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【医療法人向け】小規模宅地の特例活用術!持分あり・なし貸付地の相続税対策

2025-04-26
目次

クリニックを経営されている院長先生の中には、「自分が亡くなった後、クリニックの土地を相続する家族の相続税が心配…」という方も多いのではないでしょうか。特に、ご自身の土地を医療法人に貸している場合、その土地の評価額は高額になりがちです。そんなときに心強い味方となるのが「小規模宅地の特例」です。この特例をうまく活用することで、土地の相続税評価額を最大で80%も減額できる可能性があります。しかし、医療法人が関わるケースでは、その法人が「持分あり」なのか「持分なし」なのかによって、特例の適用要件が大きく変わるため注意が必要です。この記事では、医療法人の相続対策における小規模宅地の特例について、①持分あり医療法人への貸付地、②持分なし医療法人への貸付地、③自宅敷地等と併用する場合の調整計算、という3つのポイントに絞って、わかりやすく解説していきます。

小規模宅地の特例の基本をおさらい

まずは、小規模宅地の特例がどのような制度なのか、基本から確認しておきましょう。この特例は、亡くなった方(被相続人)やその方と生計を一つにしていたご家族が、生活や事業の基盤として使っていた土地を相続した場合に、相続税の負担を軽減することを目的としています。もし、この特例がなければ、相続税を支払うために自宅や事業用の土地を手放さなければならない…といった事態になりかねません。そうした状況を防ぎ、ご家族の生活や事業の継続を守るための大切な制度なのです。

小規模宅地の特例とは?

小規模宅地の特例とは、一定の要件を満たす宅地等を相続した場合に、その宅地の評価額を大幅に減額できる制度です。減額割合は土地の利用状況によって異なりますが、最大で80%もの評価額を減らすことができます。例えば、評価額が1億円の土地にこの特例が適用されると、評価額は2,000万円となり、相続税の計算の基となる金額を大きく圧縮できるのです。

特例の対象となる宅地の種類

小規模宅地の特例の対象となる宅地は、その利用状況によって主に以下の4つに分類されます。医療法人に土地を貸している場合は、主に「特定同族会社事業用宅地等」か「貸付事業用宅地等」のどちらかに該当するかを検討することになります。

宅地の種類 主な内容
特定居住用宅地等 被相続人が住んでいた自宅の敷地
特定事業用宅地等 被相続人が個人事業を営んでいた土地
特定同族会社事業用宅地等 被相続人が同族会社に貸していた事業用の土地
貸付事業用宅地等 被相続人がアパート経営などで貸していた土地

特例を受けるための共通の条件

どの種類の宅地で特例の適用を受ける場合でも、共通する大切な要件があります。それは、原則として「相続税の申告期限まで」に遺産分割協議がまとまっており、誰がどの土地を相続するかが決まっていることです。また、この特例を適用して相続税が0円になったとしても、必ず相続税の申告書を税務署に提出しなければなりません。申告を忘れると特例は受けられませんので、十分にご注意ください。

持分あり医療法人への貸付地と小規模宅地の特例

さて、ここからが本題です。まずは、持分の定めのある医療法人(持分あり医療法人)に土地を貸しているケースを見ていきましょう。平成19年3月31日以前に設立された医療法人は、こちらのタイプに該当する可能性があります。

この場合、クリニックの敷地は「特定同族会社事業用宅地等」として、最大400㎡まで評価額を80%減額できる可能性があります。

「特定同族会社事業用宅地等」の適用要件

持分あり医療法人への貸付地が「特定同族会社事業用宅地等」として認められるためには、いくつかの要件をクリアする必要があります。特に重要なポイントをまとめました。

要件の種類 主な内容
法人要件 相続開始の直前で、被相続人やその親族などが医療法人の出資持分の50%超を保有していること。
土地の要件 土地が医療法人の事業(医療事業)のために使われており、被相続人が法人から相当の対価(地代)を受け取っていること。(無償での貸付は対象外です)
取得者要件 その土地を相続した親族が、相続税の申告期限までその医療法人の役員であり、かつ、その土地を保有し続けていること。

なぜ持分あり医療法人だと適用できるのか?

「なぜ医療法人なのに同族”会社”なの?」と疑問に思うかもしれませんね。税法上、持分あり医療法人の「出資持分」は、株式会社の「株式」と似たような性質を持つと考えられています。出資持分には財産的な価値があり、それを持つ人が実質的にその法人を支配していると見なされるため、「特定同族会社」の要件に当てはまると判断されるのです。これにより、80%という高い減額率の特例を受けられる道が開かれています。

持分なし医療法人への貸付地と小規模宅地の特例

次に、持分の定めのない医療法人(持分なし医療法人)に土地を貸しているケースです。平成19年4月1日以降に設立された医療法人は、すべてこのタイプです。こちらのケースでは、残念ながら「特定同族会社事業用宅地等」の適用はできません。

持分なし医療法人は「特定同族会社」に該当しない

持分なし医療法人は、特定の誰かに出資持分が帰属しない、非営利性の高い法人です。そのため、被相続人や親族が法人の持分を50%超保有するという「特定同族会社」の要件を満たすことができません。したがって、80%減額の特例を適用することはできないのです。

