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借地権と地上権の相続税評価は違う?計算方法をわかりやすく解説

2025-02-27
目次

ご家族が亡くなり、相続財産の中に土地が含まれていると、「この土地、どう評価すればいいんだろう?」と悩んでしまいますよね。特に、それが自分の土地ではなく、誰かから借りている土地(借地)となると、さらに複雑に感じられるかもしれません。中でも「借地権」と「地上権」はよく似ていますが、相続税評価額の計算方法が異なる場合があるんです。今回は、この二つの権利の違いと、それぞれの相続税評価額の計算方法について、わかりやすく解説していきます。

借地権と地上権の基本的な違い

まずは、借地権と地上権がそれぞれどんな権利なのか、基本的な違いから見ていきましょう。この二つ、似ているようでいて、法律上の性質が大きく異なります。その違いが、相続税の評価にも影響してくるんですよ。

権利の性質が違う!物権と債権

一番大きな違いは、権利の性質です。地上権は「物権」借地権(主に土地の賃借権を指します)は「債権」に分類されます。「物権」は、物を直接的に支配できる強力な権利で、誰に対してもその権利を主張できます。一方、「債権」は、特定の人(大家さんなど)に対して「土地を使わせてほしい」と請求できる権利です。この強さの違いが、様々な場面で現れてきます。

権利の種類 内  容
地上権(物権) 土地を直接支配する権利。地主の承諾がなくても、権利の譲渡や土地の転貸(また貸し)、担保設定(抵当権の設定)が自由にできます。登記も義務付けられています。
賃借権(債権) 地主に対して土地の使用を請求する権利。権利の譲渡や土地の転貸には、原則として地主の承諾が必要です。登記は義務ではありません。

「建物の所有」が目的かで扱いが変わる?

ここが相続税評価において非常に重要なポイントです。実は、相続税を計算する上では、「建物の所有を目的とする地上権」は、税法上「借地権」に含めて評価するというルールがあります。つまり、お父様が借りていた土地に自宅を建てて住んでいた、というような一般的なケースでは、たとえ登記上が「地上権」となっていても、相続税の評価は「借地権」として計算することになるんです。

一方で、建物の所有を目的としない地上権、例えば、地下にトンネルを通すため、地上に送電線を設置するため、あるいは太陽光パネルを設置するためといった目的で設定された地上権は、このルールに当てはまらず、本来の「地上権」として評価されます。

地上権の方が権利としては強い

前述の通り、地上権は物権であるため、賃借権よりも権利として非常に強力です。地主さんの意向に左右されずに土地を活用できる範囲が広いのが特徴です。そのため、財産的な価値も高いと考えられていますが、その評価方法は借地権とは少し異なるアプローチが取られます。

相続税評価額の計算方法

それでは、具体的に相続税評価額をどのように計算するのか見ていきましょう。「建物の所有を目的とするかどうか」で評価方法が変わるのがポイントです。

借地権(建物の所有を目的とする地上権を含む)の評価額

建物の所有を目的とする権利の場合、その評価額は以下の計算式で求められます。

借地権の評価額 = 自用地としての価額 × 借地権割合

「自用地としての価額」とは、その土地が更地で、何の権利もついていない状態の評価額のことです。一般的には、国税庁が定める路線価を使って計算します(路線価 × 土地の面積)。

「借地権割合」も国税庁が地域ごとに定めており、路線価図にアルファベット(A~G)で記されています。例えば「300C」と書かれていれば、路線価は1平方メートルあたり30万円で、借地権割合は70%(C)ということを示します。

  • A: 90%
  • B: 80%
  • C: 70%
  • D: 60%
  • E: 50%
  • F: 40%
  • G: 30%

例えば、自用地としての価額が5,000万円の土地で、借地権割合が60%(D)の地域なら、借地権の評価額は「5,000万円 × 60% = 3,000万円」となります。

地上権(建物所有目的以外)の評価額

次に、建物の所有を目的としない地上権の評価額です。こちらは、権利の残存期間に応じて評価額が変わるのが特徴です。

地上権の評価額 = 自用地としての価額 × 地上権の割合(残存期間による)

この「地上権の割合」は、相続税法で以下のように定められています。

残存期間 地上権の割合
10年以下のもの 5%
10年を超え15年以下のもの 10%
15年を超え20年以下のもの 20%
20年を超え25年以下のもの 30%
25年を超え30年以下のもの 40%
30年を超え35年以下のもの 50%
35年を超え40年以下のもの 60%
40年を超え45年以下のもの 70%
45年を超え50年以下のもの 80%
50年を超えるもの 90%
存続期間の定めのないもの 40%

評価額の違いをシミュレーション

同じ土地でも、権利の種類によって評価額がどれくらい変わるのか、簡単な例で比較してみましょう。

【設定】自用地としての価額が5,000万円の土地

  • ケース1:借地権の場合(借地権割合60%)
    5,000万円 × 60% = 3,000万円
  • ケース2:地上権の場合(残存期間が22年)
    残存期間22年は「20年を超え25年以下のもの」に該当するため、地上権の割合は30%です。
    5,000万円 × 30% = 1,500万円

このように、同じ土地であっても権利の目的や内容によって、相続税評価額が大きく変わることがあります。

なぜ評価方法が違うの?

