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高額な相続税を防ぐ!自社株(非上場株式)の承継対策ガイド

2025-10-01
目次

会社の経営者様にとって、大切に育ててきた会社を次の世代へどう引き継ぐか、というのは非常に大きなテーマですよね。特に、自社株(非上場株式)の承継は、思わぬところで高額な相続税が発生し、後継者の大きな負担になってしまうことがあります。今回は、そんなお悩みを解決するための「自社株の承継対策」について、具体的な方法を分かりやすくお話ししていきますね。

なぜ自社株の承継対策が必要なのでしょうか?

そもそも、なぜ自社株の対策がこれほど重要視されるのでしょうか。それには、非上場株式ならではの3つの大きな理由があります。対策をしないまま相続を迎えると、後継者が経営に集中できなくなってしまうかもしれません。

評価額が高額になりやすい

非上場株式は、上場株式のように市場で取引される価格がありません。そのため、会社の業績や資産状況などから株価を計算する必要があります。会社の業績が好調で、長年内部留保を積み上げてきた優良企業ほど、株の評価額は驚くほど高額になっているケースが少なくありません。経営者様ご自身が思っている以上の価値になっている可能性があり、それがそのまま高い相続税につながってしまうのです。

換金性が低く、納税資金の確保が難しい

もう一つの問題は、非上場株式は「換金性が低い」ということです。上場株式であれば市場で売却して納税資金に充てることができますが、自社株は買い手が簡単に見つかりません。結果として、後継者は高額な相続税を支払うために、個人の預貯金や不動産を売却したり、多額の借金を背負ったりする必要が出てくるかもしれません。

経営権の分散リスク

もし、相続人が複数いる場合、遺産分割によって自社株が複数の人に分散してしまう恐れがあります。そうなると、会社の重要な意思決定がスムーズに進まなくなったり、株主間で意見が対立して経営が不安定になったりするリスクが生まれます。会社の安定経営を守るためにも、後継者に経営権を集中させることがとても大切です。

自社株の評価額を引き下げる対策

相続税の負担を軽くする最も直接的な方法は、相続税の計算の元となる「自社株の評価額」そのものを引き下げることです。もちろん、会社の価値を不当に下げるわけではなく、適切な会計処理や資産の組み換えによって対策を行います。

役員退職金の支給

経営者様が勇退される際に、役員退職金を支給する方法です。会社から多額の資金が支出されるため、会社の純資産が減少し、株価の引き下げにつながります。また、退職金は税制上も優遇されているため、所得税の負担を抑えながら財産を個人に移すことができます。ただし、不相当に高額な退職金は税務署から否認されるリスクがあるため、功績倍率法などを用いて適正な金額を計算する必要があります。

不動産や生命保険の活用

会社の資産構成を見直すことでも、株価を引き下げることが可能です。例えば、会社で収益不動産を購入すると、その不動産は時価ではなく相続税評価額(路線価など)で評価されるため、会社の純資産評価額を圧縮できる効果があります。また、経営者を被保険者とする生命保険に加入し、保険料を会社が支払う方法も有効です。保険料は損金として計上できる場合があり、将来、経営者に万が一のことがあった際には、死亡保険金が死亡退職金の支払いや納税資金の原資になります。

設備投資や修繕の実施

事業計画に基づいた積極的な設備投資や、老朽化した社屋・工場の修繕を行うことも有効な対策です。これらの費用は会社の経費となるため、利益を圧縮し、結果的に株価を引き下げる効果が期待できます。もちろん、これは事業の成長に必要な投資であることが大前提です。将来を見据えた投資が、節税にもつながるというわけですね。

後継者へ株式を移転する対策

株価対策と並行して、どのタイミングで、どうやって後継者へ株式を移していくかを計画することも重要です。生前に計画的に移転を進めることで、相続時の負担を大きく減らすことができます。

生前贈与の活用

元気なうちに、少しずつ後継者へ自社株を贈与していく方法です。贈与税には2つの制度があり、状況に応じて使い分けることができます。

制度名 概  要
暦年贈与 年間110万円までの贈与であれば、贈与税がかかりません。毎年コツコツと贈与を続けることで、非課税で多くの株式を移転できます。
相続時精算課税制度 合計2,500万円までの贈与が非課税(特別控除)になります。ただし、この制度を使って贈与した財産は、相続時に相続財産に加算して相続税が計算されます。株価が将来上がると見込まれる場合に、低い株価の時点で贈与を確定させる目的で使われます。

なお、2024年からは相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設され、より使いやすくなりました。

株式譲渡(売買)

後継者に、適正な時価で自社株を売却する方法です。後継者には株式を買い取るための資金が必要になりますが、贈与税や相続税の心配なく、確実に株式を移転できるメリットがあります。経営者様は、売却によって得た資金を老後の生活資金に充てることもできますね。ただし、売却した側には譲渡所得税(約20%)がかかります。

種類株式の活用

少し専門的な手法ですが、「種類株式」を活用する方法もあります。例えば、議決権に制限のある「議決権制限株式」を発行し、後継者以外の相続人にはこちらを渡すことで、経営権は後継者に集中させつつ、財産は公平に分配するといった柔軟な対応が可能になります。会社の定款変更などが必要になるため、専門家との相談が不可欠です。

