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贈与税0円?夫婦間の居住用不動産贈与で使える配偶者控除の条件

2025-04-19
目次

結婚して20年以上連れ添ったパートナーへ、感謝の気持ちを込めてご自宅をプレゼントしたいと考えたことはありませんか?実は、ご夫婦の間でご自宅などの居住用不動産を贈与するとき、一定の条件を満たせば最高2,110万円まで贈与税がかからない特別な制度があります。それが「贈与税の配偶者控除」、通称「おしどり贈与」です。この制度を上手に活用すれば、税金の負担を大きく減らせるだけでなく、将来の相続対策にも繋がります。この記事では、贈与税の配偶者控除について、制度の詳しい内容やメリット、知っておきたい注意点まで、分かりやすく解説していきますね。

夫婦の居住用不動産贈与で使える「配偶者控除」とは?

「贈与税の配偶者控除」とは、婚姻期間が20年以上のご夫婦の間で、ご自宅などの居住用不動産、またはそれを購入するためのお金を贈与した場合に利用できる贈与税の特例です。この制度の目的は、長年連れ添った配偶者の生活基盤を守ることにあります。愛情を込めて「おしどり贈与」とも呼ばれていて、多くのご夫婦に利用されています。

最大2,110万円まで贈与税が非課税に

贈与税には、誰でも使える年間110万円の「基礎控除」があります。贈与税の配偶者控除は、この基礎控除とは別に、最高2,000万円までの控除が受けられるという、とても大きな特例です。つまり、この2つの控除を組み合わせることで、合計で最大2,110万円までの贈与が非課税になるんです。

(計算式)
贈与された財産の価額 - 配偶者控除(最高2,000万円) - 基礎控除(110万円) = 課税価格

例えば、評価額2,500万円のご自宅の半分(1,250万円分)を配偶者に贈与した場合、通常なら贈与税がかかりますが、この特例を使えば贈与税は0円になります。

対象となる「居住用不動産」の範囲

この特例の対象となる「居住用不動産」とは、贈与を受ける配偶者が住むための、日本国内にある家屋やその土地のことを指します。家屋と土地をセットで贈与する必要はなく、どちらか一方だけでも大丈夫です。例えば、夫名義の土地に妻名義の家が建っている場合、夫から妻へ土地だけを贈与するケースでも利用できます。また、土地の所有権だけでなく、借地権も対象に含まれます。

配偶者控除を利用するための5つの適用要件

このお得な配偶者控除ですが、誰でも使えるわけではありません。特例を受けるためには、いくつかの条件をすべて満たす必要があります。一つでも当てはまらないと利用できないので、事前にしっかり確認しておきましょう。

婚姻期間が20年以上であること

まず、贈与が行われた時点で、ご夫婦の法律上の婚姻期間が20年以上であることが必要です。戸籍上の婚姻届を出した日から計算しますので、残念ながら内縁関係の期間は含まれません。例えば、婚姻期間が19年11ヶ月といった場合は、20年になるのを待ってから贈与を行う必要があります。

贈与される財産が居住用不動産またはその取得資金であること

贈与の対象は、今お住まいのご自宅などの「居住用不動産そのもの」か、これから居住用不動産を購入するための「お金」のどちらかに限られます。生活費や他の目的のためのお金の贈与では、この特例は使えません。

贈与の翌年3月15日までに居住し、その後も住み続ける見込みであること

贈与を受けた配偶者が、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その不動産に実際に住んでいることが条件です。さらに、その後も引き続きそこに住み続ける見込みである必要があります。そのため、贈与後すぐに家を売却する計画がある場合などは、この特例が認められない可能性があるので注意が必要です。

同じ配偶者からは一生に一度しか使えない

この配偶者控除は、同じ配偶者からの贈与については、一生に一度しか利用することができません。とても大きな控除枠なので、どのタイミングで使うか慎重に考えることが大切です。もし離婚して別の方と再婚し、その新しい配偶者との婚姻期間が20年以上になれば、再度この特例を利用することは可能です。

贈与税の申告が必要であること

たとえ計算の結果、贈与税が0円になったとしても、必ず贈与税の申告をしなければなりません。申告をしないと、この特例の適用を受けることができず、後から多額の贈与税を納めることになってしまう可能性があります。申告期間は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。忘れずに手続きを行いましょう。

配偶者控除を活用する3つの大きなメリット

この制度は、単に贈与税がお得になるだけではありません。ご夫婦の将来を考えたときに、他にもさまざまなメリットがあるんですよ。

メリット1:相続税対策になる

生前に配偶者へ財産を贈与しておくことで、ご自身の財産を減らすことができるため、将来発生する相続税の負担を軽くする効果が期待できます。特に大きなメリットは、この配偶者控除を使った贈与は、相続開始前7年以内(※2024年1月1日以降の贈与から段階的に延長)の贈与財産を相続財産に持ち戻す「生前贈与加算」の対象外となる点です。つまり、万が一贈与の直後に相続が発生してしまっても、贈与した不動産は相続財産に加算されずに済むため、確実な相続税対策になります。

