毎日の疲れを癒してくれるお風呂の時間。でも、そのリラックスタイムが、実は命に関わる危険な時間になる可能性があることをご存知でしょうか。日本では、お風呂での溺死事故が後を絶たず、その数はなんと交通事故による死亡者数よりも多いのです。この記事では、なぜお風呂で悲しい事故が起きてしまうのか、その原因と誰でも今日から実践できる具体的な予防策を、優しく分かりやすく解説していきます。大切なご自身とご家族の命を守るために、ぜひ最後までお読みくださいね。
お風呂での溺死事故の驚くべき実態
「お風呂で溺れるなんて、子どもや特別な人の話でしょう?」と思われるかもしれません。しかし、データを見ると、それが決して他人事ではないことがわかります。まずは、日本で起きている入浴中事故の現状を知ることから始めましょう。
交通事故死者数を上回る死亡者数
信じられないかもしれませんが、浴槽内での溺死で亡くなる方の数は、交通事故で亡くなる方の数を上回っています。厚生労働省の人口動態統計(令和3年)によると、「浴槽内での溺死及び溺水」による死亡者数は5,157人にのぼります。これは、同年の交通事故による死亡者数(4,090人)よりも約1,000人も多い数字です。このことからも、家庭のお風呂がいかに危険な場所になりうるかがお分かりいただけるかと思います。
犠牲者の9割は高齢者
入浴中の事故で亡くなる方のうち、約9割が65歳以上の高齢者です。年齢を重ねると、体温を調節する機能や血圧を正常に保つ機能が少しずつ低下してきます。そのため、若い頃はなんてことなかった入浴中の体の変化に対応しきれず、事故につながりやすくなってしまうのです。特に75歳以上になるとそのリスクはさらに高まるため、ご高齢のご家族がいらっしゃる方は特に注意が必要です。
冬場(11月~2月)に多発する傾向
入浴中の事故は、気温がぐっと下がる冬の時期に集中して発生します。具体的には11月から2月にかけてが最も多く、ピークは12月と1月です。これは、暖かい居間から寒い脱衣所や浴室へ移動し、そして熱いお湯に浸かるという、急激な温度変化が体に大きな負担をかけるためです。この温度差が、事故を引き起こす最大の原因の一つと言われています。
なぜお風呂で溺れてしまうのか?主な原因
では、具体的にどのようなメカニズムで事故は起きてしまうのでしょうか。主な原因は、私たちの体の中で起こる急激な変化にあります。代表的な3つの原因について見ていきましょう。
急激な血圧変動「ヒートショック」
最も有名な原因が「ヒートショック」です。これは、急激な温度変化によって血圧が大きく上下し、心臓や血管に重大な負担がかかる状態を指します。
寒い脱衣所で服を脱ぐと、体は熱を逃がさないように血管をキュッと縮ませ、血圧が上昇します。その状態で熱いお湯に浸かると、今度は血管が急に広がり、血圧が急降下します。この血圧の乱高下によって、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしたり、意識を失ってしまったりすることがあるのです。意識を失うと、そのまま浴槽で溺れてしまうというわけですね。
体温上昇による「入浴中熱中症」
「冬に熱中症?」と驚かれるかもしれませんが、これも溺水の大きな原因です。42℃以上の熱いお湯に長時間浸かっていると、体からの放熱が追いつかなくなり、体温がどんどん上昇してしまいます。体温が上がりすぎると、意識がもうろうとしたり、脱力してしまったりして、浴槽から出られなくなります。これが「入浴中熱中症」です。その結果、眠るように意識を失い、溺水に至るケースが少なくありません。
飲酒後や睡眠不足時の危険な入浴
「酔い覚ましにお風呂」は絶対にやめましょう。アルコールには血管を広げて血圧を下げる作用があります。その状態で入浴すると、さらに血圧が低下し、意識障害を起こしやすくなります。また、睡眠不足や疲労がたまっている時も注意が必要です。体がリラックスすることでお湯の中でついウトウトと眠ってしまい、気づかないうちに顔がお湯に浸かって溺れてしまう危険性があります。
お風呂での溺死を防ぐための具体的な予防策
怖いお話が続きましたが、ご安心ください。これからお話しするいくつかのポイントを実践するだけで、入浴中の事故のリスクはぐっと減らすことができます。毎日の生活にぜひ取り入れてみてください。
入浴環境を整える
まずは、ヒートショックの原因となる「温度差」をなくすことが大切です。入浴前に少し準備するだけで、お風呂場は安全な空間に変わります。
| 対策 | 具体的な方法 |
| 脱衣所を暖める | 入浴の15分ほど前から小型の暖房器具で暖めておきましょう。 |
| 浴室を暖める | 浴槽にお湯をためる際に、高い位置からシャワーで給湯すると、その蒸気で浴室全体が暖まります。 |
正しい入浴方法を心がける
お風呂の入り方にも、安全のためのコツがあります。体をいたわるように、ゆっくりとした動作を心がけましょう。
| ポイント | 目 安 |
| お湯の温度 | 41℃以下のぬるめのお湯にしましょう。 |
