不動産や株式を売却して利益が出た場合、その所得は「分離課税」という特別な方法で税金が計算されます。所得税の確定申告をすると、その影響は翌年の住民税にも及ぶんです。でも、その影響はいつまで続くのでしょうか?「翌年も、そのまた翌年もずっと高いまま?」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。ここでは、分離課税による譲渡所得が、翌年、そして翌々年の住民税にどう影響するのか、わかりやすく解説していきます。
分離課税と住民税の基本
まずは、譲渡所得と住民税の基本的な関係について知っておきましょう。なぜ翌年の住民税に影響が出るのか、その仕組みを理解することが大切ですよ。
そもそも分離課税とは?
通常、お給料などのお金(所得)は、すべて合算して税金を計算する「総合課税」という方式がとられます。しかし、不動産や株式を売却して得た利益(譲渡所得)は、一時的に大きな金額になることが多いため、他の所得とは分けて税額を計算します。これを「分離課税」と呼びます。
この分離課税のおかげで、給与所得などにかかる税率が急に高くなってしまうのを防ぐことができるんですね。
譲渡所得が翌年の住民税に影響する仕組み
住民税は、前年1年間(1月1日~12月31日)の所得をもとに計算され、翌年の6月から納付が始まります。例えば、2024年中に不動産を売却して譲渡所得が発生した場合、その所得を基に計算された住民税を2025年6月から支払うことになるのです。
つまり、譲渡所得があった年の翌年の住民税額は、その譲渡所得の分だけ高くなる、という仕組みです。これは、確定申告で報告された所得情報が、税務署からお住まいの市区町村に共有されることで計算に反映されるためです。
所得税と住民税の税率の違い
譲渡所得にかかる税金は、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税から成り立っています。そして、所得の種類によってそれぞれの税率が異なります。代表的な例を見てみましょう。
| 所得の種類 | 税率(所得税+住民税) |
| 上場株式等の譲渡所得 | 20.315% (所得税15.315% + 住民税5%) |
| 不動産の長期譲渡所得(所有期間5年超) | 20.315% (所得税15.315% + 住民税5%) |
| 不動産の短期譲渡所得(所有期間5年以下) | 39.63% (所得税30.63% + 住民税9%) |
※所得税には復興特別所得税(所得税額の2.1%)が含まれています。
このように、特に不動産の短期譲渡は税率が非常に高くなるので注意が必要ですね。
不動産の譲渡所得と住民税への影響
マイホームや土地など、不動産を売却した場合の影響は特に大きくなることがあります。所有していた期間によって税率が大きく変わるのがポイントです。
長期譲渡所得と短期譲渡所得
不動産の譲渡所得は、売却した年の1月1日時点で、その不動産を所有していた期間によって2種類に分けられます。
- 長期譲渡所得:所有期間が5年を超える場合。税率が比較的低く設定されています。
- 短期譲渡所得:所有期間が5年以下の場合。税率が高く設定されています。
この「5年」という期間は、不動産投資などの短期的な売買を抑制する目的で設けられています。ご自身の不動産の所有期間がどちらに該当するか、しっかり確認しましょう。
具体的な税率と計算例
不動産の譲渡所得にかかる住民税の税率は、以下の通りです。
| 区 分 | 住民税率 |
| 長期譲渡所得 | 5% |
| 短期譲渡所得 | 9% |
例えば、課税譲渡所得が1,000万円だった場合、翌年の住民税は長期譲渡なら50万円、短期譲渡なら90万円も増加することになります。所得税と合わせると、その差はさらに大きくなります。
特別控除の活用と注意点
不動産の売却では、税金の負担を軽くするための様々な特例(特別控除)が用意されています。代表的なのが「マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除」です。
この特例を使えば、譲渡所得から最大3,000万円を差し引くことができます。もし譲渡所得が3,000万円以下であれば、所得がゼロになり、所得税も住民税もかかりません。
ただし、この特例を受けるためには、必ず確定申告が必要です。「利益が出なかったから申告しなくていい」と自己判断せず、要件を確認して手続きをすることがとても重要です。
株式の譲渡所得と住民税への影響
株式投資で利益が出た場合も、不動産と同じように譲渡所得として分離課税の対象になります。ただし、株式の場合は少し特殊な仕組みがあるんですよ。
源泉徴収あり特定口座と申告不要制度
多くの方が利用している「源泉徴収ありの特定口座」で株式を売却した場合、利益が出ると証券会社が自動的に所得税と住民税(合計20.315%)を天引きして納税まで済ませてくれます。
この仕組みのおかげで、原則として確定申告をする必要がありません。そして、確定申告をしなければ、その譲渡所得は住民税の計算の基になる所得には含まれないのです。これを「申告不要制度」といいます。つまり、翌年の住民税額に影響を与えずに済むわけです。
あえて確定申告するメリット・デメリット
申告不要で済むのに、なぜあえて確定申告をするケースがあるのでしょうか?それは、複数の証券口座での損益を通算したり(損益通算)、その年に引ききれなかった損失を翌年以降3年間繰り越したり(繰越控除)するためです。これらの特例を使うと、払いすぎた税金が戻ってくる可能性があります。
しかし、デメリットもあります。確定申告をすると、申告不要制度を使わずにその所得を自分の公式な所得として申告することになります。その結果、翌年の住民税が増えるだけでなく、後述する国民健康保険料の増加や扶養から外れるなどの影響が出る可能性があるのです。
令和6年度からの税制改正(課税方式の一致)
ここで一つ重要な注意点があります。以前は、所得税では確定申告をし、住民税では申告不要制度を選択するという、別々の課税方式を選ぶことが可能でした。
しかし、税制改正により、令和5年分の所得(令和6年度の住民税)から、所得税と住民税の課税方式を一致させることになりました。つまり、所得税で確定申告をしたら、自動的に住民税でも同じ内容で申告したことになります。申告するかしないかの判断が、より一層重要になったと言えますね。
住民税への影響はいつまで続く?