どうしてこのように評価方法が分かれているのでしょうか。その背景には、それぞれの権利が持つ財産的な価値の考え方の違いがあります。

権利の強さと目的が価値に影響するから

相続税の評価は、その財産がどれくらいの価値を持つか、という実態に基づいて行われます。建物を所有するための借地権は、生活の基盤となる非常に重要な権利です。その価値は、地域の取引慣行などを反映した「借地権割合」で評価するのが実態に近いと考えられています。

一方、建物の所有を目的としない地上権は、特定の事業目的のために設定されることが多く、その価値は「あとどれくらいの期間、その土地を使えるか」という残存期間に大きく左右されます。そのため、期間が短くなるほど価値も下がるという考え方で評価されるのです。

「建物の所有目的」が大きな分かれ目

繰り返しになりますが、相続税の評価においては「建物の所有を目的としているか」が最大の判断基準です。相続で出てくる土地の権利がどちらに該当するかわからない場合は、まずこの点を契約書や登記簿謄本で確認することが大切です。

相続手続きでの注意点

借地権や地上権を相続する際には、評価以外にもいくつか注意しておきたい点があります。

登記簿謄本で権利の種類を確認する

まずは、法務局でその土地の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得しましょう。そこに「地上権設定」や「賃借権設定」といった記載があり、権利の種類や目的、存続期間などを確認することができます。これが、正しい評価を行うための第一歩になります。

地主さんへの連絡は必要?

借地権や地上権を相続した場合、それは売買や贈与といった「譲渡」にはあたらないため、地主さんの承諾を得る必要はありませんし、承諾料なども発生しません。ただし、今後も地主さんとの良好な関係を続けるために、相続によって借地人(地上権者)が変わったことは、きちんと報告しておくのが望ましいでしょう。

評価が難しいケースと専門家への相談

土地の権利関係は、ここまで説明してきた以外にも複雑なケースが存在します。

定期借地権や区分地上権の評価

契約の更新がない「定期借地権」や、土地の地下や空間の一部だけを利用する「区分地上権」(例:地下鉄や高圧線の敷設)など、特殊な権利も存在します。これらの評価方法はさらに専門的で、個別の契約内容を細かく分析する必要があり、ご自身で計算するのは非常に困難です。

相続税申告は税理士に相談しよう

土地の評価は、相続税申告の中でも特に専門性が高く、評価額が納税額に与える影響も非常に大きい部分です。特に借地権や地上権のように権利関係が複雑な場合は、評価方法を一つ間違えるだけで、納税額が大きく変わってしまったり、後から税務署に指摘されて追徴課税を受けてしまったりするリスクがあります。

相続財産に借地権や地上権が含まれている場合は、ご自身で判断せずに、必ず相続税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。

まとめ

借地権と地上権の相続税評価額の違いについて解説しました。ポイントをまとめると以下のようになります。

  • 借地権地上権は、法律上の性質が異なる権利です。
  • ただし相続税の評価では、「建物の所有を目的とする地上権」は「借地権」として扱われます
  • 借地権の評価額は「自用地評価額 × 借地権割合」で計算します。
  • 建物所有目的以外の地上権の評価額は「自用地評価額 × 残存期間に応じた割合」で計算します。
  • 正確な評価のためには、まず登記簿謄本で権利の種類と目的を確認し、専門家である税理士に相談することが最も安全で確実です。

複雑な土地の権利も、一つひとつ整理していけばきっと大丈夫です。この記事が、皆さんの不安を少しでも和らげるお手伝いになれば幸いです。

参考文献

国税庁 No.4611 借地権の評価

国税庁 No.4613 貸宅地の評価

借地権と地上権の相続税評価額に関するよくある質問まとめ

Q. 借地権と地上権、相続税評価額で一番大きな違いは何ですか?

A. 一番の違いは評価方法です。借地権は路線価に借地権割合を掛けて計算しますが、地上権は自用地評価額から複雑な計算(残存期間に応じた複利年金現価率など)を用いて算出します。一般的に借地権の方が評価額は高くなる傾向があります。

Q. 借地権の相続税評価額はどのように計算しますか?

A. 借地権の評価額は、その土地の自用地としての評価額(路線価方式または倍率方式で計算)に、国税庁が定める「借地権割合」を掛けて算出します。式:自用地評価額 × 借地権割合

Q. 地上権の相続税評価額の計算方法は複雑ですか?

A. はい、地上権の評価は複雑です。土地の自用地評価額を基に、地上権の残存期間や地代、土地の期待利回りなどを考慮した計算が必要になります。専門的な知識が求められるため、税理士への相談が推奨されます。

Q. 借地権割合とは何ですか?

A. 借地権割合とは、土地の権利全体のうち借地権が占める価値の割合を指し、国税庁が路線価図で地域ごとに定めています。例えば、借地権割合が60%の地域では、土地の価値の6割が借地権の価値とみなされます。

Q. 借地権と地上権、どちらが相続税評価額は高くなりますか?

A. 一般的には、物権として強い権利である地上権の方が借地権よりも権利としての価値は高いとされますが、相続税評価額としては、計算方法の違いから借地権の方が高くなるケースが多く見られます。ただし、これは個別の条件によって異なります。

Q. 貸宅地(底地)を相続した場合の評価はどうなりますか?

A. 土地を貸している側(地主)が相続する貸宅地(底地)の評価額は、自用地評価額から借地権または地上権の評価額を差し引いて計算します。式:自用地評価額 × (1 – 借地権割合等)

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