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上場会社オーナー必見!株式相続の代償分割、税金の論点を徹底解説

2025-03-02
目次

上場会社のオーナー様が亡くなられた際の株式相続は、ご家族にとって大きな課題となりますよね。特に、後継者の方に会社の株式をまとめて相続させたい場合、「代償分割」という方法がとても有効です。しかし、この方法には税金面でいくつか注意すべき大切な論点があります。この記事では、上場株式を相続する際の代償分割について、その仕組みから税金の計算方法、トラブルを避けるためのポイントまで、一つひとつ丁寧に解説していきますね。

代償分割とは?上場株式の相続で選ばれる理由

ご家族が遺してくれた財産の中に、株式や不動産のように簡単には分けられないものが含まれていると、どうやって分けたらいいか悩んでしまいますよね。そんなときに使われる遺産の分割方法の一つが「代償分割」です。特に、会社の経営権に関わる上場株式の相続では、この方法がよく選ばれます。

代償分割の基本的な仕組み

代償分割とは、相続人のうちの一人(例えば、会社の後継者)が株式などの分けにくい財産をすべて相続するかわりに、他の相続人に対して、その人の本来の取り分に相当するお金(代償金)を支払う方法です。例えば、評価額1億円の上場株式を長男がすべて相続し、次男の本来の相続分である5,000万円を長男が自分の財産から現金で支払う、といった形です。これにより、財産を物理的に分けることなく、相続人全員が公平に遺産を受け取ることができます。

なぜ事業承継で代償分割が有効なのか?

上場会社のオーナー様の相続において、最も重要なことの一つが事業承継です。会社の経営を安定させるためには、議決権を持つ株式を後継者に集中させることが不可欠です。もし株式が複数の相続人に分散してしまうと、経営方針をめぐって意見が対立したり、重要な意思決定がスムーズに進まなくなったりするリスクがあります。代償分割を使えば、後継者が会社の経営権をしっかりと握り、安定した会社経営を続けることができます。そして、他の相続人も現金という形で公平に財産を受け取れるため、円満な解決につながりやすいのです。

他の分割方法との違い

遺産の分割方法には、代償分割の他に「現物分割」と「換価分割」があります。それぞれに特徴があり、状況によって最適な方法は異なります。

分割方法 内容と特徴
代償分割 一人が財産を相続し、他の相続人に代償金を支払う。事業承継など、財産を分けたくない場合に有効です。
現物分割 財産をそのままの形で分ける方法。「A株式は長男に、B株式は次男に」というように分けます。株式が細かく分散し、経営権が不安定になる可能性があります。
換価分割 株式などの財産をすべて売却して現金に換え、その現金を相続人で分ける方法。公平に分けやすいですが、大切な会社を手放すことになり、譲渡所得税がかかる場合もあります。

このように、会社の経営を守りつつ、相続人間の公平も保ちたいという場合に、代償分割は非常に優れた方法と言えるでしょう。

上場株式の評価と代償金の決め方

代償分割を行う上で最も重要で、そしてトラブルになりやすいのが「代償金の金額」をどう決めるかです。代償金の額は、相続する上場株式の評価額が基準になります。しかし、この評価額には「相続税を計算するための評価額」と「相続人間で話し合うための評価額」の2種類があり、これを混同しないことが大切です。

相続税申告における上場株式の評価方法

まず、相続税を計算するときのルールから見ていきましょう。上場株式の評価額は、株価の変動による影響を少なくするため、以下の4つの価格の中から最も低いものを選ぶことができます。

  • ① 被相続人が亡くなった日(相続開始日)の終値
  • ② 相続開始した月の、毎日の終値の平均額
  • ③ 相続開始した月の、前月の毎日の終値の平均額
  • ④ 相続開始した月の、前々月の毎日の終値の平均額

例えば、8月12日に亡くなられた場合、8月12日の終値、8月の月平均、7月の月平均、6月の月平均のうち、一番安い株価を使って相続税を計算できるということです。これにより、相続税の負担を少しでも軽くできる可能性があります。

代償分割における評価は「時価」が原則

一方で、相続人同士で代償金の額を決める際には、相続税の計算で使った評価額ではなく、「遺産分割協議を行う時点での時価」を基準にするのが一般的です。なぜなら、相続人間の公平を保つためです。相続税評価額はあくまで税金計算上のルールであり、実際の株式の価値とは異なる場合があります。例えば、相続開始後に株価が大きく上昇した場合、相続税評価額を基準にすると、株式をもらう人が有利になりすぎてしまい、不公平感からトラブルに発展しかねません。そのため、話し合いの時点での客観的な価値である「時価」で計算することが大切なのです。

評価額で揉めないためのポイント

代償金の評価額は、それぞれの立場によって意見が分かれやすいポイントです。株式を取得する後継者は「評価額を低くして、支払う代償金を少なくしたい」と考え、代償金を受け取る他の相続人は「評価額を高くして、もらえる現金を多くしたい」と考えるのは自然なことです。このような利害の対立を避けるためには、事前に相続人全員で評価のルールを決めておくことが有効です。例えば、「遺産分割協議書を作成する月の終値の平均額を基準にする」といった具体的なルールを設けることで、感情的な対立を防ぎ、スムーズな話し合いが期待できます。不安な場合は、税理士などの専門家に間に入ってもらうのも良い方法です。

