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【事業承継の切り札】相続対策としての黄金株とは?メリット・デメリットを解説

2025-10-16
目次

会社の経営者様にとって、ご自身の引退後の事業承継は大きな課題ですよね。特に、後継者にスムーズに会社を引き継ぎたいけれど、経営が不安定にならないか心配…というお悩みは尽きません。そんなときに心強い味方となってくれるのが、「黄金株(おうごんかぶ)」と呼ばれる特別な株式です。この記事では、相続対策や事業承継の切り札として注目される黄金株について、その仕組みからメリット・デメリット、導入方法まで、わかりやすく解説していきます。

黄金株とは?

黄金株とは、通称であり、法律上の正式名称は「拒否権付種類株式(きょひけんつきしゅるいかぶしき)」と言います。その名の通り、株主総会などで決議される特定の重要事項に対して「NO!」と言える、つまり拒否権を持つ非常に強力な株式のことです。たった1株持っているだけで会社の重要な意思決定を止めることができるため、その価値の高さから「黄金株」と呼ばれています。

拒否権付株式(黄金株)の基本

黄金株は、会社法で定められている「種類株式」の一つです。種類株式とは、普通株式とは異なる権利の内容を持つ株式のことで、配当を優先的に受け取れるものや、議決権が制限されているものなど、様々な種類があります。黄金株は、その中でも特に強力な「拒否権」という権利が付与された株式です。この権利を発動すると、たとえ他の株主全員が賛成した議案であっても、その決議を無効にすることができます。

なぜ「黄金株」と呼ばれるの?

その理由は、その絶大な影響力にあります。通常、会社の意思決定は多数決で決まりますが、黄金株はたった1株あるだけで、その多数決の結果を覆すことができてしまいます。会社の運命を左右するほどの力を持つことから、まるで黄金のように貴重で価値がある、という意味を込めて「黄金株(ゴールデンシェア)」という愛称で呼ばれるようになったのです。

黄金株で拒否できること

黄金株の拒否権は、どんな議案にでも使えるわけではなく、あらかじめ会社の定款(ていかん)で定めた事項に限られます。一般的に、事業承継対策として利用される場合には、会社の根幹に関わる以下のような重要事項が対象とされることが多いです。

拒否権の対象となる主な決議事項 内  容
定款の変更 会社の基本的なルールを変更すること。
取締役・監査役の選任・解任 会社の経営陣を決めること。
合併、会社分割、事業譲渡 他の会社と合併したり、事業を売却したりすること。
資本金の減少 会社の財産的基礎である資本金を減らすこと。
自己株式の取得 会社が自社の株式を買い取ること。
株式の併合 複数の株式を1株にまとめること。
会社の解散 会社の活動をやめて、法人格を消滅させること。

相続対策・事業承継で黄金株が注目される理由

では、なぜこの黄金株が相続対策や事業承継の場面で注目されているのでしょうか。それは、会社の経営権を円滑に、そして安全に次の世代へ引き継ぐための強力なツールとなるからです。創業者である会長が、後継者である社長に経営を任せつつも、いざという時には手綱を引ける「お守り」のような役割を果たしてくれるのです。

後継者へのスムーズな株式移転

会社の株式は高額な財産となることが多く、相続や贈与の際には大きな税金の負担が発生します。そこで、経営者である親が元気なうちに、議決権のある普通株式のほとんどを後継者である子に生前贈与します。そして親自身は、議決権のない黄金株を1株だけ手元に残します。こうすることで、相続税の対象となる財産を減らしながら、会社の重要な決定権は親が持ち続けることができ、スムーズな株式移転が実現できるのです。

経営者の影響力を残すことができる

後継者がまだ若く、経営経験が浅い場合、親としては心配が尽きないものです。黄金株を持っていれば、万が一、後継者が経営判断を誤りそうになったり、会社にとって不利益な決定をしようとしたりした際に、拒否権を発動してそれを止めることができます。これにより、後継者が一人前の経営者として成長するまで、先代経営者が「ご意見番」として経営を見守り、会社の暴走を防ぐことが可能になります。

株式の分散を防ぐ

相続が発生すると、会社の株式が後継者だけでなく、他の兄弟など経営に関与しない相続人にも渡ってしまうことがあります。これを株式の分散といい、経営権が不安定になる原因となります。例えば、経営に関心のない相続人が「自分の持っている株式を外部の人に売りたい」と言い出すかもしれません。このような場合でも、株式の譲渡承認に関する決議を黄金株で拒否することで、会社の株式が意図しない第三者の手に渡るのを防ぐことができます。

黄金株を導入するメリット

黄金株の導入には、事業承継を円滑にする以外にも、会社経営にとって多くのメリットがあります。ここでは主な3つのメリットについて見ていきましょう。

会社の乗っ取り防止

黄金株は、敵対的買収に対する非常に強力な防衛策となります。もし何者かが会社の株式を買い集めて乗っ取りを企てたとしても、合併や事業譲渡といった重要な決議を黄金株で拒否することができます。これにより、会社の経営権を守り、従業員や取引先を安心させることができます。

経営の安定化

先代経営者が黄金株を持つことで、後継者の経営をサポートし、経営基盤が安定します。後継者は、いざという時には相談できる存在がいるという安心感のもと、思い切った経営判断がしやすくなります。また、金融機関や取引先からの信用も得やすくなるという効果も期待できます。

