税理士法人プライムパートナーズ

代償分割の代償金、計算は時価?相続税評価額?不動産・非上場株式の評価で損しない方法

2025-03-07
目次

ご家族が亡くなり相続が発生した際、遺産の分け方で悩むことは少なくありません。特に、自宅などの不動産や、ご家業の株式(非上場株式)のように、簡単に分けられない財産がある場合は、「代償分割」という方法が選ばれることがあります。これは、特定の相続人が財産を相続する代わりに、他の相続人へお金(代償金)を支払うことで公平を保つ方法です。しかし、この「代償金」をいくらにするかで、新たな悩みが生まれることも。その計算の基礎となる不動産や非上場株式の価値は、「時価」で考えるべきか、それとも「相続税評価額」で考えるべきか。これは非常に重要なポイントです。今回は、この疑問に焦点を当て、どちらの評価額を使うべきか、それぞれのメリット・デメリットや税金への影響について、わかりやすく解説していきます。

代償分割とは?公平な遺産分割のための仕組み

代償分割は、遺産分割の方法の一つです。例えば、相続人が長男と次男の二人で、遺産が評価額5,000万円の実家の不動産と、1,000万円の預貯金だけだったとします。法定相続分どおりに分けるなら、それぞれ3,000万円ずつ相続する権利があります。しかし、不動産を半分に割ることは現実的ではありません。そこで、長男が実家の不動産(5,000万円)をすべて相続し、次男が預貯金(1,000万円)を相続すると、長男が多くもらいすぎて不公平になります。この不公平を解消するために、長男が自己資金から次男へ2,000万円の代償金を支払う、これが代償分割です。結果として、長男は「不動産5,000万円 − 代償金2,000万円=実質3,000万円」、次男は「預貯金1,000万円 + 代償金2,000万円=3,000万円」となり、公平な分割が実現できます。

代償分割のメリット

代償分割には、いくつかの大きなメリットがあります。まず、相続人間の公平性を保ちやすい点です。代償金で調整することで、誰も不満を感じにくい円満な解決を目指せます。また、財産を売却せずに引き継げることも大きな利点です。思い出の詰まったご実家や、事業に必要な土地・建物を手放す必要がありません。特に、会社の経営を引き継ぐ後継者が非上場株式をまとめて相続するような事業承継の場面では、非常に有効な手段となります。

代償分割のデメリット

一方で、デメリットも存在します。最も大きな課題は、代償金を支払う相続人に十分な資力が必要であることです。不動産などの価値が高額になれば、支払う代償金も数千万円にのぼることがあります。その現金を準備できないと、この方法は使えません。また、本記事のテーマでもある「財産の評価」で揉めやすい点もデメリットです。代償金を支払う側は評価額を低くしたいと考え、受け取る側は高くしたいと考えるため、評価額の基準を巡って意見が対立しがちです。

他の遺産分割方法との比較

遺産分割には、代償分割以外にも方法があります。それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況に最も適した方法を選ぶことが大切です。

分割方法 内  容
現物分割 財産をそのままの形で分ける方法。「土地Aは長男に、預金は次男に」というように分けます。最もシンプルな方法ですが、財産の価値に差があると不公平になりやすいです。
代償分割 特定の相続人が財産を現物で取得し、他の相続人に代償金を支払う方法。公平性を保ちつつ、財産をそのまま残せます。
換価分割 不動産などを売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法。公平に分けられますが、大切な財産が手元からなくなってしまいます。
共有分割 一つの不動産などを、複数の相続人の共有名義にする方法。一時的な解決にはなりますが、将来の売却や活用時に全員の同意が必要となり、トラブルの原因になりやすいです。

代償金の計算基礎となる財産評価額は?時価?相続税評価額?

