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個人所有アパートの法人化、どうやる?税金と手続きを徹底解説!

2025-06-19
目次

アパート経営の規模が大きくなると「法人化」を検討する方が増えてきます。でも、どうやって個人名義のアパートを法人に移すのか、どんな税金がかかるのか、不安に思うことも多いですよね。この記事では、個人所有のアパートを法人に移す具体的な方法と、その際の課税関係について、専門的な内容をわかりやすく、丁寧にご紹介していきます。

なぜアパートを法人に移すの?法人化のメリット

多くの不動産オーナーが、なぜ個人経営から法人経営へと切り替えるのでしょうか。それには、税金や相続の面で大きなメリットがあるからです。法人化は少し複雑に感じるかもしれませんが、将来の安心のためにも、その利点をしっかり理解しておくことが大切ですよ。ここでは、アパートを法人化することで得られる主なメリットを見ていきましょう。

所得税と法人税の税率差による節税効果

個人で得た不動産所得には所得税と住民税がかかります。これは「累進課税」といって、所得が増えれば増えるほど税率も高くなる仕組みです。所得が多い方だと、税率の合計が最大で55%にも達することがあります。一方で、法人の所得にかかる法人税は、税率がほぼ一定です。そのため、不動産所得が年間900万円を超えるあたりから、法人を設立した方が全体の税負担を軽くできるケースが多くなります。ご自身の所得と税率を一度確認してみるのがおすすめですよ。

区分 税率(所得税+住民税)
個人の所得税・住民税(累進課税) 約15% ~ 55%
法人税の実効税率(資本金1億円以下) 約25% ~ 34%

経費として認められる範囲が広がる

法人化すると、個人事業主のときよりも経費として認められる範囲がぐっと広がります。例えば、オーナー様ご自身への給与(役員報酬)やご家族への給与、さらには将来のための退職金も経費として計上できます。また、役員社宅の制度を使えば家賃の一部を経費にできますし、生命保険料の一部も損金として算入できる場合があります。これらの経費を上手に活用することで、課税対象となる所得を効果的に圧縮し、さらなる節税効果が期待できるのです。

相続対策がスムーズになる

個人でアパートを所有していると、万が一相続が発生した際に、その不動産自体が相続財産となります。そうなると、高額な相続税がかかったり、複数の相続人でどう分けるか(遺産分割)で揉めてしまったりするケースも少なくありません。法人化してアパートの所有権を法人に移しておけば、相続の対象は不動産ではなく法人の株式になります。株式は不動産と違って分割しやすいため、円満な遺産分割につながります。また、後継者となるご家族に役員報酬を支払うことで、贈与税をかけずに計画的に資産を移転していくことも可能になり、スムーズな事業承継の準備ができます。

個人所有のアパートを法人に移す3つの方法

さて、実際に個人で持っているアパートを、新しく作った法人に移すにはどうすれば良いのでしょうか。主な方法として3つのパターンがあります。それぞれにメリット・デメリットがあり、関わってくる税金も変わってきますので、ご自身の目的や状況に合った最適な方法をじっくり選びましょう。

① 売買(個人から法人へ売却)

最も一般的で分かりやすい方法が、オーナー様個人から、設立した法人へアパートを売却する方法です。法人は、金融機関から融資を受けたり、オーナー様個人からの貸付金を使ったりして、アパートの購入資金を準備します。この方法のメリットは、取引が明確であることです。ただし、個人にはアパートを売ったことによる譲渡所得税がかかります。また、時価とかけ離れた不当に安い価格で売買すると、税務署から「贈与ではないか」と指摘を受ける可能性があるので、価格設定は慎重に行う必要があります。

② 現物出資(アパートを資本金として出資)

現物出資とは、お金の代わりにアパートそのものを資本金として法人に出資する方法です。この方法の最大のメリットは、法人が購入資金を用意する必要がない点です。手元に資金がなくても法人化を進められます。しかし、手続きが非常に複雑になるというデメリットもあります。裁判所が選任した検査役による調査や、不動産鑑定士による価格証明、弁護士や税理士による評価証明などが必要となり、専門家への報酬も高額になりがちです。個人にかかる譲渡所得税は、売買のケースと同様に発生します。

③ 賃貸(個人が法人にアパートを貸す)

アパートの所有権は個人のまま変えずに、設立した法人にそのアパートを丸ごと貸し出す(サブリースする)方法です。法人は入居者様から家賃を受け取り、そこからオーナー様個人へ家賃を支払います。その差額が法人の利益となります。所有権の移転がないため、不動産取得税や登録免許税といった高額な税金がかからず、手軽に始められるのが魅力です。ただし、節税効果や相続対策としての効果は、アパートそのものを法人に移す上記2つの方法に比べると限定的になります。

