新しくビルを建てた大家さん、お疲れ様です!ビル建築には大きな費用がかかりますが、その中に含まれる消費税、実は還付を受けられる可能性があるのをご存知でしたか?特に「最初はテナントに貸していたけど、後から居住用のアパートやマンションにした」というケース。この場合、初年度に消費税の還付が受けられるのか、気になりますよね。実は、これには令和2年度の税制改正が大きく関わってきます。今回は、この複雑なルールを分かりやすく、ステップバイステップで解説していきますね。
消費税還付の基本的な仕組み
まず、消費税の還付がどういう仕組みなのか、簡単におさらいしましょう。消費税は、商品やサービスを販売した時に預かった消費税(売上にかかる消費税)から、仕入れや経費で支払った消費税(仕入にかかる消費税)を差し引いて、残りを国に納める仕組みになっています。もし、支払った消費税の方が預かった消費税より多ければ、その差額が国から戻ってくる、これが「消費税還付」です。ビルを建てた初年度は、莫大な建築費(支払った消費税)がかかる一方で、家賃収入(預かった消費税)はまだ少ないため、還付を受けやすい状況になるんです。
なぜビルの建築で消費税が還付されるの?
ビルを建てると、建築会社に多額の工事費を支払いますよね。この工事費には、もちろん消費税が含まれています。例えば、税抜2億円のビルを建てた場合、消費税だけで2,000万円も支払うことになります。一方で、ビルが完成してすぐの年の賃料収入は、建築費に比べるとずっと少ないですよね。そのため、「支払った消費税 > 預かった消費税」という状況になりやすく、消費税の還付申告をすることで、支払った消費税の一部または全部が戻ってくる可能性があるのです。
還付を受けるための大前提「課税事業者」
消費税の還付を受けるためには、大前提として「課税事業者」である必要があります。個人事業主の大家さんなら「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出する必要があります。この届出をしていない「免税事業者」のままでは、いくら多額の消費税を支払っても還付は受けられませんので、ビル建築を計画する段階で手続きを進めることがとても重要です。
当初テナント、後に居住用…このケースの落とし穴
さて、ここからが本題です。「最初はテナントビルとして貸し出して、後から居住用マンションに変更した」というケース、実は消費税のルール上、非常に注意が必要なポイントなんです。なぜなら、「事業用の賃貸」と「居住用の賃貸」では、消費税の扱いが全く違うからです。
事業用家賃と居住用家賃の消費税の違い
テナント(事務所や店舗)に貸す場合の家賃収入は「課税売上」となり、消費税がかかります。一方、アパートやマンションなど、人が住むための家賃収入は「非課税売上」となり、消費税はかかりません。この違いが、消費税還付の可否に大きく影響します。
| 賃貸の用途 | 消費税の区分 |
| 事業用(テナント、事務所、店舗など) | 課税売上(消費税がかかる) |
| 居住用(アパート、マンションなど) | 非課税売上(消費税がかからない) |
令和2年度税制改正が大きな転換点に
以前は、この仕組みを利用して、初年度に金の売買を行うなどして意図的に課税売上を作り出し、居住用アパートの建築費にかかる消費税の還付を受ける、という方法が問題視されていました。そこで、この抜け道をふさぐために、令和2年度の税制改正が行われました。この改正によって、ルールが大きく変わったのです。
令和2年10月1日以降に取得した建物は還付不可!
結論から言うと、令和2年10月1日以降に取得した建物については、当初テナントに貸していたとしても、その建物が「居住用賃貸建物」に該当する場合、初年度に支払った消費税の還付(専門用語で「仕入税額控除」といいます)は原則としてできなくなりました。
「居住用賃貸建物」とは?
「居住用賃貸建物」とは、簡単に言うと「住宅の貸付けに使われることが明らかな建物」のことです。具体的には、以下の2つの要件を満たすものを指します。
| 要件1 | 住宅の貸付けの用に供しないことが明らかでない建物 |
| 要件2 | 税抜価格が1,000万円以上の建物(高額特定資産) |
ポイントは「明らかでない」という部分です。つまり、建物の構造上、居住用として使える可能性がある建物は、たとえ取得した時点でテナントに貸していたとしても、この「居住用賃貸建物」に該当してしまう可能性があるのです。
判定のタイミングはいつ?
居住用賃貸建物に該当するかどうかの判定は、建物を取得した日(課税仕入れを行った日)の状況で行われます。つまり、「ビルを建てた(購入した)時点で、将来的にでも居住用として貸す可能性があるかどうか」が問われるわけです。当初はテナントビルとして計画していても、建物の構造がマンションタイプであれば、「居住用賃貸建物」と判断される可能性が高いでしょう。
もし還付が受けられない場合、支払った消費税はどうなる?
