ご両親が相次いで亡くなったとき、二次相続という問題が起こります。実は、1回目(一次相続)の時と同じように考えていると、思わぬ高額な相続税がかかったり、兄弟間でトラブルになったりすることがあるんです。この記事では、二次相続とは何か、どんな点に気をつけるべきか、そして損をしないための対策について、わかりやすく解説していきますね。
そもそも二次相続とは?一次相続との違い
ご両親のどちらかが亡くなった時に起こる相続。実は「一次」と「二次」の2段階で考えることがとても大切です。まずは、その基本的な違いと、なぜ二次相続が重要なのかを見ていきましょう。
一次相続と二次相続の基本的な流れ
相続は、ご両親が亡くなる順番によって「一次相続」と「二次相続」に分かれます。具体的な例で見てみましょう。
例えば、先にお父様が亡くなった場合、これが一次相続です。このとき、財産を相続する人(法定相続人)は、お母様とお子様たちになります。次に、お母様が亡くなった場合、これが二次相続です。お母様が亡くなったときの法定相続人は、お子様たちだけになります。
このように、二次相続では相続人の構成が変わることが大きなポイントです。特に、残された配偶者がいないため、相続税の計算や特例の適用で大きな違いが出てくるのです。
なぜ二次相続は「争族」になりやすいの?
二次相続がトラブルになりやすいのには理由があります。一次相続のときは、お母様(またはお父様)がご健在で、お子様たちの間の調整役やまとめ役になってくれることが多いです。親の意見があることで、お子様たちも感情的にならず、話し合いがスムーズに進みやすい傾向があります。
しかし、二次相続ではその「まとめ役」がいません。お子様たちだけで遺産分割協議を行うため、それぞれの配偶者の意見が加わったり、昔からの不満が出てきたりして、利害が直接ぶつかりやすくなります。特に不動産など分けにくい財産があると、話がこじれてしまい、「争族」に発展してしまうケースも少なくないのです。
二次相続で相続税が高くなる4つの理由
「二次相続は一次相続より税金が高い」とよく言われますが、それには明確な理由があります。知らずにいると、想像以上の税負担に驚くことになりかねません。ここでは、その主な4つの理由を詳しく解説します。
理由1:法定相続人が減り、基礎控除額が少なくなる
相続税には、「この金額までは税金がかかりません」という非課税の枠があり、これを基礎控除といいます。基礎控除額は以下の式で計算されます。
3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
法定相続人の数が多ければ多いほど、非課税枠は大きくなります。二次相続では配偶者が亡くなっているため、法定相続人が少なくとも1人減ります。その結果、基礎控除額が減ってしまうのです。
ケース | 基礎控除額の計算 |
一次相続(相続人:母、子2人=計3人) | 3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円 |
二次相続(相続人:子2人=計2人) | 3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円 |
この例では、二次相続の非課税枠が600万円も少なくなってしまいます。
理由2:最強の節税策「配偶者の税額軽減」が使えない
一次相続で非常に大きな節税効果を発揮するのが、「配偶者の税額軽減(通称:配偶者控除)」です。これは、亡くなった方の配偶者が相続した財産のうち、最低でも1億6,000万円までは相続税がかからないという非常に強力な制度です。
多くのご家庭では、この特例を使うことで一次相続の相続税をゼロにすることも可能です。しかし、二次相続では相続人に配偶者がいないため、この強力な特例を一切使うことができません。一次相続で多くの財産をお母様が引き継いでいると、その財産がそのまま二次相続の課税対象になってしまうのです。
理由3:生命保険金などの非課税枠が減ってしまう
亡くなった方が保険料を負担していた生命保険金や、死亡退職金にも基礎控除とは別の非課税枠があります。この非課税枠は以下の式で計算されます。
500万円 × 法定相続人の数
これも基礎控除と同じで、法定相続人が1人減る二次相続では非課税枠が小さくなります。例えば、相続人が母と子2人の場合、非課税枠は1,500万円(500万円×3人)ですが、子2人だけになると1,000万円(500万円×2人)に減ってしまいます。
理由4:「小規模宅地等の特例」の適用が難しくなる
ご自宅の土地などにかかる相続税を大幅に軽減できる「小規模宅地等の特例」という制度があります。これは、一定の要件を満たすと、土地の評価額を最大で80%も減額できるというものです。
一次相続では、同居していた配偶者が自宅を相続すれば、基本的にこの特例を使えます。しかし、二次相続では、お子様が相続することになります。もしお子様が親御様と同居していなかった場合、この特例を使うための要件が非常に厳しくなり、適用できないケースが多くなってしまうのです。自宅の土地は評価額が高いため、この特例が使えないと相続税額が跳ね上がってしまいます。
