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準確定申告後の未払住民税・事業税はいつ決まる?相続税申告のポイント

2024-11-17
目次

ご家族が年の途中で亡くなられた場合、所得税の「準確定申告」という手続きが必要になります。この準確定申告をすると、後から住民税や事業税の納付が必要になることがあります。では、これらの未払税金の金額はいつ、どのように決定され、相続税の申告書にはどうやって反映させればよいのでしょうか?少し複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ順を追って、分かりやすく解説していきますね。

準確定申告とそれに伴う税金の基本

まずは、準確定申告がどのようなもので、なぜ住民税や事業税が後から決まるのか、基本をしっかり押さえておきましょう。この仕組みを理解することが、相続手続き全体をスムーズに進める第一歩になりますよ。

準確定申告とは?

準確定申告とは、亡くなられた方(被相続人)の、その年の1月1日から亡くなられた日までの所得を計算し、所得税を申告・納税する手続きのことです。この申告は、相続人全員が連名で、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。通常の確定申告と違い、期限が短いので注意が必要ですね。もし期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税といったペナルティが発生する可能性があるので、早めに準備を始めましょう。

なぜ住民税や事業税の金額は後から決まるの?

住民税や個人事業税は、前年の所得をもとに税額が計算され、後から市区町村や都道府県から「この金額を納めてくださいね」とお知らせが届く「賦課課税方式」という仕組みになっています。つまり、所得税の準確定申告で亡くなった方のその年の所得が確定しないと、自治体は税額を計算できないのです。そのため、準確定申告が終わってから、少し時間を置いて納税通知書が送られてくる、という流れになります。

未払住民税はいつ、どのように決定される?

準確定申告が終わると、次に気になるのが住民税ですね。いつ通知が来て、相続税の申告ではどのように扱えば良いのでしょうか。ここでは住民税に絞って詳しく見ていきましょう。

住民税の計算と通知の時期

住民税には大切なポイントがあります。それは、亡くなった年の所得に対しては、住民税は課税されないということです。住民税は、毎年1月1日時点での住所地で、前年の所得に対して課税される仕組みだからです。
そのため、相続で問題になるのは、亡くなった年の「前年」の所得に対する住民税で、まだ支払いが終わっていない分です。例えば、令和6年8月に亡くなられた場合、令和5年分の所得に対する住民税で、まだ納付していない分が対象となります。
この未払分の納税通知書は、準確定申告の内容を基に市区町村が税額を計算し、通常、亡くなられた年の6月頃に相続人宛に送付されます。この通知書に記載されている金額が、相続税申告で計上すべき未払住民税の額となります。

相続税申告での未払住民税の扱い

亡くなった時点で支払いが確定している税金は、故人が残した「債務(借金)」として扱われます。したがって、亡くなった時点で未払いであった住民税は、相続財産から差し引くことができる債務控除の対象となります。
相続税の申告を行う際に、この未払住民税の額を債務として計上することで、相続税の課税対象となる財産を減らし、結果的に相続税額を抑えることにつながります。納税通知書は、その金額を証明する大切な書類になりますので、必ず保管しておきましょう。

項目 内  容
課税の対象となる所得 亡くなった年の前年の所得(例:令和6年中に死亡した場合、令和5年中の所得)
税額が確定する時期 通常、亡くなられた年の6月頃に届く納税通知書にて確定します。
相続税申告での扱い 未払額は「債務控除」の対象となります。

未払事業税はいつ、どのように決定される?

亡くなられた方が個人事業を営んでいた場合は、住民税のほかに個人事業税も発生します。こちらも基本的な考え方は住民税と似ていますが、少し違う点もあるので確認していきましょう。

事業税の計算と通知の時期

個人事業税も、前年の事業所得をもとに税額が計算されます。これに加えて、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの事業所得についても課税対象となります。この亡くなった年の所得に対する事業税については、所得税の準確定申告とは別に、各都道府県へ事業税の申告が必要になる場合があります(※)。
これらの申告内容に基づき、都道府県が税額を計算し、通常は亡くなった年の8月頃に第1期の納税通知書が送られてきます。この通知書によって、前年分と当年分の未払事業税の合計額が確定します。
※事業税の申告要否は、所得税の準確定申告書の提出状況などによって異なるため、管轄の都道府県税事務所にご確認ください。

相続税申告での未払事業税の扱い

未払の個人事業税も、住民税と同様に故人が残した債務と考えます。そのため、相続税の申告において債務控除の対象となります。前年の所得に対する未払分だけでなく、亡くなった年の所得に対して発生する事業税も、相続開始時点ではまだ支払われていない「確定した債務」として扱われるため、忘れずに計上しましょう。

項目 内  容
課税の対象となる所得 前年の事業所得と、死亡した年の1月1日から死亡日までの事業所得
税額が確定する時期 通常、亡くなられた年の8月頃に届く納税通知書(第1期)にて確定します。
相続税申告での扱い 未払額は「債務控除」の対象となります。

