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任意後見と成年後見の違いは?自分の意思で備える老後の安心設計

2025-10-11
目次

「もし将来、認知症などで判断能力が衰えてしまったら、自分の財産はどうなるんだろう?」「親の物忘れがひどくなってきたけど、何か準備できることはある?」そんな不安をお持ちではありませんか。大切な財産管理やご自身の生活を守るための制度として、「任意後見制度」「成年後見制度」があります。この二つは名前が似ていますが、実はスタートするタイミングや内容が大きく異なります。今回は、この二つの制度の違いを分かりやすく解説し、ご自身やご家族にとってどちらの制度が合っているのかを考えるお手伝いをします。

任意後見と成年後見の基本的な違い

まずはじめに、任意後見制度と成年後見制度の最も大きな違いを押さえておきましょう。一言でいうと、「いつ、誰が、何を」決めるのかが異なります。任意後見は将来に備えて「元気なうちに」「自分で」後見人やサポート内容を決める制度。一方、成年後見は「判断能力が低下した後に」「家庭裁判所が」後見人などを選ぶ制度です。まずは、下の表で全体像をつかんでみてください。

項  目 任意後見制度
スタート時期 本人の判断能力が低下した後
契約・申立ての時期 本人が元気なうち(判断能力があるうち)
後見人を選ぶ人 本人
支援内容の決定 契約により本人が自由に決められる
取消権の有無 なし
項目 成年後見制度
スタート時期 申立て後、家庭裁判所の審判が確定した後
契約・申立ての時期 本人の判断能力が低下した後
後見人を選ぶ人 家庭裁判所(候補者は立てられます)
支援内容の決定 法律の範囲内で後見人が判断
取消権の有無 あり(日常生活に関する行為を除く)

制度がスタートするタイミングの違い

一番の違いは、準備を始めるタイミングです。任意後見制度は、ご本人がまだ元気でしっかり判断できるうちに、「将来もしものことがあったら、この人にお願いします」と事前に契約を結んでおく制度です。契約自体は元気なうちに行いますが、実際に後見人のサポートが始まるのは、判断能力が不十分になったと判断された後になります。いわば、将来のための「予約」のようなものですね。一方、成年後見制度は、すでに判断能力が不十分になってしまった方のための制度です。ご本人やご家族が家庭裁判所に申立てを行い、審判が下りてからスタートします。こちらは「今、困っている」状況に対応するための制度というわけです。

後見人を選ぶのは誰か?

誰に大切な財産管理や生活のサポートを任せるかは、とても重要なポイントですよね。任意後見制度では、ご本人が「この人なら信頼できる」と思う家族や友人、あるいは司法書士や弁護士などの専門家を自由に選んで後見人(任意後見人)としてお願いすることができます。自分の意思で将来のパートナーを選べるのが最大のメリットです。それに対して成年後見制度では、後見人(成年後見人)を選ぶのは家庭裁判所です。申立ての際に「この人にお願いしたい」と候補者を立てることはできますが、最終的な決定権は裁判所にあります。ご本人の財産状況などによっては、候補者である親族ではなく、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースも少なくありません。

後見人ができることの範囲

後見人が具体的に何をしてくれるのか、その権限の範囲も異なります。任意後見制度では、どのような支援をしてもらいたいかを、契約内容で比較的自由に決めることができます。例えば、「預貯金の管理と不動産の管理をお願いしたい」「介護施設の契約手続きをしてほしい」など、ご自身の希望に沿ったオーダーメイドの契約が可能です。ただし、任意後見人には「取消権」がありません。これは、もしご本人が不利な契約(例えば悪質な訪問販売など)をしてしまっても、後からそれを取り消すことができない、ということです。一方、成年後見制度における後見人の仕事の範囲は法律で定められています。大きな特徴は「取消権」があることです。ご本人が不利益な契約を結んでしまった場合に、後見人がその契約を取り消して財産を守ることができます。ただし、財産管理はあくまでご本人の財産を守ることが目的のため、投資などの積極的な資産運用は認められていません。

任意後見制度について詳しく解説

ここでは、ご自身の意思で将来に備える「任意後見制度」について、もう少し掘り下げて見ていきましょう。この制度の魅力は、なんといっても自分の老後を自分でデザインできる点にあります。

