ご家族が大切にされていたマンションを相続したけれど、「相続税ってどれくらいかかるんだろう…」と不安に感じていませんか?特に、2024年(令和6年)からマンションの相続税のルールが変わり、計算が少し複雑になりました。この記事では、区分マンションの相続税評価額の計算方法について、新しいルールも含めて、基本から節税のポイントまで、一つひとつ丁寧に解説していきますね。
そもそも相続税は必ずかかるの?
まずはじめに、マンションを相続したからといって、誰もが相続税を支払うわけではないんです。相続税がかかるかどうかには、はっきりとしたボーダーラインがあります。まずはそこから確認していきましょう。
遺産総額が「基礎控除額」を超えたら申告が必要
相続税は、亡くなった方(被相続人)が遺した財産の総額が、「基礎控除額」という一定の金額を超える場合にのみ課税されます。もし、遺産の総額がこの基礎控除額よりも少なければ、相続税はかかりませんし、税務署への申告も必要ありません。なので、まずはご自身のケースがこれに当てはまるかどうかを確かめることが第一歩になります。
基礎控除額の計算方法
気になる基礎控除額ですが、計算方法はとてもシンプルです。「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」という式で計算できます。法定相続人とは、法律で定められた遺産を相続する権利のある人のことで、例えば配偶者やお子様などが当たります。相続人の数が多いほど、非課税になる枠が大きくなる仕組みです。
| 法定相続人の人数 | 基礎控除額 |
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
区分マンションの相続税評価額の計算方法【基本】
それでは、具体的にマンションの相続税評価額の計算方法を見ていきましょう。分譲マンションのような区分マンションは、一戸建てと同じように「建物」の部分と、その建物が建っている「土地(敷地)」の部分に分けて、それぞれ評価額を計算し、最後にそれらを合計します。まずは基本となる計算方法(令和6年の改正前の考え方)からご説明しますね。
建物部分の評価方法
建物部分の評価は、意外と簡単なんです。毎年、市区町村から送られてくる「固定資産税の課税明細書」という書類がありますよね。その中に書かれている「固定資産税評価額」が、そのまま建物部分の相続税評価額になります。もしお手元に書類が見当たらない場合は、マンションがある市区町村の役所(東京23区の場合は都税事務所)で「固定資産評価証明書」を発行してもらえば確認できますので、ご安心ください。
土地(敷地権)部分の評価方法
次に土地部分です。マンションの場合、土地全体を一人で所有しているわけではなく、各部屋の所有者全員で土地の権利(敷地権)を分け合っています。そのため、土地部分の評価額は「マンション敷地全体の評価額 × あなたの持っている権利の割合(敷地権割合)」で計算します。
マンション敷地全体の評価額は、主に「路線価方式」という方法で計算します。これは、国税庁が道路ごとに定めた1平方メートルあたりの価格(路線価)に、敷地全体の面積を掛けて算出する方法です。路線価は国税庁のウェブサイトで誰でも調べることができますよ。そして、「敷地権割合」は、法務局で取得できる登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されています。
【令和6年1月〜】新ルール!マンション評価方法の改正点
ここからが新しいお話です。これまで、特にタワーマンションの高層階などは、市場での売買価格に比べて相続税評価額がかなり低くなる傾向があり、節税目的での利用が問題視されていました。そこで、その価格差を是正するため、2024年1月1日以降の相続から新しい評価ルールが導入されることになったのです。この改正は、タワーマンションだけでなく、多くの区分マンションに影響がある大切なポイントです。
なぜ評価方法が変わったの?
これまでの評価方法だと、例えば同じ面積の部屋でも、眺めの良い高層階の方が市場価格はずっと高いのに、相続税を計算する上での評価額は低層階と変わらない、という現象が起きていました。市場価格が1億円の部屋の相続税評価額が3,000万円程度になることもあったのです。この実態とのズレをなくし、戸建て住宅と同じくらいの評価水準(市場価格の6割程度)に近づけるために、評価方法が見直されることになりました。
新しい計算のカギ「区分所有補正率」とは?
新しいルールでは、先ほどご説明した「建物」と「土地」それぞれの評価額を計算した後、それに「区分所有補正率」という特別な数値を掛け合わせます。この一手間を加えることで、これまで市場価格と比べて低く評価されがちだったマンションの評価額が、より実態に近い価格になるよう調整されるのです。
区分所有補正率の計算方法
この区分所有補正率の計算は、正直なところ、かなり複雑です。具体的には、①建物の築年数、②マンション全体の階数(総階数)、③その部屋がある階(所在階)、④敷地持分狭小度(お部屋の広さに対して土地の持ち分がどれくらい狭いか)という4つの要素をもとに「評価乖離率」という数値を算出し、それを使って補正率を決めます。
簡単に言うと、「築年数が浅い」「総階数が高い」「高層階にある」「都心部にある」といった条件のマンションほど、評価額が上がりやすくなる傾向にあります。計算は専門的で難しいため、ご自身で計算する場合は国税庁が公表している計算用のExcelファイルを使うか、不安な場合は税理士などの専門家に相談するのが最も安心な方法です。
賃貸マンションの相続税評価はどうなる?
