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【完全ガイド】相続人がアメリカ在住でも大丈夫!相続手続きと必要書類

2025-02-12
目次

ご家族が亡くなられ、相続手続きを進めなければならない中で、相続人の一人がアメリカに住んでいると、「手続きはどうなるの?」「日本に帰ってきてもらわないとダメ?」「必要な書類は?」など、たくさんの疑問や不安が湧いてきますよね。国際的な相続手続きは、確かに日本の国内だけで完結する手続きよりも少し複雑になります。でも、安心してください。一つひとつのポイントをしっかり押さえて準備すれば、スムーズに進めることができます。この記事では、相続人がアメリカに居住している場合の相続手続きについて、必要な書類から税金の申告まで、わかりやすく解説していきます。

日本とアメリカの相続手続き、ここが違う!

まず、なぜ手続きが複雑に感じるのか、その理由である日本とアメリカの相続に関する基本的な違いから見ていきましょう。これを理解するだけで、全体像がぐっと掴みやすくなりますよ。

どの国の法律が適用されるの?(準拠法)

国際相続で最初に確認するのが、「どの国の法律に基づいて手続きを進めるか」という準拠法の問題です。日本の法律では、「相続は、亡くなられた方(被相続人)の本国法による」と定められています。つまり、亡くなられた方が日本国籍であれば、相続人がどの国に住んでいても、日本の民法に沿って相続手続きが進められます。ですから、アメリカにお住まいの相続人の方も、日本の法律で定められた相続権を持つことになります。

日本の「遺産分割協議」とアメリカの「プロベート」

相続の進め方にも大きな違いがあります。日本では、相続人全員が集まって遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」が基本です。一方、アメリカでは「プロベート(Probate)」という、裁判所の監督下で遺産を管理・清算し、相続人に分配する手続きが原則となります。プロベートは手続きが完了するまでに1年半~2年かかることも珍しくなく、時間と費用がかかるのが特徴です。今回は被相続人が日本国籍のケースを前提としているため、主に日本の「遺産分割協議」で進めることになりますが、もし亡くなった方がアメリカにも財産を持っていた場合は、その財産についてプロベートが必要になる可能性があるので注意が必要です。

相続税の考え方も違う!日米の比較

相続に関する税金の考え方も異なります。日本では「相続人」が、アメリカでは「亡くなった方の遺産(Estate)」が納税義務者となります。この違いも頭の片隅に置いておくと、後の税金の話が理解しやすくなります。

項目 日本
納税義務者 財産を取得した各相続人
課税方式 遺産を取得した各相続人の取得分に対して課税
項目 アメリカ
納税義務者 亡くなった方の遺産(Estate)そのもの
課税方式 遺産総額から各種経費を差し引いた額に課税し、残りを相続人に分配

アメリカ在住の相続人が用意する必要書類

日本の相続手続きでは「戸籍謄本」「住民票」「印鑑証明書」の3点セットが基本ですが、アメリカにはこれらの制度がありません。そのため、代わりとなる書類を準備する必要があります。ここが国際相続の最初のハードルですが、しっかり確認していきましょう。

戸籍謄本がない!代わりに何を準備する?

相続人であることを証明するために戸籍謄本は必須ですが、アメリカ国籍の方や、日本の戸籍から抜けている方には発行されません。その場合は、「宣誓供述書(Affidavit)」という書類が役立ちます。これは、本人が「私が相続人であることに間違いありません」と宣言した内容を、現地の公証人(Notary Public)に認証してもらうものです。多くの場合、出生証明書や婚姻証明書などを添付して、相続関係を証明します。

住民票の代わりになるものは?

住所を証明する住民票の代わりとしては、アメリカの日本領事館で発行してもらえる「在留証明書」が一般的です。ただし、在留証明書を取得するには、現地に3ヶ月以上滞在していることや、日本の戸籍謄本などが必要になる場合があります。もし取得が難しい場合は、これも宣誓供述書に住所を記載し、公証人の認証を受けることで代替できる場合があります。

印鑑証明書がない場合はどうする?

遺産分割協議書など、重要な書類には実印の押印と印鑑証明書の添付が求められます。印鑑文化のないアメリカでは、サイン(署名)がその代わりとなります。そして、そのサインが本人のものであることを証明するのが「署名証明書(サイン証明)」です。これは、現地の公証人やアメリカの日本領事館で、担当官の目の前で書類に署名し、認証を受けることで発行されます。

日本の必要書類 アメリカ在住の場合の代替書類
戸籍謄本 宣誓供述書(Affidavit)、出生証明書、婚姻証明書など
住民票 在留証明書、または住所を記載した宣誓供述書
印鑑証明書 署名証明書(サイン証明)

遺産分割協議はどう進める?

必要書類の目処が立ったら、いよいよ相続のメインイベントである遺産分割協議です。アメリカに住んでいるからといって、諦める必要はありません。

アメリカからでも参加できる?

もちろんです。相続人全員が一堂に会することが理想ですが、物理的に難しい場合も多いでしょう。現在では、電話やメール、ZoomなどのWeb会議システムを利用して協議に参加するのが一般的です。大切なのは、相続人全員が内容に合意することです。やり取りの記録を残しておくためにも、メールなどを活用すると良いでしょう。

遺産分割協議書の作成と署名

全員の合意が形成されたら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。この書類への署名・押印は、郵送で行うのが一般的です。日本の相続人は実印を押して印鑑証明書を準備し、アメリカ在住の相続人は書類にサインをして、前述の「署名証明書」を取得して添付します。全員の署名と必要書類が揃ったら、不動産の名義変更や預貯金の解約手続きに進むことができます。

日本の相続税申告の注意点

相続手続きと並行して進めなければならないのが、相続税の申告です。アメリカに住んでいても、日本の相続税が課税されるケースがあります。

アメリカ在住でも相続税はかかる?

