相続が発生した際、「仏壇や位牌って、家にある動産だから相続税がかかるの?」「高価なものだと時価で評価しないといけない?」と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。ご先祖様を敬うための大切なものですが、税金の面ではどう扱われるのか、気になりますよね。この記事では、仏壇や位牌が相続税の対象になるのか、評価方法や非課税になるための条件について、わかりやすく解説していきます。
仏壇や位牌は相続税の対象になる?原則は非課税です
結論からお伝えしますと、仏壇や位牌、墓石といった「祭祀財産(さいしざいさん)」は、原則として相続税の対象にはなりません。これは、ご先祖様を供養するためのものであり、一般的な財産とは性質が異なると考えられているためです。相続税法でも、私たちの国民感情や社会的な慣習を考慮して、非課税財産として定められています。
相続税がかからない「祭祀財産」とは?
祭祀財産とは、お墓(墓地や墓石)、仏壇、仏具、神棚、位牌など、ご先祖様や神様をお祀りするために使われる財産のことを指します。これらは、亡くなった方から受け継ぐものではありますが、預貯金や不動産といった相続財産とは区別して扱われます。そのため、遺産分割協議の対象にもならず、祭祀を主宰する人(お墓や仏壇を守っていく人)が引き継ぐのが一般的です。
祭祀財産が非課税となる根拠
相続税法という法律の第12条で、「墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など、日常礼拝の用に供するもの」は相続税の課税価格に算入しない、と定められています。つまり、法律で「相続税はかかりませんよ」と明確に決められているのです。これは、祭祀財産が故人の供養や先祖崇拝という、日本の文化や慣習に深く根ざしたものであるため、税金をかける対象としてふさわしくないと考えられているからです。
動産だけど「時価評価」は必要ありません
仏壇や位牌は形のある「動産」に分類されますが、これまでご説明した通り、原則として相続税の非課税財産です。そのため、他の動産(例えば自動車や高価な家財など)のように時価を評価して相続財産として計上する必要はありません。たとえ高価な仏壇や位牌であっても、日常的に礼拝の対象として使われている限りは、その価値がいくらなのかを気にする必要はないと考えてよいでしょう。
注意!相続税の対象になってしまうケース
原則非課税の仏壇や位牌ですが、例外的に相続税がかかってしまうケースがあります。「知らなかった」では済まされないこともありますので、どのような場合に課税対象となるのか、具体的な例を見ていきましょう。
骨董品や投資目的のものは課税対象に
一番のポイントは、「日常的に礼拝するためのものか」という点です。例えば、純金製の仏像や有名作家が作った高価な仏具など、骨董的価値が非常に高いものや、明らかに投資目的で購入したと判断されるものは、祭祀財産とは認められません。この場合は、通常の相続財産として扱われ、相続開始時点での時価で評価して申告する必要があるので注意が必要です。
「社会通念上」の範囲を超える豪華すぎるもの
税務署の判断基準として「社会通念上相当と認められるか」という点があります。例えば、故人やご家庭の経済状況に比べて不相応に高額な、ダイヤモンドが散りばめられた仏壇など、あまりにも豪華すぎるものは「相続税を逃れるための購入ではないか」と疑われる可能性があります。明確な金額の基準はありませんが、常識の範囲を逸脱していると判断された場合は、課税対象となるリスクが伴います。
相続税の課税・非課税の判断基準まとめ
仏壇や位牌が相続税の対象になるかどうかは、その目的や価値によって判断されます。分かりやすく表にまとめましたので、参考にしてください。
非課税になるケース | 日常的に家族が礼拝の対象として使っている、一般的な仏壇、仏具、位牌など。 |
課税される可能性があるケース | 純金製である、骨董的価値が高い、投資目的で購入したと見なされるもの。または商品として所有しているもの。 |
仏壇や位牌の「購入費用」は相続税から控除できる?
仏壇や位牌そのものは非課税財産ですが、では「亡くなった後に購入した仏壇や位牌の費用」は、相続税の計算上どうなるのでしょうか。これは「葬式費用」として扱われるかどうかがポイントになります。
葬式費用として控除できるもの・できないもの
相続税を計算する際、被相続人の財産から葬儀にかかった費用を差し引くことができます。これを「葬式費用の控除」といいます。しかし、すべての費用が控除できるわけではありません。国税庁は、葬式に直接必要な費用は控除対象、そうでないものは対象外とはっきり区別しています。
控除できる葬式費用 | 通夜・告別式の費用、火葬・埋葬費用、お布施、戒名料、白木位牌(仮位牌)の費用など |
控除できない費用 | 香典返し、初七日や四十九日などの法要費用、墓石や仏壇の購入費用、本位牌の購入費用など |
本位牌と白木位牌(仮位牌)の違い
上の表で出てきたように、位牌には2種類あります。葬儀の際に祭壇に置かれる「白木位牌(しらきいはい)」と、四十九日法要の後から仏壇に安置する「本位牌(ほんいはい)」です。葬式費用として控除が認められるのは、葬儀で必ず必要となる白木位牌(仮位牌)の購入費用のみです。本位牌は、葬儀が終わった後に故人を供養するためのものと考えられるため、その購入費用(数万円から数十万円)は葬式費用とはならず、残念ながら控除の対象外となります。
仏壇や墓石の購入費用も控除の対象外
本位牌と同じ理由で、仏壇や墓石の購入費用も葬式費用には含まれません。これらは葬儀そのものとは切り離された、その後の供養のためのものと判断されるためです。したがって、亡くなった後にご遺族が仏壇や墓石を新たに購入しても、その費用を相続財産から差し引くことはできない、と覚えておきましょう。
生前購入が相続税対策になるって本当?
