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個人から法人への土地賃貸|普通借地と定期借地の税金の違いを徹底解説

2025-06-22
目次

ご自身が所有する土地を、ご自身の会社(法人)に貸すことは、事業を行う上でよくあるケースですよね。このとき、どのような賃貸借契約を結ぶかによって、賃料や権利金、そして所得税や相続税といった税金の額が大きく変わることをご存知でしょうか?今回は、「普通借地」「定期借地」という2つの契約形態に焦点を当て、それぞれの違いを税金の面から分かりやすく解説していきます。ご自身の状況に合った最適な選択をするための参考にしてくださいね。

普通借地と定期借地、基本的な違いって?

まず、2つの借地権の根本的な違いから見ていきましょう。一番大きなポイントは「契約を更新できるかどうか」という点です。

半永久的に更新される「普通借地権」

普通借地権は、一度契約を結ぶと、借主である法人が望む限り、原則として契約が更新され続ける権利です。最初の契約期間は30年以上で、1回目の更新で20年以上、2回目以降は10年以上となります。土地の所有者である個人(地主)が更新を断るには、「地主自身がその土地を使わなければならない切迫した事情がある」といった「正当事由」が必要になり、これが認められるハードルは非常に高いです。そのため、一度貸すと土地が半永久的に戻ってこない可能性があるのが特徴です。

契約期間で必ず終了する「定期借地権」

一方、定期借地権は、契約時に定めた期間が満了すると、更新されることなく契約が確実に終了し、土地が更地で返還される権利です。これにはいくつかの種類がありますが、個人が法人に事業用の土地として貸す場合、一般的には「事業用定期借地権等」(期間10年以上50年未満)が利用されます。この契約は、将来必ず土地が手元に戻ってくるという安心感が地主側にとって大きなメリットです。

普通借地と定期借地の比較まとめ

2つの違いを簡単に表にまとめてみました。

契約の種類 普通借地権
契約期間 当初30年以上
更新の有無 原則更新される(地主からの拒絶には正当事由が必要)
契約終了時 借主は建物の買取を請求できる(建物買取請求権)
契約の種類 定期借地権(事業用定期借地権等)
契約期間 10年以上50年未満
更新の有無 更新はない
契約終了時 借主は建物を解体し、更地で土地を返還する

賃料や権利金はどう変わる?税務上の注意点

個人と法人の間の取引、特にそれがご自身とご自身の会社(同族会社)である場合、税務署は「不当に安い金額で利益を移転していないか?」という視点で厳しくチェックします。そのため、賃料や権利金は第三者間取引と同じように、適正な価格で設定する必要があります。

権利金と賃料(地代)の基本的な考え方

土地を貸す際、地主が受け取るお金には、契約時に一時金として受け取る「権利金」と、毎月(または毎年)受け取る「賃料(地代)」があります。どちらを受け取るか、あるいは両方受け取るかによって、税金の扱いが変わります。

ポイントは、権利金を受け取らない場合、通常よりも高い賃料を設定する必要があるという点です。これを「相当の地代」と言います。

権利金の授受 ありの場合
賃料(地代) 通常の地代でOK(一般的に、土地の固定資産税・都市計画税の年額の2~3倍程度が目安)
権利金の授受 なしの場合
賃料(地代) 相当の地代が必要(一般的に、土地の更地価額のおおむね年6%が目安)

権利金なしで「通常の地代」しかもらわないとどうなる?

もし、権利金を受け取らずに「通常の地代」(安い地代)しか設定しなかった場合、税務上、個人から法人へ「借地権」を無償で贈与したとみなされてしまいます。その結果、法人は借地権相当額の利益(受贈益)があったと判断され、法人税が課されてしまいます。これを「認定課税」と呼びます。

この認定課税を避けるためには、以下のどちらかの対応が必要です。

  1. 「相当の地代」を支払う。
  2. 「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する。

この届出書を提出すれば、将来、法人がその土地を無償で個人に返すことを約束したことになり、権利金の授受がなくても認定課税は行われません。個人と法人間での土地賃貸借では、実務上この届出書を提出するケースが非常に多いです。

個人の所得税はどうなる?

土地を貸している個人(地主)には、権利金や賃料に対して所得税がかかります。契約形態によって、その税金の発生の仕方が異なります。

権利金を受け取った場合

契約時に権利金を受け取ると、その金額は不動産所得(事業的な規模の場合は事業所得)または譲渡所得として扱われ、その年の所得が一時的に大きく増えることになります。所得税は累進課税なので、所得が増えれば税率も高くなり、一度に多額の納税が必要になる可能性があります。

賃料(地代)を受け取った場合

毎月または毎年受け取る賃料は、不動産所得として毎年確定申告が必要です。権利金のように一時的に大きな所得にはなりませんが、契約期間中、継続して所得が発生します。「相当の地代」を設定した場合は、通常の地代よりも毎年の所得額が大きくなります。

どちらの契約が所得税上有利?

一時的な高額納税を避けたい、手元の資金を確保したいという場合は、権利金なしで「相当の地代」を受け取る方が資金繰りは楽かもしれません。ただし、毎年の所得税・住民税の負担は重くなります。ご自身のライフプランや他の所得とのバランスを考えて選択することが大切です。

法人側の税金(法人税)はどうなる?

