税理士法人プライムパートナーズ

ホールディングスと不動産投資で相続対策!事業オーナーの資産圧縮術を徹底解説

2024-12-10
目次

事業承継を控えた事業オーナーの皆様にとって、相続税対策は非常に重要な課題ですよね。特に、好業績で自社株の評価額が高くなっている場合、どうやって資産を次の世代へスムーズに引き継ぐか、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。今回は、ホールディングス会社の設立と不動産投資を組み合わせた相続対策スキームについて、その仕組みやメリット・注意点を詳しく解説します。さらに、他の有効な対策方法とも比較しながら、皆様にとって最適な選択肢を見つけるお手伝いができればと思います。

提案された相続対策スキームの仕組み

まず、今回テーマとして取り上げる「ホールディングス会社を設立し、借入で事業会社株式を取得させ、オーナーは売却資金で不動産投資を行う」というスキームが、どのようなものなのかを具体的に見ていきましょう。この方法は、大きく分けて2つのステップで構成されています。

ホールディングス会社による事業会社株式の取得

このスキームでは、まずオーナー様の後継者が中心となって、新しくホールディングス会社(持株会社)を設立します。そして、このホールディングス会社が金融機関から融資(借入)を受け、その資金を使ってオーナー様が保有している事業会社の株式を適正な時価で買い取ります。これにより、事業会社の株式はオーナー個人の手からホールディングス会社へと移転します。ホールディングス会社は、今後、事業会社から受け取る配当金を原資として、金融機関への借入金を返済していくことになります。

事業オーナーによる資産の組み換えと圧縮

一方で、事業会社の株式を売却して多額の現金を手にしたオーナー様は、その資金を元手に、さらに個人でも借入を行い、賃貸マンションやオフィスビルといった収益不動産に投資します。これは、相続税評価において、現金や預金は額面通り100%評価されるのに対し、不動産は時価よりも低い「路線価」や「固定資産税評価額」で評価されるため、資産圧縮効果が期待できるからです。一般的に、不動産の相続税評価額は時価の7割から8割程度、さらに賃貸している場合は評価額が下がることがあります。

スキーム実行後の資産状況

この一連の流れを実行した結果、それぞれの資産状況は以下のようになります。

ホールディングス会社 資産として価値の高い「事業会社株式」を保有し、同額程度の「借入金」という負債を抱えることになります。その結果、貸借対照表(バランスシート)上の純資産は非常に小さくなります。
事業オーナー個人 相続税評価額が高い「現金」が、評価額の低い「不動産」に変わります。さらに借入金も負債として計上されるため、個人の相続財産全体の評価額を大きく引き下げることができます。

この相続対策のメリットと注意点

この方法は、うまく活用すれば大きな効果が期待できる一方で、注意すべき点もいくつか存在します。メリットとデメリットの両方を正しく理解することが大切です。

メリット:株価評価の引き下げと資産圧縮効果

最大のメリットは、やはり相続税評価額の圧縮効果です。ホールディングス会社の株式は、その純資産価額で評価されることがありますが、多額の借入金によって純資産がほぼゼロに近くなるため、評価額を劇的に引き下げることが可能です。また、オーナー様個人の財産も不動産へ組み替えることで、相続税の課税対象となる財産総額を効果的に圧縮できます。

メリット:後継者へのスムーズな事業承継

このスキームは、オーナー様の生前に事業会社の株式を後継者が支配するホールディングス会社へ移転させるものです。これにより、相続発生時に誰が株式を相続するかで親族間トラブルになるのを防ぎ、経営権を安定させた形で後継者に引き継ぐことができます。事業承’継を計画的に進められる点は、大きな魅力と言えるでしょう。

注意点:税務署に「租税回避行為」とみなされるリスク

最も注意しなければならないのが、このスキームが税務署から「行き過ぎた節税策」、すなわち「租税回避行為」と判断されるリスクです。特に、節税だけが目的で、事業上の合理的な理由がないとみなされた場合、相続税法第64条(同族会社等の行為又は計算の否認)の規定に基づき、このスキームが否認され、多額の追徴課税を受ける可能性があります。近年、特にオーナー自身が設立したホールディングス会社を使った株価引き下げ策に対して、税務当局は厳しい姿勢を示しています。

注意点:二重の税負担と資金繰りの問題

この方法では、オーナー様が株式をホールディングス会社に売却した時点で、売却益に対して約20%の譲渡所得税が課税されます。そして、手元に残った現金は相続財産として、いずれ相続税の対象となります。つまり、税金が二重にかかる可能性があるのです。また、ホールディングス会社は事業会社からの配当金で巨額の借入金を返済していかなければなりません。事業会社の業績が悪化し、配当が出せなくなると、返済計画が破綻するリスクも考慮しておく必要があります。

もっと良い方法は?他の相続対策と比較

今回ご紹介したスキームにはリスクも伴います。では、他にどのような選択肢があるのでしょうか。代表的な方法をいくつかご紹介します。

株式移転・株式交換によるホールディングス化

会社の組織再編手法である「株式移転」や「株式交換」を活用すれば、税金を課されることなくホールディングス体制を構築することが可能です。この場合、オーナー様は事業会社株式の代わりに新しく設立されたホールディングス会社の株式を保有することになります。借入を伴わないため株価の圧縮効果は限定的ですが、まずは安全にグループ経営体制を整え、その上でホールディングス会社の株価対策を別途行っていく、という段階的な進め方ができます。

役員退職金の支給による株価引き下げ

オーナー様が会長職に退くなどのタイミングで、会社から役員退職金を支給する方法も非常に有効です。例えば、最終報酬月額が300万円、勤続年数が40年、功績倍率を3.0倍とすると、3億6,000万円もの退職金を支給できます。これにより会社の利益が大幅に減少し、法人税を節税できるだけでなく、非上場株式の評価方法の一つである「類似業種比準価額」を大きく引き下げることができます。ただし、会社の資金繰りへの影響や、オーナー個人の所得税・住民税負担を考慮する必要があります。