代償分割と相続税の課税関係

代償分割を行った場合、それぞれの相続人が納める相続税の計算は少し複雑になります。特に、代償金を計算するときの株式の評価に「相続税評価額」を使ったか、「時価」を使ったかで、各相続人の課税される金額が変わってくるという重要なポイントがあります。

代償金を支払った人・受け取った人の課税価格

相続税を計算する元となる金額を「課税価格」といいます。代償分割における基本的な考え方は以下の通りです。

  • 代償金を支払った人(株式取得者)の課税価格 = 相続した財産の価額 - 支払った代償金の価額
  • 代償金を受け取った人の課税価格 = 相続した財産の価額 + 受け取った代償金の価額

一見シンプルに見えますが、この「代償金の価額」の計算が少し特殊なのです。

【重要】代償金の評価基準による計算の違い

国税庁のルールでは、代償金の計算根拠となった株式の評価方法によって、課税価格の計算が変わります。ここでは具体例を挙げて見てみましょう。

【設例】
長男が評価額1億円の株式をすべて相続し、次男に代償金5,000万円を支払うケース。

  • 株式の相続税評価額:8,000万円
  • 株式の遺産分割時の時価:1億円
  • 長男が次男に支払う代償金:5,000万円

この場合、長男と次男の相続税課税価格は、代償金の計算根拠によって以下のように変わります。

ケース 計算方法と結果
代償金を「相続税評価額」基準で決めた場合
(あまり一般的ではありません)
【長男の課税価格】
8,000万円 (株式評価額) – 5,000万円 (代償金) = 3,000万円

【次男の課税価格】
0円 + 5,000万円 (代償金) = 5,000万円

代償金を「時価」基準で決めた場合
(こちらが原則的な考え方です)
まず、代償金を相続税評価額ベースに換算します。
5,000万円 × (8,000万円 ÷ 1億円) = 4,000万円

【長男の課税価格】
8,000万円 (株式評価額) – 4,000万円 (換算後の代償金) = 4,000万円

【次男の課税価格】
0円 + 4,000万円 (換算後の代償金) = 4,000万円

このように、時価を基準に代償金を決めた方が、相続人間の税負担の公平性が保たれやすいことがわかります。この計算方法は非常に専門的ですので、必ず税理士に相談しながら進めるようにしてください。

代償分割で注意すべき他の税金

代償分割を考えるとき、相続税のことばかりに目が行きがちですが、実は「贈与税」や「譲渡所得税」といった他の税金がかかってくる可能性もあります。思わぬ税金で慌てないように、これらのポイントもしっかり押さえておきましょう。

代償金は贈与税の対象になる?

「人からお金をもらうと贈与税がかかるのでは?」と心配になる方もいらっしゃるかもしれませんね。ご安心ください。代償分割で支払われる代償金は、遺産分割の一環ですので、原則として贈与税の対象にはなりません。
ただし、注意点が2つあります。

  1. 遺産分割協議書への明記:遺産分割協議書に「代償分割として金銭を支払う」という旨をはっきりと記載していないと、税務署から単なる個人間の贈与とみなされ、贈与税が課税されてしまう恐れがあります。
  2. 過大な代償金:本来の相続分を大きく超えるような、あまりにも高額な代償金を支払った場合、その超えた部分が贈与とみなされる可能性があります。代償金は、あくまで相続人間の公平を図るためのものですので、客観的に見て妥当な金額に設定することが大切です。

代償金を現金以外で支払う場合の譲渡所得税

代償金は現金で支払うのが基本ですが、支払う側に十分な現金がない場合、不動産や他の有価証券など、元々持っている自分の資産で支払うこと(これを代物弁済といいます)も可能です。この場合、税金上の注意が必要です。
代償金を自分の資産で支払った場合、その資産をその時点の時価で売却したとみなされ、利益が出ていれば「譲渡所得税」が課税されます。

例えば、長男が次男への代償金5,000万円の支払いのために、昔3,000万円で購入した土地(現在の時価5,000万円)を渡したとします。この場合、長男には差額の2,000万円(5,000万円-3,000万円)に対して譲渡所得税(所得税・住民税あわせて約20%)がかかってしまうのです。現金以外の資産で代償金の支払いを検討する場合は、この譲渡所得税の負担も考慮に入れる必要があります。

トラブルを避けるための遺産分割協議書の書き方

代償分割を円満に進め、将来的なトラブルを防ぐためには、相続人全員で合意した内容を「遺産分割協議書」という形で正確に残しておくことが非常に重要です。口約束だけでは、「言った」「言わない」といった問題に発展しかねません。