相続税申告書への具体的な反映方法

未払の住民税や事業税の金額がわかったら、それを相続税申告書に正しく反映させる必要があります。もし、申告期限までに金額が確定しなかった場合の対処法も知っておくと安心です。

「債務控除」として申告書に記載する

未払の住民税や事業税は、相続税申告書の「第13表 債務及び葬式費用の明細書」という書類に記載します。具体的には、「債務の種類」の欄に「未納住民税」「未納事業税」などと記入し、「債務の金額」の欄に納税通知書に書かれている金額を転記します。こうすることで、正式に債務として遺産総額から控除されます。

納税通知書が申告期限に間に合わない場合

相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。しかし、住民税や事業税の納税通知書が届くのが、この期限に間に合わないケースも考えられます。
その場合は、見込みの金額を計上して、ひとまず期限内に相続税申告を済ませます。見込額は、前年の納税額などを参考に計算するのが一般的です。そして後日、正式な納税通知書が届いて正確な税額が確定したら、税務署に対して手続きを行います。当初申告した税額より実際の税額が多かった場合は「更正の請求(税金を返してもらう手続き)」を、少なかった場合は「修正申告(追加で税金を納める手続き)」を行います。

知っておきたい!その他の注意点

最後に、未払税金の扱いで見落としがちなポイントや、間違いやすい点についていくつか補足します。これらも節税やトラブル回避に繋がる大切な知識です。

準確定申告で納付した所得税も債務控除の対象です

意外と忘れがちなのですが、準確定申告で計算し、相続人が納付した所得税(および復興特別所得税)も、本来は故人が支払うべき税金です。そのため、この納付した所得税額も、債務控除の対象として相続財産から差し引くことができます。還付された場合は、逆に故人の財産(未収入金)として加算する必要がありますので、あわせて覚えておきましょう。

延滞税や加算税は債務控除できません

もし準確定申告や住民税・事業税の納付が期限に遅れてしまい、延滞税や加算税が発生してしまった場合、これらのペナルティ部分の金額は債務控除の対象にはなりません。これらは、納税義務を引き継いだ相続人の責任において発生したもの、と見なされるためです。余計な税負担を増やさないためにも、各種申告・納税の期限はしっかりと守ることが大切ですね。

まとめ

年の途中で相続が発生した場合の、未払住民税と事業税の扱いについて解説しました。ポイントをまとめると以下のようになります。

  • 準確定申告を行うことで、その後に住民税や事業税の税額が決定されます。
  • 未払の住民税、事業税、そして準確定申告で納めた所得税は、すべて相続税申告で「債務控除」の対象となり、節税につながります。
  • 税額の確定(納税通知書の到着)が相続税の申告期限に間に合わない場合は、見込額で申告し、後日確定額で精算手続き(更正の請求または修正申告)を行います。
  • 申告や納税の期限を守り、延滞税などのペナルティが発生しないように注意しましょう。

準確定申告から相続税申告までの一連の手続きは、期限も短く複雑な部分も多いため、ご不安な点があれば税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。正しい知識で、落ち着いて手続きを進めていきましょう。

参考文献

国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)

国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務

準確定申告後の住民税・事業税と相続税申告のよくある質問まとめ

Q.準確定申告後の住民税はいつ、どのように決まりますか?

A.住民税は前年の所得を基に計算され、翌年6月頃に市区町村から通知されます。準確定申告の内容に基づき、相続人宛に納税通知書が送付されることで税額が確定します。

Q.相続税申告で未払計上できる住民税はどの部分ですか?

A.亡くなった日時点で未払いの住民税が債務として控除できます。具体的には、亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得に対する住民税(準確定申告分)と、前年の所得に対する住民税で亡くなった日以降に納期限がくる分が対象です。

Q.相続税申告の時点では住民税額が確定していません。どうすればいいですか?

A.相続税の申告期限までに税額が確定しない場合、準確定申告の所得額などから住民税額を見積もり、その金額を未払金として債務控除します。後日、確定額と異なれば修正申告等で対応します。

Q.事業税も住民税と同じように債務控除できますか?

A.はい、できます。亡くなった年の所得に対する事業税は、準確定申告を基に税額が決定されます。この亡くなった日時点で未払いの事業税額(見積額を含む)も、住民税と同様に相続税の債務控除の対象となります。

Q.住民税や事業税の納税通知書は誰に届くのですか?

A.準確定申告書に記載した相続人の代表者など、納税義務を承継した相続人宛に送付されます。納付もその相続人が行うことになります。

Q.未払の住民税・事業税を計上し忘れたらどうなりますか?

A.債務控除が漏れているため、相続税を納めすぎている可能性があります。税務署に対して「更正の請求」という手続きを行うことで、払いすぎた税金の還付を受けられる場合があります。

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