ご家族が亡くなられた後、深い悲しみの中でさまざまな手続きに追われ、不安を感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。特に、故人が会社で加入していた企業年金から受け取れる「遺族年金」や「遺族給付金」は、公的な遺族年金とは手続きや税金の扱いが異なり、戸惑うことが多いかもしれません。この記事では、確定給付企業年金法などに基づく遺族年金について、その種類や相続発生時の手続き、そして最も気になる相続税への影響を、一つひとつ丁寧にわかりやすく解説していきます。
企業年金制度から受け取れる遺族給付金とは?
企業年金は、会社が従業員の老後のために公的年金に上乗せして設けている制度です。もし加入している方が亡くなられた場合、そのご遺族に対して「遺族給付金」が支払われることがあります。この遺族給付金は、故人が加入していた制度によって呼び方や受け取り方が異なります。
確定給付企業年金(DB)の遺族給付金
確定給付企業年金(DB)は、将来受け取れる給付額があらかじめ約束されているタイプの企業年金です。この制度に加入していた方が亡くなった場合、会社の規約に基づいて遺族に「遺族給付金」が支給されます。多くの場合は、一時金でまとめて受け取るか、年金形式で分割して受け取るかを選択できるようになっています。税法上、この給付金は「死亡退職金」として扱われるのが大きなポイントです。
確定拠出年金(DC)の死亡一時金
確定拠出年金(DC)は、毎月の掛金を自分で運用し、その運用成果によって将来の受取額が変わるタイプの年金です。加入者が亡くなった場合は、それまで積み立ててきた資産が「死亡一時金」として遺族に支払われます。こちらは年金形式での受け取りはできず、一時金でのみ受け取ることになります。確定拠出年金の死亡一時金も、税法上は「死亡退職金」として扱われます。
厚生年金基金の遺族給付金
厚生年金基金は、国の厚生年金の一部を代行し、さらに企業独自の上乗せ給付を行う制度です。現在は多くの基金が解散していますが、まだ存続している基金や、すでに解散した基金から給付が続いているケースもあります。加入者が亡くなった場合は、その基金の規約に基づいて遺族給付金が支払われます。これも多くの場合、「死亡退職金」として扱われます。
公的年金の遺族年金との違い
企業年金の遺族給付金と、国から支給される公的年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)は、名前が似ているため混同されがちですが、税金の扱いが全く異なります。この違いをしっかり理解しておくことがとても重要です。
| 種類 | 企業年金等の遺族給付金 |
| 根拠となる法律 | 確定給付企業年金法、確定拠出年金法など |
| 相続税 | 課税対象(死亡退職金として扱われる) |
| 所得税・住民税 | 一時金受取:かからない 年金受取:雑所得として課税対象 |
| 種類 | 公的年金の遺族年金 |
| 根拠となる法律 | 国民年金法、厚生年金保険法など |
| 相続税 | 非課税 |
| 所得税・住民税 | 非課税 |
このように、公的年金の遺族年金は遺族の生活保障という目的から税金がかかりませんが、企業年金の遺族給付金は相続税の課税対象になるという大きな違いがあります。
相続発生時の手続きの流れ
ご家族が亡くなられたら、速やかに企業年金の手続きを進める必要があります。一般的な手続きの流れを確認しておきましょう。
勤務先や年金基金への連絡
まず最初に、故人がお勤めだった会社(退職されている場合は最後の勤務先)の人事部や総務部に連絡をします。そこで、企業年金に加入していたかを確認し、手続きの窓口を教えてもらいましょう。窓口は、会社そのものである場合や、年金業務を委託されている信託銀行、生命保険会社などである場合があります。連絡の際には、故人の氏名、生年月日、死亡年月日などを正確に伝え、今後の手続きに必要な書類について確認します。
必要書類の準備と提出
手続きには、一般的に以下のような書類が必要になります。窓口の案内に従って準備しましょう。
- 遺族給付金の請求書(窓口から取り寄せます)
- 故人の死亡が確認できる書類(死亡診断書のコピーなど)
- 故人と請求者(遺族)の続柄がわかる戸籍謄本
- 請求者全員の現在の戸籍謄本
- 請求者の印鑑証明書
- 故人の年金証書や加入者証
- 給付金を受け取る金融機関の口座情報がわかるもの
特に戸籍謄本は、故人の出生から死亡までの一連のものが必要になる場合もあり、収集に時間がかかることもあるため、早めに準備を始めると安心です。
給付金の受け取り
必要書類をすべて提出し、不備がなければ、審査が行われた後に指定した口座に給付金が振り込まれます。一時金で受け取る場合は一度に全額が、年金形式を選択した場合は定期的に(例えば2ヶ月に1回など)振り込まれることになります。
遺族給付金と相続税申告への影響
企業年金の遺族給付金が相続税にどう影響するのか、具体的なポイントを見ていきましょう。
企業年金の遺族給付金は「みなし相続財産」
企業年金の遺族給付金は、故人が亡くなったことを原因として遺族が受け取るお金です。これは、故人が生前に持っていた預貯金などとは少し性質が異なりますが、税法上は「相続によって得た財産」とみなされます。これを「みなし相続財産」と呼び、相続税の課税対象となります。
死亡退職金の非課税枠が使える!