還付(仕入税額控除)が受けられないとなると、支払った莫大な消費税がまるまる損になってしまうのでしょうか?ご安心ください。そうではありません。控除できなかった消費税額は、建物の取得価額に含めるか、または「控除対象外消費税」として経費に計上することができます。これにより、所得税や法人税の計算上、税金の負担を軽くすることができます。還付という形で直接お金が戻ってくるわけではありませんが、税金計算の上では無駄にはならないのです。
例外的に調整されるケース
原則として還付は受けられませんが、救済措置のような制度も用意されています。建物を取得してから3年以内に、その建物を事業用として譲渡(売却)した場合や、事業用の賃貸割合が大きく変わった場合には、一定の計算をして、仕入税額控除額を調整(追加で控除)できる場合があります。
3年以内に事業用として売却した場合
取得した居住用賃貸建物を、取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の末日までの間に、他の人に売却した場合は、売却額などを基に計算した一定の金額を、売却した年の仕入税額控除に加えることができます。建物の売却は課税売上になるため、その売上に対応する仕入れだった、という考え方で調整が行われるイメージです。
課税賃貸用に転用した場合
例えば、当初は居住用として貸していた部分を、3年以内に事務所などの事業用に転用した場合も調整の対象になります。調整期間中(取得から3年以内)の課税賃貸割合(事業用家賃の割合)に応じて、仕入税額控除額を調整します。ただし、計算が非常に複雑なので、このケースに該当しそうな場合は、必ず専門家に相談してください。
まとめ
「大家がビルを建て、当初テナントに貸し、後に居住用にした場合」の消費税還付について解説しました。ポイントをまとめます。
- 原則として、その建物が「居住用賃貸建物」(税抜1,000万円以上で、住宅として使える可能性がある建物)に該当する場合、初年度の消費税還付(仕入税額控除)はできません。
- 判定は「建物を取得した日」の状況で行われます。当初テナント貸しでも、建物の構造などから総合的に判断されます。
- 控除できなかった消費税は、取得価額に算入するか経費計上することで、所得税・法人税の負担を軽減できます。
- 取得後3年以内に事業用として売却したり、事業用への転用割合が高まったりした場合には、調整計算により一部控除が認められる可能性があります。
消費税のルール、特に不動産が絡むものは非常に複雑で、税制改正も頻繁に行われます。大きな金額が動くビル建築では、自己判断は非常に危険です。計画段階から信頼できる専門家に相談し、最適な方法を選択することが成功への鍵となりますよ。
参考文献
国税庁 タックスアンサー No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例
テナントビルを居住用にした場合の消費税還付のよくある質問まとめ
Q.新築ビルを当初テナントに貸し、その後居住用にした場合、初年度に消費税の還付は受けられますか?
A.令和2年10月1日以降に取得した建物については、当初テナントに貸していたとしても、その建物が「居住用賃貸建物」に該当する場合、初年度に支払った消費税の還付(専門用語で「仕入税額控除」といいます)は原則としてできなくなりました。
Q.消費税還付の「調整対象固定資産」とは何ですか?
A.1つの取引単位が100万円以上の建物や機械などの資産のことです。これを取得して消費税の還付を受けた後、3年以内に事業用から居住用など非課税業務用に転用すると、消費税額の調整計算が必要になります。
Q.ビルを建てて消費税の還付を受けるためには、どのような手続きが必要ですか?
A.免税事業者の場合は、事前に「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出し、課税事業者になる必要があります。その上で、確定申告時に仕入税額控除を適用して還付申告を行います。
Q.もしビル完成後、すぐにテナント貸しをやめて全て居住用にした場合どうなりますか?
A.完成した課税期間中に一度も事業用として貸付けず、当初から居住用として貸し付けた場合は、その建物の取得費用は非課税売上に対応する課税仕入れとなり、原則として消費税の還付は受けられません。
Q.建物の取得から3年が経過した後に居住用に変更した場合はどうなりますか?
A.建物の取得から3年が経過した後に居住用に変更した場合、その用途変更自体が直接的に新たな税務上の特例を発生させたり、特定の税金が課されたりすることは原則としてありません。しかし、建物の用途が変更されることで、将来の減価償却費の計算、固定資産税の評価、そして将来その建物を売却した際の譲渡所得税の特例の適用などに影響を与える可能性があります。