「うちは財産が多くないから大丈夫」なんて思っていませんか?実は、相続でもめてしまうケースの多くは、遺産額が5,000万円以下のごく普通の家庭なんです。大切な家族が「争族」にならないために、なぜ相続トラブルが起きてしまうのか、その原因と具体的な対策を一緒に見ていきましょう。
相続トラブルは他人事じゃない!もめるのはどんな家庭?
相続と聞くと、テレビドラマのようなお金持ちの家の話だと思いがちですよね。でも、実際のデータを見てみると、驚きの事実がわかります。相続トラブルは、どのご家庭にも起こりうる、とても身近な問題なんですよ。
相続でもめる割合が高いのは「遺産5,000万円以下」の家庭
裁判所が公表している司法統計年報(令和3年度)によると、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割に関するトラブルのうち、遺産の金額が5,000万円以下のケースが全体の約77%を占めているんです。具体的には、1,000万円以下のケースが約33%、1,000万円超5,000万円以下のケースが約44%となっています。このデータからも、相続トラブルは財産の多い少ないにかかわらず、むしろ一般的なご家庭でこそ起こりやすい問題だということがわかりますね。
もめる家族ともめない家族の決定的な違い
では、相続でもめる家族ともめない家族、その違いはどこにあるのでしょうか。一番大きな違いは、「生前の準備」があったかどうかです。財産が多いご家庭では、将来の相続を考えて、早くから税理士などの専門家に相談し、遺言書の作成や生前贈与といった対策をしっかり行っていることが多いです。だからこそ、いざという時にトラブルが少ないんですね。「うちは大丈夫」と思い込まずに、元気なうちから準備を始めることが、家族円満の秘訣なんです。
なぜ?相続がもめる3つの主な原因
相続トラブルが起こってしまうのには、いくつかの典型的な原因があります。遺産の分け方で意見が食い違ったり、相続人同士の感情的なもつれがあったり…。ここでは、相続がもめる主な3つの原因を詳しく解説しますね。
分けにくい財産「不動産」がある
もし遺産がすべて現金や預貯金であれば、1円単位できれいに分けることができます。しかし、相続財産の中で大きな割合を占めるのが、ご実家の土地や家といった不動産です。国税庁の統計(令和3年分)によると、相続財産の構成比は土地が33.2%、家屋が5.1%と、不動産が約4割も占めています。不動産は物理的にスパッと分けるのが難しく、「誰が住むのか」「売却するのか」「売却したお金をどう分けるのか」といった点で意見が対立し、トラブルの原因になりやすいのです。
相続人同士の関係性が複雑
相続をきっかけに、普段あまり付き合いのない親族とも顔を合わせ、お金の話をしなければならないことがあります。例えば、亡くなった方に子どもがいない場合、配偶者は亡くなった方の両親や兄弟姉妹と一緒に遺産の分け方を話し合う必要があります。また、戸籍を調べてみたら、前妻との間に子どもがいたり、知らなかった相続人がいることが判明したりするケースもあります。関係性が薄い、あるいはあまり良くない人同士で、お金というデリケートな問題を話し合うのは、感情的な対立を生みやすく、トラブルにつながりがちです。
相続人それぞれの「不公平感」
法律では、誰がどれくらいの割合で財産を相続するかの目安となる「法定相続分」が定められています。しかし、この通りに分けることが必ずしも公平とは限りませんよね。例えば、「親の介護を自分だけがずっと見てきた」「一人だけ大学の学費や家を買うお金をたくさん援助してもらっていた」といった事情があると、「みんなと同じ割合で分けるのは不公平だ」という気持ちが生まれます。こうした相続人それぞれの立場の違いからくる不公平感が、争いの火種になることがとても多いのです。
要注意!相続トラブルに発展しやすい家族の特徴
相続トラブルには、陥りやすい特定のパターンがあります。ご自身の状況に当てはまるものがないか、一度チェックしてみてください。もし当てはまる項目があれば、早めにどんな対策ができるかを考えるきっかけにしてくださいね。
