ご家族が亡くなり、不動産を相続することになったとき、「相続人みんなで公平に」と考えて、とりあえず共有名義にしておこう、なんて思っていませんか?実はその「とりあえず」が、後々の大きなトラブルの火種になるかもしれないんです。不動産の共有名義は、一見すると公平で円満な解決策に思えるかもしれませんが、たくさんのリスクを抱えています。この記事では、なぜ不動産の共有名義が危険なのか、その具体的なリスクと、すでに共有名義になっている場合の解消法、そして将来のトラブルを防ぐための予防策まで、わかりやすくお話ししていきますね。
不動産の共有名義とは?なぜ選ばれてしまうの?
不動産の相続手続きを進める中で、「共有名義」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。まずは、この共有名義がどのような状態なのか、そしてなぜ安易に選ばれてしまいがちなのか、基本から確認していきましょう。
共有持分とは
不動産の共有名義(共有状態)とは、一つの土地や建物を、複数の人が共同で所有している状態のことを指します。それぞれの所有者は、その不動産に対して「共有持分」という権利の割合を持っています。例えば、お父様が亡くなり、相続人がお母様と子ども2人だった場合、法定相続分に従うと、お母様が2分の1、子どもたちがそれぞれ4分の1ずつの共有持分を持つことになります。この持分割合に応じて、不動産に関する権利や義務を負うことになるんですよ。
「とりあえず共有」が選ばれる背景
では、なぜリスクがあるにもかかわらず「とりあえず共有」が選ばれてしまうのでしょうか。主な理由としては、以下のような背景が考えられます。
- 遺産分割協議がまとまらない:誰か一人が不動産を相続すると不公平感が出る、誰が相続するかで意見が割れるなど、話し合いが難航した場合に、一旦法定相続分で共有登記をして問題を先送りにするケースです。
- 公平に分けたいという思い:不動産は現金のように簡単に分割できないため、持分で分けることが最も公平だと感じてしまうことがあります。
- 売却する予定がない:実家を誰も売るつもりがないため、将来のリスクを考えずに共有名義にしてしまうケースも少なくありません。
これらの理由から、一時的な解決策として共有名義が選ばれやすいのですが、その先に潜む問題に気づいていないことが多いのです。
共有不動産でできること・できないこと
共有名義の不動産では、単独の所有者と同じように自由に行動することはできません。民法では、行う行為の内容によって必要な同意の範囲が決められています。これが、共有不動産の扱いにくさの根源とも言えます。
| 行為の種類 | 内容と必要な同意 |
| 保存行為 | 不動産の価値を維持する行為(例:壊れた部分の修繕、不法占拠者への明渡し請求など)。各共有者が単独で行えます。 |
| 管理行為 | 不動産を利用・改良する行為(例:短期の賃貸借契約を結ぶなど)。各共有者の持分の価格の過半数の同意が必要です。 |
| 変更・処分行為 | 不動産そのものを物理的・法的に変更・処分する行為(例:不動産全体の売却、増改築、長期の賃貸借契約など)。共有者全員の同意が必要です。 |
特に「売却」という最も重要な行為に全員の同意が必要な点が、後々の大きなトラブルにつながりやすいポイントなんです。
「とりあえず共有名義」に潜む5つの危険なリスク
「共有名義にしても、家族なんだから大丈夫」そう思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、時間が経ち、状況が変わることで、当初は想像もしなかった問題が次々と発生する可能性があります。ここでは、共有名義にすることで起こりうる具体的な5つのリスクを見ていきましょう。
リスク1:売却や活用が自由にできない
最大のリスクは、不動産を自由に売却したり、活用したりできなくなることです。前述の通り、不動産全体を売却するには、共有者全員の同意が不可欠です。一人でも「売りたくない」「先祖代々の土地だから手放せない」と反対すれば、話は一歩も進みません。また、アパート経営を始めたい、大規模なリフォームをしたいといった活用方法についても、全員の同意が必要となるため、意見がまとまらずに計画が頓挫してしまうケースは非常に多いのです。
リスク2:将来の相続で権利関係がさらに複雑化する
最初は兄弟2人だけの共有だったとしても、時間が経つにつれて事態は深刻化します。例えば、兄が亡くなると、兄の持分は、その配偶者や子どもたちに相続されます。すると、今度は甥や姪といった、さらに遠い関係の親族が新たな共有者として加わることになります。このように相続が繰り返されるたびに、ネズミ算式に共有者が増えていき、面識のない人まで含まれるようになります。共有者が10人、20人と増えてしまっては、もはや全員の同意を得て何かを決めることは不可能に近くなってしまいます。
リスク3:管理費用や税金の負担で揉めやすい
不動産を所有していると、毎年固定資産税がかかりますし、建物の維持管理のための修繕費も必要になります。これらの費用は、原則として持分割合に応じて全員で負担しなければなりません。しかし、納税通知書は代表者一人にしか届かないため、代表者が一旦立て替えて他の共有者に請求する形になりがちです。ここで、「自分は住んでいないのになぜ払うのか」「お金に余裕がない」といった不満が出て、支払いを拒否されるなど、金銭的なトラブルに発展しやすいのです。
