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相続対策としての養子縁組|普通・特別養子縁組の節税効果と注意点

2025-08-19
目次

「将来の相続税が心配…」「できるだけ家族に多くの財産を残したい」とお考えではありませんか?相続対策にはさまざまな方法がありますが、その一つに「養子縁組」という選択肢があります。養子縁組をすると、法律上の子どもが増えるため、相続税の計算で有利になることがあるのです。この記事では、相続対策としての養子縁組について、普通養子縁組と特別養子縁組の違いから、具体的な節税メリット、知っておくべき注意点まで、わかりやすく解説していきます。

養子縁組とは?相続における基本的な考え方

養子縁組とは、血のつながりがない人との間に、法律上の親子関係を生じさせる制度のことです。養子縁組が成立すると、養子は養親の「子」として扱われ、実の子(実子)とまったく同じ権利を持つことになります。もちろん、相続においても同様です。まずは、養子縁組の基本的な種類と、相続における養子の立場について見ていきましょう。

普通養子縁組と特別養子縁組の違い

養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。この2つは目的や要件が大きく異なり、相続対策として一般的に利用されるのは「普通養子縁組」です。それぞれの違いを表で確認してみましょう。

項目 普通養子縁組
実親との関係 親子関係は継続する(養親と実親、両方の相続人になる)
戸籍の記載 「養子」「養女」と記載される
主な目的 家系の存続、相続対策、子の扶養など
成立要件 当事者間の合意と届出(未成年者は家庭裁判所の許可が必要な場合あり)
項目 特別養子縁組
実親との関係 親子関係は終了する(養親のみの相続人になる)
戸籍の記載 「長男」「長女」など実子と同じように記載される
主な目的 子どもの福祉・利益のため(実親による養育が困難な場合など)
成立要件 家庭裁判所の審判が必須で、養親・養子の年齢など厳しい要件がある

このように、特別養子縁組は子どもの保護を目的とした制度であり、要件が非常に厳格です。そのため、相続税対策として活用されるのは、実の親との関係も続く「普通養子縁組」がほとんどです。

相続における養子の立場(法定相続人になる)

養子縁組をすると、養子は法律上、実子とまったく同じ立場の「子」になります。相続においては、被相続人(亡くなった方)の子は「第1順位の法定相続人」です。つまり、養子も実子と同じく、常に相続人になる権利を持っています。受け取れる遺産の割合である「法定相続分」も、実子と養子の間で差はありません。例えば、配偶者と実子1人、養子1人が相続人となる場合、配偶者が1/2、実子と養子がそれぞれ1/4ずつ財産を相続する権利を持ちます。

相続対策として養子縁組が注目される理由

では、なぜ養子縁組が相続対策として注目されるのでしょうか。その最大の理由は、「法定相続人の数を増やすことができる」という点にあります。法定相続人の数が増えると、相続税の計算上有利になる様々な控除や非課税枠が大きくなります。結果として、納めるべき相続税額を減らす効果が期待できるのです。次の章で、具体的な節税メリットを詳しく見ていきましょう。

養子縁組で得られる相続税の節税メリット

養子縁組によって法定相続人が増えると、主に3つの節税メリットが生まれます。いずれも相続税額を計算する上で非常に重要なポイントです。

基礎控除額が増える仕組み

相続税には、財産の総額から差し引くことができる「基礎控除」というものがあります。この基礎控除額を超えた部分に対してのみ、相続税が課税されます。基礎控除の計算式は以下の通りです。

【基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)】

この計算式にある通り、法定相続人が1人増えるごとに、基礎控除額が600万円も増えることになります。例えば、法定相続人が子ども2人の場合は4,200万円ですが、養子を1人迎えて3人になると、基礎控除額は4,800万円に増加します。その結果、課税対象となる遺産を圧縮できるのです。