はい、かかる可能性があります。相続税の納税義務は、亡くなった方と相続人の住所や国籍によって決まります。アメリカ在住の相続人の場合、原則として日本国内にある財産のみが課税対象となります。しかし、以下の条件に当てはまる場合は、海外の財産も含めた全ての財産が課税対象になるので注意が必要です。

  • 相続人が日本国籍で、かつ相続開始前10年以内に日本に住所があった場合
  • 亡くなった方(被相続人)が、亡くなる前10年以内に日本に住所があった場合

自分がどのケースに当てはまるか、国税庁のウェブサイトなどでしっかり確認することが大切です。

納税管理人の選任が必要

日本に住所がない相続人が相続税の申告や納税を行う場合、「納税管理人」を選任し、税務署に届け出る必要があります。納税管理人とは、本人に代わって申告書の提出や税金の納付、税務署からの書類の受け取りなどを行う人のことです。一般的には、日本の親族や、税理士などの専門家に依頼します。

申告期限はいつまで?

相続税の申告・納税期限は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。この期限は、相続人が海外に住んでいても延長されることはありません。書類の取り寄せなどに時間がかかることを考慮し、できるだけ早く手続きに着手することが重要です。

亡くなった方がアメリカに財産を持っていた場合

少し複雑なケースですが、亡くなった方がアメリカ国内に不動産や預金などを持っていた場合についても触れておきましょう。この場合、日本の相続税だけでなく、アメリカの遺産税も考慮する必要があります。

アメリカの遺産税(連邦遺産税)とは

アメリカには連邦遺産税(Estate Tax)という、日本の相続税にあたる税金があります。これは、亡くなった方の遺産全体に対して課税されるものです。アメリカの居住者であれば、2024年時点で$13,610,000(約20億円)という非常に大きな基礎控除額が認められています。

日本人でも使える!日米租税条約による控除

「じゃあ、日本人は控除が少ないの?」と心配になるかもしれませんが、ご安心ください。アメリカ非居住者の基礎控除は通常$60,000と低いのですが、日米租税条約の適用により、控除額を増やすことができます。具体的には、以下の計算式で算出された金額が控除されます。

アメリカ居住者の基礎控除額($13,610,000) × (アメリカ国内の遺産額 ÷ 全世界の遺産総額)

例えば、遺産総額が2億円(うちアメリカ国内の財産が1億円)の場合、約10億円もの控除が受けられる計算になり、多くの場合、アメリカでの遺産税は発生しません。

アメリカでの申告手続きと期限

たとえ計算上、遺産税がゼロになったとしても、アメリカ国内の遺産額が$60,000を超える場合は、原則としてアメリカの税務当局(IRS)への申告(Form 706-NA)が必要です。申告期限は、亡くなられてから9ヶ月以内と、日本の相続税申告(10ヶ月)より短いため、特に注意が必要です。

まとめ

相続人がアメリカに居住している場合の相続手続きは、一見すると複雑で大変そうに思えるかもしれません。しかし、ポイントを整理すると、やるべきことは明確になります。

  • 準拠法の確認:まずは日本の法律で進めることを確認しましょう。
  • 必要書類の準備:「宣誓供述書」や「署名証明書」など、代替書類を早めに手配しましょう。
  • 税務手続き:日本の相続税申告のために「納税管理人」を選任し、期限内に申告しましょう。
  • アメリカの財産:もしアメリカに財産がある場合は、日米租税条約とアメリカでの申告も忘れずに。

これらの手続きは、ご自身たちだけで進めるには時間も手間もかかります。特に、海外とのやり取りには不慣れな点も多いかと思います。国際相続に詳しい司法書士や税理士などの専門家に早めに相談することで、安心して、そしてスムーズに手続きを進めることができます。大切なご家族を亡くされた悲しみの中で大変かと思いますが、一つひとつ着実に進めていきましょう。

参考文献

国税庁 No.4138 相続人が外国に居住しているとき

相続人がアメリカ在住の場合の相続手続き よくある質問まとめ

Q.相続人がアメリカに住んでいます。日本の相続手続きはどうすればいいですか?

A.日本の法律に基づいて手続きを進めます。遺産分割協議など、日本国内の相続人と同様の手続きが必要ですが、海外在住者特有の書類準備が必要になります。

Q.アメリカ在住の相続人は、印鑑証明書の代わりに何を用意すればいいですか?

A.日本の印鑑証明書の代わりに、現地の日本領事館で取得する「サイン証明書(署名証明書)」を使用します。遺産分割協議書などの重要書類に添付します。

Q.住民票の代わりになる書類は何ですか?

A.住民票の代わりとして、同じく日本領事館で「在留証明書」を取得します。不動産の相続登記手続きなどで必要になります。

Q.遺産分割協議はどのように進めればいいですか?

A.相続人全員で合意した内容で遺産分割協議書を作成し、署名します。アメリカ在住の方とは、郵送で書類をやり取りし、サイン証明書を付けて返送してもらうのが一般的です。

Q.日本の相続税の申告は必要ですか?

A.被相続人(亡くなった方)が日本に居住していた場合、財産総額が基礎控除額を超えれば、アメリカ在住の相続人も日本で相続税の申告・納税義務があります。

Q.アメリカでも相続税がかかりますか?二重課税が心配です。

A.日米間には租税条約があり、二重課税を避けるための仕組みがあります。日本で支払った相続税額をアメリカの税金から控除できる「外国税額控除」が適用される場合があります。

事務所概要
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対応責任者
税理士 島本 雅史

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