リスク4:共有持分を第三者に売却される可能性がある
あまり知られていませんが、不動産「全体」を売却するには全員の同意が必要ですが、自分の「共有持分のみ」であれば、他の共有者の同意がなくても自由に売却できてしまいます。もし、お金に困った共有者の一人が、自分の持分を専門の買取業者などに売却してしまったらどうなるでしょう。ある日突然、見ず知らずの業者が新たな共有者として現れ、「他の持分も買い取らせてほしい」「不動産全体を売却したい」などと交渉を迫ってくる…そんな恐ろしい事態になりかねません。
リスク5:放置されて「特定空家」になる
売ることも貸すこともできず、管理も面倒になると、結局誰も手を出さなくなり、不動産が放置されてしまうことがあります。建物は急速に老朽化し、庭は雑草だらけに。景観の悪化だけでなく、倒壊の危険や不法投棄、放火などの犯罪の温床になることもあります。行政から「特定空家」に指定されてしまうと、固定資産税の優遇措置が受けられなくなり、税額が最大で6倍に跳ね上がる可能性もあるのです。
不動産の共有名義を回避するための遺産分割方法
ここまで共有名義のリスクについてお話ししてきましたが、「じゃあ、どうすればいいの?」と思いますよね。ご安心ください。相続が発生した際に、共有名義を避けるための方法はきちんとあります。遺産分割協議の段階で、これからご紹介する方法を検討することがとても大切です。
現物分割:不動産は一人が相続し、他の相続人は別の財産を
現物分割は、遺産をそのままの形で分ける方法です。例えば、長男が実家の不動産(評価額2,000万円)を相続し、次男が預貯金2,000万円を相続するといった形です。このように、各相続人が取得する財産の価値が法定相続分に近くなるように調整できれば、最もシンプルで分かりやすい方法です。ただし、不動産以外にめぼしい財産がない場合は、不公平になりやすく、この方法は使えません。
代償分割:不動産を相続する人が他の相続人へ代償金を支払う
代償分割は、相続人の一人が不動産を単独で相続する代わりに、他の相続人に対してその人の相続分に見合う現金(代償金)を支払う方法です。例えば、評価額3,000万円の不動産を子ども3人で相続する場合、長男が不動産を相続し、次男と三男にそれぞれ1,000万円ずつの代償金を支払います。これにより、公平性を保ちながら共有名義を避けられます。ただし、不動産を相続する人に、代償金を支払えるだけの十分な資力が必要になるという点が課題です。
換価分割:不動産を売却して現金を分ける
換価分割は、相続した不動産を売却して現金に換え、その売却代金を相続人間で分ける方法です。誰もその不動産に住む予定がなく、相続人全員が売却に同意している場合に有効です。物理的に分けられない不動産を現金にすることで、1円単位で公平に分割できるため、最もトラブルになりにくい方法と言えるでしょう。デメリットとしては、思い出の詰まった実家を手放すことになる点や、売却には時間と仲介手数料などの費用がかかる点が挙げられます。
すでに共有名義!トラブルを解消する方法
「この記事を読むのが遅かった…もう共有名義にしてしまった!」という方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、諦めるのはまだ早いです。すでに共有名義になっている不動産でも、その状態を解消する方法はあります。ただし、共有者が増えれば増えるほど話し合いは難しくなるので、できるだけ早めに行動を起こしましょう。
共有者全員で不動産全体を売却する
最も理想的な解決策は、共有者全員で話し合い、全員の同意を得て不動産全体を売却することです。そして、売却して得た現金を、それぞれの持分割合に応じて分配します。この方法であれば、共有持分のみを売却するよりも高く売れる可能性が高いですし、全員が納得しやすい形で共有関係をきれいに解消できます。
自分の共有持分のみを売却・放棄する
全員の同意が得られない場合は、自分の持分だけをどうにかする方法を考えます。
- 他の共有者に買い取ってもらう:まずは他の共有者に、自分の持分を買い取ってもらえないか相談してみましょう。その不動産に住み続けたい、手放したくないと考えている共有者がいれば、応じてくれる可能性があります。
- 専門の買取業者に売却する:他の共有者が買い取れない場合、共有持分を専門に買い取る不動産業者に売却するという選択肢もあります。ただし、不動産全体の市場価格から算出した持分価格よりも、かなり安い金額での買取になることがほとんどです。
- 共有持分を放棄する:自分の持分を放棄することも可能です。放棄された持分は、他の共有者に帰属します。ただし、これは無償の譲渡とみなされ、持分を得た他の共有者に贈与税がかかる可能性があるので注意が必要です。
土地の場合は「分筆」して単独名義に
共有している不動産が土地である(または建物を取り壊して更地にできる)場合は、分筆という方法があります。これは、一つの土地を登記上で複数の土地に分割し、それぞれを各共有者が単独で所有するように名義変更する手続きです。分筆すれば、自分の土地は自由に売却したり活用したりできるようになります。ただし、土地の形状によっては分筆することで価値が下がってしまったり、測量や登記に数十万円の費用がかかる点には注意しましょう。
生前にできる!共有名義トラブルの予防策