生命保険金・死亡退職金の非課税枠が増える

被相続人が亡くなった際に支払われる生命保険金や死亡退職金にも、相続税がかからない「非課税枠」が設けられています。この非課税枠の計算式は以下の通りです。

【非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数】

こちらも法定相続人の数に連動しているため、養子が1人増えるごとに非課税枠が500万円増加します。例えば、相続人が2人なら1,000万円まで非課税ですが、養子を迎えて3人になれば1,500万円まで非課税で受け取れるようになります。これも大きな節税効果と言えるでしょう。

相続税の総額を計算する際の税率を抑えられる可能性

相続税は、財産を取得する金額が大きくなるほど税率が高くなる「累進課税」という仕組みになっています。法定相続人が増えると、一人ひとりが相続する財産の額(法定相続分)は少なくなります。これにより、各相続人に適用される税率が低くなり、結果として相続税の総額を抑えられる可能性があります。少し複雑な仕組みですが、法定相続人が増えることで税負担が軽くなるケースがある、と覚えておきましょう。

相続対策で養子縁組を行う際の注意点とデメリット

大きな節税効果が期待できる養子縁組ですが、メリットばかりではありません。実行する前に必ず知っておきたい注意点やデメリットもあります。

養子の数には制限がある?相続税法上の注意点

「それなら、たくさん養子を迎えれば相続税がかからなくなるのでは?」と思うかもしれませんが、そうはいきません。相続税の計算において、法定相続人の数に含めることができる養子の数には、税法上の制限が設けられています。

被相続人の子の状況 法定相続人に含められる養子の数
実子がいる場合 1人まで
実子がいない場合 2人まで

この人数を超えて養子縁組をしても、民法上は有効な親子関係となりますが、相続税の基礎控除や非課税枠の計算では、上記の人数までしかカウントされません。ただし、養子が被相続人の配偶者の連れ子である場合など、一定のケースでは実子とみなされ、この人数制限の対象外となります。節税目的の無制限な養子縁組を防ぐためのルールだと理解しておきましょう。

2割加算の対象になるケースとは?

相続税には、特定の人が財産を相続した場合に、税額が2割増しになる「相続税額の2割加算」という制度があります。この対象となるのは、被相続人の配偶者と一親等の血族(子や父母)以外の人です。

ここで注意したいのが、「孫」を養子にしたケースです。孫は本来、被相続人から見て二親等の血族ですが、養子になることで一親等の血族(子)という立場になります。しかし、税法上は代襲相続人でない孫が養子として財産を相続する場合、この2割加算の対象となってしまいます。節税のために孫を養子にしたのに、かえって税額が増えてしまう可能性もあるため、十分な注意が必要です。

親族間のトラブルに発展する可能性

最も注意すべき点が、親族間のトラブルです。養子縁組をすると、法定相続人が増えるため、もともとの相続人(実子など)が受け取れる遺産の割合は少なくなります。これを「自分たちの取り分が減った」と感じ、不満を抱く相続人が出てくる可能性があります。また、養子にも「遺留分」(最低限の遺産を受け取れる権利)が認められるため、遺言書の内容とも関係してきます。相続が「争族」にならないよう、養子縁組を検討する際は、事前に他の親族と十分に話し合い、理解を得ておくことが何よりも大切です。独断で進めることは絶対に避けましょう。

普通養子縁組の手続きの流れ

相続対策で利用される普通養子縁組は、当事者間の合意があれば比較的簡単な手続きで成立します。ここでは、一般的な手続きの流れをご紹介します。

必要な書類と届け出先

手続きは、市区町村役場の戸籍担当窓口で行います。基本的には以下のものが必要となりますが、自治体によって異なる場合があるため、事前に確認しましょう。

必要なもの 詳   細
養子縁組届 役所の窓口で入手できます。証人2名の署名が必要です。
当事者の戸籍謄本 養親と養子のもの。本籍地の役所で手続きする場合は不要なこともあります。
本人確認書類 運転免許証、マイナンバーカードなど。

これらの書類を、養親もしくは養子の本籍地、または所在地の市区町村役場に提出すれば、手続きは完了です。

養子にする相手の同意は必要?

