最近、ご家族やご自身の「もの忘れ」が気になっていませんか?「年のせいかな」と見過ごしがちな変化が、実は認知症の始まりのサインかもしれません。認知症は、早期に気づき、適切な対応をすることで、その後の生活が大きく変わります。この記事では、認知症の前兆とされる具体的な症状や、家族ができること、そしてもしもの時に備えるためのポイントを、優しく解説していきますね。
認知症の始まり?見逃せない5つの前兆サイン
認知症の初期症状は、日常生活のささいな変化として現れることが多いです。ここでは、特に注意して観察したい5つの代表的な前兆について、詳しく見ていきましょう。
「体験」そのものを忘れる「もの忘れ」
誰にでも「昨日の夕食、何だったかな?」と思い出せないことはありますよね。これは加齢による自然なもの忘れです。しかし、認知症によるもの忘れは、夕食を食べたこと自体を忘れてしまうなど、体験そのものが記憶から抜け落ちてしまうのが特徴です。忘れている自覚がないため、周りから指摘されても「そんなことはない」と否定することもあります。
| 加齢によるもの忘れ | 認知症によるもの忘れ |
| 体験の一部(人の名前など)を忘れる | 体験したこと自体を忘れる |
| ヒントがあれば思い出せる | ヒントがあっても思い出せない |
| もの忘れの自覚がある | もの忘れの自覚がないことが多い |
| 日常生活に支障はあまりない | 日常生活に支障が出てくる |
理解力や判断力の低下
認知症の前兆として、理解力や判断力が低下することも挙げられます。例えば、会話のペースについていけなくなったり、スーパーでの支払いで小銭の計算がうまくできなくなったりします。これまでスムーズにできていた車の運転や、家電の操作に戸惑うようになるのもサインの一つです。物事を計画的に進めるのが苦手になり、料理の手順を間違えたり、片付けができなくなったりすることもあります。
時間や場所の感覚が不確かになる(見当識障害)
「今日は何月何日だっけ?」と頻繁に聞くようになったり、季節に合わない服装をしたりするのは、見当識障害の始まりかもしれません。これは、時間、場所、人物などを正しく認識する能力が低下する症状です。初期の段階では、日付や曜日を間違える程度ですが、進行すると慣れたはずの道で迷子になったり、自分のいる場所が分からなくなったりすることもあります。
人柄の変化や意欲の低下
認知症は脳の機能低下が原因で、人柄が変わったように見えることがあります。以前は穏やかだった人が些細なことで怒りっぽくなったり、逆に無気力になって好きだった趣味や外出に関心を示さなくなったりします。身だしなみに無頓着になる、部屋が散らかり放題になるなどの変化も注意が必要です。これは本人の性格が変わったのではなく、病気の症状であることを理解してあげることが大切です。
不安感が強くなる・疑い深くなる
認知機能が低下してくると、ご本人は無意識のうちに不安を感じています。そのため、一人でいることを怖がったり、何度も同じことを確認したりするようになります。また、自分で物を置いた場所を忘れてしまい、「誰かに盗られた」と家族を責めてしまう「もの盗られ妄想」も、認知症の初期によく見られる症状の一つです。
もしかして認知症?家族ができる早期発見のポイント
ご家族の些細な変化に気づくことが、認知症の早期発見・早期対応につながります。ここでは、ご家族が心がけたい3つのポイントをご紹介します。
定期的なコミュニケーションを心がける
一番大切なのは、日頃から会話の機会を持つことです。離れて暮らしている場合は、電話やビデオ通話でも構いません。会話の中で、同じ話を繰り返していないか、話のつじつまが合っているか、日付や曜日の感覚はどうかなどを、さりげなく確認してみましょう。変化に早く気づくためには、普段の様子を知っておくことが何より重要です。
受診を嫌がる場合の対処法
ご本人に「認知症の検査に行こう」と直接伝えると、プライドが傷ついたり、不安から拒否されたりすることが少なくありません。そんな時は、「健康診断の一環だよ」「最近、頭の働きを良くするお薬が出たみたいだから、相談しに行ってみない?」といった、前向きな言葉で誘ってみるのがおすすめです。かかりつけ医に相談し、先生から受診を勧めてもらうのも良い方法です。
「もの忘れ外来」や専門機関に相談する
認知症が疑われる場合、まずは「もの忘れ外来」「神経内科」「精神科」などを受診するのが一般的です。ご本人が受診を嫌がる場合は、家族だけでも相談に応じてくれる医療機関や地域包括支援センターがあります。専門家に状況を説明し、今後の対応についてアドバイスをもらうことで、家族の不安も軽減されます。
認知症と診断される前に知っておきたいこと
万が一、認知症と診断された場合に備えて、事前に準備できることがあります。ご本人の意思がはっきりしているうちに、将来のことについて話し合っておくことが大切です。
財産管理と相続の準備(生前対策)
認知症が進行すると、ご自身の意思で預貯金の引き出しや不動産の売却といった契約行為ができなくなります。これを「意思能力がない」と判断されるためです。そうなる前に、財産の管理方法について話し合っておくことが重要です。具体的には、「任意後見制度」の利用や「家族信託」といった方法があります。また、遺言書を作成しておくことで、将来の相続トラブルを防ぐことにもつながります。これらの手続きはご本人の判断能力が必要なため、早めの検討が肝心です。
公的サービスの利用を検討する
認知症と診断されると、介護保険サービスを利用できるようになります。要介護認定を受けることで、デイサービスやショートステイ、訪問介護など、様々なサービスを1割から3割の自己負担で利用できます。これにより、ご本人の生活の質を維持し、介護するご家族の負担を軽減することができます。お住まいの地域の地域包括支援センターが相談窓口になりますので、覚えておきましょう。
認知症の進行を緩やかにするための予防習慣
認知症の進行を遅らせたり、発症リスクを下げたりするために、日常生活で取り入れたい習慣があります。今日からできることを始めてみませんか?
