相続が発生したけれど、「共同相続人」という言葉を初めて聞いた方も多いのではないでしょうか。実は、相続人が複数いる場合、一時的にこの「共同相続人」という立場になります。この状態を正しく理解しないと、思わぬトラブルにつながることも。この記事では、共同相続人と相続人の違いから、具体的な注意点まで、わかりやすく解説していきますね。
共同相続人とは?相続人との違いをスッキリ解説
まずは基本から。「共同相続人」と「相続人」、似ているようで少し意味が違います。この違いを理解することが、円満な相続への第一歩ですよ。
共同相続人の定義
共同相続人とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を、複数の相続人で共同して相続している状態にある人たちのことを指します。つまり、相続人が2人以上いる場合に、遺産分割協議が終わるまでの間、相続人全員が「共同相続人」となります。この間、遺産は共同相続人全員の共有財産という扱いになります。
法定相続人との違い
一方で、法定相続人とは、民法で定められた相続する権利を持つ人のことです。誰が法定相続人になるかは、亡くなった方との関係性(配偶者、子、親、兄弟姉妹など)によって法律で決まっています。相続人が1人しかいない場合や、遺言書で相続する人が指定されている場合など、共同相続人が存在しないケースもあります。違いを表で見てみましょう。
| 項目 | 共同相続人 |
| 定義 | 遺産分割が終わるまでの間、遺産を共有している複数の相続人 |
| 人数 | 常に2人以上 |
| 状態 | 相続開始から遺産分割完了までの一時的な状態 |
| 項目 | 法定相続人 |
| 定義 | 民法で定められた相続権を持つ人 |
| 人数 | 1人の場合もある |
| 状態 | 相続の権利を持つ人そのものを指す言葉 |
共同相続される財産の範囲
共同相続の対象となるのは、基本的に遺産分割の対象となる財産です。具体的には、不動産(土地・建物)、預貯金、株式などの有価証券などが含まれます。ただし、生命保険金や死亡退職金のように受取人が指定されている「みなし相続財産」や、借金などの可分債務は、原則として共同相続財産にはならず、法定相続分に応じて各相続人が引き継ぐことになります。
共同相続の状態で注意すべき4つのポイント
共同相続の状態は、あくまで一時的なものです。この状態が長引くと、さまざまな手続きで不便が生じたり、トラブルの原因になったりすることがあります。ここでは、特に注意していただきたい4つのポイントを解説しますね。
預貯金の引き出しが自由にできない
相続が発生すると、亡くなった方の銀行口座は凍結されます。遺産分割協議が終わるまでは、原則として預貯金を引き出すことはできません。ただし、2019年7月から始まった「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」を利用すれば、一定額までなら単独で引き出すことも可能です。引き出せる金額には上限があり、「(相続開始時の預金額)× 1/3 ×(その相続人の法定相続分)」で計算され、一つの金融機関からは150万円までという制限があります。これを超える額を引き出すには、共同相続人全員の同意と実印、印鑑証明書が必要となり、手間がかかります。
不動産の管理・処分には制限がある
共同相続状態にある不動産は、共同相続人全員の共有物です。そのため、扱いにはルールがあります。
- 保存行為: 家の修繕など、現状を維持するための行為は、各相続人が単独で行えます。
- 管理行為: 賃貸物件の契約更新や短期の賃貸借契約などは、各相続人の持分の過半数の同意が必要です。
- 変更・処分行為: 不動産の売却や、大規模なリフォーム、長期の賃貸借契約などは、共同相続人全員の同意がなければ行えません。特に、相続税の納税資金のために不動産を売却したい場合などは、速やかに遺産分割協議をまとめる必要があります。
共同相続登記はできるが注意が必要
遺産分割協議がまとまらない場合でも、法定相続分に応じた「共同相続登記」をすることは可能です。この登記は共同相続人の1人からでも申請できます。しかし、共同相続登記をしてしまうと、後で遺産分割協議がまとまった際に、再度名義変更の登記が必要になり、登録免許税などの費用が二重にかかってしまいます。また、2024年4月1日から相続登記が義務化され、正当な理由なく期限内(相続を知った日から3年以内)に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。安易に共同相続登記をするのは避けた方が賢明です。
相続が重なると権利関係が複雑化する
共同相続の状態が続いている間に、共同相続人の誰かが亡くなってしまうと(二次相続)、その人の相続人が新たに権利を引き継ぐことになります。例えば、兄弟3人で共同相続していた土地について、長男が亡くなると、長男の妻や子供たちが権利者として加わります。そうなると、話し合うべき相手が増え、面識のない親族も含まれるなど、遺産分割協議がさらに複雑化・長期化するリスクが高まります。
共同相続の状態を解消するには?遺産分割の方法
共同相続という不安定な状態を解消するためには、「遺産分割」を行う必要があります。遺産分割協議で共同相続人全員が合意し、誰がどの財産を相続するかを具体的に決めます。遺産分割には主に3つの方法があります。
現物分割
最もシンプルな方法で、遺産をそのままの形で分ける方法です。「土地Aは長男、預金は次男」というように、財産ごとに相続人を決めます。公平に分けやすいのがメリットですが、不動産など物理的に分けられない財産の場合は難しいこともあります。
代償分割
特定の相続人(例えば、長男)が不動産など分けにくい財産をすべて相続する代わりに、他の相続人(次男)に対して法定相続分に見合う現金(代償金)を支払う方法です。事業用の資産や自宅など、分けたくない財産がある場合に有効です。代償金を支払う側の資力が必要になります。
