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不動産オーナー必見!家族信託のメリット・デメリットを徹底解説

2025-10-17
目次

大切な不動産を家族のために守りたい、そうお考えの不動産オーナー様も多いのではないでしょうか。しかし、ご自身が認知症になってしまったら、不動産の売却や管理ができなくなる「資産凍結」のリスクがあります。そんな不安を解決する一つの方法として注目されているのが「家族信託」です。この記事では、不動産オーナー様が家族信託を活用する上でのメリットとデメリット、そして注意点について、分かりやすく解説していきますね。

家族信託ってそもそも何?不動産オーナーが知るべき基本

「家族信託」と聞くと、少し難しく感じるかもしれませんね。でも、仕組みは意外とシンプルなんですよ。簡単に言うと、ご自身の元気なうちに、信頼できるご家族に不動産などの財産の管理や処分を託す契約のことです。ご自身の意思決定が難しくなった後も、託されたご家族が契約内容に従って財産を管理してくれるので、資産凍結の心配がなくなるんです。

登場人物は3人!家族信託の仕組み

家族信託には、主に3人の登場人物がいます。それぞれの役割を理解すると、グッと分かりやすくなりますよ。

委託者(いたくしゃ) 財産を託す人。不動産オーナーであるご自身(親など)がこれにあたります。
受託者(じゅたくしゃ) 財産を託される人。信頼できるお子さんなどがなることが多いです。財産の管理や処分を行います。
受益者(じゅえきしゃ) 信託された財産から得られる利益(家賃収入など)を受け取る人。多くの場合、最初は委託者ご自身が受益者になります。

例えば、お父様が所有するアパートを「委託者」として、長男に「受託者」として信託します。アパートから得られる家賃収入は「受益者」であるお父様が受け取るといった形です。これなら、お父様が将来認知症になっても、長男がアパートの修繕や入居者との契約などを滞りなく進められますね。

遺言や成年後見制度との違いは?

「遺言や成年後見制度でも同じようなことができるのでは?」と思われるかもしれません。それぞれ役割が違うので、比較してみましょう。

家族信託 生前の資産管理から死後の資産承継まで、柔軟に設計できます。資産凍結を防ぎ、スムーズな承継を実現するのが得意です。
遺言 亡くなった後の財産の分け方を指定するものです。生前の資産凍結対策にはなりません。
成年後見制度 認知症などで判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所が選んだ後見人が財産を管理します。本人の財産を守ることが最優先のため、積極的な資産活用(不動産の売却や建て替えなど)は難しいことが多いです。

このように、家族信託はオーナー様の意思を反映させながら、生前から亡くなった後まで、長期にわたって柔軟に資産を守り、承継できるという大きな特徴があります。

不動産オーナーにとっての家族信託5つのメリット

それでは、不動産オーナー様が家族信託を活用することで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。特に重要な5つのポイントを見ていきましょう。

メリット① 認知症による資産凍結を防げる

最大のメリットは、認知症などによる「資産凍結」を未然に防げることです。オーナー様の判断能力が低下すると、預金口座が凍結されるだけでなく、所有するアパートの売却、大規模修繕、建て替えといった重要な契約行為が一切できなくなってしまいます。家族信託を設定しておけば、受託者であるお子さんなどがオーナー様に代わって契約手続きを進められるため、不動産経営がストップする事態を避けられます。

メリット② スムーズな資産承継と事業承継が可能に

家族信託は、円滑な資産承継の設計にも非常に有効です。遺言では「誰にどの財産を」という一代限りの指定しかできませんが、家族信託なら「自分が亡くなったら、まずは妻に家賃収入を。妻が亡くなったら、その権利を長男に引き継がせる」といったように、数世代にわたる資産の承継先を決めておく(受益者連続型信託)ことができます。これにより、アパート経営などの事業をスムーズに次の世代へ引き継がせることが可能になります。

メリット③ 遺産分割協議が不要で相続トラブルを回避

不動産は現金のように簡単に分割できないため、相続の際にトラブルの原因になりやすい財産です。信託契約によって不動産の承継先をあらかじめ指定しておけば、その不動産は遺産分割協議の対象から外れます。相続が発生した際に、相続人全員で話し合う「遺産分割協議」を経ずに、指定された人が不動産を承継できるため、「誰が不動産を相続するのか」で揉める心配がありません。

メリット④ 柔軟な財産管理と承継の設計ができる

ご家族の状況に合わせて、オーダーメイドの契約内容を作れるのも家族信託の魅力です。例えば、「障がいのある子どものために、生涯にわたって生活費を渡せるようにしたい」「浪費癖のある子に、一度に大きな財産が渡らないようにしたい」といった、オーナー様の想いを具体的に形にすることができます。遺言や後見制度では実現が難しい、きめ細やかな財産管理が可能になります。

メリット⑤ 倒産隔離機能がある

これは少し専門的な話になりますが、とても重要な機能です。信託された不動産は、受託者(お子さんなど)個人の財産とは法的に区別して管理されます。そのため、万が一受託者が個人的な事業で失敗して破産してしまったとしても、信託された不動産が差し押さえられることはありません。これを「倒産隔離機能」といい、大切な資産を安全に守ることができます。

知っておきたい!家族信託4つのデメリットと注意点

メリットの多い家族信託ですが、もちろん良いことばかりではありません。契約する前に、デメリットや注意点もしっかり理解しておくことが大切です。

デメリット① 専門家への費用がかかる

家族信託は非常に自由度が高い分、契約書の作成は複雑になります。そのため、司法書士や弁護士といった専門家のサポートが不可欠です。専門家へのコンサルティング費用として、信託する財産評価額の0.5%~1%程度(最低でも30万円~50万円程度)がかかるのが一般的です。その他、契約書を公正証書にするための手数料や、不動産の信託登記にかかる登録免許税(固定資産税評価額の0.3%~0.4%)などの実費も必要になります。