| 浸かる時間 | 10分以内を目安に、長湯は避けましょう。 |
| かけ湯をする | 浴槽に入る前には、手足など心臓から遠い場所からお湯をかけて、体を慣らしましょう。 |
| 浴槽から出る時 | 急に立ち上がると血圧が下がり危険です。手すりや浴槽のへりにつかまり、ゆっくり立ち上がりましょう。 |
入浴前後の行動に気をつける
入浴前後のちょっとした習慣も、事故予防には欠かせません。入浴中は汗をかいて体内の水分が失われがちです。脱水症状を防ぐため、入浴の前後にはコップ1杯の水分を補給することを習慣にしましょう。そして、すでにお伝えした通り、飲酒後、食後すぐ、睡眠薬などを服用した後の入浴は絶対に避けてくださいね。
家族ができること・もしもの時の対処法
ご家族の見守りも、事故を防ぐための重要な要素です。また、万が一の事態に遭遇した際の対応を知っておくことも、命を救うためには不可欠です。
「声かけ」で見守りを
特に高齢のご家族が入浴する際は、完全に一人にしないことが大切です。「お風呂入るね」「はーい」といった入浴前の一声や、「お湯加減どう?」「そろそろ上がる?」といった定期的な声かけを心がけましょう。これにより、異変に早く気づくことができます。
浴槽でぐったりしている人を見つけたら
万が一、家族が浴槽でぐったりしているのを見つけたら、慌てずに行動してください。
- まずは大声で助けを呼び、可能であれば協力者を集めます。
- すぐに浴槽の栓を抜いてお湯を排水します。お湯がなければ溺れる心配がなくなります。
- すぐに119番通報し、救急車を呼びます。
- 可能であれば、浴槽から引き上げて、体を横向きに寝かせます。
無理に一人で引き上げようとすると危険な場合もあるので、まずはお湯を抜くこと、そして救急車を呼ぶことを最優先してくださいね。
安全な入浴をサポートする設備やグッズ
最近では、技術の進歩によって入浴の安全性を高める様々な設備やグッズが登場しています。リフォームなどを検討する際は、こうした選択肢も考えてみてはいかがでしょうか。
浴室暖房乾燥機
浴室暖房乾燥機を設置すれば、冬場でも入浴前に浴室全体をポカポカに暖めておくことができます。ヒートショック対策としては非常に効果的です。洗濯物の乾燥にも使えるので一石二鳥ですね。
手すりの設置
浴槽の出入りや洗い場での立ち座りを補助する手すりは、転倒防止に役立ちます。特に、浴槽から立ち上がる際のふらつきは事故につながりやすいため、浴槽のそばに設置することをおすすめします。
見守りセンサーや緊急ブザー
浴室内に設置する人感センサーや、何かあった時にボタン一つで家族に知らせることができる緊急ブザーなどもあります。離れて暮らすご家族の見守りなどにも活用でき、安心につながります。
まとめ
今回は、身近な場所に潜む「お風呂での溺死」という危険について、その原因と対策を詳しく見てきました。交通事故よりも多いという事実は衝撃的ですが、ヒートショックや長湯のリスクを正しく理解し、「温度差をなくす」「お湯は41℃以下で10分以内」「入浴前後に水分補給」といった簡単な対策を実践するだけで、悲しい事故は防ぐことができます。今日からさっそく、ご自身と大切なご家族のために、安全で心からリラックスできるお風呂時間を習慣にしていきましょう。
参考文献
厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」
お風呂の事故(溺死)に関するよくある質問
Q.お風呂で溺死する主な原因は何ですか?
A.急な温度変化による「ヒートショック」が最も多い原因です。血圧の急変動で失神し、溺れてしまいます。その他、飲酒後の入浴、持病の発作、乳幼児の事故なども原因となります。
Q.お風呂の溺死事故はどの年代に多いですか?
A.65歳以上の高齢者に最も多く発生しています。特に冬場に多発する傾向があります。また、保護者が少し目を離した隙に起こる乳幼児の事故も後を絶ちません。
Q.ヒートショックを防ぐための対策はありますか?
A.入浴前に脱衣所や浴室を暖める、お湯の温度を41℃以下のぬるめにする、かけ湯をして体を慣らしてから入る、といった対策が有効です。食後すぐや飲酒後の入浴は避けましょう。
Q.飲酒後に入浴すると、なぜ危険なのですか?
A.アルコールは血管を広げ血圧を下げる作用があります。入浴による温熱作用と合わさることで血圧が急激に下がり、意識を失うリスクが非常に高まります。また、眠気でそのまま溺れてしまう危険もあります。
Q.子どものお風呂での事故を防ぐポイントは何ですか?
A.子どもが入浴中は、たとえ短時間でも絶対に目を離さないことです。また、残り湯は必ず抜き、浴室に鍵をかけるなどして子どもが一人で入れないようにすることも重要です。
Q.お風呂でぐったりしている人を見つけたらどうすればいいですか?
A.まず大声で助けを呼び、可能であれば浴槽の栓を抜いてください。すぐに119番通報し、救急隊員の指示を仰ぎましょう。一人で無理に引き上げようとすると、救助者も危険な場合があります。