相続税対策としての効果

前述の通り、議決権のある普通株式の大部分を後継者に生前贈与することで、将来発生する相続財産を圧縮する効果があります。贈与税には年間110万円の基礎控除がある「暦年贈与」や、2,500万円まで非課税となる「相続時精算課税制度」などがあり、これらの制度を計画的に活用することで、税負担を抑えながら株式を移転させることが可能です。

黄金株を導入するデメリットと注意点

非常に便利な黄金株ですが、その力が強力なだけに、導入には慎重な検討が必要です。デメリットや注意点をしっかり理解しておきましょう。

黄金株を持つ株主の死亡リスク

これが最大の注意点です。黄金株を持つ先代経営者が亡くなった場合、その黄金株も相続の対象となります。もし、後継者以外の相続人が黄金株を相続してしまったら、会社の経営がストップしてしまうという最悪の事態も考えられます。このリスクを避けるためには、あらかじめ定款に「取得条項」を定めておくことが不可欠です。これは、「黄金株を持つ株主が死亡した場合、会社がその黄金株を(対価として別の株式などを交付して)強制的に取得できる」というルールです。この対策は必ず行いましょう。

導入手続きが複雑

黄金株を導入するには、会社法に則った厳格な手続きが必要です。定款の変更や株主総会での特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要)、法務局への登記申請など、専門的な知識が求められます。そのため、弁護士や司法書士といった専門家のサポートなしに進めるのは難しいでしょう。

黄金株の濫用リスク

黄金株を持つ株主が、私的な感情や利害のために拒否権を不当に使い、会社の成長に必要な意思決定を妨げてしまうリスクもゼロではありません。先代経営者と後継者の間で意見が対立し、経営が停滞してしまう可能性も考慮しておく必要があります。黄金株はあくまで「いざという時のお守り」であり、日常の経営に過度に介入するためのものではない、という共通認識が大切です。

黄金株の導入手続きの流れ

実際に黄金株を導入する場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。大まかな流れは以下の通りです。

定款変更

まず、会社の憲法ともいえる定款を変更し、黄金株(拒否権付種類株式)を発行できる根拠規定を設ける必要があります。どのような事項に対して拒否権を認めるのか、発行する株式数などを具体的に定めます。

株主総会の特別決議

定款の変更は会社の重要事項であるため、株主総会の特別決議が必要です。前述の通り、これは普通決議よりも要件が厳しく、議決権を持つ株主の過半数が出席し、そのうちの3分の2以上の賛成を得なければなりません。

登記申請

株主総会で定款変更が承認されたら、その内容を法務局に届け出て、変更登記を申請します。登記が完了して初めて、法的に黄金株の発行が有効となり、第三者に対してもその効力を主張できるようになります。

まとめ

黄金株(拒否権付種類株式)は、後継者へスムーズに経営権を引き継ぎながら、先代経営者が一定の影響力を保持し、経営の安定を図るための非常に有効な手段です。相続税対策としてのメリットも大きく、中小企業の事業承継において強力な切り札となり得ます。
しかし、その強力な権限ゆえに、株主が亡くなった際のリスクや濫用のリスクといったデメリットも存在します。導入を検討する際は、そのメリットとデメリットを十分に理解し、取得条項の設定など、将来のリスクに備えた万全の対策を講じることが不可欠です。黄金株の導入は、会社の未来を左右する重要な決断です。必ず弁護士や税理士などの専門家と相談しながら、慎重に進めるようにしましょう。

参考文献

e-Gov法令検索 会社法

国税庁 種類株式の評価について

相続対策としての黄金株に関するよくある質問まとめ

Q. 相続対策で使われる黄金株とは何ですか?

A. 黄金株とは、株主総会の特定の決議事項に対して拒否権を持つ特別な株式のことです。正式名称は「拒否権付種類株式」といい、事業承継を円滑に進めるための相続対策として活用されます。

Q. なぜ黄金株が相続・事業承継対策になるのですか?

A. 後継者に議決権のある普通株式を集中して譲渡しつつ、先代経営者が黄金株を1株保有することで、後継者の経営判断を監督し、万が一の暴走を防ぐことができるためです。これにより経営の安定化が図れます。

Q. 黄金株を導入するメリットは何ですか?

A. 後継者へのスムーズな経営権移譲、経営の安定化、敵対的買収の防止、相続後の親族間トラブルの回避などが主なメリットです。少ない株式で会社の重要事項に影響力を持つことができます。

Q. 黄金株のデメリットや注意点はありますか?

A. 黄金株を持つ人に権限が集中しすぎ、経営が硬直化するリスクがあります。また、導入には定款変更や登記などの専門的な手続きが必要で、税務上の評価も複雑なため専門家への相談が不可欠です。

Q. 黄金株はどのように導入すればよいですか?

A. 会社の定款に黄金株に関する規定を設け、株主総会の特別決議を経て発行します。手続きが法的に複雑なため、司法書士や弁護士、税理士などの専門家に相談しながら進めるのが一般的です。

Q. 黄金株は誰が持つのが効果的ですか?

A. 一般的には、事業を後継者に譲った後も経営に関与したい創業者や先代経営者が保有します。後継者の経営を見守り、重要な局面で拒否権を行使することで、会社の舵取りを誤らせない役割を担います。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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