任意後見契約の種類

任意後見契約には、ご自身の状況に合わせて選べるように、主に3つのタイプがあります。

将来型 最も一般的なタイプです。今は元気だけれど、将来判断能力が衰えた時に備えてあらかじめ契約を結んでおくものです。
移行型 元気なうちから財産管理などの一部を委任する契約(見守り契約や財産管理委任契約)と、任意後見契約をセットで結ぶタイプです。判断能力が低下する前から継続的なサポートを受けたい方に向いています。
即効型 すでに判断能力が衰え始めている方が、契約と同時に家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行い、すぐに効力を発生させるタイプです。ただし、契約を結ぶための判断能力は必要です。

任意後見契約の手続きの流れ

任意後見制度を利用するための大まかな流れは以下の通りです。必ず、公証役場で「公正証書」を作成する必要があるのがポイントです。

  1. 誰に(任意後見受任者)、何を(代理権の範囲)お願いするかを決める。
  2. 公証役場で、任意後見受任者と一緒に公正証書による任意後見契約を結ぶ。
  3. 公証人から法務局へ契約内容が登記される。
  4. (将来)ご本人の判断能力が低下する。
  5. 本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見受任者が家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てる。
  6. 任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が発生し、サポートがスタートする。

任意後見にかかる費用

任意後見制度を利用するには、いくつかの費用がかかります。契約時にかかる費用と、制度開始後に継続的にかかる費用があります。

契約時の費用 公証人手数料:基本手数料11,000円、登記嘱託手数料1,400円、印紙代2,600円など。合計で約15,000円程度が目安です。その他、専門家に契約書作成を依頼した場合は別途報酬が必要です。
開始後の費用 任意後見人への報酬:契約で自由に決めます。親族の場合は無報酬のこともありますが、専門家に依頼する場合は月額2万円~6万円程度が相場です。
任意後見監督人への報酬:家庭裁判所が決定します。財産額にもよりますが、月額1万円~3万円程度が目安です。

成年後見制度について詳しく解説

次に、判断能力が不十分になった方を法的に保護・支援する「成年後見制度」について見ていきましょう。ご本人を不利益な契約などから守る、強力な制度です。

成年後見の3つの類型(後見・保佐・補助)

成年後見制度は、ご本人の判断能力のレベルに応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの段階に分かれています。どの類型になるかは、医師の診断書などをもとに家庭裁判所が判断します。

後見 判断能力が常に欠けている方が対象。成年後見人が選任され、財産に関するすべての法律行為を代理します。また、日常生活に関する行為を除き、本人が行った契約などを取り消すことができます。
保佐 判断能力が著しく不十分な方が対象。保佐人が選任され、借金や不動産売買など法律で定められた重要な行為について同意権・取消権を持ちます。
補助 判断能力が不十分な方が対象。補助人が選任され、申し立てた特定の法律行為について同意権・取消権を持ちます。最も支援の度合いが軽い類型です。

成年後見開始の手続きの流れ

成年後見制度を利用するには、家庭裁判所への申立てが必要です。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族など法律で定められた人に限られます。

  1. 家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てる(申立書、診断書、戸籍謄本などの書類が必要)。
  2. 家庭裁判所による調査(申立人、後見人候補者、本人との面談など)。
  3. 必要に応じて、医師による精神鑑定が行われる。
  4. 家庭裁判所が後見開始の審判をし、成年後見人を選任する。
  5. 審判内容が法務局に登記され、後見人の仕事がスタートする。

成年後見にかかる費用

成年後見制度でも、申立て時と開始後に費用がかかります。

申立て時の費用 申立手数料:収入印紙800円
登記手数料:収入印紙2,600円
その他:連絡用の郵便切手代(数千円程度)、戸籍謄本などの取得費用がかかります。
鑑定費用:鑑定が必要な場合、5万円~10万円程度が一般的です。
開始後の費用 成年後見人への報酬:家庭裁判所が、管理する財産額に応じて決定します。目安として、管理財産額が5,000万円以下の場合で月額2万円~6万円程度です。

それぞれの制度のメリット・デメリット

ここまで見てきたように、どちらの制度にも良い点と注意すべき点があります。ご自身の状況と照らし合わせて、どちらがより適しているか考えてみましょう。

任意後見のメリット・デメリット

【メリット】

  • 自分の意思で後見人を選べる:最も信頼できる人に将来を託すことができます。
  • サポート内容を自由に設計できる:ご自身のライフプランに合わせた支援を決められます。
  • 自分の意思が尊重される:元気なうちの希望が将来にわたって反映されます。