これまで見てきたように、不動産の共有名義は多くのトラブルを引き起こす可能性があります。最も良いのは、そもそも共有状態を生まないことです。そのためには、不動産の所有者が元気なうちに、将来の相続を見据えた対策をしておくことが非常に重要になります。
遺言書を作成して分割方法を指定する
最も効果的で基本的な対策が、遺言書の作成です。遺言書で「自宅の土地建物は長男に相続させる」というように、不動産を相続する人を明確に指定しておけば、相続人たちが遺産分割協議で揉める必要がなくなり、共有名義になる事態を防げます。相続手続きもスムーズに進むという大きなメリットがあります。ただし、他の相続人の遺留分(最低限保証される相続分)を侵害するような内容だと、後でトラブルになる可能性もあるため、遺留分に配慮した内容にすることが大切です。
生前贈与で不動産を承継させる
元気なうちに、特定の相続人に不動産を生前贈与しておくという方法もあります。生前に所有権を移転してしまえば、その不動産は相続財産ではなくなるため、遺産分割の対象から外れます。これにより、確実に渡したい人に不動産を承継させることができます。注意点としては、暦年贈与の基礎控除額(年間110万円)を大きく超える不動産の贈与には高額な贈与税がかかること、不動産取得税や登録免許税といった税金もかかることです。「相続時精算課税制度」などの特例を利用することも検討しましょう。
家族信託を活用する
最近注目されているのが、家族信託という方法です。これは、不動産の所有者(委託者)が、信頼できる家族(受託者)との間で契約を結び、財産の管理や処分を託す制度です。信託契約の中で、自分が亡くなった後に不動産の権利を誰に承継させるかを指定しておくことができます。遺言のように一代限りでなく、その次の代の承継先まで決められるなど、柔軟な資産承継の設計が可能です。認知症対策としても有効なため、専門家に相談してみる価値はあるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。相続の際に「とりあえず」で選んでしまいがちな共有名義ですが、その裏には、不動産の売却・活用の制限、権利関係の複雑化、金銭トラブルといった、たくさんの危険が潜んでいることをお分かりいただけたかと思います。一度共有名義にしてしまうと、解消するには大変な労力と時間、費用がかかることも少なくありません。
不動産を相続する際は、安易に共有名義を選択するのではなく、代償分割や換価分割といった方法を検討し、できる限り単独名義での相続を目指すことが、将来の「争族」を避けるための鍵となります。
もし、すでに共有名義で問題を抱えている場合や、これから相続を控えていて不安な場合は、一人で悩まずに、相続に詳しい専門家に相談することも大切です。早めに適切な対策をとって、大切な資産と家族の関係を守っていきましょう。
参考文献
No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算|国税庁
不動産の共有名義に関するよくある質問まとめ
Q.不動産を共有名義にするメリットはあるのですか?
A.メリットは主に2つあります。1つは、法定相続分などで持分を分けるため、相続人間での公平感を保ちやすい点です。もう1つは、共有者それぞれが住宅ローン控除や、マイホーム売却時の3,000万円特別控除を使える場合があり、税制上のメリットを受けられる可能性がある点です。しかし、デメリットの方が大きいケースが多いため慎重な判断が必要です。
Q.共有名義の不動産の固定資産税は誰が払うのですか?
A.固定資産税の納税義務は、共有者全員が連帯して負います。通常、共有者の中から代表者を一人決め、その人に納税通知書が送付されます。代表者が一旦全額を支払い、後から他の共有者にそれぞれの持分に応じた金額を請求するのが一般的ですが、支払いを巡ってトラブルになることも少なくありません。
Q.共有者の一人が亡くなったら、その人の持分はどうなりますか?
A.亡くなった共有者の持分は、他の共有者に自動的に移るわけではなく、その人の相続人に引き継がれます。例えば、兄弟で共有していた不動産で兄が亡くなると、兄の持分は兄の配偶者や子どもが相続することになります。これにより、共有者の数が増え、権利関係がさらに複雑化するリスクがあります。
Q.共有名義を解消するにはどうすればいいですか?
A.主な解消法は3つです。①共有者全員の合意のもと不動産全体を売却し、現金を分ける。②自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう。③土地の場合は、持分割合に応じて土地を分筆し、それぞれ単独名義にする。どの方法も共有者との話し合いが不可欠です。
Q.自分の持分だけを売ることはできますか?
A.はい、ご自身の共有持分だけであれば、他の共有者の同意がなくても売却することは可能です。しかし、不動産全体を自由に使える権利ではないため、一般の買い手を見つけるのは難しく、専門の買取業者に売却するケースがほとんどです。その場合、市場価格よりも大幅に安い価格での売却になることが多いです。
Q.共有名義にしないための遺産分割方法には何がありますか?
A.主に3つの方法があります。①現物分割:一人が不動産を相続し、他の人は預貯金など他の財産をもらう。②代償分割:一人が不動産を相続し、他の人へ代償金を支払う。③換価分割:不動産を売却し、その代金を全員で分ける。これらの方法で、誰か一人の単独名義にすることを目指します。