相続対策として不動産活用をお考えの方にとって、「小規模宅地等の特例」は非常に重要な制度ですよね。中でもアパートや駐車場経営で活用できる「貸付事業用宅地等」は、多くの方が検討される方法の一つです。しかし、令和8年度の税制改正で、この貸付事業用宅地等を使った相続対策に大きな変更がありました。今回は、この改正点を踏まえ、貸付事業用宅地等の特例を利用できる条件や、メリット・デメリットをわかりやすく解説していきます。
小規模宅地等の特例と貸付事業用宅地等
まずは、制度の基本からおさらいしましょう。「貸付事業用宅地等」は、「小規模宅地等の特例」という制度の一部です。この特例がどのようなもので、貸付事業用宅地等がどう位置づけられているのかを見ていきましょう。
小規模宅地等の特例の概要
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)や生計を共にしていた親族が住んでいた土地や事業をしていた土地を相続した場合に、一定の要件を満たせば、その土地の相続税評価額を最大80%も減額できる制度です。相続税は財産の評価額をもとに計算されるため、この特例を使えるかどうかで納税額が大きく変わることがあります。
貸付事業用宅地等の位置づけ
小規模宅地等の特例が適用できる宅地は、その利用状況によって主に3つに分けられます。貸付事業用宅地等はそのうちの一つです。
| 宅地の種類 | 主な内容 |
| 特定居住用宅地等 | 被相続人が住んでいた自宅の敷地など |
| 特定事業用宅地等 | 被相続人が個人事業を営んでいた土地など |
| 貸付事業用宅地等 | 被相続人がアパートや駐車場など不動産貸付業をしていた土地 |
このように、貸付事業用宅地等とは、アパートやマンション、駐車場といった不動産貸付事業に使われていた土地のことを指します。
減額される割合と限度面積
貸付事業用宅地等の場合に減額される割合と面積には上限が定められています。他の種類の宅地と比べて、限度面積と減額割合が少し異なる点に注意が必要です。
| 項目 | 内容 |
| 限度面積 | 200㎡まで |
| 減額割合 | 50% |
例えば、評価額5,000万円、面積200㎡の貸付事業用宅地を相続した場合、この特例を適用できれば評価額が半分の2,500万円となり、相続税の負担を大きく軽減できる可能性があります。
【現行制度】貸付事業用宅地等の特例を適用できる条件
この特例を適用するためには、宅地そのものだけでなく、亡くなった方(被相続人)や相続する人(相続人)にも一定の要件が求められます。ここでは、現行制度における主な適用条件を見ていきましょう。
宅地等の要件
まず、対象となる宅地は、被相続人やその親族が営んでいた不動産貸付事業、駐車場業、自転車駐車場業などの用に供されていたものである必要があります。また、相続開始の直前から貸付事業が行われていることが前提となります。
被相続人・相続人の要件
誰が相続するかによっても要件が変わります。基本的には、被相続人の貸付事業を引き継ぐ親族が対象です。
| 要件 | 内容 |
| 事業承継要件 | 相続人が、被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぐこと。 |
| 事業継続要件 | 引き継いだ事業を、相続税の申告期限まで継続して営んでいること。 |
| 保有継続要件 | 対象の宅地を、相続税の申告期限まで保有していること。 |
つまり、相続したアパートなどをすぐに売却したり、貸付事業をやめてしまったりすると、この特例は使えなくなってしまいます。
【令和8年度税制改正】貸付用不動産の評価方法が変わる!
ここからが今回の本題です。令和8年度税制改正大綱では、相続税対策として行われる不動産購入について、評価方法を見直す内容が盛り込まれました。これにより、特に相続直前に不動産を購入して節税を図る、いわゆる「駆け込み対策」が難しくなります。
改正の背景:行き過ぎた節税対策へのメス
これまで、現金で持っているよりも不動産(特に賃貸物件)に変えた方が、相続税評価額が低くなることを利用した節税策が広く行われてきました。しかし、市場での売買価格(時価)と相続税評価額の間に大きな乖離があることを利用した極端な節税が問題視されていました。今回の改正は、こうした実態を踏まえ、課税の公平性を図る目的があります。
改正内容①:取得後5年以内の貸付用不動産
今回の改正で最も大きなポイントは、亡くなった方(被相続人)が相続開始前5年以内に取得または新築した一定の貸付用不動産の評価方法が変わる点です。
これまでは、取得してすぐの不動産でも、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基に評価されていました。しかし改正後は、このような不動産については、原則として「被相続人が取得した価額(購入価格)の80%」で評価されることになります。
これにより、購入価格と相続税評価額の差を利用した節税効果が大幅に縮小されることになります。
改正内容②:不動産小口化商品
不動産を証券化して小口で販売する「不動産小口化商品」についても、評価方法が見直されます。こちらは取得時期にかかわらず、原則として事業者が示す適正な処分価格など、時価に相当する金額で評価されることになります。これまで大きな節税効果が期待できた不動産小口化商品ですが、この改正により相続税対策としての利用は難しくなると考えられます。
いつから適用される?