さて、一番気になる「影響はいつまで続くのか?」という疑問にお答えします。基本的には一時的なものなので、安心してくださいね。
譲渡の翌年:住民税額が大きく変動
これまで説明したように、譲渡所得が発生した年の翌年の住民税は、その所得分が上乗せされて計算されるため、金額が大きく上がります。6月頃に届く住民税の納税通知書を見て、驚く方も少なくありません。これは、1年限りの特別な状況です。
譲渡の翌々年:影響はなくなるのが基本
譲渡があった翌年に、他に大きな所得がなければ、翌々年の住民税は通常の状態に戻ります。例えば、2024年に不動産を売却した場合、影響が出るのは2025年度の住民税だけです。2026年度の住民税は、2025年中の所得(譲渡所得がない状態)を基に計算されるため、元の水準に戻るのが一般的です。
例外:繰越控除を適用した場合
ただし、例外もあります。それは、株式の譲渡損失などを「繰越控除」した場合です。損失を繰り越して翌年以降の利益と相殺するためには、損失が出た年だけでなく、利益が出た年も連続して確定申告をする必要があります。
この確定申告をする限り、その申告内容が住民税の計算にも反映され続けるため、間接的に影響が続くことになります。
譲渡所得が住民税以外に与える影響
確定申告によって譲渡所得が合計所得金額に含まれると、住民税だけでなく、社会保険料や各種行政サービスにも影響が出ることがあります。これも翌年1年間の影響ですが、見過ごせないポイントです。
国民健康保険料(税)の計算
国民健康保険に加入している場合、保険料は前年の所得を基に計算されます。譲渡所得を申告すると、所得割額が計算される際の基準所得が増えるため、国民健康保険料が大幅に上がる可能性があります。場合によっては、税金の還付額よりも保険料の増加額の方が大きくなるケースもあるので、慎重な判断が必要です。
配偶者控除や扶養控除の判定
配偶者控除や扶養控除が受けられるかどうかは、控除対象者の合計所得金額で判定されます。例えば、パート収入を調整して扶養に入っている方が株式の譲渡所得を申告した結果、合計所得金額が48万円を超えてしまうと、扶養から外れてしまうことがあります。そうなると、世帯全体の手取りが減ってしまう可能性も考えられます。
その他の行政サービスへの影響
所得金額は、他にも様々な行政サービスの基準になっています。所得が増えることで、以下のようなサービスに影響が出る可能性があります。
- 高額療養費の自己負担限度額
- 保育料の算定
- 児童手当などの各種手当の所得制限
- 公営住宅の家賃
申告をする場合は、これらの影響も総合的に考えることが大切です。
まとめ
不動産や株式の分離課税による譲渡所得は、翌年の住民税に影響します。しかし、その影響は一時的なもので、翌々年には基本的に元に戻りますので、過度な心配は不要です。
ただし、確定申告をするかどうかの選択は、住民税だけでなく国民健康保険料や扶養控除など、暮らしの様々な面に影響を及ぼします。特に株式の譲渡所得については、申告不要制度をうまく活用することがポイントです。
大きな利益が出たときこそ、税金の仕組みを正しく理解し、ご自身の状況に合った最適な選択をしてくださいね。
参考文献
譲渡所得と住民税に関するよくある質問まとめ
Q.不動産や株式を売却して利益(譲渡所得)が出たら、翌年の住民税は高くなりますか?
A.はい、高くなります。譲渡所得は分離課税として計算され、その所得に対して課税された住民税が、売却した年の翌年6月から請求される住民税に上乗せされます。
Q.譲渡所得による住民税の上乗せは、いつまで続きますか?翌々年も影響しますか?
A.住民税への影響は、譲渡所得があった年の翌年のみです。住民税はその年の前年の所得をもとに計算されるため、翌々年の住民税には影響しません。ただし、翌々年に別の譲渡所得があれば、その影響はあります。
Q.譲渡所得の住民税はいつ、どのように支払うのですか?
A.確定申告を行うと、その情報が市区町村に連携されます。給与所得者の場合は翌年6月から毎月の給与天引き(特別徴収)で、それ以外の方は年4回に分けて納付書で支払う(普通徴収)のが一般的です。
Q.株式の特定口座(源泉徴収あり)で利益が出た場合も、住民税に影響しますか?
A.特定口座(源泉徴収あり)で確定申告をしない場合は、利益が出た時点で所得税と住民税が源泉徴収されているため、翌年の住民税額に直接上乗せされることはありません。ただし、確定申告をすると翌年の住民税に影響します。
Q.不動産や株式の譲渡で損失が出た場合、住民税は安くなりますか?
A.分離課税の譲渡損失は、原則として給与所得など他の所得と相殺できないため、住民税が安くなることはありません。ただし、確定申告で損失を繰り越すことで、翌年以降の譲渡所得と相殺することは可能です。
Q.譲渡所得があっても、住民税を非課税にすることはできますか?
A.住民税には非課税限度額がありますが、譲渡所得は分離課税として別に計算されるため、譲渡所得があることで非課税の基準を超えてしまい、住民税が課税されるケースがほとんどです。