ご家族が亡くなられた後、やらなければならない手続きがたくさんあり、心身ともにお疲れのことと思います。その中でも「相続税」は、多くの人にとって初めての経験で、どうやって納めたらいいのか戸惑うことも多いのではないでしょうか。相続税の納付には、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内という期限があります。この記事では、相続税の納付方法について、誰にでも分かりやすく、ステップバイステップで解説していきます。ご自身に合った方法を見つけて、期限内に落ち着いて手続きを済ませましょう。
相続税の主な納付方法4選
相続税の納付は、原則として現金で一括払いと決められています。納付書は、固定資産税のように自動的に送られてくるものではないので、ご自身で準備する必要があります。主な納付方法は、以下の4つです。それぞれのメリット・デメリットを比較して、ご自身に最適な方法を選びましょう。
納付方法 | 特徴 |
金融機関・郵便局 | 最も一般的な方法。高額な税金でも安心して納付でき、領収証書が発行される。 |
税務署の窓口 | 申告書の提出と同時に納付できる。相談しながら手続きを進めたい場合に便利。 |
クレジットカード | 24時間いつでも自宅から納付可能。ただし、決済手数料がかかり、領収証書は発行されない。 |
コンビニエンスストア | 30万円以下の納付であれば、いつでも手軽に納付できる。バーコード付きの納付書が必要。 |
金融機関・郵便局の窓口で納付
最も多くの方が利用するのが、銀行や郵便局(ゆうちょ銀行)などの金融機関の窓口で納付する方法です。相続した預金を引き出してそのまま納付手続きができるため、高額な現金を運び回るリスクがなく安全です。また、その場で領収証書が発行されるので、納税した証明として大切に保管できます。ただし、金融機関の窓口は平日の日中しか開いていないため、お仕事をされている方は時間を調整する必要があります。
税務署の窓口で納付
被相続人の最後の住所地を管轄する税務署の窓口でも、直接納付することができます。相続税の申告書を提出する際に、一緒に納付も済ませてしまえるのがメリットです。ただし、この場合も納付は現金のみとなります。税務署も平日の日中しか開いていない点、そして申告先の税務署が遠方にある場合は移動が大変になる点がデメリットと言えるでしょう。
クレジットカードで納付
「国税クレジットカードお支払サイト」を利用すれば、24時間いつでも、ご自宅のパソコンやスマートフォンからクレジットカードで相続税を納付できます。日中、窓口に行く時間がない方にとっては非常に便利な方法です。ただし、納付税額に応じて決済手数料がかかる点に注意が必要です(1万円ごとに83円(税込))。また、利用できる金額は1,000万円未満で、クレジットカード自体の利用限度額にも左右されます。納税の証明となる領収証書は発行されず、カード会社の利用明細で確認することになります。
コンビニエンスストアで納付
納付する相続税額が30万円以下の場合に限られますが、コンビニエンスストアで納付することも可能です。24時間営業しているコンビニなら、時間を気にせずいつでも支払える手軽さが魅力です。この方法を利用するには、あらかじめ税務署でバーコード付きの納付書を発行してもらうか、国税庁のウェブサイトでQRコードを作成してコンビニの端末で読み取る必要があります。現金での支払いのみとなり、クレジットカードや電子マネーは使えません。
相続税の納付までの手続きと流れ
相続税の納付は、相続が始まってからいくつかのステップを経て行われます。全体の流れを把握しておくと、計画的に進めることができます。期限は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」です。この期限内に申告と納付の両方を完了させる必要があります。
相続人の確定と遺産の把握
まず初めに、誰が相続人になるのかを確定させるために、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本などを集めます。同時に、預貯金、不動産、有価証券といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含め、すべての遺産を調査し、リストアップします。この遺産の総額が、相続税の計算の基礎となります。
遺産分割協議
遺言書がない場合、相続人全員で誰がどの財産をどれくらいの割合で相続するのかを話し合います。これを「遺産分割協議」と呼びます。この話し合いで決まった内容によって、各相続人が納める相続税の金額が変わってきます。全員が合意したら、その内容を「遺産分割協議書」という書類にまとめます。
相続税の計算と申告
遺産の総額と、各相続人が取得する財産の額が確定したら、相続税を計算します。遺産の総額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引き、残りの金額に対して税率をかけて税額を算出します。計算した結果を「相続税申告書」に記入し、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に提出します。
納付書の準備と納税
相続税申告書を提出しても、税務署から納付書が送られてくることはありません。ご自身で税務署や金融機関の窓口で納付書を入手し、必要事項を記入する必要があります。相続人が複数いる場合は、相続人一人ひとりが自分の納める税額分の納付書を作成し、それぞれ納付手続きを行います。