ここからが本題です。代償金の金額を決める際、その基礎となる不動産や非上場株式の価値をいくらと見るか。これには主に「時価」と「相続税評価額」という二つの基準があります。結論から言うと、相続人間の公平を期すためには「時価」を基準に計算するのが一般的です。

なぜ「時価」が一般的なのか

時価とは、その財産が実際に市場で取引されるとしたら、いくらになるかという価格(実勢価格)のことです。代償分割の目的は、相続人間の取得価値を等しくすることにあります。そのため、実際にその財産が持つ本当の価値、つまり「時価」を基準に代償金を計算するのが、最も公平で合理的と考えられています。例えば、時価5,000万円の土地を相続したのなら、その5,000万円を基準に代償金を計算することで、代償金を受け取る側も「本来もらえるはずだった価値に見合った金額を受け取れた」と納得しやすくなります。遺産分割協議や家庭裁判所の調停・審判でも、特別な事情がない限り時価が採用されます。

「相続税評価額」で計算することも可能?

もちろん、相続人全員が合意すれば、「相続税評価額」を基準に代償金を計算することも可能です。相続税評価額は、相続税を計算するために国が定めた評価基準(土地なら路線価など)であり、一般的に時価よりも低い金額になります。そのため、代償金を支払う側にとっては支払額を抑えられるメリットがあります。しかし、受け取る側にとっては不利になるため、不公平感からトラブルに発展する可能性が高まります。もし相続税評価額を基準にする場合は、なぜその評価額で計算するのか、全員が納得できる明確な理由が必要です。

時価と相続税評価額の違い

不動産と非上場株式について、時価と相続税評価額にはどのような違いがあるのか見てみましょう。この差が、代償金の金額に大きく影響します。

財産の種類 評価方法
不動産(土地) 時価
実際に取引される価格。不動産会社の査定額や不動産鑑定士の鑑定評価額が目安になります。一般的に公示価格の1.1倍~1.2倍程度と言われます。【相続税評価額
路線価方式または倍率方式で計算します。一般的に時価の80%程度とされています。
非上場株式 時価
M&Aなどで用いられる企業価値評価(DCF法など)や、当事者間の合意によって決まります。評価方法が複雑で、一概に決まりません。【相続税評価額
会社の規模に応じて、類似業種比準価額方式や純資産価額方式、配当還元方式などを組み合わせて計算します。これも時価とは大きく乖離することが多いです。

不動産の評価方法と注意点

代償分割の対象として最も多いのが不動産です。その評価額が代償金の額を左右するため、評価方法は非常に重要になります。

不動産の時価を調べる方法

不動産の時価を客観的に把握するには、いくつかの方法があります。

  • 不動産会社による査定:複数の不動産会社に査定を依頼し、その平均値などを参考にします。無料で依頼できることが多く、最も手軽な方法です。
  • 不動産鑑定士による鑑定:国家資格を持つ専門家が評価するため、最も客観性・信頼性が高い方法です。ただし、数十万円の費用がかかります。相続人間で意見がまとまらない場合や、裁判所での手続きを見据える場合には有効です。
  • 公的な価格からの推計:国土交通省が公表する「公示地価」や、国税庁の「路線価」からおおよその時価を推計する方法もあります。例えば、路線価は時価の80%程度とされるため、「路線価 ÷ 0.8」で簡易的に時価を計算することができます。

評価額で揉めないためのポイント

評価額を巡るトラブルを避けるためには、当事者以外の第三者による客観的な評価を取り入れることが重要です。特定の相続人に有利な不動産会社の査定書だけを根拠にするのではなく、複数の会社から査定を取ったり、費用はかかりますが不動産鑑定士に依頼したりすることで、全員が納得しやすい状況を作ることができます。

非上場株式の評価方法と注意点

事業承継などで非上場株式が相続財産に含まれる場合、その評価は不動産以上に複雑で困難を極めます。

非上場株式の評価の難しさ

非上場株式には、上場株式のような市場価格が存在しません。そのため、会社の財産状況、収益力、将来性など、様々な要素を考慮して価値を算定する必要があります。相続税の申告で用いる「相続税評価額」と、会社を売買するM&Aなどで用いられる「企業価値(時価)」は、計算方法が全く異なり、金額も大きく乖離することが少なくありません。代償分割で用いるべきは、あくまで時価としての企業価値です。

専門家への相談が必須な理由

非上場株式の時価評価には、税務や会計に関する高度な専門知識が不可欠です。会社の規模や業種、資産内容によって最適な評価方法は異なります。相続人だけで評価額を算出するのは事実上不可能であり、誤った評価は深刻なトラブルの原因となります。非上場株式の代償分割を行う場合は、必ず相続や事業承継に詳しい税理士などの専門家に相談し、適正な時価を算定してもらうようにしましょう。