アパートを法人に移すときにかかる税金

個人所有のアパートを法人に移す際には、避けて通れないのが税金の問題です。特に大きな負担となる可能性があるのが、個人(売主)にかかる「譲渡所得税」と、法人(買主)にかかる「不動産取得税」「登録免許税」です。計画を立てる前に、どのくらいの税金がかかるのかをしっかり把握しておくことが、失敗しないための重要なポイントになります。

個人(売主)にかかる税金:譲渡所得税

個人が法人にアパートを売却、または現物出資した場合、その売却によって得た利益(譲渡所得)に対して譲渡所得税・住民税が課税されます。この税率は、アパートを所有していた期間によって大きく異なります。5年を超えて長く所有していた方が、税率が低く設定されていて有利になります。

譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 売却価格 − (取得費 + 譲渡費用)

所有期間 税率(所得税+復興特別所得税+住民税)
長期譲渡所得(5年超) 20.315%
短期譲渡所得(5年以下) 39.63%

法人(買主)にかかる税金:不動産取得税・登録免許税

法人がアパートを取得すると、主に2つの税金がかかります。これらは物件の評価額に基づいて計算されるため、事前に概算額を把握しておきましょう。

  • 不動産取得税:不動産を取得したときに一度だけ課税される都道府県税です。税額は、原則として「固定資産税評価額 × 4%」で計算されます。(※軽減措置あり)
  • 登録免許税:不動産の所有権を個人から法人へ移す「所有権移転登記」の手続きの際に国に納める税金です。税額は、原則として「固定資産税評価額 × 2.0%」で計算されます。
税金の種類 税率(原則)
不動産取得税 固定資産税評価額 × 4%
登録免許税(売買) 固定資産税評価額 × 2.0%

消費税の取り扱いにも注意

意外と見落としがちなのが消費税です。アパートの売買では、建物部分の価格に対して消費税がかかります(土地は非課税です)。個人オーナー様が消費税の課税事業者である場合、法人から消費税を受け取り、税務署に納付する義務があります。一方で、法人側は支払った消費税について、一定の条件を満たせば「仕入税額控除」として、納める消費税額から差し引くことができます。消費税の論点は非常に複雑なので、必ず税理士に相談することをおすすめします。

アパートを法人に移す具体的な手続きの流れ

ここでは、最も一般的な「売買」によってアパートを法人に移す際の、具体的な手続きの流れを6つのステップに分けて解説します。専門的な知識や手続きが多く含まれるため、司法書士や税理士といった専門家の方々としっかり連携を取りながら進めるのが安心への近道です。

STEP1:法人設立の準備・登記

まずは、アパートの受け皿となる法人(株式会社または合同会社)を設立します。会社名、事業目的、資本金の額、役員構成などを決め、会社の基本ルールである「定款」を作成します。株式会社の場合は、公証役場で定款の認証を受ける必要があります。準備が整ったら、管轄の法務局で設立登記を申請します。登記にかかる費用は、株式会社で約25万円から、合同会社で約10万円からが一般的な目安です。

STEP2:資金調達

次に、法人がアパートを購入するための資金を調達します。金融機関からの事業用ローンが一般的ですが、オーナー様個人が法人にお金を貸し付ける(役員借入金)という方法も考えられます。金融機関から融資を受ける場合は、しっかりとした事業計画書の提出が求められます。

STEP3:売買契約の締結

オーナー様個人と設立した法人との間で、不動産売買契約書を締結します。このとき、売買価格は客観的な時価に基づいた適正な価格に設定することが非常に重要です。後々の税務調査でトラブルにならないよう、専門家のアドバイスを受けながら、内容のしっかりした契約書を作成しましょう。

STEP4:決済・所有権移転登記

契約内容に基づき、法人がオーナー様個人へ売買代金を支払い(決済)、それと同時に司法書士に依頼して法務局で所有権移転登記の申請を行います。この登記手続きが完了すると、アパートの名義が正式に個人から法人へと移ります。

STEP5:各種契約の名義変更

アパートの所有者が法人に変わるため、関連する様々な契約の名義を個人から法人へ変更する必要があります。入居者様との賃貸借契約書、管理会社との管理委託契約、火災保険や地震保険、建物の修繕積立金、金融機関からの借入金など、漏れなく手続きを行いましょう。特に入居者様には、オーナーが変更になる旨を丁寧に説明し、ご安心いただくことが大切です。

STEP6:税務署などへの届出

法人設立後は、速やかに税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ「法人設立届出書」などを提出します。青色申告の承認申請書なども同時に提出するとスムーズです。また、個人事業主としての不動産貸付業を廃止する場合は、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を忘れずに提出しましょう。

法人化を検討すべきタイミングは?