メリット2:将来の自宅売却時に節税できる可能性がある

この特例を利用して、例えば夫の単独名義だったご自宅を夫婦の共有名義にしたとします。将来、そのご自宅を売却することになった場合、売却益(譲渡所得)に対して税金がかかりますが、マイホームの売却には「3,000万円の特別控除」という特例があります。ご自宅が夫婦の共有名義であれば、この3,000万円控除を夫と妻それぞれで利用できるのです。つまり、合計で最大6,000万円まで売却益から控除できるため、税金の負担を大幅に減らせる可能性があります。

メリット3:遺産分割のトラブルを避けられる

生前にご自宅の所有権を配偶者に移しておくことで、その不動産は相続時の遺産分割の対象から外れます。これにより、他の相続人との間でご自宅を巡るトラブルが発生するのを防ぐことができます。「長年連れ添ったパートナーに、最後まで安心してこの家に住み続けてほしい」という想いを、確実に形にすることができるのです。

手続きと必要書類

配偶者控除を受けるためには、贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告が必要です。申告を忘れると特例が使えなくなってしまうので注意してくださいね。申告の際には、いくつかの書類を添付する必要があります。

贈与税申告に必要な書類一覧

申告の際には、主に以下の書類が必要となります。事前に準備しておくとスムーズです。

書類名 備  考
贈与税の申告書 税務署で入手、または国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。
戸籍の謄本または抄本 贈与を受けた日から10日を経過した日以降に作成されたものが必要です。
戸籍の附票の写し こちらも贈与を受けた日から10日を経過した日以降に作成されたものが必要です。
居住用不動産の登記事項証明書 法務局で取得します。不動産の所有者が誰であるかを証明します。
固定資産評価証明書など 贈与した不動産の評価額を明らかにするための書類です。市区町村役場で取得します。

知っておきたい注意点

メリットの多い配偶者控除ですが、いくつか知っておきたい注意点もあります。後から「こんなはずじゃなかった!」とならないように、事前にしっかり確認しておきましょう。

贈与税以外の税金がかかる

この特例で贈与税が0円になっても、不動産の名義変更に伴う他の税金はかかります。具体的には、「登録免許税」「不動産取得税」です。これらの税金は、相続で不動産を取得した場合と比べて税率が高く設定されています。どちらがお得になるかは、全体の財産状況によっても変わるため、単純に贈与税だけで判断しないようにしましょう。

税金の種類 贈与の場合(配偶者控除利用)
登録免許税 固定資産税評価額 × 2.0%
不動産取得税 原則として課税されます(軽減措置あり)。

不動産の評価額に注意

特例の非課税枠である2,000万円は、不動産の購入価格ではなく、贈与時点での「評価額」で計算します。土地の場合は主に「路線価」、建物の場合は「固定資産税評価額」が基準となります。実際の取引価格とは異なることが多いので、事前に専門家に相談して、評価額がいくらになるのかを把握しておくことが大切です。

相続と比較して検討することが大切

相続税には、配偶者が取得した財産のうち「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額まで税金がかからない「配偶者の税額軽減」という非常に大きな制度があります。そのため、財産の状況によっては、生前に贈与するよりも、相続で財産を引き継いだ方が、全体的な税負担が少なくなるケースもあります。この配偶者控除を使うかどうかは、ご家庭の財産全体を見渡し、相続の場合とも比較しながら慎重に判断することをおすすめします。

まとめ

今回は、夫婦の間で居住用の不動産を贈与する際に使える「贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)」について詳しく解説しました。この制度は、婚姻期間が20年以上のご夫婦が、最高2,110万円までの居住用不動産などを非課税で贈与できる、とても心強い味方です。将来の相続税対策や、残された配偶者の生活を守るという点でも大きなメリットがあります。ただし、贈与税以外の税金がかかることや、必ず贈与税の申告が必要であることなど、注意点もしっかり押さえておくことが重要です。この制度の利用を検討される際は、ご家族の状況や財産全体を考慮し、必要であれば税理士などの専門家にも相談しながら、最適な方法を選択してくださいね。

参考文献

夫婦間の不動産贈与と配偶者控除のよくある質問まとめ

Q.夫婦間の贈与で使える「配偶者控除」とは何ですか?

A.婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用の不動産やその購入資金を贈与した場合に、基礎控除110万円とは別に最高2,000万円まで贈与税が非課税になる特例制度です。「おしどり贈与」とも呼ばれています。

Q.贈与税の配偶者控除を受けるための条件は何ですか?

A.主な条件は、①婚姻期間が20年以上であること、②贈与された財産が居住用不動産またはその取得資金であること、③贈与を受けた年の翌年3月15日までにその不動産に居住し、その後も住み続ける見込みがあること、の3つです。

Q.婚姻期間20年は、いつの時点で判断しますか?

A.贈与があった日(登記日など)で判断します。戸籍上の婚姻期間であり、内縁関係の期間は含まれません。

Q.この特例は何度も利用できますか?

A.いいえ、同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか利用できません。

Q.贈与税がかからない場合でも、申告は必要ですか?

A.はい、必要です。配偶者控除を適用した結果、贈与税が0円になる場合でも、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、必ず贈与税の申告書を税務署に提出する必要があります。

Q.土地だけ、または建物だけの贈与でも適用できますか?

A.はい、適用できます。居住用の土地と建物のうち、土地のみ、または建物のみの贈与でも、他の要件を満たしていれば配偶者控除の対象となります。

事務所概要
社名
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税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。