必ず記載すべき必須項目

代償分割を行う場合の遺産分割協議書には、以下の項目を明確に記載しましょう。曖昧な表現は避け、誰が読んでも内容が一つに定まるように書くのがポイントです。

  • 誰がどの財産を相続するのか:特に事業承継に関わる株式については、会社名、株式の種類、株数を正確に記載します。
  • 代償金の支払い義務者と受取人:誰が(From)、誰に(To)支払うのかを明記します。
  • 代償金の具体的な金額:支払う金額を「金5,000万円」のように漢数字で明確に記載します。
  • 支払期日:「令和〇年〇月〇日限り」のように、具体的な日付を定めます。
  • 支払方法:「〇〇銀行〇〇支店の普通預金口座(口座番号〇〇)に振り込んで支払う」など、具体的に記載します。分割払いの場合は、毎月の支払額や支払期間なども詳しく定めます。

記載例とポイント

以下にシンプルな記載例をご紹介します。


【遺産分割協議書 記載例(抜粋)】

第〇条
相続人 長男 〇〇は、被相続人〇〇の遺産である下記株式のすべてを相続取得する。

株式会社〇〇 普通株式 100,000株

第〇条
相続人 長男 〇〇は、前条の代償として、相続人 次男 〇〇に対し、金5,000万円の支払義務があることを確認し、これを令和〇年〇月〇日限り、相続人 次男 〇〇の指定する金融機関の預金口座に振込送金する方法により支払う。


このように、「代償として」という文言を入れることで、この金銭のやり取りが贈与ではなく、遺産分割の一環であることを明確に示すことができます。法的に有効な書類を作成するためにも、司法書士や弁護士などの専門家に作成を依頼することをお勧めします。

まとめ

今回は、上場会社オーナー様の株式相続における代償分割の論点について解説しました。内容が専門的で少し難しかったかもしれませんが、大切なポイントを最後にもう一度おさらいしましょう。

  1. 事業承継に有効:代償分割は、後継者に株式を集中させ、会社の経営を安定させるために非常に有効な手段です。
  2. 評価額の違いに注意:相続税計算上の「相続税評価額」と、代償金を計算する際の「時価」は異なります。この違いがトラブルの原因になりやすいため注意が必要です。
  3. 相続税計算の特殊ルール:代償金の算定基準が「時価」か「相続税評価額」かによって、各相続人の課税価格の計算方法が変わることを理解しておきましょう。
  4. その他の税金:遺産分割協議書の書き方によっては「贈与税」が、現金以外で代償金を支払うと「譲渡所得税」がかかる可能性があります。
  5. 遺産分割協議書が重要:合意した内容は、必ず詳細に遺産分割協議書に記載し、後のトラブルを防ぎましょう。

上場株式の代償分割は、事業承継と相続問題を同時に解決できる優れた方法ですが、税務上の判断が非常に複雑です。ご家族だけで進めようとせず、必ず相続に詳しい税理士などの専門家にご相談のうえ、最適な方法を選択してくださいね。

参考文献

株式相続の代償分割に関するよくある質問

Q. 代償分割の代償金は、必ず現金で支払わないといけませんか?

A. いいえ、相続人全員の合意があれば、不動産や有価証券など現金以外の資産で支払うこと(代物弁済)も可能です。ただし、支払う側にその資産を時価で売却したとみなされ、譲渡所得税が課される場合がありますので注意が必要です。

Q. 代償金の支払いが期限までにできなかった場合はどうなりますか?

A. 遺産分割協議書に定められた義務の不履行(債務不履行)となり、遅延損害金を請求されたり、最悪の場合は財産の差し押さえなど法的な手続きに発展したりする可能性があります。協議の段階で無理のない支払計画を立てることが非常に重要です。

Q. 上場株式の評価額は、どの時点の株価を使えばいいですか?

A. 目的によって異なります。相続税の計算では、①死亡日の終値、②死亡月の終値の平均、③前月の終値の平均、④前々月の終値の平均、のうち最も低い価格を選択できます。一方で、相続人間で代償金を計算する際は、公平を期すために遺産分割協議を行う時点の「時価」を基準にするのが一般的です。

Q. 代償分割をすれば、相続税は安くなりますか?

A. 代償分割という方法自体が直接的に相続税を節税するわけではありません。ただし、後継者が株式を相続することで「事業承継税制」の適用を受けられるケースなど、結果として納税が猶予されたり減額されたりすることにつながる可能性はあります。

Q. 遺産分割協議書に「代償分割」と書かないとどうなりますか?

A. 代償金の支払いが、遺産分割とは関係のない個人間の「贈与」とみなされ、受け取った側に高額な贈与税が課税されてしまう大きなリスクがあります。必ず遺産分割協議書に「代償分割として支払う」という趣旨を明確に記載してください。

Q. 代償金の金額はどのように決めるのがベストですか?

A. 法律で明確な決まりはありませんが、相続人間のトラブルを避けるためには、客観的で公平な方法で決めることが大切です。一般的には、遺産分割協議時点の株式の時価を算出し、それを基に法定相続分に応じた金額を計算する方法が最も円満に進めやすいでしょう。

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