相続税の対象になると聞くと心配になるかもしれませんが、大きなメリットがあります。それは、「死亡退職金の非課税枠」が使えることです。遺族給付金は死亡退職金として扱われるため、一定額まで相続税がかからなくなっています。
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人だった場合、500万円 × 3人 = 1,500万円までが非課税となります。もし遺族給付金の額が1,000万円であれば、全額が非課税枠に収まるため、この給付金に対して相続税はかかりません。もし2,000万円であれば、1,500万円を差し引いた500万円分が課税対象となります。
年金形式で受け取る場合の注意点
受け取り方を「一時金」ではなく「年金」にすると、税金の扱いが複雑になるので注意が必要です。
まず、相続が発生した時点で、将来にわたって年金を受け取る権利(年金受給権)そのものに価値があるとみなされ、その評価額が相続税の課税対象になります。この評価額の計算は専門的で難しいため、税理士に相談することをおすすめします。
さらに、相続税の申告とは別に、毎年受け取る年金はご自身の「雑所得」として、所得税と住民税の課税対象になります。つまり、相続税と所得税の両方が関係してくるのです。
| 受け取り方 | 相続税 |
| 一時金 | 死亡退職金として課税(非課税枠が適用される) |
| 年金 | 年金受給権の評価額が課税対象(死亡退職金の非課税枠が適用される) |
| 受け取り方 | 所得税・住民税 |
| 一時金 | かからない |
| 年金 | 毎年受け取る年金額が「雑所得」として課税される |
どちらの受け取り方が有利かは、ご家庭の状況や他の所得額によって変わってきます。迷った場合は、税金のシミュレーションをしたうえで慎重に判断しましょう。
相続税申告が必要になるケースとは?
遺族給付金を受け取ったからといって、必ずしも相続税の申告が必要になるわけではありません。相続税には、すべての財産から差し引ける「基礎控除」という大きな控除枠があります。
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
故人の預貯金、不動産、有価証券、そして今回解説した遺族給付金(非課税枠を超えた部分)などの遺産総額が、この基礎控除額を超える場合に、相続税の申告と納税が必要になります。
例えば、法定相続人が3人なら、基礎控除額は 3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円です。遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税の申告は不要です。
申告が必要な場合の期限は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」と定められています。期限は意外と短いので、早めに財産の全体像を把握することが大切です。
まとめ
確定給付企業年金などから受け取る遺族給付金について、ご理解いただけましたでしょうか。最後に大切なポイントをまとめます。
- 企業年金の遺族給付金は、公的年金と違い相続税の課税対象です。
- 「みなし相続財産」として扱われますが、「死亡退職金の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)」が使えます。
- 手続きは、まず故人の勤務先や年金基金に連絡することから始めましょう。
- 年金形式で受け取ると、相続税だけでなく、毎年の所得税・住民税もかかるため、一時金との比較検討が重要です。
- 遺産総額が基礎控除額を超える場合は、相続開始から10か月以内に相続税の申告が必要です。
相続の手続きは複雑で、特に税金が関わる部分は判断が難しいことも多いです。もし少しでも不安に感じたり、ご自身のケースではどうなるのか詳しく知りたかったりする場合は、お一人で抱え込まずに、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
確定給付企業年金(遺族年金)のよくある質問まとめ
Q.確定給付企業年金(DB)の遺族年金とは何ですか?
A.確定給付企業年金(DB)の加入者が在職中または受給中に亡くなった場合に、規約で定められた遺族が受け取れる年金です。多くの場合、一時金で受け取ることも選択できます。
Q.遺族年金を受け取るには、どのような手続きが必要ですか?
A.まずは亡くなった方の勤務先や、年金を管理している運営管理機関(信託銀行や生命保険会社など)に連絡し、死亡の事実を伝えます。その後、所定の請求書類を取り寄せて必要事項を記入し、提出するのが一般的な流れです。
Q.企業年金の遺族年金は相続税の課税対象になりますか?
A.はい、相続税の課税対象となります。年金を受け取る権利は「みなし相続財産」として扱われ、他の預貯金や不動産などと一緒に相続税が計算されます。
Q.遺族年金の相続税評価額はどのように計算しますか?
A.原則として、「一時金として受け取れる金額」「解約返戻金相当額」「予定利率などを基に計算した年金現価」の3つのうち、最も高い金額で評価されます。
Q.遺族年金にも相続税の非課税枠はありますか?
A.はい、あります。死亡後3年以内に支給が確定したものは死亡退職金等として扱われ、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税限度額を適用できます。
Q.遺族年金を受け取ったら確定申告は必要ですか?
A.相続税の課税対象となった年金を受け取る初年度は、所得税はかかりません。しかし、2年目以降に受け取る年金は「雑所得」として所得税の課税対象となり、原則として確定申告が必要です。