家族が亡くなったとき、残された遺産をどう分けるか、相続人同士で話し合う必要があります。「遺産分割協議」って言葉は聞いたことあるけど、具体的に何をすればいいの?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、遺産分割協議で決まった内容をまとめる「遺産分割協議書」について、その役割や作成方法、注意点などを、初めての方にも分かりやすく解説していきます。
遺産分割協議書って何?絶対に必要なもの?
遺産分割協議書は、亡くなった方(被相続人)の遺産を、誰が、何を、どれだけ相続するかを、相続人全員で話し合って決めた内容を記録する、とても大切な書類です。
口約束ではなく、きちんと書面に残すことで、後々のトラブルを防ぐ役割があります。
遺産分割協議書はどんな時に必要?
遺産分割協議書が必要になるのは、主に次のようなケースです。
- 遺言書がない場合: 遺言書がない場合、法定相続分(民法で定められた相続割合)とは異なる分け方をしたい時に必要です。
- 遺言書と違う分け方をする場合: 遺言書があっても、相続人全員の合意があれば、遺言書とは違う分け方をすることができます。
- 遺言書に記載されていない財産がある場合: 遺言書に書かれていない財産が見つかった場合、その財産について誰が相続するかを決め、記載します。
例えば、
「長男は家を継ぐから、実家(評価額3,000万円)と土地(評価額2,000万円)を相続する。次男は、現金2,000万円と有価証券(評価額1,000万円)を相続する」
というように、具体的な財産と相続人を明確に記載します。
遺産分割協議書がないとどうなる?
遺産分割協議書がないと、以下のような手続きができない、または非常に困難になる可能性があります。
- 不動産の名義変更(相続登記): 法務局で不動産の名義変更をする際に、原則、遺産分割協議書が必要です。
- 預貯金の払い戻し・名義変更: 銀行で故人の預金口座を解約したり、名義変更したりする際に、遺産分割協議書の提出を求められることがあります。
- 例:三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行など、多くの金融機関で必要となります。
- 株式の名義変更: 証券会社で株式の名義変更をする際に必要です。
- 自動車の名義変更: 運輸支局で自動車の名義変更をする際に必要です。
遺産分割協議書は自分で作れる?
遺産分割協議書は、決まった形式はありません。
ご自身で作成することも可能ですし、インターネット上にあるテンプレートを利用することもできます。
ただし、書き方に不備があると、法務局や金融機関で手続きができない場合があります。
心配な方は、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に依頼すると安心です。
専門家への依頼費用の目安は、数万円~数十万円程度です。(遺産の額や内容によって異なります)
遺産分割協議、いつまでに何をすればいい?
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。
スムーズに進めるためのステップを説明します。
相続人の確定
まずは、「誰が相続人なのか」を確定させる必要があります。
亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍などを、本籍地の市区町村役場で取得し、確認します。
- 戸籍謄本: 1通450円程度
- 除籍謄本・改製原戸籍: 1通750円程度
相続人が配偶者と子供2人の場合、必要な戸籍謄本は、被相続人の出生から死亡までのもの、配偶者の現在の戸籍謄本、子供2人の現在の戸籍謄本となります。
遺産の調査と財産目録の作成
次に、亡くなった方の財産をすべて洗い出します。
預貯金、不動産、株式、自動車などのプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も全て調査します。
- 預貯金: 通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物などを確認します。残高証明書を金融機関に請求することもできます。(1通数百円~数千円程度)
- 不動産: 権利証(登記識別情報通知書)や固定資産税の納税通知書を確認します。法務局で登記事項証明書を取得することもできます。(1通600円程度)
- 株式: 証券会社からの報告書や、株主名簿管理人からの通知などを確認します。
- 借金: 金融機関からの請求書や契約書などを確認します。
調査した財産を一覧にした「財産目録」を作成しておくと、遺産分割協議がスムーズに進みます。
遺産分割の話し合い
相続人と相続財産が確定したら、誰がどの財産をどれだけ相続するかを、相続人全員で話し合います。
遠方に住んでいる相続人がいる場合は、電話やオンライン会議などを利用することもできます。
話し合いで大切なのは、全員が納得できるまで、じっくりと話し合うことです。
感情的にならず、お互いの立場や希望を尊重しながら、冷静に話し合いを進めましょう。
相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
遺産分割協議が長引くと、申告期限に間に合わなくなる可能性があるので、注意が必要です。
遺産分割協議書の書き方と注意点
遺産分割協議書に決まった書式はありませんが、必ず記載しなければならない事項があります。
また、後々のトラブルを防ぐための注意点もあります。
必ず記載すべきこと
- 被相続人(亡くなった方)の情報: 氏名、生年月日、死亡年月日、最後の住所、本籍
- 相続人全員の情報: 氏名、生年月日、住所、被相続人との続柄
- 遺産分割の内容: 誰が、どの財産を、どれだけ相続するかを具体的に記載します。
- 不動産: 所在、地番、家屋番号、種類、構造、床面積などを、登記事項証明書のとおりに記載します。
- 預貯金: 金融機関名、支店名、口座番号、口座名義人を記載します。
- 株式: 銘柄、株式数、証券会社名、口座番号などを記載します。
- 相続人全員の署名と実印の押印: 必ず自筆で署名し、実印を押印します。
- 印鑑証明書の添付: 相続人全員の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)を添付します。
- 日付: 遺産分割協議が成立した日を記載します。
遺産分割協議書作成の注意点
- 正確な情報を記載する: 誤字脱字、数字の誤りなどがないか、何度も確認しましょう。
- 具体的に記載する: 「〇〇銀行の預金」だけでなく、「〇〇銀行〇〇支店の普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇」のように、具体的に特定できるように記載しましょう。
- 全員が同じ内容のものを保管する: 相続人の人数分作成し、それぞれが1通ずつ保管します。
- 後から財産が見つかった場合の取り決め: 遺産分割協議後に新たな財産が見つかった場合に、誰がどのように相続するかを記載しておくと、後のトラブルを防ぐことができます。
- 例:「本協議書に記載のない遺産が発見された場合は、相続人〇〇が全て相続する。」
遺産分割協議書はどこに提出する?
