「父が亡くなって遺産分割協議が終わらないうちに、母も亡くなってしまった…」
「相続手続きが複雑そうで、何から手をつければいいのかわからない…」
このような状況でお困りではありませんか?
ご家族が相次いで亡くなられると、悲しみに暮れる間もなく、相続手続きに追われることになります。特に、一次相続(例:父の相続)の遺産分割協議がまとまらないうちに、二次相続(例:母の相続)が発生すると、手続きはさらに複雑になります。
この記事では、一次相続の遺産分割協議が未了のまま二次相続が発生した場合に、
- 相続手続きはどうなるのか?
- 相続税の申告はどうすればいいのか?
- どんな点に注意すべきか?
といった疑問について、相続に詳しい専門家が、わかりやすく解説していきます。
【数次相続とは?】一次相続と二次相続、そして数次相続
まず、言葉の定義から確認していきましょう。
- 一次相続: 最初に発生した相続(例:父の死亡による相続)
- 二次相続:一次相続の後に発生した相続(例:母の死亡による相続)
そして、今回のテーマである「数次相続(すうじそうぞく)」とは、一次相続の遺産分割協議が完了しないうちに、相続人の誰かが亡くなり、新たな相続(二次相続)が発生した状態を指します。
【具体例で解説】数次相続ってどんな状況?
例えば、以下のようなケースが数次相続に該当します。
- 父が亡くなり(一次相続)、相続人は母と長男、長女の3人。
- 遺産分割協議がまとまらないうちに、長男が亡くなる(二次相続)。
- 長男の相続人は、長男の妻と子ども2人。
この場合、父の遺産分割協議には、母と長女に加え、長男の妻と子ども2人も参加することになります。
【代襲相続との違い】数次相続と混同しやすいポイント
ここで、「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」との違いも確認しておきましょう。
代襲相続とは、本来相続人になるはずだった人(例:長男)が、被相続人(例:父)よりも先に亡くなっていた場合に、その人の子ども(例:長男の子)が代わりに相続人となる制度です。
数次相続と代襲相続の違いは、相続人(例:長男)が亡くなったタイミングです。
- 数次相続: 被相続人(例:父)が亡くなった後に、相続人(例:長男)が亡くなる
- 代襲相続: 被相続人(例:父)が亡くなる前に、相続人となるはずだった人(例:長男)が亡くなっている
【相続関係が複雑化】数次相続で起こりやすい問題
数次相続が発生すると、相続関係が複雑になり、以下のような問題が起こりやすくなります。
- 相続人の数が増え、遺産分割協議がまとまりにくくなる
- 相続税の計算や申告が複雑になる
- 不動産の相続登記手続きが煩雑になる
【遺産分割協議】数次相続の場合、どう進める?
数次相続が発生した場合、遺産分割協議はどのように進めればよいのでしょうか?
【相続人の確定】戸籍謄本で徹底的に調査!
まずは、相続人を確定させる必要があります。一次相続と二次相続、それぞれの相続人を全て洗い出すために、亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)を収集しましょう。
戸籍謄本を読み解くことで、
- 一次相続の相続人は誰か?
- 二次相続の相続人は誰か?
を正確に把握できます。
【遺産分割協議書の作成】一次相続と二次相続、別々に作成が基本!
遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。
数次相続の場合、遺産分割協議書は、一次相続と二次相続で**別々に作成するのが基本**です。
なぜなら、それぞれの相続で、相続人と被相続人が異なるためです。
ただし、相続人が同じ場合など、例外的に1つの遺産分割協議書にまとめられるケースもあります。しかし、混乱を避けるためにも、別々に作成することをおすすめします。
【遺産分割協議書の書き方】肩書きの記載に注意!
遺産分割協議書を作成する際、特に注意すべき点は、各相続人の肩書きの記載です。
例えば、上記の【具体例で解説】のケースでは、
- 母: 「相続人」
- 長女: 「相続人」
- 長男: 「相続人兼被相続人」
- 長男の妻:「〇〇(長男の名前)の相続人」
- 長男の子ども: 「〇〇(長男の名前)の相続人」
と記載します。
【相続税申告】数次相続の場合、申告期限や控除はどうなる?
数次相続が発生した場合、相続税の申告はどのように行えばよいのでしょうか?
【申告期限】原則は10ヶ月以内、ただし延長されるケースも
相続税の申告期限は、原則として「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。
数次相続の場合、一次相続と二次相続、それぞれの相続について申告期限が設けられます。
ただし、二次相続の相続人は、一次相続の申告期限前に二次相続が発生した場合、申告期限が延長されることがあります。
【基礎控除】数次相続でも減らない!
