病気やケガで入院した際に受け取る入院給付金。まとまったお金を受け取ると「これって税金がかかるの?」と心配になりますよね。結論から言うと、原則として入院給付金に所得税や住民税はかかりません。でも、安心するのは少し早いかもしれません。受け取り方や状況によっては、相続税の対象になったり、確定申告の医療費控除で注意が必要になったりするケースがあるんです。この記事では、入院給付金にまつわる税金のルールを、所得税、相続税、医療費控除の3つの視点から、わかりやすく解説していきます。
入院給付金は基本的に非課税!所得税はかからない
まず、一番気になる所得税についてです。ご自身が入院や手術をして、保険会社から入院給付金や手術給付金を受け取っても、それに所得税や住民税がかかることはありません。そのため、確定申告も不要です。これはとても嬉しいルールですよね。
なぜ入院給付金は非課税なの?
なぜ税金がかからないのかというと、法律でそのように定められているからです。所得税法では、「心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料その他これに準ずるもの」は非課税とされています。入院給付金は、病気やケガという身体的な損害を補うためのお金と考えられるため、利益(所得)ではなく、損害の補填とみなされるのです。そのため、課税の対象にはならないんですね。
非課税になる給付金の具体例
入院給付金以外にも、病気やケガが原因で受け取る多くの給付金が非課税の対象です。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
入院給付金 | 手術給付金 |
通院給付金 | がん診断給付金 |
特定疾病(三大疾病)保険金 | 先進医療給付金 |
高度障害保険金 | 介護保険金(一時金・年金) |
就業不能給付金 | リビング・ニーズ特約保険金 |
誰が受け取っても非課税になるの?
はい、給付金の受取人が被保険者(保険の対象となっている人)本人である場合はもちろん、その配偶者や直系血族(父母、祖父母、子、孫など)、生計を同じくするその他の親族が受け取った場合でも、同様に非課税となります。例えば、夫の保険契約で、入院した夫の代わりに妻が給付金を受け取るようなケースでも税金はかかりません。
注意!入院給付金が税金の対象になるケース
原則非課税の入院給付金ですが、「相続」が関わってくると話は別です。特に、被保険者が亡くなったタイミングで受け取る場合には、相続税の対象となる可能性があるので注意が必要です。
本人が亡くなった後に遺族が受け取る場合(相続税)
被保険者が入院中に亡くなられ、生前に請求していなかった入院給付金を、亡くなった後にご遺族が請求して受け取ることがあります。この場合、受け取った入院給付金は「被保険者が生前に受け取る権利があった財産」とみなされ、「本来の相続財産」として相続税の課税対象になります。預貯金や不動産と同じように扱われる、と考えると分かりやすいかもしれません。
受け取った給付金を使い切らずに亡くなった場合(相続税)
もう一つのケースは、生前に本人が入院給付金を受け取ったものの、それを使い切らずに亡くなってしまった場合です。このとき、手元に残ったお金(預貯金など)は、当然ながら相続財産の一部となります。したがって、こちらも相続税の課税対象に含まれることになります。
死亡保険金と入院給付金は扱いが違う?
ここでとても大切なポイントがあります。それは、相続税がかかる場合でも、死亡保険金とは扱いが違うという点です。死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という生命保険の非課税枠が用意されていますが、相続財産とみなされる入院給付金には、この非課税枠を適用することができません。この違いは大きいので、しっかり覚えておきましょう。
死亡保険金 | 非課税枠あり(500万円 × 法定相続人の数) |
相続財産となる入院給付金 | 非課税枠なし |
確定申告と医療費控除の関係
「入院給付金は非課税だから、確定申告は全く関係ない」と思っていませんか?もし、ご自身やご家族が年間の医療費がたくさんかかり、「医療費控除」の制度を利用して税金の還付を受けようとするなら、入院給付金の存在が大きく関わってきます。
医療費控除の計算方法
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得控除を受けられる制度です。その計算式は以下のようになっています。
(実際に支払った医療費の合計額 - 保険金などで補てんされる金額)- 10万円 ※
※総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%
この計算式の「保険金などで補てんされる金額」に、受け取った入院給付金や手術給付金が含まれます。つまり、医療費控除を申請する際には、支払った医療費の総額から、受け取った給付金の額を差し引いて計算する必要があるのです。
給付金額が医療費を上回った場合はどうなる?