もし、亡くなった方が所有していたマンションを誰かに貸していた場合は、ご自身で使っていた場合と比べて相続税評価額がさらに低くなります。これは、入居者さんがいることで、所有者であっても自由にその部屋を使ったり売ったりできない、という「権利の制限」が評価額に反映されるためです。
貸家建付地・貸家としての評価減
人に貸しているマンションの土地は「貸家建付地(かしやたてつけち)」、建物は「貸家(かしや)」として扱われ、それぞれ評価額が割り引かれます。具体的な計算式は以下の通りです。
| 財産の種類 | 評価額の計算式 |
| 建物(貸家) | 自分で使っていた場合の評価額 ×(1 - 借家権割合30%) |
| 土地(貸家建付地) | 自分で使っていた場合の評価額 ×(1 - 借地権割合 × 借家権割合30%) |
「借家権割合」は全国どこでも一律で30%です。「借地権割合」は地域によって異なり、30%から90%の間で定められています。この割合も路線価図で確認することができます。
マンション相続で使える!節税につながる特例
マンションの評価額が計算できたら、次にぜひ知っておきたいのが、相続税の負担を軽くしてくれる特例や控除です。これらを上手に活用することで、納税額が大きく変わることもありますので、しっかりと確認しておきましょう。
小規模宅地等の特例
亡くなった方と一緒に住んでいたご家族がそのマンションを相続した場合など、一定の条件を満たすと「小規模宅地等の特例」という非常に効果の大きい特例を使うことができます。この特例を適用すると、なんとマンションの土地部分の評価額を最大で80%も減額できるんです。適用できる土地の面積には330㎡という上限がありますが、区分マンションの場合、ご自身の土地の持ち分面積がこの上限を超えることはほとんどありません。そのため、要件に当てはまれば、非常に大きな節税効果が期待できます。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
亡くなった方の配偶者(夫または妻)が遺産を相続する場合には、「配偶者の税額軽減」という制度があります。これによって、配偶者が相続した財産のうち、最低でも1億6,000万円まで、もしくは法律で定められた相続割合(法定相続分)までの、どちらか多い方の金額までは相続税がかからなくなります。多くの場合、この制度を使うことで配偶者の方の相続税は0円になります。
特例を使う際の注意点
ここで一つ、とても大切な注意点があります。ご紹介した「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」を使って、計算上の相続税が0円になったとしても、相続税の申告手続きそのものは必ず行う必要があります。申告をしないと、せっかくの特例が適用されなくなってしまいます。申告の期限は、相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内ですので、忘れずに手続きを進めましょう。
まとめ
区分マンションの相続税評価について、ご理解いただけましたでしょうか。基本的な計算方法に加えて、令和6年から始まった新しいルールを正しく理解することがとても大切です。特にタワーマンションなどを相続された方は、以前の方法で計算するよりも評価額が高くなる可能性があることを覚えておいてください。
今回のポイントをまとめると、以下のようになります。
- マンションの相続税評価額は「建物」と「土地」に分けて計算する。
- 令和6年1月1日以降の相続では、計算した評価額に「区分所有補正率」を掛けて調整する。
- 「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」などの制度を活用すれば、相続税を大幅に節税できる可能性がある。
- 特例を使って税額が0円になっても、相続税の申告は必須。
評価額の計算、特に新しい「区分所有補正率」の算出や特例が使えるかどうかの判断は、専門的な知識が求められます。もし、ご自身での手続きに少しでも不安を感じたり、より正確な評価額を知りたいと思ったりした際には、相続に詳しい税理士に相談してみることをお勧めします。専門家がきっとあなたの心強い味方になってくれますよ。
参考文献
区分マンションの相続税評価額に関するよくある質問まとめ
Q. 区分マンションの相続税評価額はどうやって計算するのですか?
A. 区分マンションの相続税評価額は、「土地(敷地権)」と「建物(専有部分)」の評価額を別々に計算し、それらを合計して算出します。土地は路線価方式、建物は固定資産税評価額を基に評価するのが基本です。
Q. マンションの土地部分(敷地権)の評価方法を教えてください。
A. マンション全体の土地の評価額(路線価×面積)を算出し、その評価額にご自身の「敷地権の割合」を掛けて計算します。敷地権の割合は登記事項証明書(登記簿謄本)で確認できます。
Q. マンションの建物部分(専有部分)はどう評価しますか?
A. 建物部分の評価額は、原則として固定資産税評価額と同額になります。毎年市区町村から送られてくる「固定資産税の納税通知書」に記載されている価格(評価額)をご確認ください。
Q. タワーマンションの相続税評価額は特別な計算が必要ですか?
A. はい、2024年1月1日以降の相続から、タワーマンションの評価方法が見直されました。市場価格との乖離を是正するため、築年数、階数、敷地持分などを考慮した新たな計算ルールが適用されます。
Q. 相続したマンションに住んでいた場合、小規模宅地等の特例は使えますか?
A. はい、一定の要件を満たせば、マンションの敷地部分(敷地権)に小規模宅地等の特例を適用できます。この特例により、土地の評価額を最大80%減額できるため、相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
Q. 賃貸に出しているマンションの相続税評価額は安くなりますか?
A. はい、賃貸用マンションは、自分で使用している場合に比べて評価額が低くなります。建物は借家権割合(30%)を控除し、土地(敷地権)も貸家建付地として評価が減額されます。