デメリット② 損益通算ができない

これは不動産オーナー様にとって非常に重要な税務上の注意点です。通常、アパート経営などで赤字が出た場合、その赤字を給与所得など他の黒字の所得と相殺(損益通算)して、所得税や住民税を抑えることができます。しかし、信託した不動産から生じた赤字は、他の所得と損益通算することが法律で認められていません。空室が多い時期など、不動産経営が赤字になる可能性も考慮しておく必要があります。

デメリット③ 節税効果は直接的にはない

「信託」という言葉から、相続税対策になるイメージを持たれるかもしれませんが、家族信託そのものに直接的な節税効果はありません。財産の所有権は形式的に受託者に移りますが、税務上は受益者(当初はオーナー様ご自身)が所有しているものとして扱われるため、相続税の課税対象であることに変わりはないのです。あくまで資産凍結の防止や円満な資産承継を目的とした制度だと理解しておきましょう。

デメリット④ 受託者(子)の負担が大きい

受託者に指名されたお子さんなどには、財産を適切に管理する大きな責任(善管注意義務)が生じます。信託された不動産の管理運営はもちろん、毎年、信託に関する計算書を作成したり、税務署へ書類を提出したりといった事務的な負担も発生します。誰を受託者にするかは、本人の意思や能力、他の家族との関係性も考慮して慎重に決める必要があります。事前に十分な話し合いをすることが不可欠です。

家族信託を始めるための具体的な流れ

実際に家族信託を始めるには、どのようなステップを踏むのでしょうか。大まかな流れをご紹介します。

ステップ1:目的の明確化と家族会議
なぜ家族信託をしたいのか、誰に何を託したいのかを明確にし、家族(特に受託者候補)と話し合い、理解と協力を得ます。

ステップ2:専門家への相談
司法書士や弁護士など、家族信託に詳しい専門家に相談し、ご自身の希望に沿った信託の設計をしてもらいます。

ステップ3:信託契約書案の作成
専門家と打ち合わせを重ねながら、信託する財産、受託者、受益者、信託の目的などを具体的に定めた契約書案を作成します。

ステップ4:信託契約書の公正証書化
作成した信託契約書は、後々のトラブルを防ぐためにも、公証役場で「公正証書」として作成するのが一般的です。

ステップ5:信託口口座の開設と不動産登記
信託財産を管理するための専用口座「信託口口座」を開設し、不動産の名義を「委託者」から「受託者」へ変更する「所有権移転および信託登記」を法務局で行います。

不動産オーナーが家族信託を検討すべきケース

では、どのような不動産オーナー様が家族信託の活用を検討すると良いのでしょうか。いくつか具体的なケースを挙げてみます。

  • 将来の認知症に備え、資産凍結のリスクを完全になくしたい方
  • 所有する不動産が複数あり、管理や承継に不安を感じている方
  • ご自身が築いたアパート・マンション経営を、円満に子どもへ引き継ぎたい方
  • 相続人同士が不動産の分け方で揉めないように、生前に対策を講じておきたい方
  • 障がいのあるお子さんなど、ご自身の亡き後の生活が心配なご家族がいる方

これらのいずれかに当てはまる方は、家族信託が有効な選択肢になる可能性があります。

まとめ

今回は、不動産オーナー様のための家族信託について、メリットとデメリットを中心にお話ししました。家族信託は、認知症による資産凍結を防ぎ、ご自身の想いを反映させた円満な資産承継を実現できる、非常に強力なツールです。一方で、専門家への費用が発生したり、損益通算ができないといった税務上の注意点もあります。大切なのは、ご自身の家族構成や資産状況をふまえ、メリットとデメリットを正しく理解することです。ぜひ信頼できる専門家とも相談しながら、ご家族にとって最適な方法を見つけてくださいね。

不動産オーナーのための家族信託 よくある質問まとめ

Q.不動産オーナーが家族信託を利用する最大のメリットは何ですか?

A.認知症などで判断能力が低下しても、受託者である家族が不動産の売却や建て替え、大規模修繕などをスムーズに行えることです。資産が凍結されるリスクを防ぎ、積極的な資産活用を続けられます。

Q.家族信託のデメリットや注意点を教えてください。

A.専門家への報酬や登記費用など、初期コストがかかる点がデメリットです。また、一度契約を始めると内容の変更が難しい場合があることや、税務上の大きな節税効果は期待できない点に注意が必要です。

Q.認知症になってからでも家族信託は始められますか?

A.原則として、ご本人の判断能力が低下してしまった後では、有効な信託契約を結ぶことはできません。家族信託は、判断能力がしっかりしているうちに準備を始めることが最も重要です。

Q.家族信託と成年後見制度の違いは何ですか?

A.家族信託は、判断能力があるうちに本人の意思で財産管理の方法を自由に設計できる「事前の対策」です。一方、成年後見制度は、判断能力が低下した後に家庭裁判所が財産管理人を選任する制度で、財産の「保護」が目的となり柔軟な活用は難しくなります。

Q.家族信託をすると不動産に関する税金は変わりますか?

A.信託を設定しただけでは、贈与税や不動産取得税はかかりません。家賃収入に対する所得税や固定資産税も、引き続き実質的な所有者(受益者)が納めるため、税負担は基本的に変わりません。

Q.家族信託にかかる費用はどれくらいですか?

A.信託する財産の額や契約内容の複雑さによって大きく異なりますが、専門家へのコンサルティング料、公正証書作成費用、不動産の信託登記費用(登録免許税など)が主な費用となります。事前に複数の専門家から見積もりを取ることをお勧めします。

事務所概要
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