「入院でかかった費用は10万円だったけど、給付金は15万円もらった。この場合、余った5万円を他の医療費(歯医者の治療費など)から引かないといけないの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
ご安心ください。その必要はありません。給付金は、その支払いの原因となった傷病の医療費を補てんするためのものです。したがって、その入院でかかった医療費から給付金を差し引いて、もし給付金の方が多くても、残額を他の医療費から差し引く必要はないとされています。この例でいえば、入院にかかった10万円の医療費が、給付金によって0円になる、という計算で大丈夫です。
医療費控除の対象となる費用・ならない費用
参考までに、医療費控除の対象になる費用とならない費用の例を挙げておきます。正しく計算するために、しっかり確認しておきましょう。
対象となる費用 | 医師や歯科医師による診療費・治療費、薬代、入院の部屋代や食事代、通院のための交通費(電車・バスなど)、あん摩マッサージ指圧師などによる施術費など |
対象とならない費用 | 自己都合による差額ベッド代、入院時のパジャマや洗面具などの購入費、医師などへの謝礼金、自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代、健康診断や人間ドックの費用(異常が見つからなかった場合)など |
まとめ
入院給付金と税金の関係について、ご理解いただけましたでしょうか。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 被保険者本人やその家族が受け取る入院給付金に、所得税・住民税はかかりません。
- ただし、確定申告で医療費控除を受ける場合は、支払った医療費から受け取った給付金の額を差し引く必要があります。
- 被保険者が亡くなった後に遺族が未請求の給付金を受け取ったり、生前に受け取った給付金を使い残して亡くなったりした場合は、そのお金は相続税の課税対象になります。
- 相続財産となる入院給付金には、死亡保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)は使えないので注意が必要です。
税金のルールは少し複雑に感じるかもしれませんが、正しく知っておくことで、いざという時に慌てずに対処できます。もし具体的な税金の計算などで不明な点があれば、お住まいの地域を管轄する税務署や、税理士などの専門家にご相談ください。
【参考文献】
国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
国税庁 No.1126 医療費控除の対象となる入院費用の具体例
公益財団法人 生命保険文化センター 入院給付金などには税金がかからない?
入院給付金の税金に関するよくある質問まとめ
Q.入院給付金に税金はかかりますか?
A.いいえ、原則として税金はかかりません。病気やケガの治療のために受け取る入院給付金や手術給付金などは非課税所得と定められているため、所得税や住民税の対象にはなりません。
Q.入院給付金を受け取ったら、確定申告は必要ですか?
A.被保険者(ケガや病気をした本人)が給付金を受け取る場合、非課税のため確定申告は不要です。ただし、医療費控除を申請する場合は、受け取った給付金の額を申告書に記載する必要があります。
Q.入院給付金を受け取ると、医療費控除はどうなりますか?
A.医療費控除を申請する場合、その年に支払った医療費の合計額から、受け取った入院給付金などの金額を差し引いて計算する必要があります。給付金で補てんされた分は、医療費の負担とはみなされないためです。
Q.手術給付金や通院給付金も、入院給付金と同じように非課税ですか?
A.はい。手術給付金、通院給付金、がん診断給付金、先進医療給付金など、身体の傷害に起因して支払われる給付金のほとんどは、入院給付金と同様に非課税であり、所得税はかかりません。
Q.保険料を支払う人(契約者)と給付金を受け取る人(受取人)が違う場合、贈与税がかかりますか?
A.はい、贈与税の対象となる可能性があります。例えば、夫が保険料を支払い、妻が入院して給付金を妻が受け取るようなケースです。ただし、年間の贈与額が基礎控除額(110万円)以下であれば、贈与税はかからず申告も不要です。
Q.被保険者が亡くなった後に、家族が未払いの入院給付金を受け取った場合、相続税がかかりますか?
A.はい、相続税の課税対象になります。被保険者の死亡後に支払われる入院給付金は、本来その被保険者が受け取るべき財産(未収金)とみなされ、相続財産に含まれるためです。