相続財産を社会のために寄付して役立てたい、というご相談をいただくことがあります。特に不動産を相続した場合、維持管理や固定資産税の支払いが大変なため、不動産を売却して現金に変えてから寄付したいと考える方もいらっしゃいます。そこで気になるのが、「不動産を売却したお金を寄付しても、所得税の寄付金控除や相続税の非課税のルールは適用できるのか?」という点です。この記事では、不動産を換価して寄付した場合の税金の仕組みや注意点について、やさしく詳しく解説していきます。
相続財産を寄付したときの相続税と寄付金控除の基本
相続した財産を特定の団体に寄付すると、相続税や所得税の負担を軽くできる制度があります。まずはこの基本的な仕組みについて知っておきましょう。
寄付した財産には相続税がかからない仕組み
相続や遺贈で受け取った財産を、相続税の申告期限である「亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」に寄付した場合、その寄付した金額分は相続税の計算対象から外すことができます。たとえば、基礎控除額を上回る課税対象の相続財産が5,000万円あり、そのうち現金1,000万円を寄付した場合、残りの4,000万円に対してのみ相続税が計算されます。税率が15%であれば、単純計算で150万円の相続税を減らす効果があります。
特例が使える寄付先は限定されている点に注意
どこに寄付しても相続税が非課税になるわけではありません。特例の対象となる寄付先は、国や地方自治体(都道府県や市区町村)、日本赤十字社や私立学校法人などの「特定の公益法人」、そして都道府県知事などから認定を受けた「認定NPO法人」に限られています。一般的な宗教法人や、株式会社などへの寄付は相続税の非課税対象外となりますので注意が必要です。
所得税や住民税の寄付金控除もあわせて使える
対象となる団体へ寄付をした場合、相続税が非課税になるだけでなく、寄付をした相続人ご自身の所得税や住民税でも寄付金控除を受けられるメリットがあります。たとえば所得税の場合、「寄付した金額-2,000円」を基準に計算された金額が税金から安くなります。ただし、寄付できる金額はご自身の年間総所得金額の40%が上限となります。ふるさと納税の制度を活用して地方自治体に寄付を行えば、寄付金額の30%相当の返礼品を受け取ることも可能です。
不動産を売却して寄付した場合の相続税はどうなる?
それでは、今回の本題である「相続した不動産を売却して、そのお金を寄付した場合」の相続税の取り扱いを見ていきましょう。
| 不動産の寄付方法 | 相続税の非課税特例の適用 |
| 不動産を売却(換価)して現金を寄付 | 適用不可(通常通り相続税が課税される) |
| 不動産をそのまま(現物)寄付 | 適用可能(要件を満たせば非課税になる) |
売却して現金化すると相続税の非課税特例は使えない
結論からお伝えすると、相続した不動産を売却して現金化し、その現金を寄付した場合は、相続税の非課税特例の対象外となってしまいます。国税庁のルールでは、相続税を非課税にするためには「相続した財産を、そのままの形(現物)で寄付すること」が絶対条件とされているからです。
なぜ不動産を現金に変えてはいけないのか
相続税の計算上、亡くなった方が残した財産そのものを寄付するからこそ、その財産を相続税の対象から外すという考え方をしています。一度不動産を売却して現金に変えてしまうと、それは「相続した財産そのもの」ではなく、「相続人が売却して得た相続人自身の固有の財産」に変わったとみなされてしまいます。そのため、たとえ不動産の売却代金3,000万円の全額を寄付したとしても、不動産の評価額に対して通常通り相続税が課税されてしまうのです。
そのまま寄付(現物寄付)する場合のハードル
では、現物のまま不動産を寄付すれば良いのかというと、それも簡単ではありません。寄付を受ける側の自治体や公益法人などは、利用価値が低い土地や、固定資産税・維持管理費がかかる建物の寄付を断ることが多いからです。現物寄付をする場合は、事前に寄付先へ「この不動産を受け入れてもらえるか」を相談し、了承を得る必要があります。
不動産を売却して寄付した場合の所得税・住民税の扱い
不動産を売却すると相続税の非課税特例は使えなくなりますが、所得税や住民税の寄付金控除はどうなるのでしょうか。
所得税の寄付金控除は確定申告で適用できる
不動産を売却して得た現金は、相続人ご自身の財産という扱いになります。そのため、その現金を国や認定NPO法人などに寄付した場合、ご自身の翌年の確定申告において所得税の寄付金控除を適用することは可能です。寄付金額から2,000円を引いた額に所得税率を掛けた金額が控除されますが、ご自身の年間総所得金額の40%が限度となるため、数千万円の売却代金すべてが控除しきれない場合がある点には注意してください。
住民税の寄付金控除もあわせて対象になる
所得税と同様に、お住まいの自治体で認められた団体や、ふるさと納税として地方自治体に寄付をした場合は、住民税の寄付金控除も受けることができます。住民税の場合はご自身の総所得金額等の30%が基本控除の計算上限となります。ふるさと納税の特例控除を利用する場合は、住民税所得割額の20%が上限となります。
