ
海外在住であっても、日本の法律に基づき、日本の不動産を相続し名義変更の登記を行うことは問題なく可能です。ただし、印鑑証明書の代わりに領事館で署名証明書(サイン証明書)を取得したり、住民票の代わりに在留証明書を準備したりと、海外居住者ならではの手続きが必要になります。2024年からは相続登記が義務化され、放置すると過料の対象になる可能性もあるため、早めに行動を起こすことが大切です。国際郵便のやり取りなどで通常よりも時間がかかるため、日本にいるご家族や、手続きに詳しい専門家と連携しながら、一つずつ確実に進めていきましょう。
参考文献
海外在住者の相続に関するよくある質問まとめ
Q.海外に住んでいても日本の不動産を相続できますか?
A.はい、相続できます。日本国籍を持っていれば、海外に居住していても日本の民法が適用され、日本に住んでいる相続人と同様に不動産などの遺産を引き継ぐ権利があります。
Q.海外在住の場合、相続登記に必要な書類は何ですか?
A.日本国内の住民票や印鑑証明書が取得できないため、代わりに現地の日本領事館等で発行される「在留証明書(住所証明)」と「署名証明書(サイン証明)」が必要になります。
Q.遺産分割協議書へのサインはどうすればいいですか?
A.作成した遺産分割協議書を現地の日本領事館に持参し、領事の目の前で直接サインを行う「貼付型」の署名証明書を作成してもらう必要があります。
Q.海外在住者にも相続登記の義務化は適用されますか?
A.はい、適用されます。2024年4月1日以降、不動産の相続を知った日から3年以内に名義変更(相続登記)を行わないと、10万円以下の過料の対象になる可能性があります。
Q.日本の相続税を海外から納めるにはどうすればいいですか?
A.ご自身に代わって日本国内で税務署とのやり取りや納税手続きを行ってくれる「納税管理人」を親族や専門家の中から選任し、税務署に届け出る必要があります。
Q.相続した不動産の固定資産税はどうやって支払うのですか?
A.相続税と同様に日本国内に住む人を「納税管理人」として市区町村に届け出を行い、その方に納税通知書を受け取ってもらい代理で支払ってもらうのが一般的です。