株式の生前贈与は、将来の相続税を減らすためにとても有効な手段です。上場株式と非上場株式では手続きや評価方法が異なりますが、どちらも株価が低いタイミングを見極めることで、大きな節税効果を得られます。本記事では、株式の生前贈与のメリットや手続きの流れ、贈与税の計算方法まで、具体的な金額を交えながらわかりやすく解説します。
株式を生前贈与するメリット
株式を生前贈与することには、将来の税負担を減らすだけでなく、手続きの面でも大きなメリットがあります。詳しく見ていきましょう。
将来の相続時の税負担を軽くできる
株式を早めに家族へ贈与しておくと、贈与した分だけ将来の相続財産から除外されます。そのため、相続税の計算対象となる遺産総額を減らすことができます。たとえば、現在1,000万円の価値がある株式を贈与し、将来その株価が2,000万円に値上がりした場合でも、値上がりした1,000万円分には相続税がかかりません。長期的な視点で相続税対策を行う上で非常に効果的です。
不動産より贈与手続きが簡単に済む
不動産の贈与では、法務局での登記手続きや不動産取得税、登録免許税などの費用がかかります。しかし、上場株式の場合は証券会社で名義変更の手続きをするだけで済みます。必要書類を提出すれば、おおむね1週間から2週間で手続きが完了します。
| 資産の種類 | 贈与の手間とコスト |
|---|---|
| 株式 | 証券会社での名義変更のみで簡単・低コスト |
| 不動産 | 登記手続きが必要で、登録免許税などの費用がかかる |
株価が安い時期の贈与で節税効果が高まる
贈与税は、贈与した日の株価(評価額)をもとに計算されます。そのため、市場の動向を見て株価が下がっているタイミングで贈与を行うと、贈与税の負担を最小限に抑えられます。将来成長が見込まれる企業の株式であれば、安いうちに渡しておくことで、値上がり益もそのままご家族の資産になります。タイミングを見極めることが節税の鍵となります。
株式を生前贈与するデメリット
メリットが多い一方で、計画的に進めないと予想外の税金がかかったり、ご家族間でトラブルになったりするリスクもあります。
贈与税が発生する可能性がある
1年間に110万円を超える財産を贈与すると、超えた部分に対して10%から最高55%の累進課税による贈与税がかかります。たとえば、500万円の株式を一度に贈与すると、一般税率の場合で53万円の贈与税が発生します。相続税を減らす目的だったのに、かえって高い贈与税を払うことにならないよう、毎年の非課税枠の110万円を上手に活用するなどの工夫が必要です。
特別受益とみなされ、遺産分割トラブルの可能性がある
特定のお子様だけに多額の株式を贈与すると、その贈与が「特別受益」とみなされることがあります。将来の相続の際に、他のご家族が「不公平だ」と感じて話し合いがこじれ、遺留分(法律で保障された最低限の取り分)の侵害を主張されるケースもあります。トラブルを防ぐためには、贈与契約書をしっかり作成し、誰にいくら渡したのかを明確にしておくことが大切です。
株式を生前贈与する手続き
上場株式と非上場株式(自社株など)では、名義を変えるための手続き方法が全く異なります。
上場株式の場合
上場企業の株式は、証券会社を通じて手続きを行います。まずはご利用の証券会社に連絡し、株式贈与契約書や移管依頼書などの必要書類を取り寄せます。お渡しする相手(受贈者)が同じ証券会社に口座を持っていない場合は、新規で口座を開設する必要があります。書類を提出すれば、贈与者の口座から受贈者の口座へ株式が移管されます。
非上場株式の場合
中小企業などの非上場株式には、勝手に売買できないよう譲渡制限がついていることがほとんどです。そのため、まずは会社に対して「株式譲渡承認請求書」を提出し、取締役会や株主総会で承認を得る必要があります。承認後、株主名簿の書き換えや法人税申告書の別表二の内容を変更します。手続きが複雑なため、慎重に進めましょう。
| 株式の種類 | 主な手続き先と方法 |
|---|---|
| 上場株式 | 証券会社へ書類提出し、口座間で移管する |
| 非上場株式 | 会社へ譲渡承認を請求し、株主名簿を書き換える |
生前贈与した株式の評価方法
贈与税を計算するためには、その株式がいくらの価値があるのか(評価額)を正しく計算しなければなりません。
上場株式の評価方法
上場株式は、原則として贈与した日の市場価格(終値)で評価します。ただし、株価の変動を考慮し、以下の4つの価格の中から最も低い価格を選ぶことができます。
| 選択できる価格 | 内容 |
|---|---|
| 贈与日の最終価格 | 贈与した当日の終値 |
| 贈与月の平均額 | 贈与した月の毎日の終値の平均 |
| 贈与月の前月の平均額 | 贈与した月の前月の毎日の終値の平均 |
| 贈与月の前々月の平均額 | 贈与した月の前々月の毎日の終値の平均 |
これにより、株価が高い日に贈与してしまっても、月平均が安ければそちらを採用して税負担を軽くできます。
非上場株式の評価方法
非上場株式には市場価格がないため、会社の規模や業績、純資産などから評価額を計算します。原則として、大会社は上場企業と比較する「類似業種比準方式」、小会社は会社の純資産をベースにする「純資産価額方式」を使用します。中会社はこれら2つを併用します。同族株主以外の少数株主の場合は、過去の配当金額から計算する「配当還元方式」を用います。計算が非常に複雑なため、正確な評価が求められます。
