税理士法人プライムパートナーズ

個人保有の保養所を会社へ安く賃貸する際の税務上の留意点と対策

2026-04-12
目次

ご自身が個人で所有している別荘や保養施設を、自分が経営する会社へ社員の福利厚生目的としてお安く貸し出したいと考える経営者の方は多くいらっしゃいます。会社としては経費を抑えながら社員の満足度を高められますし、個人としても維持費の負担を減らせる魅力的な選択肢ですよね。しかし、親族や自分の会社だからといって相場より極端に安い家賃で貸し借りをすると、税務調査で思わぬ指摘を受け、高額な追徴課税が発生してしまうリスクが潜んでいます。ここでは、個人から会社へ保養所を低額で賃貸する際に気をつけるべき具体的なルールや、適正な手続きについてわかりやすく解説していきます。

保養所を自社へ安く賃貸する際の基礎知識

個人で持っている不動産を、自分が代表を務める法人に貸し出す行為はよく見られますが、そこに「相場よりも安くする」という条件が加わると、税務上の特別なルールが適用されることになります。まずは基本的な仕組みを確認していきましょう。

保養所を個人から会社へ貸し出すメリット

保養所を会社に貸し出すと、会社側では家賃や水道光熱費を地代家賃福利厚生費として法人の経費に計上できます。また、個人側では固定資産税や火災保険料などを不動産所得の必要経費として差し引くことが可能になります。このように、個人の手出しとなっていた維持費を会社の経費として処理できる点が一番の魅力です。

メリット(会社側) 家賃や光熱費を法人の経費(福利厚生費等)として計上でき、法人税を減らせる
メリット(個人側) 固定資産税や修繕費などの維持費を不動産所得の経費にでき、負担が軽減される

低額賃貸(安く貸す)仕組みと一般的な理由

「どうせ自分の会社だから」という理由で、近隣の相場が月額15万円の物件を、月額3万円などの極端に安い金額で貸し出すケースがあります。会社に余分な負担をかけたくないという親心のようなものですが、税務上は独立した個人と法人の間での取引とみなされるため、特別扱いは認められません。安く貸しすぎると、本来もらうべき家賃との差額に対して税金がかかるリスクが生じます。

通常の賃貸借契約 市場価格(月額15万円など)で契約し、妥当な利益と経費を計上する
低額での賃貸借契約 相場より著しく安い価格(月額3万円など)で貸し、税務上のリスクを抱える

税務調査で狙われやすいポイントの全体像

税務署は、会社と社長個人の間のお金のやり取りを非常に厳しくチェックします。特に保養所の場合、「本当に社員全員が使っているのか」「実質的には社長個人の別荘代わりになっていないか」「家賃の設定は妥当か」という3つの視点が重点的に見られます。ここをクリアできないと、経費が取り消されるなどの厳しいペナルティが待っています。

調査の焦点 税務署の具体的な確認内容
利用の実態 一部の役員だけでなく、一般の従業員も平等に利用できる状態にあるか
家賃の妥当性 近隣の類似物件や固定資産税評価額をもとに計算した適正な金額か

法人(会社)側で発生する税務上の留意点

会社が保養所を借りて維持費を負担する場合、その費用が適正な会社の経費として認められるためには、いくつかの厳格な条件をクリアする必要があります。

福利厚生費として認められるための具体的な要件

保養所の家賃や維持費を福利厚生費として計上するには、社内に利用規程を設け、全従業員が平等に利用できる機会を与えられている必要があります。例えば、「1泊あたり従業員は一律1,000円を負担する」といった明確なルールを作り、実際に従業員が利用したという宿泊名簿の記録を残すことが必須です。

必要な規程 利用対象者、申込方法、利用料金(1泊1,000円など)を定めた福利厚生規程
必要な記録 利用した従業員の氏名、利用日、支払った金額を記載した宿泊者名簿

特定の役員だけが使うと役員賞与とみなされるリスク

もし、会社で保養所を借りているにもかかわらず、実際には社長やその家族しか利用していない場合、会社が負担した月額10万円の家賃などは、すべて社長個人への役員賞与(ボーナス)とみなされます。役員賞与と認定されると、会社側では損金(経費)として認められず法人税が増え、さらに社長個人の所得税も増額されるという非常に手痛いダブルパンチを受けます。

適切な利用実態 全社員に利用の機会があり、実際に複数名の従業員が年間を通して利用している
役員賞与とされる実態 利用規程がなく、事実上社長や特定の親族役員しか鍵を持たず私物化している

