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代替え地とは?公共事業の立ち退きで知るべき税金の優遇措置を解説

2025-02-08
目次

もし、道路の拡張といった公共事業のために、ご自身の土地や建物の立ち退きを求められたら、どうしますか?多くの方は金銭での補償を思い浮かべるかもしれませんが、実は「代替え地(だいがえち)」という選択肢もあります。そして、公共事業に協力することで、税金がとてもお得になる特例制度が用意されているんです。この記事では、代替え地の基本から、知っておかないと損をしてしまうかもしれない税金の優遇措置まで、専門用語をできるだけ使わずに、わかりやすくお話ししていきますね。

代替え地ってそもそも何?

「代替え地」とは、とてもシンプルに言うと「代わりの土地」のことです。国や都道府県、市町村などが道路を造ったり、河川を改修したりといった公共事業を行う際に、その事業に必要な土地の所有者に対して、買収する土地の代わりに提供される土地を指します。立ち退きを余儀なくされる方々の生活再建をサポートするための、大切な選択肢の一つなんですよ。

代替え地が提供されるケース

代替え地は、主に国や地方公共団体が行う公共事業によって、土地や建物を手放さなければならなくなった場合に提案されます。例えば、以下のようなケースが考えられます。

  • 新しい道路やバイパスの建設
  • 既存の道路の拡幅工事
  • 洪水を防ぐための河川改修やダムの建設
  • 駅前の再開発事業
  • 新しい学校や公園の整備

このような事業の対象となった場合、事業者(国や自治体など)から土地の買収の話があります。その際、土地の代金を現金で受け取る「金銭補償」のほかに、「代替え地」の提供を提案されることがあるのです。

代替え地の特徴とメリット

代替え地は、ただの土地というわけではなく、いくつかの特別なメリットがあります。まず、公共事業に協力した方だけが取得できる特別な土地であるため、一般の市場には出回らない優良な場所が用意されていることがあります。また、価格も周辺の土地相場の50%~70%程度で購入できる場合があるなど、金銭的なメリットも大きいです。さらに、通常は住宅の建築が制限されている「市街化調整区域」内の土地であっても、代替え地として提供されることで、特別に住宅を建てることが許可されるケースもあるんですよ。

代替地登録制度とは?

「希望に合う代替え地がすぐに見つかるの?」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。そこで多くの自治体では「代替地登録制度」という仕組みを設けています。これは、「自分の土地を将来、代替え地として提供しても良いですよ」と考える土地の所有者にあらかじめ土地を登録してもらう制度です。事業者はこの登録リストの中から、立ち退きをする方の希望に近い土地を探し、紹介(あっせん)してくれるのです。この制度によって、スムーズな代替え地の提供が可能になっています。

公共事業で土地を譲渡した側の税金優遇措置

公共事業のために土地や建物を譲渡(売却)すると、その対価として補償金を受け取ります。通常、土地を売って利益(譲渡所得)が出ると所得税や住民税がかかりますが、公共事業の場合は、社会に貢献したということで、税金が大幅に軽くなる2つの特例が用意されています。ただし、この2つの特例はどちらか一方しか選べないので、ご自身の状況に合わせて慎重に選ぶ必要があります。

譲渡所得から最高5,000万円の特別控除

一つ目の特例は、譲渡所得から最高5,000万円を差し引くことができる、というものです。例えば、土地を売った利益が6,000万円だった場合、この特例を使えば5,000万円を控除できるので、課税対象は残りの1,000万円だけで済みます。利益が5,000万円以下であれば、税金はかからなくなる、とても大きな控除です。

この特例を受けるには、いくつかの要件を満たす必要があります。

項目 主な要件
対象資産 売った土地や建物が固定資産であること。(不動産屋さんの商品在庫などは対象外)
譲渡時期 事業者から最初に買取りの申し出があった日から6ヶ月以内に売っていること。
譲渡する人 最初に買取りの申し出を受けた本人(またはその相続人)が譲渡していること。
他の特例との関係 同じ年に、次に説明する「代替資産を取得した場合の課税繰り延べ」の特例を受けていないこと。

代替資産を取得した場合の課税の繰り延べ

二つ目の特例は、受け取った補償金で代わりの資産(代替資産)を取得した場合に、譲渡がなかったものとみなす制度です。これにより、売却した年には課税されず、将来その代替資産を売却する時まで税金の支払いを先延ばし(繰り延べ)にできます。

例えば、補償金が8,000万円で、8,000万円以上の代替資産を購入した場合、その年の譲渡所得はゼロとして扱われます。もし7,000万円の代替資産を購入した場合は、差額の1,000万円分だけが収入として計算されます。事業などを継続するために、すぐに代わりの土地や建物が必要な方にとっては非常に有効な特例です。

こちらの特例にも、原則として、公共事業で土地を譲渡した日から2年以内に代替資産を取得する、といった要件があります。

どちらの特例を選ぶべき?

