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不動産保有の資産管理会社設立前に知りたい!適用される税法まとめ

2025-04-22
目次

不動産を多くお持ちの方が、節税や相続対策のために「資産管理会社」を設立するケースが増えていますね。でも、会社にするとどんな税金がかかるの?個人とどう違うの?と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。この記事では、不動産を保有する資産管理会社に適用される税法について、個人との違いも交えながら、わかりやすく解説していきます。

資産管理会社にかかる主な税金とは?

資産管理会社を設立すると、個人事業主とは異なる「法人」としての税金がかかります。具体的にどんな税金があるのか、まずは全体像を見ていきましょう。主なものは法人税法人住民税法人事業税です。これらを合わせて「法人税等」と呼ぶこともあります。

法人税

会社の利益(所得)に対して課される国の税金です。個人の所得税が累進課税で所得が増えるほど税率が高くなるのに対し、法人税の税率は一定の範囲で定められています。資本金1億円以下の中小法人の場合、所得が年800万円以下の部分は15%、800万円を超える部分は23.2%の税率が適用されます。個人の所得税率が最大45%になることを考えると、所得が高い方ほど法人化のメリットが大きくなる可能性がありますね。

法人住民税

会社の所在地である都道府県や市町村に納める地方税です。法人住民税は、法人税額に応じて課税される「法人税割」と、会社の規模(資本金など)に応じて赤字でも課税される「均等割」の2つで構成されています。つまり、会社が赤字でも最低限の税負担(東京都23区内の場合、最低でも年間7万円)が発生する点は覚えておきましょう。

法人事業税

会社の事業活動に対して、都道府県が課税する地方税です。これも会社の所得を基準に計算されます。資本金1億円以下の中小法人の場合、所得に応じて3.5%~7.0%の税率が適用されます(標準税率の場合)。また、法人事業税の一部は「特別法人事業税」という国の税金として納めることになります。

個人(不動産オーナー)と資産管理会社の税金の違い

資産管理会社を設立する最大の目的の一つが節税です。では、具体的に個人で不動産を所有する場合と比べて、税金面でどのような違いがあるのでしょうか。所得税と法人税の税率の違いだけでなく、経費の範囲や損失の取り扱いなど、様々な点で違いがあります。

税率の違いを比較

最も大きな違いは、所得にかかる税率です。個人の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税」が採用されており、住民税と合わせると最大で55%にもなります。一方、法人税等の実効税率は、会社の規模にもよりますが、おおむね20%~35%程度です。所得が高い方ほど、法人化することで税率を抑える効果が期待できます。

項目 個人(所得税・住民税)
税率構造 累進課税(所得に応じて5%~45% + 住民税約10%)
課税所得900万円超の税率 33%~(住民税含む)
項目 法人(法人税等・実効税率)
税率構造 比例税率(所得800万円以下は軽減税率あり)
実効税率の目安 約20%~35%

経費として認められる範囲の広さ

法人化すると、経費として認められる範囲が個人事業主よりも広くなります。例えば、ご家族を役員にして支払う役員報酬や、退職金を支払う場合の役員退職金も経費にできます。また、生命保険料の一部を経費にしたり、自宅を社宅扱いにして家賃の一部を経費にしたりすることも可能です。これにより、課税対象となる所得を効果的に圧縮できます。

欠損金の繰越控除期間

不動産経営で赤字(欠損金)が出てしまった場合、その赤字を翌年以降の黒字と相殺できる「繰越控除」という制度があります。この繰越期間が、個人(青色申告)の場合は最長3年間なのに対し、法人の場合は最長10年間と長くなっています。大規模修繕などで一時的に大きな赤字が出た場合でも、長期間にわたって黒字と相殺できるのは法人ならではのメリットです。

不動産を会社に移転するときの税金

個人で所有している不動産を資産管理会社に移す際にも、税金がかかることを忘れてはいけません。どのような税金が発生するのか、事前にしっかり確認しておきましょう。主なものとして、個人にかかる譲渡所得税と、法人にかかる不動産取得税・登録免許税があります。

個人にかかる「譲渡所得税」

個人が法人に不動産を売却(譲渡)した際、売却益(譲渡所得)に対して所得税と住民税がかかります。税率は不動産の所有期間によって異なり、5年以下の短期譲渡所得なら約39%、5年超の長期譲渡所得なら約20%です。時価よりも著しく低い価格で売却すると、時価で売却したものとみなされて課税される(みなし譲渡)ことがあるため、売却価格の設定には注意が必要です。

法人にかかる「不動産取得税」と「登録免許税」

法人が不動産を取得した際には、不動産取得税が課されます。税額は、不動産の固定資産税評価額の3%(土地・住宅の場合)または4%(住宅以外の家屋の場合)です。また、不動産の所有権を法人名義に変更するための登記手続きで、登録免許税も必要になります。こちらは固定資産税評価額の2%(売買の場合)です。これらの税金は、不動産を会社に移す際の初期コストとして考慮しておく必要があります。

