ご家族が遺された財産の中に「投資信託」があった場合、どのように相続手続きを進めればよいか、特に税金の計算はどうなるのか、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。実は、投資信託には大きく分けて「一般投資信託」と「上場投資信託(ETF)」の2種類があり、この違いが相続税の評価額に大きく影響することがあります。知らずに手続きを進めてしまうと、本来よりも高い税金を納めることにもなりかねません。この記事では、2つの投資信託の基本的な違いから、相続税を計算する上での重要な評価方法の違いまで、分かりやすく解説していきます。
そもそも投資信託とは?2つのタイプの違い
まず、一般投資信託と上場投資信託(ETF)がそれぞれどのようなものか、基本的な特徴と違いから見ていきましょう。どちらも専門家が運用してくれる便利な金融商品ですが、取引の仕方などに違いがあります。
一般投資信託(非上場)
一般投資信託は、証券会社や銀行、郵便局など、多くの金融機関で購入できる最もポピュラーな投資信託です。たくさんの投資家から集めた資金を一つにまとめ、運用のプロが国内外の株式や債券などに分散投資します。取引価格は、1日に1回だけ算出される「基準価額」という値段が使われます。リアルタイムで価格が動くわけではないのが特徴です。
上場投資信託(ETF)
上場投資信託(ETF)は、その名の通り、東京証券取引所などの金融商品取引所に上場している投資信託です。株式と同じように、証券会社を通じて取引時間中であればいつでも売買できます。価格は市場での需要と供給によって決まるため、リアルタイムで変動するのが大きな特徴です。株式のように「指値注文」や「成行注文」といった方法で取引ができます。
一般投資信託と上場投資信託(ETF)の主な違い
2つの投資信託の主な違いを、以下の表にまとめました。特に取引価格の決まり方が、後の相続税評価に大きく関わってきます。
| 項目 | 一般投資信託 |
| 取引場所 | 証券会社、銀行、郵便局など |
| 取引価格 | 1日1回算出される「基準価額」 |
| 注文方法 | 金額指定(例:1万円分)や口数指定 |
| 購入単位 | 金融機関によっては100円や1,000円から可能 |
| 項目 | 上場投資信託(ETF) |
| 取引場所 | 証券取引所(証券会社を通じて取引) |
| 取引価格 | 市場での時価(リアルタイムで変動) |
| 注文方法 | 指値注文、成行注文など(株式と同様) |
| 購入単位 | 銘柄ごとに決められた1口単位など |
相続税評価への影響はここが違う!
投資信託は、預貯金や不動産と同じように相続税の対象となる財産です。そのため、相続が発生した時点での価値を正しく評価し、相続税の申告書に記載する必要があります。この「相続税評価」の方法が、一般投資信託と上場投資信託では大きく異なります。この違いが、最終的な納税額に影響を与える重要なポイントです。
一般投資信託の相続税評価方法
一般投資信託の評価は、比較的シンプルです。原則として、被相続人が亡くなった日(相続開始日)の基準価額を基に計算します。ただし、単純に基準価額と口数を掛け合わせるだけではありません。評価額を下げることができる、つまり節税につながる控除項目があります。
【計算式】
評価額 = (相続開始日の1口あたり基準価額 × 口数) – 課税上弊害がない場合に控除できる費用
控除できる費用には、主に以下の3つがあります。
- 源泉徴収されるべき所得税相当額:相続開始日に解約したと仮定した場合にかかる税金(20.315%)です。
- 信託財産留保額:投資信託を解約する際に引かれる一種の手数料です。
- 解約手数料:金融機関によっては解約時にかかる手数料です。
これらの費用を差し引くことで、投資信託の評価額を下げることができます。金融機関から送られてくる残高証明書にはこれらの控除が反映されていないことが多いため、ご自身で計算して申告する必要があります。
上場投資信託(ETF)の相続税評価方法
上場投資信託(ETF)は、金融商品取引所に上場しているため、上場株式と同じ評価方法が用いられます。ここが最大のポイントで、相続人にとって最も有利な(評価額が低くなる)価格を選択できるという大きなメリットがあります。
具体的には、以下の4つの価格のうち、最も低い価格を選んで評価額を計算することができます。
- 相続開始日の終値
- 相続開始日の月の毎日の終値の月間平均額
- 相続開始日の月の前月の毎日の終値の月間平均額
- 相続開始日の月の前々月の毎日の終値の月間平均額
例えば、相場が下落傾向にある場合、相続開始日よりも前の月の平均額の方が低くなることがあります。このように、複数の選択肢から最も低い価格を選べるため、一般投資信託に比べて相続税評価額を抑えられる可能性があります。
具体的な評価額の計算例
それでは、具体的な数字を使って、それぞれの評価額がどのように計算されるかを見ていきましょう。
【計算例】一般投資信託の場合
以下の条件で計算してみます。
- 相続開始日:2024年5月15日
- 保有口数:300万口
- 相続開始日の基準価額:1万口あたり15,000円(1口あたり1.5円)
- 解約時に源泉徴収される所得税相当額:80,000円
- 信託財産留保額:基準価額の0.3%
① 基準価額に基づく価額を計算
1.5円 × 300万口 = 4,500,000円
② 信託財産留保額を計算
4,500,000円 × 0.3% = 13,500円
③ 最終的な評価額を計算
4,500,000円 – 80,000円 – 13,500円 = 4,406,500円
このように、控除項目を差し引くことで評価額が下がることがわかります。
【計算例】上場投資信託(ETF)の場合
次に、上場投資信託の計算例です。
- 相続開始日:2024年5月15日
- 保有口数:500口
- 各時点での価格(1口あたり):