一次相続の分け方が重要!二次相続まで見据えた遺産分割
二次相続の税負担を軽くするためには、実は一次相続のときの遺産の分け方がカギを握っています。「一次相続の税金が安ければそれで良い」という考え方はとても危険です。ここでは、二次相続まで見据えた賢い遺産分割のポイントをご紹介します。
一次相続で配偶者が財産を相続しすぎない
一次相続の際、「お母さんの今後の生活が心配だから」と、ほとんどの財産をお母様に相続させることがあります。配偶者の税額軽減を使えば、1億6,000万円まで相続税はかからないので、一見すると最も得な方法に見えます。
しかし、これは納税を二次相続に先送りしているだけかもしれません。一次相続で財産を多く引き継いだお母様に、ご自身の預貯金など元々の財産があると、二次相続の対象となる財産が非常に大きくなってしまいます。その結果、一次相続と二次相続の合計の納税額で見ると、かえって損をしてしまうことがあるのです。お母様の生活に必要十分な財産を確保しつつ、一部の財産はお子様たちが一次相続で引き継ぐことも検討するのが賢明です。
シミュレーション:一次・二次相続の合計税額を比較
言葉だけでは分かりにくいので、具体的なモデルケースで見てみましょう。
【前提】
・父の財産:1億円
・母の固有財産:2,000万円
・相続人:母、子2人
遺産の分け方 | ケース1:一次相続で母がすべて相続 |
一次相続の相続税 | 0円(配偶者の税額軽減を適用) |
二次相続の対象財産 | 1億2,000万円(父から1億円+母の固有財産2,000万円) |
二次相続の相続税 | 約1,350万円 |
合計納税額 | 約1,350万円 |
遺産の分け方 | ケース2:一次相続で法定相続分どおり相続 (母:5,000万円、子A:2,500万円、子B:2,500万円) |
一次相続の相続税 | 約95万円(子の分のみ) |
二次相続の対象財産 | 7,000万円(父から5,000万円+母の固有財産2,000万円) |
二次相続の相続税 | 約600万円 |
合計納税額 | 約695万円(95万円+600万円) |
※税額は各種控除を考慮しない概算です。
このように、一次相続で少し税金を払ってでもお子様に財産を分けておいた方が、トータルで見ると約655万円も節税になるのです。
収益を生む財産は子どもに相続させる
賃貸アパートや駐車場、株式など、家賃や配当金といった収益を生み出す財産にも注意が必要です。もし、こうした収益物件をお母様が相続すると、二次相続までの間に財産がさらに増え続け、相続税の負担がより重くなってしまいます。
そこで、一次相続の際に、生活費の中心となる預貯金はお母様が相続し、将来的に財産を増やす可能性のある収益物件は、お子様たちが相続するという分け方も有効な対策の一つです。
二次相続に向けてできる生前対策
一次相続が終わった後でも、二次相続に備えてできる対策はあります。残されたお母様(またはお父様)が元気なうちに、お子様たちと協力して進めていきましょう。
生前贈与で財産を減らす
最も基本的な対策が生前贈与です。二次相続で相続人となるお子様たちへ、計画的に財産を贈与していくことで、将来の相続財産そのものを減らすことができます。贈与税には2つの制度があります。
暦年課税 | 1人あたり年間110万円までなら贈与税がかかりません。ただし、相続開始前7年以内(2024年1月1日以降の贈与が対象)の贈与は相続財産に持ち戻されるルールに注意が必要です。 |
相続時精算課税 | 2,500万円までの贈与が非課税になりますが、贈与した財産は相続時に相続財産に加算して相続税を計算します。2024年からは、この2,500万円の枠とは別に年間110万円の基礎控除が創設され、この分は相続財産に加算されず、贈与税もかからないため、使いやすくなりました。 |
どちらの制度が有利かはご家庭の状況によって異なるため、慎重な検討が必要です。
生命保険に加入して非課税枠を活用する
お母様がご自身の財産を使って生命保険に加入し、受取人をお子様たちにする方法も有効です。現金で持っているとそのまま相続財産になりますが、生命保険金として受け取ることで「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠が使えます。相続財産を非課税の財産に変えることができる上、保険金は受取人固有の財産なので遺産分割の対象にならず、納税資金としても活用しやすいのがメリットです。
配偶者居住権を設定して自宅の評価額を下げる
一次相続の際に「配偶者居住権」を設定するという方法もあります。これは、ご自宅の権利を「住む権利(配偶者居住権)」と「所有権」に分けて、お母様が居住権を、お子様が所有権を相続する仕組みです。
お母様は亡くなるまで無償で住み続けられますし、お子様が相続する所有権は「居住権の負担付き」となるため、通常の所有権よりも評価額が低くなり、相続税を抑えることができます。そして、お母様が亡くなったとき(二次相続時)、配偶者居住権は消滅するため、二次相続の課税対象にはなりません。
二次相続で使える特例「相次相続控除」とは?