相続・贈与に関する税法の違い

資産管理会社は、相続対策としても有効です。不動産そのものを相続するのではなく、資産管理会社の株式を相続することで、評価額を下げたり、遺産分割をスムーズにしたりする効果が期待できます。

相続税評価額の引き下げ効果

個人で不動産を所有している場合、相続税評価額は路線価や固定資産税評価額を基に計算されます。一方、資産管理会社の株式を相続する場合、その会社の株式の評価額を計算します。この際、会社の純資産額から不動産の含み益に対する法人税等相当額(約37%)を控除できるため、結果として不動産を直接相続するよりも相続税評価額を低く抑えられる可能性があります。

遺産分割がスムーズに

複数の不動産を複数の相続人で分けるのは、手続きが煩雑でトラブルの原因にもなりがちです。しかし、不動産を資産管理会社にまとめておけば、相続財産は「会社の株式」という均質なものになります。これにより、「長男にA社の株を〇株、次男に△株」というように、株式の数で簡単に分割できるため、公平でスムーズな遺産分割が可能になります。

注意!事業承継税制の適用について

中小企業の事業承継を支援する「事業承継税制」という制度があります。これは、会社の株式を後継者に贈与・相続した際にかかる贈与税や相続税の納税が猶予・免除されるという非常に有利な制度です。しかし、不動産保有がメインの資産管理会社の場合、この制度の適用対象外となる可能性が高いので注意が必要です。

資産管理会社が対象外となる理由

事業承継税制は、あくまで「事業」の承継を円滑にするための制度です。そのため、特定の資産(有価証券、自社で利用していない不動産、現預金など)の保有割合が総資産の70%以上を占める「資産保有型会社」や、これらの資産からの運用収入が総収入の75%以上となる「資産運用型会社」は、原則として事業承継税制の対象外とされています。不動産賃貸業がメインの資産管理会社の多くは、これに該当する可能性が高いです。

例外的に適用されるケース

ただし、資産管理会社に該当する場合でも、一定の要件を満たせば「事業実態がある」とみなされ、例外的に事業承継税制の適用を受けられることがあります。具体的な要件は、「常時使用する従業員(親族外)が5人以上いること」や「3年以上継続して商品販売や資産の貸付けを行っていること」など、ハードルは決して低くありません。適用を検討する場合は、必ず専門家にご相談ください。

まとめ

不動産保有の資産管理会社を設立すると、法人税法が適用され、個人の所得税法とは異なる税金のルールが適用されます。所得税率との比較だけでなく、経費の範囲、欠損金の繰越控除、相続税評価など、多くの面でメリットが期待できます。一方で、設立や資産移転時のコスト、赤字でも発生する法人住民税などのデメリットも存在します。ご自身の資産状況や将来の展望に合わせて、どの方法が最適なのかを慎重に検討することが大切です。税法は複雑で改正も多いため、専門家である税理士に相談しながら進めることをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.5759 法人税の税率

国税庁 No.2260 所得税の税率

国税庁 No.7191 登録免許税の税額表

国税庁 No.2600 役員に社宅などを貸したとき

中小企業庁 事業承継税制(特例措置)の前提となる認定について

資産管理会社の税金に関するよくある質問まとめ

Q. 資産管理会社を設立する税務上のメリットは何ですか?

A. 所得税と法人税の税率差を利用した節税、所得の分散による税負担の軽減、経費計上できる範囲の拡大、相続税対策などが挙げられます。特に高所得者の方ほどメリットが大きくなります。

Q. 資産管理会社にはどのような税金がかかりますか?

A. 主に法人税、法人住民税、法人事業税がかかります。また、不動産を所有しているため固定資産税や都市計画税、不動産取得時には不動産取得税も課税されます。消費税の課税事業者になる場合もあります。

Q. 個人で不動産を所有するのと、資産管理会社で所有するのとでは、税金はどう違いますか?

A. 個人所有の場合、不動産所得に所得税・住民税が課されます。所得税は累進課税のため所得が多いほど税率が高くなります。一方、法人所有の場合は法人税が課され、税率は一定のため、所得が多いほど法人の方が税率上有利になる可能性があります。

Q. 資産管理会社は相続税対策として有効ですか?

A. はい、有効な場合があります。役員報酬や退職金を支払うことで会社の株式評価額を計画的に引き下げ、相続財産を圧縮することで相続税の負担を軽減できる可能性があります。

Q. 資産管理会社で経費にできるものは何ですか?

A. 個人の場合より経費として認められる範囲が広くなります。例えば、役員報酬、退職金、生命保険料、社宅の家賃、出張手当など、事業に関連する様々な費用を経費として計上することが可能です。

Q. 資産管理会社を設立する際の税務上の注意点はありますか?

A. 設立や運営にコストがかかる点です。法人設立登記費用や税理士への顧問料が発生します。また、利益が出ていなくても法人住民税の均等割は毎年かかります。メリットとデメリットを総合的に判断することが重要です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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対応責任者
税理士 島本 雅史

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