代償分割と相続税計算の関係

遺産分割協議では「時価」を基準にしたのに、相続税の申告では「相続税評価額」を使うため、少し複雑な計算が必要になります。しかし、税負担が不公平にならないような仕組みが用意されているのでご安心ください。

相続税申告では「相続税評価額」が基準

まず大原則として、相続税を計算する際の財産の価値は、遺産分割でどの基準を使ったかに関わらず、必ず「相続税評価額」で評価します。これは法律で定められているルールです。

代償金の調整計算

もし、時価を基準に代償金を支払った場合、そのまま相続税を計算すると、税負担が不公平になってしまいます。そこで、国税庁は通達で特別な調整計算を認めています。

【具体例】
相続人が長男と次男の2人。相続財産は土地のみ。

  • 土地の相続税評価額4,000万円
  • 土地の時価5,000万円

長男がこの土地をすべて相続し、次男に時価(5,000万円)の半分である2,500万円を代償金として支払ったとします。

この場合、相続税の計算上、長男が支払った代償金の額は、次の式で調整されます。
調整後の代償金額 = 実際に支払った代償金 × (相続税評価額 ÷ 時価)
2,500万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円) = 2,000万円

この調整後の金額を使って、それぞれの課税価格を計算します。

  • 長男の課税価格:土地の相続税評価額 4,000万円 − 調整後の代償金額 2,000万円 = 2,000万円
  • 次男の課税価格:調整後の代償金額 = 2,000万円

このように、調整計算を行うことで、相続税の課税対象となる金額が二人とも2,000万円となり、税負担の上でも公平性が保たれる仕組みになっています。

まとめ

代償分割における代償金の算定について、ご理解いただけましたでしょうか。最後に、大切なポイントをまとめます。

  • 代償分割で支払う代償金を計算する際、基礎となる財産の評価は、相続人間の公平性を最優先し「時価」を基準にするのが一般的です。
  • 相続人全員の合意があれば「相続税評価額」を基準にすることも可能ですが、時価との差額からトラブルに発展しやすいため注意が必要です。
  • 特に不動産や非上場株式の時価評価は専門的な知識を要するため、不動産鑑定士や税理士などの専門家の助けを借りることが円満解決への近道です。
  • 時価を基準に代償金を決定しても、相続税の計算上は税負担が公平になるよう調整計算が行われるため、心配は不要です。

遺産分割は、感情的な対立も生まれやすいデリケートな問題です。客観的な基準である「時価」をベースに話し合いを進め、必要であれば専門家の力を借りて、すべての相続人が納得できる円満な解決を目指してください。

参考文献

代償分割に関するよくある質問まとめ

Q.代償分割の代償金は、時価と相続税評価額、どちらで計算すべきですか?

A.相続人間の公平性を保つため、一般的には「時価」を基準に計算します。ただし、相続人全員の合意があれば「相続税評価額」でも可能です。

Q.なぜ時価で計算するのが一般的なのですか?

A.実際に取引される価格である時価を使うことで、財産を多くもらう人と代償金を受け取る人の間で不公平が生じにくく、トラブルを防ぎやすいためです。

Q.相続税評価額で代償金を計算するデメリットは?

A.相続税評価額は時価よりも低いことが多いため、代償金を受け取る側が不利になり、不満が出て争いの原因となる可能性があります。

Q.時価を基準に代償金を計算した場合、相続税の計算はどうなりますか?

A.相続税の申告では財産は相続税評価額で評価されますが、支払った代償金は調整計算が行われ、税負担が公平になるように配慮されています。

Q.不動産の時価はどうやって調べればいいですか?

A.複数の不動産会社に査定を依頼する方法が一般的です。より正確な評価が必要な場合は、不動産鑑定士に鑑定を依頼することをおすすめします。

Q.代償金を支払うお金がありません。どうすればいいですか?

A.分割払いを他の相続人にお願いする、金融機関からローンを組む、相続した財産の一部を売却するなどの方法が考えられます。いずれにせよ相続人全員での話し合いが必要です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。