普通養子縁組は、養親となる人と養子となる人の双方の合意があって初めて成立します。勝手に誰かを養子にすることはできません。ただし、養子になる人が15歳未満の場合は、本人の代わりにその法定代理人(通常は実の親)が縁組の承諾をします。また、養親となる人に配偶者がいる場合は、配偶者の同意も必要です。

特別養子縁組の手続きの流れ

参考として、特別養子縁組の手続きについても触れておきます。こちらは相続対策の手段ではなく、子どもの福祉を最優先する制度です。

家庭裁判所での審判が必要

特別養子縁組は、役所に届出をするだけでは成立しません。必ず家庭裁判所に申し立てを行い、審判を受ける必要があります。裁判所は、本当にその縁組が子どもの利益になるのかを、さまざまな角度から慎重に審査します。

成立の要件は厳しい

特別養子縁組が認められるためには、以下のような厳しい要件をすべて満たす必要があります。

  • 養親は配偶者のいる者で、原則として夫婦ともに25歳以上であること。
  • 養子となる者の年齢が、申立て時に原則として15歳未満であること。
  • 実の父母による監護が著しく困難または不適当であることなど、子の利益のために特に必要があること。
  • 原則として、実の父母の同意があること。
  • 申立ての前に、6か月以上の期間、養親となる人が養子となる子を監護(試験養育)していること。

このように、特別養子縁組は相続対策を目的として利用できる制度ではないことがわかります。

まとめ

相続対策としての養子縁組は、法定相続人を増やすことで、相続税の基礎控除や生命保険金の非課税枠を拡大できるという大きなメリットがあります。特に普通養子縁組は、比較的簡単な手続きで行うことが可能です。しかし、税法上の人数制限や、孫を養子にした場合の2割加算、そして何よりも親族間の感情的なトラブルといったデメリットや注意点も存在します。メリットとデメリットを正しく理解し、安易に決断するのではなく、家族全員でよく話し合うことが不可欠です。ご自身の状況で養子縁組が最適な選択肢なのかどうか、判断に迷う場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき

国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分

相続対策としての養子縁組のよくある質問まとめ

Q.なぜ養子縁組が相続税対策になるのですか?

A.養子縁組で法定相続人の数が増えるためです。相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や生命保険金の非課税枠が増額され、結果として相続税の負担が軽減される可能性があります。

Q.孫を養子にすることも相続対策になりますか?

A.はい、なります。孫を養子にすると、通常一代ずつ行われる相続を一段階飛ばせるため、将来的な相続税の課税を一度減らす効果が期待できます。ただし、孫が養子として相続する場合、相続税が2割加算される点には注意が必要です。

Q.相続対策で養子にできる人数に制限はありますか?

A.法律上の養子の人数に制限はありません。しかし、相続税の計算上、法定相続人の数に含められる養子の数には制限があります。実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までと定められています。

Q.「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の相続における違いは何ですか?

A.一番の違いは実の親との関係です。「普通養子縁組」では実親・養親双方の相続人になりますが、「特別養子縁組」では実親との法的な親子関係が終了するため養親の相続人のみとなります。相続対策では主に「普通養子縁組」が用いられます。

Q.養子縁組をすると、実の親の財産も相続できますか?

A.「普通養子縁組」の場合は、実親との親子関係も継続するため、実親の財産も相続する権利があります。一方、「特別養子縁組」の場合は、実親との法的な親子関係が解消されるため、実親の財産を相続する権利はなくなります。

Q.相続対策で養子縁組をするデメリットや注意点はありますか?

A.はい、あります。養子も法定相続人となるため、他の相続人との間で遺産分割トラブルの原因になる可能性があります。また、一度縁組をすると離縁は簡単ではありません。節税効果だけでなく、家族関係を十分に考慮して慎重に判断することが重要です。

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