マイホームの住み替えを考えている方、必見です。不動産を売却して利益(譲渡所得)が出ると、通常は所得税や住民税がかかります。しかし、「不動産の買い替え特例」という制度を使えば、その税金の支払いを将来に先延ばしできるかもしれません。この記事では、不動産の買い替え特例がどのような制度なのか、適用するための詳しい条件、メリットや注意点について、専門的な内容をかみ砕いて分かりやすく解説していきます。
不動産の買い替え特例とは?
不動産を売却して得た利益(譲渡所得)には、通常、所得税と住民税が課せられます。しかし、マイホームを売って新しいマイホームに買い替える場合、一定の条件を満たすことで「特定の居住用財産の買換えの特例」、通称「不動産の買い替え特例」を利用することができます。まずは、この制度の基本的な仕組みから見ていきましょう。
税金の支払いを将来に繰り延べる制度
この特例の最も重要なポイントは、税金が「免除」されるわけではなく、課税を将来に「繰り延べる(先送りする)」制度であるという点です。つまり、買い替えのタイミングで発生するはずだった税金の支払いを、新しく購入した家を将来売却する時まで待ってもらえる、という仕組みなんですね。住み替えは何かと出費がかさむ時期ですから、一時的にでも税金の支払いを抑えられるのは大きなメリットと言えるでしょう。
売却価格と購入価格の関係で内容が変わる
特例がどのように適用されるかは、売った家の価格と新しく買う家の価格の関係によって変わってきます。具体的には、以下の2つのケースに分かれます。
新しい家の価格 ≧ 売った家の価格 | この場合、譲渡所得の全額に対する課税が将来に繰り延べられます。 |
新しい家の価格 < 売った家の価格 | この場合、売った価格と新しい家の価格との差額分が、売却した年の収入とみなされ、その部分だけが課税対象となります。残りの部分の課税は将来に繰り延べられます。 |
他の特例との違いと注意点
不動産売却の税金に関する特例として、「3,000万円の特別控除」という非常に有名な制度があります。これは譲渡所得から最大3,000万円を控除できるとても強力な制度ですが、注意点として不動産の買い替え特例と3,000万円の特別控除は併用できません。どちらの特例を利用する方がご自身の状況にとって有利になるかは、売却で得られる利益の額や将来のライフプランによって異なりますので、慎重に検討する必要があります。また、住宅ローン控除とも原則として併用できない点にも注意が必要です。
【居住用】買い替え特例の適用要件
ご自身のマイホームの買い替えでこの特例を利用するためには、売却する家と購入する家の両方で、数多くの細かい要件をすべてクリアする必要があります。ここでは、特に重要なポイントを抜粋してご紹介します。
売却する不動産(譲渡資産)の主な要件
まずは、現在お住まいで売却を考えている家(譲渡資産)に求められる主な条件です。
居住・所有期間 | 売却する年の1月1日時点で、その家に住んでいた期間と、土地・建物を所有していた期間がともに10年を超えていること。 |
売却価格 | 家の売却価格が1億円以下であること。 |
売却相手 | 親子や夫婦、生計を一つにする親族など、特別な関係にある人への売却ではないこと。 |
適用期限 | 令和7年12月31日までに売却すること。 |
その他 | 自分が主として住んでいる家であること(住まなくなった日から3年後の年末までの売却も可)。売った年の前年および前々年に3,000万円の特別控除などの特例を受けていないこと。 |
購入する不動産(買換資産)の主な要件
次に、新しく購入するマイホーム(買換資産)に求められる主な条件です。
購入時期 | 家を売却した年の前年、当年、翌年の3年間のいずれかの年に購入すること。 |
居住時期 | 購入した時期に応じて、定められた期限まで(例えば、売却した翌年に購入した場合は、購入した年の翌年12月31日まで)に新しい家に入居すること。 |
面積 | 建物の床面積が50㎡以上であり、土地の面積が500㎡以下であること。 |
築年数(中古の場合) | 耐火建築物(マンションなど)の場合は築25年以内、それ以外の木造戸建てなどは築25年以内であること。(※ただし、新耐震基準に適合していることが証明できれば、この築年数要件はクリアできます) |
【事業用】買い替え特例の適用要件
この買い替え特例は、実はマイホームだけでなく、店舗や事務所、賃貸アパートといった事業用の不動産を買い替える際にも利用することができます。正式には「事業用の資産を買い換えたときの特例」といい、こちらも課税を将来に繰り延べるための制度ですが、居住用とは要件が少し異なります。
事業用資産の買い替え特例の主な要件
事業用の不動産で特例を受けるための主な条件は以下の通りです。
用途 | 売却する資産と購入する資産の両方が、事業用として使われているものであること。 |
事業への供用 | 新しく購入した資産は、取得した日から1年以内に事業のために使うこと。 |
所有期間 | 原則として、売却する年の1月1日時点で所有期間が10年を超えていること。(※資産の組み合わせにより異なります) |
土地の面積 | 新しく取得する土地の面積が、売却した土地の面積の5倍以内であること。 |
適用期限 | 原則として令和8年3月31日までの譲渡が対象です。(※資産の組み合わせによります) |
課税の繰り延べ割合に注意