相続税の納付で絶対にやってはいけない注意点
相続税の納付には、いくつか注意すべきポイントがあります。知らずにいると、後からペナルティが課されたり、思わぬトラブルに発展したりする可能性があります。ここでは、特に注意したい3つの点について解説します。
納付期限を守らない
相続税の納付期限は、申告期限と同じく「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」です。この期限を1日でも過ぎてしまうと、ペナルティとして「延滞税」が課されます。延滞税は、納付が遅れた日数に応じて増えていき、納期限の翌日から2か月を過ぎると税率が高くなります(令和6年現在は年2.4%、2か月経過後は年8.7%)。せっかく申告を済ませても、納付が遅れるだけで余計な税金を支払うことになるので、必ず期限内に納付しましょう。
他の相続人の税金を安易に立て替える
相続人の中に納税資金が足りない方がいて、他の相続人がその方の相続税を代わりに支払う場合、注意が必要です。単なる立て替え(後で返済してもらう)であれば問題ありませんが、返済の約束なく肩代わりしてしまうと、それは「贈与」とみなされ、贈与税の対象となる可能性があります。贈与税は年間110万円の基礎控除がありますが、それを超える金額を肩代わりすると、受け取った側に高額な贈与税がかかることがあります。立て替える場合は、必ず金銭消費貸借契約書(借用書)を作成するなど、貸し借りであることを明確にしておきましょう。
申告だけで満足して納付を忘れる
意外と多いのが、「申告書を提出したから終わり」と安心してしまい、納付手続きを忘れてしまうケースです。相続税は、申告と納付の両方を期限内に完了させて初めて手続きが終了します。税務署から「納税してください」という通知が来るわけではないので、申告書を提出したら、速やかに自分で納付書を準備し、納税手続きに進むことを忘れないようにしましょう。
納税資金が足りない!期限に間に合わない場合の対処法
相続財産が不動産ばかりで、すぐに現金化できず、納税資金が用意できないというケースは少なくありません。しかし、相続税は原則として現金一括納付です。どうしても期限内に現金で納めるのが難しい場合には、国が定めた救済措置があります。
延納(分割払い)
「延納」とは、一定の条件を満たす場合に、相続税を年単位で分割払いできる制度です。延納を申請するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 相続税額が10万円を超えていること
- 金銭で一括納付することが困難な理由があること
- 申告期限までに延納申請書と担保提供関係書類を税務署に提出すること
- 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること(※延納税額100万円以下かつ延納期間3年以下の場合は不要)
延納が認められると、担保の種類などに応じて最長20年間での分割払いが可能になります。ただし、延納期間中は利息にあたる「利子税」がかかることを覚えておきましょう。
物納(財産で納付)
「物納」とは、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に、最終手段として、相続した財産そのもので税金を納める方法です。物納のハードルは非常に高く、以下の条件を満たす必要があります。
- 延納によっても金銭での納付が困難であること
- 物納できる財産が、国が定めた種類・順位のものであること(第1順位:不動産、国債、上場株式など)
- 申請する財産が、管理や処分に適していること(境界争いのある土地などは不可)
- 申告期限までに物納申請書を提出すること
物納が認められるケースはごくわずかで、簡単に利用できる制度ではありません。まずは延納が可能かどうかを検討し、それでも難しい場合に選択肢として考えましょう。
まとめ
今回は、相続税の納付方法について詳しく解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 相続税の納付期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
- 納付方法は「金融機関」「税務署」「クレジットカード」「コンビニ」の4つが主流です。ご自身の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。
- 納付書は自動では送られてきません。自分で準備して、相続人ごとに納付する必要があります。
- 期限内に納付できないと「延滞税」というペナルティがかかります。
- 現金での一括納付が難しい場合は「延納」や「物納」という制度がありますが、要件が厳しいです。
相続税の手続きは複雑で、不安に感じることも多いと思います。もし少しでも手続きに不安があったり、納税資金のことで悩んだりした場合は、一人で抱え込まず、早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、安心して手続きを進めることができますよ。
【参考文献】
国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
国税庁 No.4211 相続税の延納
国税庁 No.4214 相続税の物納