換価分割
不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続分に応じて分配する方法です。公平に分けやすいのがメリットですが、売却には時間がかかったり、譲渡所得税がかかったりする点に注意が必要です。また、思い出の詰まった実家などを手放すことになるため、全員の納得が必要です。
遺産分割協議がまとまらない場合の対処法
話し合いをしても、どうしても共同相続人間で合意できない場合は、法的な手続きを利用することになります。感情的にならず、専門家の力を借りることも検討しましょう。
遺産分割調停
家庭裁判所に申し立てを行い、調停委員という中立な第三者を交えて話し合いを進める手続きです。調停委員が各相続人の意見を聞き、解決案を提示してくれるため、当事者同士で話すよりも冷静に話し合いが進められる可能性があります。調停で合意できれば、「調停調書」が作成され、法的な効力を持ちます。
遺産分割審判
調停でも話がまとまらなかった場合、自動的に審判手続きに移行します。審判では、裁判官が各相続人の主張や提出された資料をもとに、法律に則って遺産の分割方法を決定します。この決定(審判)には強制力があり、不服がある場合は2週間以内に高等裁判所に「即時抗告」という不服申し立てができます。
共同相続と税金の話
共同相続の状態は、相続税や所得税にも影響を与えます。申告期限に注意し、適切な手続きを行いましょう。
相続税の申告と納税
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。この期限は、遺産分割協議がまとまっていなくても変わりません。協議がまとまらない場合は、一旦、法定相続分で相続したものとして各自が申告・納税し、後日協議がまとまった時点で修正申告や更正の請求を行います。
注意点: 「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった税額を大幅に軽減できる特例は、原則として遺産分割が確定していないと適用できません。ただし、申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、後から特例を適用できる場合があります。
準確定申告
亡くなった方にその年の所得があった場合(例えば、年金収入や不動産収入など)、相続人が代わりに所得税の確定申告を行う必要があります。これを準確定申告といい、期限は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。この申告は、共同相続人全員が連名で行うのが原則です。
賃貸不動産から生じる所得
賃貸アパートなど、収益を生む不動産を共同相続した場合、遺産分割協議が完了するまでの間に発生した家賃収入は、各共同相続人が法定相続分に応じて取得したものとみなされます。そのため、それぞれの相続人が自分の所得として確定申告をする必要があります。
まとめ
共同相続人とは、相続人が複数いる場合に、遺産分割が終わるまでの一時的な状態を指す言葉です。この状態のままでは、預金の引き出しや不動産の処分に制限があったり、二次相続で権利関係が複雑になったりと、多くのデメリットがあります。トラブルを避け、円満に相続手続きを進めるためには、できるだけ早く遺産分割協議を行い、共同相続の状態を解消することが大切です。相続税の申告期限も考慮し、計画的に進めましょう。もし話し合いが難しい場合は、弁護士などの専門家に相談することも有効な手段ですよ。
参考文献
国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
共同相続人に関するよくある質問まとめ
Q.共同相続人とは何ですか?相続人との違いは?
A.相続人が複数いる場合の、その相続人全員のことを「共同相続人」と呼びます。相続人が一人しかいない場合は単に「相続人」と呼び、二人以上いる場合に、その関係性を示す言葉として「共同相続人」が使われます。
Q.誰が共同相続人になるのですか?
A.亡くなった方(被相続人)の配偶者、子、親、兄弟姉妹など、法律で定められた相続人(法定相続人)が複数人いる場合に、その全員が共同相続人となります。遺言書で指定された人が複数いる場合も同様です。
Q.共同相続人の一人が遺産分割協議に応じてくれません。どうすればいいですか?
A.話し合いでの解決が難しい場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることができます。調停委員を交えて話し合い、それでも合意できなければ、裁判官が分割方法を決める「審判」手続きに移行します。
Q.共同相続人の中に連絡が取れない人がいます。遺産分割は進められますか?
A.いいえ、共同相続人全員の合意がなければ遺産分割協議は成立しません。戸籍の附票などで住所を調査しても連絡が取れない場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立て、その管理人が本人に代わって協議に参加します。
Q.共同相続人が不動産を相続した場合、登記はどうなりますか?
A.遺産分割協議が完了するまでは、共同相続人全員が法定相続分に応じて共有している状態となります(共同相続登記)。協議によって一人が相続することになれば、その内容に基づいて単独名義への変更登記を行います。
Q.共同相続人の一人が勝手に預金を引き出してしまいました。どうなりますか?
A.勝手に引き出された預金は、遺産分割の対象となる財産です。その相続人が取得する遺産額から、引き出した分を差し引いて調整(特別受益として持ち戻し計算)することができます。場合によっては不当利得返還請求も可能です。