作成した遺産分割協議書は、以下のような手続きで提出します。
- 不動産の名義変更: 法務局
- 預貯金の払い戻し・名義変更: 各金融機関
- 株式の名義変更: 証券会社
- 自動車の名義変更: 運輸支局
- 相続税の申告: 税務署
遺産分割協議がまとまらないときは?
相続人同士で話し合っても遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることができます。
遺産分割調停
遺産分割調停は、家庭裁判所で調停委員を交えて話し合い、合意を目指す手続きです。
調停委員が間に入ってくれるので、当事者同士だけで話し合うよりも、冷静に話し合いを進めることができます。
- 申立費用: 収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手代(数百円~数千円程度)
遺産分割審判
遺産分割調停でも合意に至らなかった場合は、遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判では、裁判官が遺産分割の方法を決定します。
遺産分割協議書に関するよくある質問
Q: 遺産分割協議書は手書きでも大丈夫ですか?
A: はい、手書きでもパソコンで作成しても、どちらでも有効です。ただし、相続人全員が自筆で署名し、実印を押印する必要があります。
Q: 遺産分割協議書に押す印鑑は、実印でなければいけませんか?
A: はい、必ず実印で押印し、印鑑証明書を添付してください。
Q: 遺産分割協議書は何通作ればいいですか?
A: 相続人の人数分作成し、それぞれが1通ずつ保管するのが一般的です。また、金融機関や法務局など、提出先ごとに原本が必要になる場合があるので、複数通作成しておくと安心です。
Q: 遺産分割協議書を作成した後で、内容を変更できますか?
A: 相続人全員の合意があれば、変更できます。ただし、再度、遺産分割協議書を作成し、全員の署名・実印の押印、印鑑証明書の添付が必要です。
まとめ
遺産分割協議書は、相続手続きをスムーズに進め、相続人同士のトラブルを防ぐために、とても重要な書類です。
この記事で解説した内容を参考に、ぜひ、適切な遺産分割協議書を作成してください。
もし、ご自身での作成に不安がある場合や、遺産分割協議がまとまらない場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することを強くおすすめします。専門家は、法的な知識や経験に基づいて、適切なアドバイスをしてくれます。
遺産分割協議書のよくある質問まとめ
Q. 遺産分割協議書とは何ですか?
A. 遺産分割協議書とは、相続人全員で遺産の分け方について話し合い、合意した内容をまとめた書類です。誰がどの遺産をどれだけ相続するかを明確にし、後のトラブルを防ぐ役割があります。
Q. 遺産分割協議書は必ず作成しなければいけませんか?
A. 法律上、必ず作成しなければならないわけではありません。しかし、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなど、相続手続きの多くで提出を求められます。また、相続人同士のトラブルを避けるためにも、作成することを強くおすすめします。
Q. 遺産分割協議書は誰が作成するのですか?
A. 相続人全員で協力して作成するのが基本です。しかし、法律の知識が必要な場合もあるため、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に依頼することもできます。
Q. 遺産分割協議書には何を記載すればよいですか?
A. 誰が、どの遺産を、どれだけ相続するかを明確に記載します。具体的には、被相続人(亡くなった方)の情報、相続人全員の情報、遺産の内容(不動産、預貯金、株式など)、それぞれの遺産の分割方法などを記載します。
Q. 遺産分割協議書を作成する際の注意点はありますか?
A. 相続人全員が納得し、合意することが最も重要です。また、一度作成した遺産分割協議書は、原則として後から変更することができません。そのため、内容をよく確認し、慎重に作成しましょう。
Q. 遺産分割協議書でトラブルになった場合はどうすればよいですか?
A. まずは相続人同士で話し合い、解決を目指しましょう。それでも解決しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることができます。弁護士に相談するのも有効な手段です。