遺産のほとんどが実家の不動産
遺産が「親が住んでいた実家」だけ、というケースは非常に多いです。この場合、相続人の一人は思い出の家だから住み続けたいと思っていても、他の相続人は「売却してお金で公平に分けたい」と考えるかもしれません。住み続ける人が他の相続人に代償金(自分の取り分に相当する現金)を支払う方法もありますが、すぐにまとまった現金を用意できないことも多く、結局「実家を売るしかない」となって、もめてしまうのです。
特定の相続人が親の財産を管理していた
親御さんと同居していたお子さんなどが、生前から親の預貯金の管理をしているケースはよくあります。この場合、他の相続人から「親のお金を使い込んでいたんじゃないか?」「本当はもっと財産があるのに隠しているんじゃないか?」とあらぬ疑いをかけられ、トラブルになることがあります。財産管理をしていた側は良かれと思ってやっていたとしても、お金の動きが不透明だと不信感につながり、深刻な対立に発展しかねません。
介護の負担に大きな偏りがあった
親御さんの介護を特定の相続人が長年一人で担ってきた場合、その頑張った分を遺産分割で考慮してほしいと考えるのは自然なことです。法律上も、特別な貢献をした相続人は「寄与分」として、他の相続人より多くの財産を受け取ることが認められています。しかし、その貢献度を金額で評価するのは非常に難しく、「親の面倒を見るのは当たり前」「同居していたのだから生活費が浮いていただろう」などと他の相続人が反発し、寄与分をめぐって激しく対立するケースが後を絶ちません。
多額の生前贈与を受けていた相続人がいる
相続人の一人が、生前に親から住宅購入資金や事業の開業資金として多額の援助を受けている場合、それは「特別受益」とみなされ、相続財産にその分を一度足し戻してから、それぞれの取り分を計算するのが原則です。しかし、贈与を受けた本人は「あれはもらったものだから相続とは関係ない」と主張し、他の相続人は「不公平だからその分を差し引いて計算するべきだ」と主張して、意見が真っ向から対立することがよくあります。
遺言書があってももめる?注意すべき2つのケース
「遺言書さえあれば絶対に安心」と思っていませんか?実は、遺言書の内容によっては、かえってトラブルを招いてしまうこともあるんです。せっかく遺した遺言書が争いの種にならないよう、注意すべきポイントを知っておきましょう。
遺留分を侵害している
遺言書では財産の分け方を自由に決められますが、兄弟姉妹以外の法定相続人には、法律で最低限保障された遺産の取り分として「遺留分」という権利があります。「全財産を長男に相続させる」といった内容の遺言書は、他の子どもたちの遺留分を侵害している可能性があります。この場合、遺留分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った人に対して「遺留分侵害額請求」という形でお金の支払いを求めることができ、これが新たなトラブルの原因になってしまいます。
| 相続人の組み合わせ | 全体の遺留分 |
|---|---|
| 配偶者のみ、子のみ、配偶者と子 | 遺産の1/2 |
| 親のみ、配偶者と親 | 遺産の1/3 |
遺言書の有効性が疑われる
遺言書が法律で定められた形式を守っていなかったり、作成した当時に認知症などで本人の判断能力がなかったりしたと疑われる場合、相続人の誰かが「この遺言書は無効だ!」と主張することがあります。特に、すべて自分で手書きする「自筆証書遺言」は、日付の書き忘れなどのちょっとした形式の不備で無効になりやすいため注意が必要です。遺言の有効性をめぐる争いは、裁判にまで発展するケースも少なくありません。
家族がもめないための生前対策
大切な家族が自分の死後、お金のことで争う姿なんて見たくないですよね。そうならないために、元気なうちからできることがあります。円満な相続を実現するための、具体的な生前対策をご紹介します。
法的に有効な遺言書を作成する