事業承継税制の活用

もし、後継者が決まっているのであれば、「事業承継税制」の活用が最も強力な選択肢の一つです。この制度は、一定の要件を満たすことで、後継者が引き継ぐ自社株にかかる贈与税や相続税の納税が100%猶予され、将来的には免除されるというものです。5年間で平均8割の雇用を維持するなど、いくつかの要件はありますが、税負担を実質ゼロにできる可能性があるため、適用できるかどうかの検討は必須と言えるでしょう。

各相続対策の比較まとめ

これまで見てきた方法を、メリットとデメリットの観点から表にまとめてみました。自社の状況に合わせて比較検討してみてください。

対策方法 メリット・デメリット・注意点
HD設立(借入買取)+不動産投資 【メリット】

HDと個人の両方で資産圧縮効果が高い。計画的に事業承継を進められる。

【デメリット・注意点】

租税回避行為とみなされるリスクがある。譲渡所得税と相続税の二重課税の可能性。資金繰り計画が重要。

株式移転等によるHD化 【メリット】

無税でホールディングス体制を構築できる。経営の効率化やリスク分散にも繋がる。

【デメリット・注意点】

この方法単独では株価の圧縮効果は限定的。HD株の相続対策が別途必要になる。

役員退職金の支給 【メリット】

即効性が高く、株価(特に類似業種比準価額)を大きく引き下げられる。会社のキャッシュを個人に移せる。

【デメリット・注意点】

会社のキャッシュが大きく流出する。オーナー個人の所得税・住民税負担が増加する。

事業承継税制 【メリット】

相続税・贈与税の納税負担を実質ゼロにできる可能性がある最も強力な制度。

【デメリット・注意点】

雇用維持などの要件が厳しく、手続きが煩雑。計画的な準備と継続的な報告が必要。

実行する前に必ず確認すべきこと

どの対策を選ぶにしても、専門家の意見を聞かずに独断で進めるのは非常に危険です。実行する前には、以下の点を必ず確認しましょう。

経済合理性と事業目的の明確化

税務署に租税回避行為とみなされないために最も重要なことは、「なぜその対策を行うのか」という事業上の目的です。「経営の効率化のため」「後継者育成のため」「新規事業のリスクを分離するため」といった、節税以外の合理的な理由を明確に説明できるようにしておく必要があります。この目的が曖昧なまま節税メリットだけを追い求めると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。

専門家との連携

相続対策や事業承継は、税務、法務、財務など、多岐にわたる専門知識が必要です。必ず、事業承継に詳しい税理士などの専門家に相談しましょう。自社の財務状況や株主構成、後継者の有無などを総合的に分析してもらい、複数の対策案についてシミュレーションを行った上で、最も適したプランを選択することが成功への近道です。

まとめ

今回は、ホールディングス会社の設立と不動産投資を組み合わせた相続対策について詳しく解説しました。この方法は、資産圧縮効果が高い一方で、税務上のリスクも伴う諸刃の剣と言えるかもしれません。大切なのは、この方法だけが唯一の正解ではないと知ることです。組織再編、役員退職金、事業承継税制など、会社とオーナー様の状況によって、より安全で効果的な方法は他にもたくさんあります。ご自身の会社の将来像や後継者の意向なども踏まえ、ぜひ専門家と二人三脚で、納得のいく事業承継・相続対策プランを築いていってくださいね。

参考文献

事業承継・相続対策のよくある質問まとめ

Q.なぜホールディングス設立が相続対策になるのですか?

A.ホールディングス会社が借入をして事業会社株式(自社株)を買い取ることで、ホールディングス会社の株式評価額が下がります。借入金が負債として計上され純資産が圧縮されるため、相続財産であるホールディングス株式の評価額を低く抑え、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。

Q.ホールディングスを使った自社株対策のメリットは何ですか?

A.主なメリットは、自社株の評価額を大幅に引き下げられる点です。また、事業オーナーは自社株を売却して現金を得られ、その資金で納税資金の準備や不動産投資など次の対策を打つことができます。経営権を維持したまま対策を進められるのも利点です。

Q.この方法にデメリットやリスクはありますか?

A.はい、あります。ホールディングス会社が多額の借入を抱えるため、返済計画が重要になります。事業会社の配当が返済原資となるため、業績が悪化すると返済が困難になるリスクがあります。また、税務上の否認リスクを避けるため、株式の売買価格は適正な評価に基づき決定する必要があります。

Q.オーナーが株式売却資金で不動産投資をするのはなぜですか?

A.現金のまま相続するより、不動産(特に賃貸不動産)に変えることで相続税評価額を圧縮できるためです。現金は額面通り100%で評価されますが、不動産は路線価などで評価されるため、時価よりも低い評価額になることが一般的です。これを活用して相続財産全体の評価額を下げます。

Q.この相続対策スキームは誰にでも有効ですか?

A.必ずしも全ての事業オーナーに有効とは限りません。事業規模、株価、後継者の有無、資産状況などによって最適な対策は異なります。例えば、事業の収益性が低く、借入金の返済原資となる配当を捻出できない場合は適していません。専門家と相談の上、慎重に検討することが重要です。

Q.他に有効な事業承継・相続対策はありますか?

A.はい、状況に応じて様々な方法があります。例えば、後継者に株式を生前贈与する、事業承継税制を活用して納税を猶予・免除してもらう、従業員持株会を設立して株式を分散させる、などの方法が考えられます。複数の対策を組み合わせるのが一般的です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。