「自分はいつ法人化するのがベストなんだろう?」多くの方がこの点でお悩みになるかと思います。法人化には節税などのメリットがある一方で、設立費用や税理士報酬といった運営コストもかかります。最適なタイミングは人それぞれですが、一般的に言われているいくつかの目安をご紹介しますね。

不動産所得が900万円を超えたとき

繰り返しになりますが、法人化による節税メリットが大きくなる一つの目安が、不動産所得(課税所得)が年間800万円~900万円を安定して超えるようになったときです。このくらいの所得水準になると、個人の所得税・住民税の税率が法人税の実効税率を上回ってくるため、法人化した方が手元に残るお金が増える可能性が高くなります。

相続が近い将来に見込まれるとき

相続税対策を主な目的として法人化を考える場合は、できるだけ早めに準備を始めることが大切です。ただし、注意点もあります。相続開始前3年以内に設立された法人の株式は、相続税の計算上、不動産を時価で評価されてしまう特例があり、思ったような節税効果が得られないことがあります。相続を見据えるのであれば、ご自身が元気なうちから計画的に、専門家と相談しながら進めるのが賢明です。

事業規模を拡大したいとき

これからアパートをもう1棟、2棟と買い増して、不動産事業をさらに大きくしていきたいと考えている場合も、法人化の絶好のタイミングです。一般的に、個人事業主よりも法人の方が社会的信用度が高く、金融機関からの融資も受けやすくなる傾向があります。新しい物件を最初から法人名義で取得すれば、後から所有権を移転する手間や余計な税金もかからず、スムーズに事業を拡大できます。

まとめ

個人所有のアパートを法人に移すことは、節税や相続対策において非常に有効な手段です。しかし、そのプロセスには様々な税金や複雑な手続きが伴い、専門的な知識が不可欠となります。主な移転方法には「売買」「現物出資」「賃貸」の3つがあり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。特に、個人にかかる譲渡所得税や法人が負担する不動産取得税・登録免許税は大きなコストとなり得るため、事前のシミュレーションが欠かせません。法人化を成功させるための最も重要なカギは、ご自身の目的(節税なのか、相続対策なのか、事業拡大なのか)を明確にし、信頼できる税理士や司法書士といった専門家と二人三脚で、計画的に進めていくことです。この記事が、あなたの不動産経営の次のステップへの一助となれば幸いです。

参考文献

個人アパートの法人移転に関するよくある質問まとめ

Q. なぜ個人所有のアパートを法人に移すのですか?メリットは?

A. 主なメリットは節税です。個人の所得税は所得が増えると税率も上がりますが、法人税率の方が低くなる場合があります。その他、経費にできる範囲が広がったり、相続対策になったりするメリットもあります。

Q. アパートを法人に移すには、どんな方法がありますか?

A. 主に、個人から法人へ時価で売却する「売買」と、金銭の代わりに不動産で出資する「現物出資」があります。手続きが比較的簡単な「売買」が一般的です。所有権を移さずに法人が借り上げる「サブリース」という方法もあります。

Q. 法人へアパートを売却する際、個人にはどんな税金がかかりますか?

A. 個人には「譲渡所得税」がかかります。これは、アパートを適正な時価で売却して得た利益(譲渡所得)に対して課される税金です。譲渡所得は「売却価格 − (アパートの取得費 + 譲渡費用)」で計算されます。

Q. 法人側にはどんな税金や費用がかかりますか?

A. 法人側には、不動産を取得したことによる「不動産取得税」と、所有権移転登記のための「登録免許税」がかかります。その他、登記を依頼する司法書士への報酬なども必要です。

Q. 法人化する際の注意点は何ですか?

A. 法人設立や不動産移転の初期費用がかかる点です。また、法人を維持するためのコスト(法人住民税、税理士報酬など)や、社会保険への加入義務も発生します。法人の資産と個人の資産は明確に分ける必要があり、自由にお金を引き出せなくなる点にも注意が必要です。

Q. どのくらいの所得があれば法人化を検討すべきですか?

A. 一概には言えませんが、一般的に不動産所得などの課税所得が900万円を超えると、所得税率が法人税の実効税率を上回る可能性があるため、法人化を検討する一つの目安とされています。詳しくは専門家にご相談ください。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

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