【デメリット】

  • 元気なうちに契約する必要がある:判断能力が低下してからは利用できません。
  • 後見人に取消権がない:ご本人が結んだ不利益な契約を取り消すことができません。
  • 任意後見監督人への報酬が発生する:後見人への報酬とは別に、監督人への費用がかかります。

成年後見のメリット・デメリット

【メリット】

  • 判断能力低下後でも利用できる:すでに困っている状況からでも申立てが可能です。
  • 強力な取消権で財産を守れる:悪質商法などの被害からご本人を強力に保護できます。
  • 家庭裁判所が監督してくれる安心感:後見人の仕事は裁判所に定期的に報告され、チェックされます。

【デメリット】

  • 後見人を自分で選べない可能性がある:希望通りに親族が選ばれるとは限りません。
  • 財産の利用に制約がかかる:本人のための支出以外は認められにくく、柔軟な財産活用が難しい場合があります。
  • 一度始めると原則やめられない:ご本人が亡くなるまで制度が続きます。

どちらの制度を選ぶべき?ケース別解説

では、具体的にどのような場合にどちらの制度を選べば良いのでしょうか。いくつかのケースを想定して考えてみましょう。

まだ元気で将来に備えたい方

「今は元気だけど、将来子どもに迷惑はかけたくない」「もしもの時は、長年連れ添った配偶者にお願いしたい」と考えている方は、任意後見制度が断然おすすめです。ご自身の意思で、信頼できるパートナーに、希望する形でのサポートを託す準備ができます。特に、おひとりさまや、お子さんが遠方に住んでいる方などにとっては、心強い備えとなるでしょう。

すでに親の判断能力に不安がある方

「最近、親が何度も同じことを聞くようになった」「実家に不審なセールスマンが出入りしているようだ」など、すでにご家族の判断能力に不安を感じている場合は、成年後見制度の利用を検討する必要があります。特に、財産が狙われる危険がある場合や、必要な医療・介護サービスの契約が本人だけでは難しい場合には、早めに専門家や地域包括支援センター、家庭裁判所に相談することをおすすめします。

家族信託など他の制度との比較

最近では、財産管理の方法として「家族信託」という制度も注目されています。家族信託は、財産の管理や運用・処分に特化した、より柔軟な財産管理が可能な制度です。一方で、後見制度は財産管理だけでなく、介護サービスの契約や入院手続きといった「身上保護」も目的としています。財産の承継まで含めた柔軟な対策をしたい場合は家族信託、生活全般のサポートが必要な場合は後見制度、というように目的によって使い分けることが大切です。任意後見と家族信託を組み合わせて利用することも可能です。

まとめ

今回は、「任意後見」と「成年後見」の違いについて解説しました。ポイントをまとめると以下のようになります。

  • 任意後見は、元気なうちに自分の意思で将来に備える「転ばぬ先の杖」
  • 成年後見は、判断能力が低下した後に家族などが申し立てる「セーフティーネット」

どちらの制度が良い・悪いということではなく、ご自身の状況や目的に合わせて選ぶことが何よりも重要です。もしもの時に備えて、ご自身やご家族の意思を尊重した最善の選択をするためには、まずは元気なうちから情報を集め、家族と話し合っておくことが大切です。少しでも不安な点があれば、お一人で悩まず、司法書士や弁護士などの専門家に相談してみてくださいね。

参考文献

任意後見と成年後見のよくある質問まとめ

Q.任意後見と成年後見の最大の違いは何ですか?

A.始まるタイミング(判断能力の低下前か後か)と、後見人を誰が選ぶか(本人か家庭裁判所か)が大きな違いです。

Q.いつから利用できますか?

A.任意後見は判断能力があるうちに契約し、低下後に効力が生じます。成年後見は判断能力が不十分になった後、家庭裁判所に申し立てて開始します。

Q.後見人は誰が選ぶのですか?

A.任意後見では、本人が信頼できる人を自由に選べます。一方、成年後見では家庭裁判所が候補者の中から適任者を選任します。

Q.どちらの制度が優先されますか?

A.任意後見契約が結ばれている場合、本人の意思を尊重するため、原則として任意後見が優先されます。

Q.途中でやめることはできますか?

A.任意後見は効力発生前であれば、公証人の認証を受けることで契約を解除できます。成年後見は一度開始すると、本人が亡くなるまで続くのが原則です。

Q.手続きはどこで行いますか?

A.任意後見は公証役場で「任意後見契約」を結びます。成年後見は本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。