相続トラブルを防ぐための最も効果的で基本的な方法は、法的に有効な遺言書を作成しておくことです。誰に、どの財産を、どれくらい相続させるのかを明確に示しておくことで、相続人同士がゼロから話し合う手間を省き、争いを未然に防ぐことができます。その際、なぜそのような分け方にしたのか、ご自身の想いを「付言事項」として書き添えておくと、残されたご家族もその気持ちを汲んで、納得しやすくなりますよ。
おすすめは「公正証書遺言」
遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言は手軽ですが、形式の不備で無効になったり、紛失や誰かに書き換えられたりするリスクがあります。一方、公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が内容を確認しながら作成するため、法的に無効になる可能性が極めて低く、原本が公証役場に保管されるので安心です。作成に費用(数万円から)や手間はかかりますが、家族の争いを防ぐためには最も確実な方法といえるでしょう。
生命保険を活用する
生命保険の死亡保険金は、受取人に指定された人の固有の財産とみなされるため、遺産分割の対象にはなりません。この仕組みを利用して、特定の人に確実に財産を遺すことができます。例えば、介護で特にお世話になったお子さんを保険金の受取人にしておけば、他の相続人の同意がなくても、感謝の気持ちとして現金を渡すことが可能です。また、不動産などを相続する相続人が、他の相続人に支払う代償金や、相続税の納税資金として活用することもできます。
まとめ
相続がもめる原因は、財産の多い少ないではなく、「分けにくい財産」の存在や「相続人間の不公平感」にあります。特に、遺産額5,000万円以下のごく普通のご家庭でトラブルが多発しているのが今の現実です。大切な家族が「争族」でバラバラになってしまわないためには、元気なうちから準備を始めることが何よりも重要です。法的に有効で、みんなの気持ちに配慮した公正証書遺言の作成や、生命保険の活用など、できる対策はたくさんあります。少しでも不安なことがあれば、専門家に相談しながら、ご家族にとって一番良い形を考えていきましょう。
参考文献
相続トラブルに関するよくある質問まとめ
Q.相続で最も多い揉め事の原因は何ですか?
A.最も多い原因は「遺産分割の割合」に関する意見の対立です。特に、不動産など簡単に分けられない財産があると、誰がそれを相続するか、または売却して分けるかで揉めるケースが多くなります。
Q.遺言書があれば、相続トラブルは防げますか?
A.遺言書はトラブル防止に非常に有効ですが、万全ではありません。内容が不公平であったり、特定の相続人の遺留分を侵害していたりすると、かえって揉め事の原因になることもあります。法的に有効で、内容にも配慮した遺言書を作成することが重要です。
Q.親の介護をしていた場合、多く相続できますか?
A.親の介護などで財産の維持・増加に特別な貢献をした場合、「寄与分」として通常よりも多くの財産を相続できる可能性があります。ただし、寄与分を主張するには他の相続人全員の同意が必要で、認められない場合は家庭裁判所での手続きが必要になります。
Q.相続財産が「実家だけ」の場合、どう分ければいいですか?
A.不動産のみの場合、分け方には主に3つの方法があります。①誰か一人が相続し、他の相続人には代償金を支払う「代償分割」、②売却して現金を分ける「換価分割」、③共有名義にする「共有分割」です。共有分割は将来のトラブルの種になりやすいため、慎重な判断が必要です。
Q.相続人同士のコミュニケーション不足も揉める原因になりますか?
A.はい、大きな原因の一つです。生前から親の財産について全く話していなかったり、相続発生後に一部の相続人だけで話を進めたりすると、不信感や感情的な対立を生みやすくなります。普段から家族間でコミュニケーションをとっておくことが大切です。
Q.相続トラブルを避けるために、生前にできることは何ですか?
A.生前にできる対策として、①財産目録を作成して財産状況を明確にしておく、②法的に有効な遺言書を作成する、③生命保険を活用して特定の相続人に現金を残す、④生前贈与を行う、といった方法があります。早めに専門家に相談することも有効です。