不動産を売却したときにかかる譲渡所得税の注意点
不動産を売却して寄付する際、もう一つ忘れてはいけないのが、不動産を売ったこと自体にかかる税金の問題です。
不動産の売却益には税金がかかる
相続した不動産を第三者に売却して利益(譲渡益)が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税」と「住民税」がかかります。亡くなった方が不動産を取得したときの購入代金(取得費)や、売却にかかった仲介手数料(譲渡費用)を差し引いても利益が出る場合は、売却した翌年の2月16日から3月15日の間に確定申告をして税金を納めなければなりません。所有期間が5年を超える長期譲渡所得の場合、税率は約20%となります。
取得費がわからないと税金が高額になる
先祖代々受け継いできた土地などで、当時の購入代金がわからないケースは非常に多いです。この場合、売却代金のわずか5%を取得費として計算しなければならず、結果として多額の譲渡所得税が発生してしまいます。たとえば3,000万円で売却した場合、150万円しか取得費として引けないため、税金が高額になりやすいのです。
取得費加算の特例が使えるか確認を
もし相続税を納めている場合、「相続税の申告期限から3年以内(亡くなった日から3年10ヶ月以内)」にその不動産を売却すれば、納めた相続税の一部を不動産の取得費に上乗せできる「取得費加算の特例」が使えます。これにより譲渡所得税を大幅に抑えることができるため、売却して寄付を検討する際は、この特例の期限内に手続きを進めることをおすすめします。
現物のまま寄付したときの「みなし譲渡所得課税」とは
「売却すると相続税がかかるなら、やはり現物のまま不動産を寄付しよう」と考えた場合にも、思わぬ落とし穴があります。
みなし譲渡所得課税の仕組み
個人が法人(公益法人など)に対して不動産を現物のまま寄付した場合、税務上は「その時の時価で不動産を売却して、その代金を寄付した」とみなされてしまいます。これを「みなし譲渡所得課税」と呼びます。実際に現金を受け取っていないのに、値上がり益があったとされて高額な所得税がかかってしまう危険性があるのです。
国や自治体への寄付なら非課税になる
ただし、寄付先が国や地方自治体(都道府県・市区町村)である場合は、この「みなし譲渡所得課税」は非課税となります。また、公益法人等への寄付であっても、事前に国税庁長官の承認(租税特別措置法第40条の承認)を受ける手続きをすれば非課税にすることが可能です。現物寄付をする場合は、この承認手続きが必須となります。
まとめ
相続した不動産を売却して寄付する場合、一番の注意点は「相続税の非課税特例が使えなくなること」です。現金化してしまうと現物寄付の絶対要件から外れてしまうため、不動産に対する相続税は通常通り支払う必要があります。しかし、売却した現金をご自身の財産として寄付することで、所得税や住民税の寄付金控除を活用することは十分に可能です。また、不動産の売却に伴う約20%の譲渡所得税の負担も考慮しなければなりません。不動産の寄付は現物のまま行うにしても、換価して行うにしても、複雑な税金の仕組みが絡み合います。ご自身のケースで一番手元にお金が残り、社会貢献のメリットが大きくなる方法はどれか、慎重に検討することが大切です。
参考文献
国税庁 No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき
国税庁 No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)
不動産相続と寄付金控除のよくある質問まとめ
Q.相続財産から寄付をすると相続税はどうなりますか?
A.国や自治体、認定NPO法人など所定の団体へ申告期限内(亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内)に寄付すれば、その寄付した金額分の相続税は非課税になります。
Q.相続した不動産を売却してから現金を寄付した場合、相続税は非課税になりますか?
A.いいえ、不動産を売却して換価してから現金で寄付した場合は、相続財産そのものの寄付とはみなされないため、相続税の非課税特例の対象外となり通常通り課税されます。
Q.不動産を売却して寄付した場合、所得税の寄付金控除は受けられますか?
A.はい。売却した代金は相続人ご自身の財産となるため、対象団体に寄付をして確定申告を行うことで、所得税や住民税の寄付金控除を受けることができます。
Q.相続税が非課税になる寄付先の団体はどこでもよいのですか?
A.いいえ。国、地方自治体、特定の公益法人、都道府県知事等の認定を受けた認定NPO法人などに限定されています。一般的な株式会社や宗教法人は対象外です。
Q.不動産を現物のまま寄付すれば税金はかかりませんか?
A.相続税は非課税になりますが、公益法人へ寄付する場合はみなし譲渡所得税がかかる可能性があります。国税庁長官の承認手続きを行うことで非課税にすることができます。
Q.寄付をして相続税がゼロ円になる場合、相続税の申告は不要ですか?
A.寄付の非課税特例を適用した結果、相続税がゼロ円になる場合であっても、特例の適用を受けるための相続税申告書と寄付の証明書の提出は必ず必要です。