消費税の課税・非課税の判定基準

保養所の家賃にかかる消費税の扱いも間違いやすいポイントです。一般的な居住用の住宅として月単位で貸し出す場合は消費税は非課税となりますが、従業員に対して1泊や2泊といった短い期間で保養所として利用させる場合は、旅館業と同じ扱いになり消費税の課税対象となります。契約書上の用途や実際の利用期間によって消費税の扱いが変わるため注意が必要です。

消費税が非課税になる貸付 居住用住宅として1ヶ月以上の長期契約で従業員に社宅として貸し出す場合
消費税が課税になる貸付 保養所として1泊や数日単位の短期間で従業員に利用させる場合

個人(オーナー)側で発生する税務上の留意点

次に、保養所を貸し出している個人(オーナー)側の税金について見ていきましょう。安く貸すことで個人側にも大きな税務リスクが発生します。

適正家賃と「同族会社の行為計算否認」のリスク

個人が自分の会社へ極端に安い家賃で貸し付けていると、税務署から同族会社の行為計算の否認という規定を適用される可能性があります。これは「税金を減らすための不自然な取引」とみなして、本来の適正家賃で計算し直すという強力なルールです。例えば、本来の適正家賃が月額20万円であるところを月額5万円で貸していた場合、差額の15万円について会社から個人への特別な利益供与があったと判断される恐れがあります。

適正家賃の設定例 固定資産税の課税標準額をベースにするか、近隣不動産の相場から算出する
否認された場合の影響 差額分が役員給与とみなされ、個人の所得税と住民税が大幅に追加徴収される

不動産所得の計算と「別荘等」の赤字の損益通算ルール

不動産を貸して赤字が出た場合、通常はその赤字を給与所得などから差し引く(損益通算)ことができます。しかし、保養所や別荘のように「主として趣味、娯楽、保養の目的で所有する不動産」の貸付けから生じた赤字は、原則として他の所得から差し引くことができません。年間50万円の赤字が出たとしても、個人の給与所得からマイナスして税金を安くすることはできないと法律で定められています。

通常の賃貸用アパートの赤字 他の所得(給与所得など)からマイナスして、全体の所得税を減らすことができる
保養所(別荘等)の赤字 趣味や保養目的とみなされ、他の所得から差し引くこと(損益通算)はできない

個人が受け取る家賃に関する確定申告の注意点

会社から家賃を受け取っている以上、たとえ赤字であっても個人として不動産所得の確定申告を行う必要があります。収入額から、建物の減価償却費、固定資産税、火災保険料などの必要経費を正しく計算して申告書を作成します。ここで経費にできるのはあくまで「貸し出している期間・部分」に関するものだけですので、個人で私的に利用している期間があれば、その分は経費から除外しなければなりません。

収入に含めるもの 会社から毎月振り込まれる家賃、契約時に受け取った返還不要の権利金など
経費にできるもの 貸付割合に応じた建物の減価償却費、固定資産税、修繕費、火災保険料など

税務リスクを避けるための具体的な対策

ここまでご説明したような厳しい指摘を避けるためには、税務調査が入っても堂々と説明できる客観的な証拠と手続きを整えておくことが大切です。

近隣相場に基づいた適正な家賃設定を行う

いくら安く貸したいと思っても、周辺の不動産仲介業者に査定を依頼するなどして、客観的で適正な家賃を設定してください。例えば、近隣の似たような一戸建ての家賃相場が月額12万円であれば、会社からも月額12万円をしっかり受け取る契約にします。安すぎる家賃設定は、税務署に疑われる最大の原因となります。

家賃の根拠資料1 近隣の不動産業者が作成した、類似物件の賃料相場の査定書
家賃の根拠資料2 固定資産税の課税明細書をもとに、一定の利回りを乗じて計算した算定書

賃貸借契約書と利用規程を整備する

個人と会社の間で、必ず書面による賃貸借契約書を作成してください。契約書には月額家賃や支払日、契約期間を明記します。同時に、会社側では「保養所利用規程」を作成し、全従業員に周知します。「正社員・パートを問わず利用できる」「1泊2,000円を利用者が負担する」といった具体的なルールを文章化して保管しておきましょう。

賃貸借契約書の必須項目 物件の所在地、貸主(個人)と借主(会社)の署名捺印、月額賃料、契約期間
利用規程の必須項目 利用できる対象者の範囲、申込手続きの流れ、利用者負担金(1泊2,000円等)