もし、一次相続からあまり時間を置かずに二次相続が発生してしまった場合、短期間に二度も相続税を納めるのは大きな負担になります。そうした負担を軽減するために設けられているのが「相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)」という制度です。
相次相続控除の適用要件
この控除を受けるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 二次相続の相続人であること。
- 二次相続が、一次相続の開始から10年以内に起こったこと。
- 一次相続のときに、亡くなった方(二次相続での被相続人、つまりお母様など)が相続税を納めていること。
特に注意したいのが3つ目の要件です。一次相続で「配偶者の税額軽減」を適用して、お母様の納税額が0円だった場合、二次相続では相次相続控除を使うことができません。
控除額の計算方法
相次相続控除の金額は、一次相続で納めた相続税額を基に計算されます。詳しい計算式は複雑ですが、ポイントは「一次相続と二次相続の間隔が短いほど、控除額は大きくなる」という点です。一次相続からの経過年数1年につき10%ずつ控除できる金額が減っていき、10年経つとゼロになります。この制度の適用を忘れると大きな損をしてしまうので、必ず確認しましょう。
まとめ
ご両親が相次いで亡くなる二次相続は、一次相続とは違った難しさがあります。相続税が高くなりやすいだけでなく、ご兄弟間のトラブルにも発展しやすいデリケートな問題です。最も大切なのは、一次相続の遺産分割の段階から、二次相続のことまでを家族全員で見据えて話し合うことです。
一次相続でのお母様の取得分を調整したり、生前贈与や生命保険をうまく活用したりすることで、ご家族全体の税負担を大きく減らせる可能性があります。しかし、どの対策が最適なのかは、ご家庭の財産状況や家族構成によって様々です。判断に迷うときや、より確実に節税と円満な相続を実現したい場合は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
二次相続に関するよくある質問まとめ
Q.そもそも二次相続って何ですか?
A.両親のうち、先に亡くなった方からの相続を「一次相続」、その後に残されたもう一方の親が亡くなった際の相続を「二次相続」と呼びます。例えば、父が亡くなった時が一次相続、その後、母が亡くなった時が二次相続です。
Q.二次相続はなぜ税金が高くなると言われるのですか?
A.主に2つの理由があります。1つ目は、二次相続では配偶者がいないため、相続税を大幅に軽減できる「配偶者の税額軽減」が使えないこと。2つ目は、相続人が減ることで基礎控除額が少なくなる場合があるためです。
Q.一次相続の時にやっておくべき二次相続対策はありますか?
A.はい、あります。一次相続の際に、二次相続まで見据えた遺産分割をすることが重要です。例えば、二次相続で相続人となる子供に一次相続の段階から財産を一部渡しておく、生命保険を活用する、生前贈与を検討するなどの対策が考えられます。
Q.一次相続で「配偶者の税額軽減」を使うと二次相続で不利になるって本当ですか?
A.必ずしも不利になるわけではありませんが、注意が必要です。この特例を最大限に使うと一次相続の税金は安くなりますが、その分、配偶者の財産が増え、二次相続での税負担が重くなる可能性があります。全体の税額を考えてバランスの良い分割を検討することが大切です。
Q.二次相続の相続人は誰になりますか?
A.一般的には、亡くなった方(二次相続の被相続人)の子供たちが相続人になります。一次相続では「配偶者と子供」が相続人になることが多いですが、二次相続では配偶者がすでに亡くなっているため、子供たちのみが相続人となるケースがほとんどです。
Q.二次相続で使える特例や控除はありますか?
A.はい、二次相続でも「小規模宅地等の特例」や「未成年者控除」「障害者控除」などは要件を満たせば利用できます。また、一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合は、一次相続で支払った相続税の一部を控除できる「相次相続控除」が適用されます。