この新しい評価方法は、令和9年1月1日以降の相続や贈与から適用されます。つまり、令和8年12月31日までに発生した相続については、これまでの評価方法が適用されることになります。
貸付事業用宅地等を活用するメリット
令和8年度の税制改正により、特に短期的な節税効果は薄れますが、長期的な視点で見れば、貸付事業用宅地等を活用するメリットは依然として存在します。
相続税評価額を最大50%減額できる
最大のメリットは、やはり相続税評価額を大幅に圧縮できる点です。取得から5年を超えて保有している貸付事業用宅地であれば、改正後もこれまで通り小規模宅地等の特例を適用し、評価額を50%減額することが可能です。計画的に、そして長期的に不動産経営を行うことで、大きな節税効果が期待できます。
相続後も安定した家賃収入が期待できる
貸付事業用宅地は、相続税対策だけでなく、相続人にとって安定した収入源にもなり得ます。アパートやマンション経営が順調であれば、相続人は家賃収入を得て、納税資金や将来の生活費に充てることができます。これは、現金や有価証券の相続にはない大きな魅力です。
貸付事業用宅地等を活用するデメリットと注意点
一方で、デメリットや注意点もしっかりと理解しておく必要があります。特に今回の税制改正で注意すべき点が増えました。
【改正後の注意点】取得後5年以内の相続では節税効果が薄れる
繰り返しになりますが、令和9年1月1日以降、相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産は、節税効果が大きく制限されます。「相続が近そうだから急いでアパートを建てよう」という駆け込み対策は、今後は通用しなくなると考えましょう。相続対策は、より長期的で計画的な視点が必要になります。
空室リスクや不動産価格下落のリスク
不動産経営には、当然ながらリスクが伴います。入居者が集まらずに空室が増えれば家賃収入は減少し、建物の老朽化による修繕費もかかります。また、将来的に不動産の価値そのものが下落する可能性もゼロではありません。これらの事業リスクを十分に理解した上で検討することが大切です。
他の特例との併用には限度面積の調整が必要
小規模宅地等の特例には、貸付事業用宅地等のほかに「特定居住用宅地等(自宅の敷地)」などがあります。これらを併用して適用することも可能ですが、それぞれの限度面積をすべて使えるわけではなく、調整計算が必要になります。どの土地にどの特例を適用するのが最も有利になるか、慎重なシミュレーションが求められます。
相続税の申告期限までに事業を引き継ぐ必要がある
この特例を受けるには、相続人が相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに貸付事業を引き継ぎ、継続していなければなりません。相続後の手続きが遅れたり、事業を引き継ぐ意思がなかったりすると特例が使えなくなってしまうため、生前から相続人間でしっかりと話し合っておくことが重要です。
まとめ
今回は、相続対策としての貸付事業用宅地等の活用について、令和8年度税制改正の内容を踏まえて解説しました。今回の改正により、特に相続直前の不動産購入による節税効果は大きく制限されることになります。これからの不動産を活用した相続対策は、「駆け込み」ではなく「長期的・計画的」な視点がより一層重要になります。5年以上前から計画的に不動産経営を行い、事業として安定させることで、本来の小規模宅地等の特例のメリットを享受することができます。ご自身の状況に合わせて最適な相続対策を立てるためには、税制に詳しい専門家への相談が不可欠です。早めに準備を始め、後悔のない選択をしてくださいね。
参考文献
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
貸付事業用宅地等の相続対策に関するよくある質問
Q.貸付事業用宅地等の特例とは何ですか?
A.亡くなった方がアパート経営や駐車場経営をしていた土地を相続した場合に、一定の要件を満たせば、その土地の相続税評価額を200㎡を上限として50%減額できる制度です。「小規模宅地等の特例」の一つです。
Q.令和8年度税制改正で貸付事業用宅地等の何が変わるのですか?
A.令和9年1月1日以降の相続から、相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産の評価方法が変わります。これまでの路線価評価などではなく、原則として「取得価額の80%」で評価されるため、駆け込みでの節税効果が大幅に薄れます。
Q.新しい評価方法の改正はいつから適用されますか?
A.令和9年1月1日以降に発生した相続または贈与から適用されます。令和8年12月31日までに発生した相続については、これまでの評価方法が適用されます。
Q.5年以上前に建てたアパートなら、今回の改正の影響はありませんか?
A.はい、相続開始時点で取得してから5年を超えている貸付用不動産については、今回の改正の影響を受けません。これまで通り、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の適用を検討できます。
Q.貸付事業用宅地等の特例を使えば、必ず節税になりますか?
A.必ずしもそうとは限りません。特例を適用できても、不動産経営には空室リスクや価格下落リスクが伴います。また、他の特例との併用制限もあります。総合的なシミュレーションと長期的な事業計画が重要です。
Q.この特例を受けるには、どんな手続きが必要ですか?
A.相続税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載し、計算の明細書や遺産分割協議書の写しなどの必要書類を添付して、申告期限内に提出する必要があります。また、相続人全員の同意も必要です。