実際の利用実績を帳簿や名簿で記録・保存する

規程を作るだけでなく、実際に稼働している証拠を残すことが最も重要です。利用を希望する従業員からの「利用申込書」や、実際に宿泊した日付と人数を記録した宿泊者名簿を毎月ファイリングしておきます。さらに、従業員から徴収した1泊2,000円などの利用料が、毎月会社の銀行口座にしっかりと入金されている事実を帳簿に残しておきましょう。

残すべき証拠書類 従業員直筆の利用申込書、宿泊者名簿、施設内に置かれた利用日誌
お金の動きの記録 従業員からの利用料の振込記録や給与天引きの明細、会社から個人への家賃振込履歴

税務調査で否認された場合に発生するペナルティ金額

もし対策を怠り、税務署から「これは保養所ではなく実質的な社長の別荘だ」と否認されてしまった場合、非常に重いペナルティが課せられます。

法人税や所得税の追徴課税の仕組み

例えば、会社が年間120万円の家賃と、光熱費等30万円の合計150万円を支払っていたとします。これが否認されると、会社側では150万円の経費が取り消され、その分の法人税が追加で発生します。同時に、社長個人には150万円の追加ボーナス(役員賞与)が支払われたとみなされ、個人の所得税と住民税が一気に跳ね上がります。これを往復ビンタの課税と呼びます。

会社への影響 経費の取り消しにより利益が増え、追加の法人税や地方税が発生する
個人への影響 役員賞与とみなされ個人の給与所得が増加し、所得税・住民税が追加される

重加算税や延滞税などの具体的な税率と金額例

単なる計算間違いではなく、意図的に私用の別荘を会社の経費にしていたと判断されると、本来納めるべき税金に対して35%〜40%という非常に重い重加算税が課せられます。さらに、納付が遅れたことに対する利息として、年率2.4%から最大8.7%程度の延滞税も加算されます。結果として、本来払うべきだった税金の1.5倍近い金額を現金で一括納付しなければならない事態に陥ります。

過少申告加算税・重加算税 申告漏れの税額に対して、原則10%〜15%(悪質な仮装隠蔽なら35%〜40%)
延滞税 納付期限の翌日から完納日まで、年率約2.4%〜8.7%で日割り計算される利息

まとめ

個人が所有する保養所を自分の会社に安く賃貸することは、一見すると節税や経費削減になりそうですが、税務上は非常にデリケートでリスクの高い行為です。適正な家賃相場から外れた低額な賃料設定や、従業員が自由に利用できない名ばかりの福利厚生施設は、税務調査で役員賞与として否認される可能性が極めて高くなります。会社と個人の両方で多額の追徴課税を受けないためにも、客観的な適正家賃での賃貸借契約を結び、しっかりとした利用規程と宿泊実績を残すよう心がけてください。迷った場合は、早い段階で専門の税理士に相談し、正しいルールの下で運用していくことが最も安全で確実な方法です。

参考文献

国税庁 No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

国税庁 No.6149 資産の貸付けの具体例

国税庁 No.6226 住宅の貸付け

個人所有の保養所を会社へ貸す際のよくある質問まとめ

Q.個人の保養所を会社に無償(タダ)で貸しても問題ありませんか?

A.会社側では受贈益が発生する可能性がありますが、個人側では原則として課税されません。ただし固定資産税などの経費が個人の自己負担となるため注意が必要です。

Q.保養所の家賃はどのように決めるのが一番安全ですか?

A.近隣の不動産業者に類似物件の家賃相場を査定してもらうか、固定資産税評価額を基に合理的に計算した適正な金額を設定するのが最も安全です。

Q.役員しか使っていない保養所はどうなりますか?

A.福利厚生費としては認められず、会社が負担した維持費や家賃はすべてその役員に対する「役員賞与」とみなされ、会社と個人の両方に重い税金がかかります。

Q.保養所の賃貸で出た赤字は、給与から差し引けますか?

A.保養所や別荘など、主として趣味や保養の目的で所有する不動産の貸付けによる赤字は、原則として給与所得など他の所得と損益通算することはできません。

Q.社員から保養所の利用料をもらう必要はありますか?

A.はい、完全に無料で利用させると給与として課税される恐れがあるため、1泊1,000円など社会通念上妥当な少額の利用料を従業員から徴収する必要があります。

Q.保養所を貸す際の消費税は非課税になりますか?

A.一般的な住宅として1ヶ月以上貸し出す場合は非課税ですが、保養所として従業員に数日単位で利用させる場合は旅館業に該当し、消費税の課税対象となります。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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