- 相続開始日(5月15日)の終値:3,100円
- 5月の月間平均終値:3,150円
- 4月の月間平均終値:3,020円
- 3月の月間平均終値:3,080円
① 最も低い価格を選択
4つの価格(3,100円, 3,150円, 3,020円, 3,080円)の中で最も低いのは、4月の月間平均終値である3,020円です。
② 最終的な評価額を計算
3,020円 × 500口 = 1,510,000円
もし相続開始日の終値(3,100円)で評価していた場合、評価額は1,550,000円となり、4万円も高くなってしまいます。有利な価格を選択することの重要性がわかりますね。
投資信信託を相続する際の注意点
相続税評価の方法以外にも、投資信託を相続する際にはいくつか注意すべき点があります。
残高証明書の金額をそのまま使わない
相続手続きのために金融機関から「残高証明書」を取り寄せますが、そこに記載されている金額は、あくまで相続開始日時点の時価評価額であることがほとんどです。一般投資信託の場合は控除できる費用が考慮されていませんし、上場投資信託の場合は4つの価格のうち最も有利なものが記載されているとは限りません。この金額をそのまま相続税申告書に記載すると、税金を払い過ぎてしまう可能性があるので、必ずご自身で正式な評価方法に則って計算し直しましょう。
価格変動のリスクを理解する
投資信託は、相続が発生した後、遺産分割協議が終わるまでの間にも価格が変動します。遺産を分ける際に、ある相続人が価値の変動する投資信託を受け取り、他の相続人が現金を受け取った場合、後で不公平感が生じる可能性があります。対策として、一度売却して現金化してから分割する、あるいは価格変動の可能性を考慮した上で分割の話し合いをすることが大切です。
相続手続きには時間がかかる
投資信託の相続手続き(名義変更)は、金融機関ごとに必要書類が異なり、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書などを揃える必要があるため、意外と時間がかかります。相続税の申告・納付期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」と決まっていますので、余裕をもって早めに手続きを開始することをおすすめします。
どちらの投資信託か分からないときは?
故人がどちらの種類の投資信託を持っていたか分からない場合もあるかもしれません。その際の確認方法は以下の通りです。
- 取引報告書や目論見書で確認する:金融機関から定期的に送られてくる書類に、投資信託の正式名称が記載されています。銘柄名に「上場」や「ETF」とあれば上場投資信託です。
- 金融機関に問い合わせる:被相続人が取引をしていた証券会社や銀行に問い合わせるのが最も確実です。相続が発生した旨を伝え、保有している商品の種類を確認しましょう。
- インターネットで検索する:銘柄名が分かれば、インターネットで検索してみましょう。日本取引所グループ(JPX)などのサイトで上場情報が確認できれば、上場投資信託だと判断できます。
まとめ
今回は、一般投資信託と上場投資信託(ETF)の違いと、それが相続税評価にどう影響するかを解説しました。最後にポイントを振り返ってみましょう。
- 一般投資信託と上場投資信託(ETF)では、取引の仕組みや価格の決まり方が異なります。
- 相続税評価において、一般投資信託は「相続開始日の基準価額」から各種費用を控除して評価します。
- 上場投資信託(ETF)は、4つの異なる時点の価格から「最も低いもの」を選択できるため、評価額を有利にできる可能性があります。
- 金融機関の残高証明書の金額をそのまま使わず、必ず正式な方法で評価額を計算することが、適切な相続税申告の鍵となります。
投資信託の相続税評価は少し複雑に感じるかもしれませんが、仕組みを理解することで損をしない相続につながります。もしご自身での評価が難しい、あるいは不安な場合は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することも検討してみてくださいね。
参考文献
投資信託とETFの相続に関するよくある質問まとめ
Q. 一般投資信託と上場投資信託(ETF)の最も大きな違いは何ですか?
A. 最も大きな違いは「取引方法」と「価格の決まり方」です。一般投資信託は1日1回算出される基準価額で取引しますが、上場投資信託(ETF)は株式と同様に証券取引所に上場しており、取引時間中リアルタイムで価格が変動します。
Q. 投資信託の相続税評価の基本的な考え方を教えてください。
A. 相続税評価は、原則として相続開始日(亡くなった日)の価額を基に計算されます。ただし、一般投資信託と上場投資信託(ETF)では、その具体的な評価方法が異なります。
Q. 一般投資信託の相続税評価額はどのように計算しますか?
A. 相続開始日の基準価額から、解約した場合に源泉徴収される所得税相当額などを差し引いた金額で評価します。これは、換金時に税金がかかることを考慮するためです。
Q. 上場投資信託(ETF)の相続税評価額はどのように計算しますか?
A. 上場株式と同じように、相続開始日の最終価格(終値)で評価します。一般投資信託と違い、税金相当額などを差し引くことはありません。
Q. 上場投資信託(ETF)の評価額を低くする方法はありますか?
A. はい。上場株式と同様に、①相続開始日の終値、②相続開始月の終値の月平均額、③前月の終値の月平均額、④前々月の終値の月平均額のうち、最も低い価格を選んで評価額とすることができます。
Q. 相続税を考えると、一般投資信託とETFはどちらが有利ですか?
A. 一概には言えません。一般投資信託は税金相当額を控除できるメリットがあります。一方、ETFは相場下落時に過去の月平均額など有利な価格を選択できる可能性があります。それぞれの状況に応じた判断が必要です。