株式の生前贈与にかかる贈与税の計算
贈与税の計算には、大きく分けて「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2種類があります。状況に合わせて有利な方を選びましょう。
暦年課税制度
1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、年間110万円の基礎控除を差し引いて計算する制度です。年間110万円以下の贈与であれば、贈与税は一切かからず申告も不要です。たとえば、毎年100万円分の株式を10年間にわたってお子様に贈与すれば、合計1,000万円を無税で渡すことができます。少しずつ時間をかけて生前贈与を行うのに適しています。
相続時精算課税制度
60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上のお子様やお孫様へ贈与する場合に使える制度です。累計2,500万円までの贈与が非課税になり、それを超えた分には一律20%の税金がかかります。さらに、2024年からは年110万円の基礎控除も追加されました。ただし、贈与された財産は贈与者が亡くなった際に相続財産に足し戻されて相続税として精算されます。一度選択すると暦年課税には戻せないため、注意が必要です。
株式の生前贈与における節税対策
制度の仕組みを理解した上で、具体的にどのように節税に繋げるのか、3つのポイントをご紹介します。
株価が低い時期に贈与する
前述の通り、贈与税は贈与した時の株価で決まります。日頃から経済ニュースや企業の業績をチェックし、株価が一時的に落ち込んでいるタイミングを見計らって贈与しましょう。とくに将来的に株価の回復や上昇が見込める銘柄であれば、安い時に渡すことで、その後の値上がり分に対する税金を丸ごと節約できます。
年間110万円の非課税枠を利用する
暦年課税の基礎控除110万円を最大限に活用しましょう。お子様2人に毎年110万円ずつ株式を贈与すれば、1年間で220万円、10年間で2,200万円の財産を無税で移転できます。ただし、毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると、最初から多額の贈与をする約束だった(定期贈与)と税務署にみなされる恐れがあります。贈与のたびに贈与契約書を作り、金額や時期を少し変えるなどの工夫をしましょう。
事業承継税制を活用する
ご自身が経営する会社の非上場株式を後継者に譲る場合は、「事業承継税制」の活用を検討してください。これは、都道府県知事の認定を受けるなどの要件を満たすことで、後継者が受け取った自社株式にかかる贈与税や相続税の納税が猶予、あるいは免除される特例です。事前の準備が必要ですが、実質的な税負担をゼロにして会社を引き継げる強力な制度です。
まとめ
上場株式や非上場株式の生前贈与は、タイミングをしっかりと見極めることで、大きな節税効果をもたらします。年間110万円の非課税枠を使ったコツコツ贈与や、株価が下がった時期を狙った贈与、自社株なら事業承継税制の活用など、ご自身に合った方法を選ぶことが大切です。一方で、名義だけを変えた「名義株」とみなされたり、贈与後に株価が暴落したりするリスクもあります。ルールを守って手続きを行い、ご家族に喜ばれるスムーズな財産引き継ぎを実現しましょう。
参考文献
国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
国税庁 No.4148 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)
株式の生前贈与に関するよくある質問まとめ
Q.株式を生前贈与する最大のメリットは何ですか?
A.株価が低い時期に贈与することで、贈与税を抑えつつ、将来の株価上昇分に対する相続税を非課税にできる点です。将来の相続財産を確実に減らす効果があります。
Q.上場株式の生前贈与はどのような手続きが必要ですか?
A.証券会社で手続きを行います。贈与契約書を作成し、証券会社に移管依頼書を提出することで、贈与者の口座から受贈者の口座へ株式を移すことができます。
Q.非上場株式の生前贈与で注意することはありますか?
A.非上場株式には譲渡制限がついていることが多いため、会社(取締役会や株主総会)に譲渡の承認を得る必要があります。また、株価の評価計算が非常に複雑です。
Q.年間110万円以下の贈与なら税金はかかりませんか?
A.はい、暦年課税制度を利用すれば、1年間(1月1日~12月31日)に受け取った財産の合計が110万円以下なら贈与税はかからず、申告も不要です。
Q.相続時精算課税制度とはどのような制度ですか?
A.60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ贈与する際、累計2,500万円まで贈与税が非課税になる制度です。ただし、贈与者が亡くなった際に相続財産に足し戻されて相続税が計算されます。
Q.定期贈与とみなされないためにはどうすればよいですか?
A.最初から多額の贈与を約束していたと税務署にみなされないよう、贈与のたびに贈与契約書を作成し、毎年贈与する時期や金額に少し変化をつけることが大切です。