「貸付事業用宅地等」としての適用の可能性

「では、何も特例は使えないの?」とがっかりする必要はありません。別の特例である「貸付事業用宅地等」として認められる可能性があります。この特例が適用できれば、最大200㎡まで評価額を50%減額することができます。

要件の種類 主な内容
土地の要件 被相続人が法人から相当の対価(地代)を受け取り、事業として土地を貸していたこと。
取得者要件 その土地を相続した親族が、貸付事業を引き継ぎ、相続税の申告期限までその土地を保有し続けていること。

80%減額と比べると効果は小さくなりますが、それでも50%の減額は非常に大きな節税につながります。重要なのは、こちらも「相当の対価」を得て、事業として貸し付けている実態があることです。もし無償で貸している(使用貸借)場合は、この特例も適用できませんのでご注意ください。

特例適用のカギを握る「相当の対価」

ここまで見てきたように、どちらの特例を適用するにしても「相当の対価」で土地を貸していることが絶対条件となります。この「相当の対価」とは、具体的にどのくらいの金額を指すのでしょうか。

使用貸借(無償での貸付)はなぜNGなのか

そもそも、なぜ無償だと特例が使えないのでしょうか。それは、小規模宅地の特例が、その土地から得られる収入を元に生活や事業を営んでいる相続人を保護するための制度だからです。無償で貸しているということは、その土地から収入を得ているわけではないため、「保護する必要性が低い」と判断されてしまうのです。税務署に「その地代収入がなくても困らないですよね?」と見なされないよう、適正な地代の授受が不可欠です。

相当の対価の目安

「相当の対価」について法律で明確な金額が定められているわけではありませんが、一般的には以下の計算式が目安とされています。

相当の地代(年額) = その土地の自用地としての評価額 × 6%

また、少なくとも、その土地にかかる固定資産税・都市計画税の2~3倍程度の地代は受け取っておきたいところです。生前のうちからきちんと賃貸借契約書を作成し、実際に銀行振込などで地代をやり取りした記録を残しておくことが、相続発生時に特例をスムーズに適用するための重要な対策となります。

自宅敷地など複数の土地を相続した場合の調整計算

最後に、院長先生のご自宅の敷地と、医療法人に貸しているクリニックの敷地の両方を相続するようなケースを考えてみましょう。複数の土地で小規模宅地の特例を適用したい場合、それぞれの限度面積をフルに使えるわけではなく、一定の調整計算が必要になります。

併用パターンの基本ルール

まず、各宅地の限度面積と減額割合を再確認しましょう。

宅地の種類 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等(自宅) 330㎡ 80%
特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等 200㎡ 50%

自宅敷地と特定同族会社事業用宅地等(持分あり)の併用

ご自宅の敷地(特定居住用宅地等)と、持分あり医療法人への貸付地(特定同族会社事業用宅地等)を併用する場合は、非常に有利な組み合わせです。この2つについては、それぞれの限度面積まで併用が可能です。つまり、最大で「自宅330㎡」+「クリニック敷地400㎡」=合計730㎡まで、それぞれ80%の減額を適用できます。

貸付事業用宅地等(持分なし)を含む場合の調整計算

ご自宅の敷地と、持分なし医療法人への貸付地(貸付事業用宅地等)を併用する場合は、複雑な調整計算が必要になります。計算式は以下の通りです。

(特定居住用宅地等の適用面積 × 200 ÷ 330) + (貸付事業用宅地等の適用面積) ≦ 200㎡

この式を満たす範囲内でしか、特例を適用できません。

【具体例】
自宅の敷地が200㎡、持分なし医療法人へ貸している土地が150㎡あるとします。

もし自宅敷地200㎡で特例を優先的に使うと、
200㎡ × (200 ÷ 330) = 約121㎡
となり、200㎡の枠のうち121㎡を消費します。

残りの枠は、
200㎡ – 121㎡ = 79㎡
となるため、クリニックの敷地150㎡のうち、79㎡分しか貸付事業用宅地等の特例(50%減額)を適用できなくなります。

このように、どちらの土地をどれだけ優先して特例を適用するかによって納税額が大きく変わってくるため、シミュレーションが欠かせません。この判断は非常に専門的ですので、専門家への相談をおすすめします。

まとめ

医療法人が関わる小規模宅地の特例の適用は、非常に複雑です。今回のポイントをまとめます。

  • 持分あり医療法人への貸付地は、要件を満たせば「特定同族会社事業用宅地等」として80%減額の可能性があります。
  • 持分なし医療法人への貸付地は、「貸付事業用宅地等」として50%減額の可能性があります。
  • どちらの特例も、法人から「相当の対価」を得て土地を貸していることが大前提です。
  • 自宅の敷地などと併用する場合、貸付事業用宅地等が含まれると有利な面積が制限されるため、慎重な計算が必要です。

医療法人の相続対策は、法人の形態や土地の貸し方など、個別の事情によって最適な方法が異なります。ご家族の大切な資産を守り、円満な事業承継を実現するためにも、ぜひお早めに相続に詳しい税理士などの専門家にご相談ください。

参考文献

国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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