税負担を軽減する特例制度

国も中小企業の事業承継を後押しするため、非常に強力な税制優遇制度を用意しています。要件が合えば、税金の負担を大幅に、あるいはゼロにできる可能性もあります。

事業承継税制(特例措置)

これは、事業承継における最も強力な支援策と言えるでしょう。一定の要件を満たすことで、後継者が贈与または相続によって取得した自社株にかかる贈与税・相続税の全額(100%)の納税が猶予される制度です。さらに、後継者が亡くなるなど次の世代へ承継する際には、猶予されていた税金が免除されます。つまり、実質的に税負担なく事業を引き継げる可能性があるのです。

利用するには、いくつかの要件を満たし、「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。この計画の提出期限は2026年3月31日までと迫っていますので、検討される場合は早めに準備を始めましょう。

対象 主な要件(一部抜粋)
会社 中小企業者であること。資産管理会社でないこと。
先代経営者 会社の代表者であったこと。贈与時に代表者を退任していること。
後継者 贈与時に18歳以上で、役員就任から3年以上経過していること。

納税猶予を受けるための注意点

事業承継税制は非常にメリットの大きい制度ですが、注意点もあります。納税が猶予された後、原則として5年間は、後継者が代表を継続し、雇用の8割を維持するなどの要件を守り続けなければなりません。もし途中で株式を売却したり、要件を満たせなくなったりした場合は、猶予されていた税金全額と利子税をまとめて納付する必要があるため、計画的な運用が求められます。

その他の承継対策

親族や従業員の中に適切な後継者が見つからない場合や、より複雑な状況に対応するための方法もあります。

M&A(会社の売却)

後継者がいない場合の有力な選択肢が、第三者へ会社を売却するM&Aです。これにより、経営者様は創業者利益を確保でき、従業員の雇用や取引先との関係も維持できる可能性があります。会社の価値を正しく評価し、より良い条件で引き継いでくれる相手を見つけることが成功の鍵となります。

持株会社の設立

複数の事業を行っている場合や、株主が分散している場合に有効な手法です。経営者が新たに持株会社(ホールディングカンパニー)を設立し、その会社が事業会社の株式を保有する形にします。これにより、相続の対象が事業会社の株式から持株会社の株式へと変わり、株価の評価や管理がしやすくなる場合があります。組織再編を伴う高度な手法のため、専門家と慎重に検討する必要があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。自社株の承継対策には、株価の引き下げ、計画的な移転、税制優遇の活用など、さまざまな方法があります。どの方法が最適かは、会社の状況や経営者様のお考えによって全く異なります。一つだけ確実に言えることは、「対策は一日でも早く始めることが重要」だということです。株価の評価や対策の検討・実行には長い時間がかかります。手遅れになって後悔しないためにも、ぜひ一度、信頼できる税理士などの専門家にご相談されることをお勧めします。大切な会社を、万全の状態で次の世代へバトンタッチしましょう。

参考文献

国税庁「事業承継税制特集」

国税庁  No.4632「非上場株式の評価」

自社株の事業承継対策に関するよくある質問まとめ

Q.自社株(非上場株式)の承継対策はなぜ必要ですか?

A.非上場株式は現金化が難しいうえに評価額が高額になりやすく、後継者の相続税負担が重くなる可能性があるためです。また、株式が分散すると経営権が不安定になるリスクもあり、スムーズな事業承継のために事前の対策が不可欠です。

Q.自社株の評価額を下げる方法はありますか?

A.はい、計画的に実行することで評価額を引き下げることは可能です。具体的には、役員退職金の支給、不動産や設備への投資、生命保険の活用などの方法があります。ただし、実行には専門的な知識が必要なため、専門家への相談をおすすめします。

Q.「事業承継税制」とはどのような制度ですか?

A.後継者が会社の株式を先代経営者から贈与または相続によって取得した際に、その贈与税や相続税の納税が猶予・免除される制度です。適用には厳しい要件がありますが、活用できれば税負担を大幅に軽減できる可能性があります。

Q.生前に自社株を後継者に贈与するメリットは何ですか?

A.早い段階で後継者へ経営権を集中させることができる点です。また、株価が低いタイミングで贈与すれば、将来株価が上昇した場合の相続税負担を軽減できる可能性があります。暦年贈与や相続時精算課税制度の活用も有効です。

Q.後継者がいない場合、どのような選択肢がありますか?

A.親族内に後継者がいない場合でも、役員や従業員への承継(MBO/EBO)、第三者への売却(M&A)、最終手段としての廃業などの選択肢が考えられます。会社の価値や状況に合わせて最適な方法を検討することが重要です。

Q.自社株対策はいつから始めるべきですか?

A.できるだけ早く始めることをお勧めします。事業承継対策は、株価評価の引き下げや後継者教育など、時間のかかるものが多いためです。一般的には、経営者が50代〜60代になったら本格的に検討を開始するのが理想とされています。

事務所概要
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