相続税には、「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という基礎控除があります。
数次相続の場合でも、この基礎控除額が減ることはありません。
ただし、法定相続人の数は、それぞれの相続が発生した時点での人数で計算します。
【配偶者控除・小規模宅地等の特例】適用には遺産分割が完了していることが条件
相続税には、
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除): 配偶者が取得した遺産額が1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額まで相続税がかからない
- 小規模宅地等の特例: 一定の要件を満たす土地について、評価額を最大80%減額できる
といった特例があります。
これらの特例の適用を受けるためには、原則として、相続税の申告期限までに遺産分割が完了している必要があります。
もし、申告期限までに遺産分割が間に合わない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、遺産分割が完了した後に「更正の請求」を行うことで、特例の適用を受けることができます。
【相次相続控除】二次相続で使える控除
「相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)」とは、10年以内に相次いで相続が発生した場合に、二次相続の相続税額から一定額を控除できる制度です。
数次相続の場合も、この相次相続控除が適用できる可能性があります。
【不動産の相続登記】数次相続の場合、手続きはどうなる?
遺産に不動産が含まれる場合、相続登記(不動産の名義変更)の手続きが必要です。
【原則】一次相続、二次相続、それぞれ登記が必要
数次相続の場合、原則として、一次相続と二次相続、それぞれについて相続登記を行う必要があります。
例えば、父(一次相続)→長男(二次相続)→長男の妻、という順に相続が発生した場合、
- 父から長男への相続登記
- 長男から長男の妻への相続登記
という2段階の登記手続きが必要です。
【例外】中間省略登記ができるケースも
ただし、一定の要件を満たす場合には、「中間省略登記」といって、中間の相続登記を省略できるケースがあります。
例えば、
- 一次相続の相続人が1人
- 一次相続の遺産分割協議で、特定の相続人が全ての不動産を取得することが決まっている
といった場合です。
【トラブル防止】数次相続で揉めないための対策
数次相続は、相続関係が複雑になるため、相続人間でトラブルが起こりやすい状況です。
【生前対策】遺言書の作成が有効
トラブルを未然に防ぐためには、生前の対策が重要です。
特に有効なのが、「遺言書」の作成です。
遺言書で、誰にどの財産を相続させるかを明確にしておくことで、相続人間の争いを防ぐことができます。
【専門家への相談】弁護士や税理士に早めに相談を
数次相続は、法律や税金に関する専門的な知識が必要となる場面が多くあります。
- 遺産分割協議がまとまらない
- 相続税の申告方法がわからない
- 不動産の相続登記手続きが複雑
といった場合は、早めに弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、「一次相続の遺産分割協議がまとまらないまま二次相続が発生した場合」について解説しました。
数次相続は、相続手続きや相続税の計算が複雑になりがちです。また、相続人間のトラブルも起こりやすいため、注意が必要です。
今回の記事を参考に、
- 早めに相続人を確定させる
- 遺産分割協議書は一次相続と二次相続で別々に作成する
- 相続税の申告期限や控除について確認する
- 必要に応じて専門家に相談する
といった対策を講じ、円満な相続を目指しましょう。
一次相続未了のまま二次相続発生!遺産分割のよくある質問まとめ
Q. 一次相続の遺産分割協議中に二次相続が発生した場合、どうなりますか?
A. 一次相続の相続人全員と、二次相続の相続人全員で、一次・二次両方の遺産分割協議を行う必要があります。
Q. 一次相続と二次相続の遺産分割協議は、どのように進めればよいですか?
A. まずは相続人全員を確定させます。次に、一次相続と二次相続、それぞれの遺産を全て洗い出し、法定相続分や遺言の有無などを確認しながら、全員で話し合い、合意を目指します。
Q. 相続人が増えて複雑になった場合、遺産分割協議で注意すべきことはありますか?
A. 相続人が多くなると意見がまとまりにくいため、弁護士などの専門家に相談し、客観的な立場からアドバイスをもらうことをおすすめします。
Q. 一次相続と二次相続で、遺産分割の割合は変わりますか?
A. 法定相続分は、各相続の開始時点での相続人の構成によって決まります。一次相続と二次相続では、相続人が異なる場合があるため、それぞれの法定相続分を計算し直す必要があります。
Q. 二次相続が発生した場合、相続税の申告はどうなりますか?
A. 一次相続と二次相続、それぞれについて相続税の申告と納税が必要です。申告期限は、各相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
Q. 遺産分割協議がまとまらない場合、どうすればよいですか?
A. 家庭裁判所に遺産分割調停または審判を申し立てることができます。調停では調停委員が間に入って話し合いをサポートし、審判では裁判官が遺産分割の方法を決定します。