生活習慣病の予防と管理
高血圧や糖尿病といった生活習慣病は、認知症のリスクを高めることが分かっています。バランスの取れた食事、塩分や糖分の摂りすぎに注意し、定期的に健康診断を受けることが大切です。特に、血管性認知症は脳梗塞や脳出血が原因となるため、生活習慣の改善が直接的な予防につながります。
適度な運動を習慣にする
ウォーキングや軽い体操などの有酸素運動は、脳の血流を良くし、神経細胞を活性化させる効果が期待できます。週に3回、30分程度の運動が目安です。無理のない範囲で、楽しみながら続けられるものを見つけましょう。誰かと一緒に行うことで、コミュニケーションの機会にもなりますね。
社会的な交流と知的活動
人と会話したり、趣味のサークルに参加したりすることは、脳にとって良い刺激になります。社会的な孤立は認知症のリスクを高めると言われています。また、読書、囲碁や将棋、パズル、楽器の演奏など、頭を使う活動も積極的に取り入れましょう。新しいことに挑戦するのもおすすめです。
認知症には様々な種類がある
「認知症」と一括りにされがちですが、原因となる病気によっていくつかの種類に分けられます。症状や進行の仕方が異なるため、正しい診断を受けることが重要です。
アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多く、全体の約7割を占めます。脳にアミロイドβという特殊なたんぱく質がたまることで神経細胞が壊れ、脳が萎縮していきます。もの忘れから始まることが多く、ゆっくりと進行するのが特徴です。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血など、脳の血管の病気によって引き起こされる認知症です。脳のダメージを受けた場所によって症状が異なり、できることとできないことがはっきりしている「まだら認知症」が特徴です。症状は、脳血管障害が起こるたびに段階的に悪化することがあります。
レビー小体型認知症
脳にレビー小体という特殊なたんぱく質がたまることで発症します。実際にはないものが見える「幻視」や、手足の震え、小刻み歩行といったパーキンソン症状が特徴的です。日によって症状が良い時と悪い時を繰り返すこともあります。
まとめ
認知症の前兆は、加齢によるもの忘れと見分けがつきにくい、ささいな変化から始まります。しかし、「体験自体を忘れる」「判断力が落ちる」「人柄が変わる」といったサインに早く気づくことが、ご本人とご家族の未来にとって非常に重要です。もし少しでも気になることがあれば、一人で抱え込まずに、かかりつけ医や地域包括支援センターなどの専門機関に相談してみてください。早期の対応と適切な準備が、安心して穏やかな生活を続けるための鍵となります。
参考文献
認知症の前兆に関するよくある質問まとめ
Q.認知症の初期症状にはどのようなものがありますか?
A.物忘れがひどくなる、時間や場所がわからなくなる、判断力が低下する、興味や関心が薄れる、人柄が変わるなど、日常生活に支障をきたす変化が見られます。単なる加齢による物忘れとは異なります。
Q.「物忘れ」と認知症の「記憶障害」の違いは何ですか?
A.加齢による物忘れは体験の一部を忘れますが、ヒントがあれば思い出せます。一方、認知症の記憶障害は体験そのものを忘れてしまい、ヒントがあっても思い出せないことが多いのが特徴です。
Q.認知症の前兆はいつから現れますか?
A.認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)は、65歳以上で現れることが多いとされています。しかし、若年性認知症のように若い世代で発症することもあります。気になる変化があれば早めに専門医に相談することが大切です。
Q.家族に認知症の前兆が見られたら、まず何をすればよいですか?
A.まずは本人の変化を注意深く観察し、記録することをおすすめします。そして、不安を煽らずに優しく寄り添い、かかりつけ医や物忘れ外来、地域包括支援センターなどの専門機関へ一緒に相談に行きましょう。
Q.認知症の前兆をセルフチェックする方法はありますか?
A.いくつかの簡易的なチェックリストがインターネット上で公開されています。ただし、これらはあくまで目安であり、正確な診断は専門医が行うため、気になる場合は受診してください。
Q.認知症の予防や進行を遅らせるためにできることはありますか?
A.バランスの取れた食事、適度な運動、質の良い睡眠といった生活習慣の改善が重要です。また、趣味や人との交流を通じて脳を活性化させること、生活習慣病を管理することも予防につながります。