亡くなった後に購入しても費用は控除できませんが、「生前に購入しておくと相続税対策につながる」という話を聞いたことがあるかもしれません。一体どういう仕組みなのでしょうか。
生前に購入すると現金が非課税財産に変わる
もしご自身が生前に仏壇やお墓を購入すると、その支払いに使った現金や預金が「祭祀財産」という非課税の財産に変わります。例えば、手元に現金300万円がある状態で亡くなると、その300万円は相続税の課税対象になりますよね。しかし、生前にその300万円で墓石を購入しておけば、現金は非課税の祭祀財産(墓石)に姿を変えるため、課税対象となる財産を300万円分減らすことができるのです。これは有効な相続税対策の一つと言えます。
生前購入の注意点:ローン未払金は債務控除できない
ただし、一つ大きな注意点があります。生前にローンを組んで仏壇やお墓を購入し、亡くなった時点でまだ支払いが残っていた場合、その未払金(ローン残債)は債務として相続財産から控除することはできません。非課税財産である祭祀財産のために生じた債務は、控除の対象外と定められているためです。相続税対策として生前購入を検討する場合は、ローンではなく現金一括での支払いが基本となります。
まとめ
今回は、仏壇や位牌と相続税の関係について解説しました。最後に大切なポイントを振り返りましょう。
- 仏壇や位牌などの祭祀財産は、原則として相続税の非課税財産であり、動産としての時価評価は不要です。
- ただし、純金製など投資目的や骨董的価値のあるものは課税対象になる可能性があります。
- 亡くなった後に購入した仏壇や本位牌の費用は、葬式費用として控除することはできません。
- 控除できるのは、葬儀で使う「白木位牌」の費用のみです。
- 生前に仏壇やお墓を購入すると、現金を非課税財産に変えられるため、相続税対策として有効です。
仏壇や位牌は、故人を偲び、ご先祖様とのつながりを感じるための大切なものです。税金のことで不安を感じることなく、心穏やかに供養できるよう、正しい知識を持っておくことが大切ですね。もし判断に迷うような高価なものをお持ちの場合や、具体的な相続税対策について詳しく知りたい場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
【参考文献】
- 国税庁 タックスアンサー No.4108 相続税がかからない財産
- 国税庁 タックスアンサー No.4129 相続財産から控除できる葬式費用
- 国税庁 タックスアンサー No.4126 相続財産から控除できる債務
仏壇・位牌と相続税のよくある質問まとめ
Q.仏壇や位牌は相続税の対象になりますか?
A.原則として、仏壇、位牌、墓石などは「祭祀財産(さいしざいさん)」と呼ばれ、相続税の非課税財産とされています。そのため、相続税の課税対象にはなりません。
Q.なぜ仏壇や位牌は非課税なのですか?
A.これらは先祖を祀るための特別な財産であり、一般的な相続財産とは性質が異なります。国民感情や社会的な慣習に配慮して、相続税法第12条で非課税財産と定められています。
Q.非課税となる祭祀財産には他にどのようなものがありますか?
A.仏壇や位牌のほか、墓地、墓石、神棚、神具、十字架、マリア像なども祭祀財産として非課税の対象となります。
Q.純金製の仏壇など、高価なものでも非課税になりますか?
A.社会通念上、礼拝の対象としてふさわしいものであれば非課税です。しかし、純金製で過度に高価なものなど、明らかに投資目的や換金性が高いと判断される場合は、課税対象となる可能性があります。
Q.祭祀財産は誰が相続するのですか?遺産分割の対象になりますか?
A.祭祀財産は、遺産分割の対象とはならず、「祭祀承継者」が単独で引き継ぎます。祭祀承継者は、被相続人の指定や慣習、家庭裁判所の調停などで決まります。
Q.生前に仏壇やお墓を購入すると節税対策になりますか?
A.はい、有効な節税対策の一つです。生前に現金で仏壇やお墓を購入しておくことで、課税対象となる現金を非課税の祭祀財産に変えることができるため、結果的に相続税の負担を軽減する効果が期待できます。