「5,000万円控除」と「課税の繰り延べ」、どちらを選ぶべきか迷いますよね。簡単な判断基準としては、代わりの土地や建物をすぐに必要とせず、手元に現金を残したい場合は「5,000万円控除」が有利になることが多いです。一方で、農業や事業を続けるためにすぐに同等以上の不動産を購入する予定がある場合は、「課税の繰り延べ」を選ぶと、その年の税負担をなくすことができます。ご自身のライフプランや事業計画に合わせて選択することが大切です。

代替え地を提供した側の税金優遇措置

ここまでは土地を譲渡する側のお話でしたが、実は自分の土地を「代替え地」として公共事業に協力する側、つまり土地を提供する側にも税金の優遇措置があるんです。遊休地などをお持ちの方は、この制度の活用を検討してみるのも良いかもしれません。

譲渡所得から最高1,500万円の特別控除

公共事業の施行者を通じて、立ち退きをする方のためにご自身の土地を代替地として売却した場合、譲渡所得から最高1,500万円を控除することができます。通常の土地売買では受けられない、代替地提供者ならではのメリットです。

適用を受けるための注意点

この1,500万円の控除を受けるためには、いくつか重要な手続きがあります。まず、個人間で勝手に話を進めることはできず、契約前に管轄の税務署と事前協議を行い、確認を得る必要があります。その上で、①公共事業で土地を譲渡した人、②代替地を提供する人、③事業施行者(国や自治体など)の三者間で契約を結ぶことが必須となります。少し手続きが複雑なので、検討される場合は早めに自治体の担当窓口や税務署に相談することをおすすめします。

代替え地に関するQ&A

ここでは、代替え地に関してよく寄せられる質問にお答えします。

Q. 補償金の金額はどうやって決まるのですか?

A. 補償金の額は、国が定めた基準に基づいて、事業施行者が土地の時価や建物などの価値を適正に評価して算定します。近隣の正常な取引価格や、その土地の収益性などが考慮されます。個人の希望で金額が大きく変動することは基本的にありません。

Q. 代替え地は必ず希望の場所が見つかりますか?

A. 必ずしも希望通りの土地が見つかるとは限りません。代替え地は、代替地登録制度に登録されている土地や、事業施行者が用意した土地の中から探すことになります。希望のエリアや広さの土地がない場合もあるため、金銭補償とどちらが良いか、総合的に判断することが大切です。

Q. 税金の特例を受けるための手続きはどうすればいいですか?

A. ご紹介した税金の特例を受けるためには、必ず確定申告が必要です。申告の際には、事業施行者から交付される「公共事業用資産の買取り等の証明書」などの書類を添付する必要があります。手続きが複雑な場合もあるため、税理士などの専門家に相談すると安心です。

税金の特例のポイントまとめ

これまでご説明した税金の特例について、対象者ごとにポイントを表にまとめました。ご自身がどの立場にあたるかを確認してみてくださいね。

対象者 特例の内容と主な要件
公共事業で土地を譲渡した人 【どちらかを選択】
①5,000万円特別控除:
・譲渡所得から最大5,000万円を控除できます。
・買取りの申出があった日から6ヶ月以内の譲渡が必要です。②課税の繰り延べ:
・補償金で代替資産を取得すると、譲渡がなかったことになり課税を先延ばしできます。
・原則、収用のあった日から2年以内に代替資産の取得が必要です。
公共事業に代替地を提供した人 1,500万円特別控除:
・譲渡所得から最大1,500万円を控除できます。
・事前に税務署との協議が必要です。
・事業用地提供者、代替地提供者、事業施行者の三者間契約が必須です。

まとめ

今回は、「代替え地」というキーワードを軸に、公共事業に伴う土地の譲渡と税金の特例についてお話ししました。代替え地は、立ち退きをされる方にとって生活を再建するための重要な選択肢であり、土地を譲渡する側・提供する側の双方に大きな税制上のメリットが用意されています。もし、ご自身が公共事業の対象となった場合には、金銭補償だけでなく代替え地という選択肢も視野に入れてみてください。そして、どの税金の特例がご自身にとって最も有利になるか、国や自治体の担当者、そして税理士といった専門家によく相談しながら、最適な方法を選ぶようにしてくださいね。

参考文献

国税庁 No.3552 収用等により土地建物を売ったときの特例

国税庁 No.5650 収用等があったときの課税の特例

代替地のよくある質問まとめ

Q.代替地とは何ですか?

A.公共事業などで土地が収用された際に、金銭補償(補償金)の代わりに提供される土地のことです。

Q.どのような場合に代替地が提供されるのですか?

A.主に道路拡張やダム建設などの公共事業によって、土地収用法に基づき個人の土地が必要となった場合に、事業者から提案されることがあります。

Q.代替地と換地の違いは何ですか?

A.代替地は土地収用時に提供される土地ですが、換地は土地区画整理事業において、整理前の土地の代わりに割り当てられる土地を指します。目的となる事業が異なります。

Q.代替地を取得すると税金はかかりますか?

A.一定の要件を満たせば、収用に伴い代替地を取得した場合の課税の特例が適用され、譲渡所得税が非課税になることがあります。詳しくは専門家にご相談ください。

Q.代替地の提供を断ることはできますか?

A.はい、断ることができます。代替地を断った場合は、通常、土地の対価として金銭による補償(補償金)が支払われます。

Q.代替地の価格はどのように決まるのですか?

A.代替地の価格は、収用される土地の正常な取引価格を基準に、近隣の土地の取引事例などを考慮して算定されます。当事者間の合意によって決定されます。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。