事業用の買い替え特例が居住用と大きく違う点として、課税の繰り延べ割合が挙げられます。居住用の場合は、条件を満たせば譲渡益の100%の課税が繰り延べられますが、事業用の場合は原則として、譲渡益のうち80%が繰り延べの対象となり、残りの20%はその年に課税されることになります。ただし、不動産の所在地(例えば、東京23区から地方への移転など)の組み合わせによっては、この繰り延べ割合が70%や90%に変わる場合があるため、専門家への確認が必要です。
買い替え特例のメリット・デメリット
買い替え特例は上手に活用すればとても便利な制度ですが、もちろんメリットだけでなくデメリットも存在します。両方をしっかりと理解した上で、利用するかどうかを判断することが大切です。
メリット:直近の税負担を大幅に軽減できる
この制度の最大のメリットは、やはり買い替え時の税金の支払いを先送りにできる点に尽きます。不動産の売買では税金の額も大きくなりがちです。引っ越し費用や新しい家具の購入など、何かと物入りな時期に手元の資金を確保できるのは、精神的にも経済的にも大きな安心材料になります。特に、売却益が3,000万円を大きく超えるようなケースでは、3,000万円控除を利用するよりも有利になる可能性があります。
デメリット:将来の税負担が増える可能性と他の特例との併用不可
一方で、デメリットは、この制度があくまで「繰り延べ」であり「免除」ではないという点です。新しく購入した家を将来売却する際には、繰り延べていた税金と、その時の売却で発生した税金を合わせて支払う必要があります。もし、将来不動産価格が下落しているタイミングで売却することになると、売却代金から支払う税金の割合が大きくなり、手元に残るお金が少なくなってしまう可能性も考えられます。また、繰り返しになりますが、3,000万円の特別控除や住宅ローン控除と併用できないことも大きなデメリットです。
特例を利用するための手続き
買い替え特例は、条件を満たせば自動的に適用されるわけではありません。ご自身で必要な手続きを行う必要がありますので、手順をしっかり確認しておきましょう。
確定申告が必須
この特例の適用を受けるためには、不動産を売却した年の翌年に、必ず確定申告を行う必要があります。申告期間は、例年2月16日から3月15日までの一か月間です。特例を適用した結果、その年に納める税金が0円になったとしても、この申告手続き自体は必須となりますので、絶対に忘れないようにしましょう。
確定申告に必要な主な書類
確定申告の際には、様々な書類の提出が求められます。早めに準備を始めると安心です。
・確定申告書
・譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
・売却した不動産の売買契約書のコピー
・購入した不動産の売買契約書のコピー
・売却および購入した不動産の登記事項証明書
・売却や購入にかかった仲介手数料などの領収書
このほかにも、個別の状況に応じて、住民票や戸籍の附票の写しなど、追加の書類が必要になる場合があります。詳しくは税務署の窓口や国税庁のウェブサイトで確認しましょう。
まとめ
不動産の買い替え特例は、マイホームや事業用不動産を買い替える際に、譲渡益にかかる税金の支払いを将来に繰り延べることができる制度です。買い替え時の資金負担を軽減できるという大きなメリットがある一方で、あくまで課税の先送りであり、他の有利な特例(3,000万円控除など)と併用できないという重要な注意点もあります。適用要件も細かく定められているため、ご自身の状況が要件に合致するか、どの特例を使うのが最も有利なのかを事前にしっかりとシミュレーションすることが成功のカギとなります。ご自身での判断が難しい場合は、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
国税庁 No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例
不動産の買い替え特例に関するよくある質問まとめ
Q.不動産の買い替え特例とは何ですか?
A.自宅(居住用財産)を売却して新しい自宅に買い替えた際に、売却で得た利益(譲渡所得)にかかる税金の支払いを、将来に繰り延べることができる制度です。非課税になるわけではない点に注意が必要です。
Q.買い替え特例を利用するための主な条件は何ですか?
A.主な条件として、売却した不動産に10年以上住んでいること、所有期間が10年を超えていること、売却代金が1億円以下であること、買い替えた不動産が一定の要件(床面積50㎡以上など)を満たすことなどがあります。
Q.3000万円特別控除と併用は可能ですか?
A.いいえ、できません。買い替え特例と3000万円特別控除は、どちらか一方を選択して適用することになります。どちらが有利になるかは個々の状況によって異なるため、慎重な検討が必要です。
Q.家を売るのと買うの、どちらを先にすれば特例を使えますか?
A.家を売った年の前年から翌年までの3年間に新しい家を購入する場合に適用できます。つまり、「売り先行」でも「買い先行」でも、期間内の買い替えであれば特例の対象となります。
Q.買い替え特例のメリットとデメリットを教えてください。
A.メリットは、売却時の税負担を先送りにできるため、手元資金を新しい家の購入費用に充てやすい点です。デメリットは、税金が免除されるわけではなく、将来その家を売却する際に課税される可能性がある点です。
Q.買い替え特例の適用にはどんな手続きが必要ですか?
A.確定申告が必要です。譲渡所得の内訳書や、売却した不動産と購入した不動産の登記事項証明書など、定められた書類を税務署に提出する必要があります。