土地を借りている法人側にも、支払い方法によって税務上の扱いが変わってきます。

権利金を支払った場合

法人が支払った権利金は、経費(損金)にはならず、「借地権」という資産として計上します。この借地権は土地と同じように価値が減らない(減価償却しない)資産なので、支払った年に一括で経費にすることはできません。

賃料(地代)を支払った場合

法人が支払う賃料は、全額を地代家賃として経費(損金)に算入できます。これにより、法人の課税所得を圧縮し、法人税を節税する効果があります。

法人にとってはどちらが有利?

多くの法人にとっては、毎年の賃料を支払う方が経費として計上できるため、法人税の節税につながり有利と言えるでしょう。特に、設立間もない会社など、初期費用を抑えたい場合には、権利金の負担がない契約形態が好まれます。

一番の違いはここ!相続税評価はどう変わる?

土地の所有者である個人に相続が発生したとき、その土地の評価額は契約形態によって大きく異なります。これは相続税対策を考える上で非常に重要なポイントです。

普通借地の場合の土地(底地)の評価

普通借地権が設定されている土地(底地)は、地主が自由に利用できないため、その価値は大きく下がります。相続税評価額は、更地としての評価額(自用地評価額)から借地権の価値を差し引いて計算します。

計算式:貸宅地の評価額 = 自用地評価額 × (1 – 借地権割合)

借地権割合は、その土地がある地域の路線価図に記されており、多くは60%や70%といった高い割合に設定されています。例えば、借地権割合が70%の地域であれば、土地の評価額は更地の30%にまで圧縮されます。これにより、相続税を大幅に節税する効果が期待できます。

定期借地の場合の土地(底地)の評価

定期借地権は、契約期間が終われば必ず土地が戻ってくるため、普通借地権ほど大きな評価減にはなりません。評価額の計算は少し複雑ですが、原則として更地としての評価額から、残りの契約期間などに応じた定期借地権の価値を差し引いて計算します。

簡潔に言うと、契約の残存期間が短くなるにつれて、評価額は更地の価値に近づいていきます。相続税の節税効果は、普通借地権に比べて限定的です。例えば、残存期間が15年を超える場合の評価減は20%程度にとどまります。

相続税対策としての比較

相続税の節税効果だけを考えると、評価額を大きく下げられる普通借地権の方が圧倒的に有利です。しかし、「土地が半永久的に戻ってこないかもしれない」という大きなデメリットがあります。将来、その土地をご自身やご家族が使いたい、あるいは売却したいといった計画がある場合は、定期借地権の方が適していると言えるでしょう。

まとめ

個人が所有する土地を法人に貸す際の「普通借地」と「定期借地」の違いを、税金の観点から見てきました。どちらが良い・悪いということではなく、それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の目的や将来設計に合わせて選ぶことが何よりも大切です。

普通借地権
メリット ・相続税評価額を大幅に圧縮でき、高い節税効果がある
デメリット ・一度貸すと土地が半永久的に戻ってこない可能性がある
・借主の権利が強く、地主の自由度が低い
定期借地権
メリット ・契約期間満了後、必ず土地が更地で返還される安心感がある
・将来の土地利用計画が立てやすい
デメリット ・相続税の節税効果は普通借地に比べて限定的

特に、ご自身とご自身の法人間での取引では、権利金や賃料の設定を誤ると「認定課税」という思わぬ税金が発生するリスクがあります。契約を結ぶ際には、必ず税理士などの専門家に相談し、ご自身の状況に最も適した方法を選択するようにしてくださいね。

参考文献

国税庁 No.4611 借地権の評価

国税庁 No.4613 貸宅地の評価

国税庁 No.4612 一般定期借地権の目的となっている宅地の評価

国税庁 土地の無償返還に関する届出書

個人が法人に土地を貸す際の税金と契約のよくある質問まとめ

Q. 個人が自分の会社に土地を貸す場合、地代はいくらに設定すればよいですか?

A. 年間の固定資産税・都市計画税の2~3倍程度が「相当の地代」の一つの目安です。地代が低すぎると、個人から法人への贈与とみなされ課税されるリスクがあるため、適正な価格設定が重要です。

Q. 権利金は必ず必要ですか?普通借地と定期借地で違いはありますか?

A. 必ずしも必要ではありません。普通借地の場合でも、税務署に「土地の無償返還に関する届出書」を提出すれば権利金の授受は不要です。定期借地権では、権利金なしで契約することが一般的です。

Q. 受け取った地代にかかる所得税はどうなりますか?

A. 個人が受け取った地代は「不動産所得」として所得税の課税対象になります。これは普通借地でも定期借地でも同じです。権利金を受け取った場合は、その権利金も不動産所得に含まれます。

Q. 相続が発生したとき、土地の評価額は普通借地と定期借地でどう変わりますか?

A. 普通借地で権利金の授受がない場合、土地は「貸宅地」として評価され、自用地評価額から借地権割合等を控除できるため相続税評価額が下がります。一方、定期借地の場合は原則として自用地評価となり、評価額は下がりません。

Q. 普通借地と定期借地、相続税対策としてはどちらが有利ですか?

A. 相続税の節税効果だけを考えれば、土地の評価額が下がる普通借地契約の方が有利です。ただし、普通借地は土地が半永久的に返ってこないリスクがあるため、総合的な判断が必要です。

Q. 個人が法人に土地を貸す際に最も注意すべき点は何ですか?

A. 必ず賃貸借契約書を作成し、地代の額や契約形態(普通借地か定期借地か)を明確にすることです。特に権利金なしの普通借地にする場合は「土地の無償返還に関する届出書」の提出を忘れないようにしましょう。税務上のリスクを避けるために重要な手続きです。

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