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初心者でもわかる!取引相場のない株式の評価明細書、書き方完全ガイド

2025-01-25
目次

ご家族が遺した会社など、取引相場のない株式(非上場株式)を相続したとき、相続税申告で必要になるのが「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」です。第1表から第8表まであり、専門用語も多くて「どこから手をつけていいかわからない…」と感じる方も多いのではないでしょうか。でも大丈夫です。一つひとつの書類の役割を理解し、順番にステップを踏んでいけば、必ず作成できます。この記事では、各評価明細書の書き方を、できるだけ優しく、わかりやすく解説していきますね。

「取引相場のない株式の評価明細書」とは?

まず、この書類が何のためにあるのかを知っておきましょう。上場株式と違って、非上場株式には市場で取引される価格がありません。そのため、相続税などを計算するためには、国が定めたルールに従って株価を計算する必要があります。その計算過程を明らかにし、算出した株価を税務署に報告するための書類が「取引相場のない株式の評価明細書」なんです。

この明細書は、第1表から第8表までのパーツで構成されています。会社の状況を判定する書類から始まり、その結果に応じて使う計算用の書類が変わる、という仕組みになっています。まずは全体像をつかんでおきましょう。

書類 主な役割
第1表の1、第1表の2 株主や会社の規模を判定し、どの評価方法を使うか決める
第2表 会社が特殊な状況(特定の評価会社)にないかを判定する
第3表~第8表 判定結果に基づいて、具体的な株価を計算する

評価のスタート地点!会社概要と評価方式の判定(第1表の1、第1表の2)

すべての評価作業は、この第1表から始まります。ここでの判定が、後の計算方法を大きく左右するとても大切なパートです。

第1表の1「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書」

ここでは、会社の基本的な情報と、誰が株主なのかを記入します。特に重要なのが「同族株主」に該当するかどうかの判定です。なぜなら、同族株主が取得した株式かどうかで、株価の評価方法が大きく変わるからです。

  • 同族株主が取得した株式:原則として、会社の資産価値や収益力などを総合的に評価する「原則的評価方式」で計算します。
  • それ以外の株主が取得した株式:会社の配当金に着目した、比較的簡単な「配当還元方式」で計算します。

この明細書に株主の情報や議決権の数を正確に記入することで、どちらの評価方式を使うべきかが自動的に決まる仕組みになっています。

第1表の2「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書(続)」

原則的評価方式を使うと決まった場合、次に会社の規模を判定するのがこの書類です。会社の規模は「大会社」「中会社」「小会社」の3つに区分され、どの区分になるかで計算方法が変わります。

判定は、会社の業種に応じて、直前期末の「総資産価額」「従業員数」「取引金額」を基準に行います。ただし、従業員数が70人以上の会社は、他の基準にかかわらず「大会社」となります。

会社規模 評価方法
大会社 類似業種比準方式
中会社 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
小会社 純資産価額方式(類似業種比準方式との併用も選択可)

このように、第1表の判定結果が、どの計算明細書(第4表や第5表)を使って株価を計算するかの道筋を示してくれます。

特別な会社に当てはまらないかチェック(第2表)

第2表「特定の評価会社の判定の明細書」

次に、評価する会社が「特定の評価会社」に該当しないかを確認します。特定の評価会社とは、以下のような少し特殊な状況にある会社のことです。

  • 開業後3年未満の会社や休業中の会社
  • 配当、利益、純資産の3つのうち2つ以上がゼロ以下の「比準要素数1の会社」
  • 総資産に占める土地の割合が特に高い「土地保有特定会社
  • 総資産に占める株式等の割合が特に高い「株式等保有特定会社

もしこれらのいずれかに該当する場合、通常の評価方法とは異なる特別な方法で評価する必要があるため、この第2表でしっかりと判定を行います。該当しなければ、この後の手続きはシンプルになります。

いよいよ株価を計算!評価額の計算明細書(第3表~第8表)

ここからは、第1表・第2表の判定結果をもとに、実際に株価を計算していくパートです。どの表を使うかは、会社の状況によって決まります。

第3表「一般の評価会社の株式及び株式に関する権利の価額の計算明細書」

第2表で「特定の評価会社」に該当しなかった場合に、計算結果をまとめるのがこの第3表です。第4表や第5表で計算した「類似業種比準価額」や「純資産価額」を転記し、第1表の2で判定した会社の規模に応じた割合で最終的な株価を算出します。いわば、原則的評価方式の最終的な計算シートのような役割ですね。

第4表「類似業種比準価額等の計算明細書」

類似業種比準方式で株価を計算するための詳細な明細書です。この方法は、評価する会社と事業内容が似ている上場会社の株価を参考にして、株価を計算するものです。

具体的には、評価会社の「1株当たりの配当金(b)」「1株当たりの利益(c)」「1株当たりの純資産価額(d)」を計算し、国税庁のホームページで公表されている類似業種のデータ「株価(A)」「配当(B)」「利益(C)」「純資産(D)」と見比べて計算を進めます。計算式は複雑ですが、この明細書の項目を順番に埋めていくことで、価額が算出できるようになっています。

第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」

純資産価額方式で株価を計算するための明細書です。「もし今、会社を解散したら株主にいくらお金が戻ってくるか」という考え方に基づいた評価方法です。

最大のポイントは、会社の貸借対照表に載っている資産や負債を、そのままの金額(帳簿価額)で使うのではなく、すべて相続税を計算するときの評価額に置き換えて計算する点です。

  • 土地:路線価や固定資産税評価倍率を使って評価します。
  • 建物:固定資産税評価額で評価します。
  • 有価証券:上場株式なら課税時期の終値などを使って評価します。

全ての資産を相続税評価額に直した後、そこから負債を差し引いて純資産価額を求めます。さらに、資産の含み益に対して将来かかると想定される法人税等(評価差額の37%)を差し引くことで、最終的な1株当たりの純資産価額を計算します。

第6表「特定の評価会社の株式及び株式に関する権利の価額の計算明細書」

第2表で「特定の評価会社」に該当した場合は、この第6表を使って株価を計算します。例えば、土地保有特定会社や開業3年未満の会社などは、原則として純資産価額方式で評価するため、その計算をこの表で行います。

第7表・第8表「株式等保有特定会社の株式の価額の計算明細書」

第2表で「株式等保有特定会社」に該当した場合に使う、特別な計算明細書です。会社の資産を「保有している株式等」と「それ以外の事業用資産」に分けて、それぞれ別の方法で評価し、最後に合算する「S1+S2方式」という複雑な計算を行います。この明細書を使うケースは限定的ですが、該当した場合は慎重に計算を進める必要があります。

評価明細書を書くときの注意点

最後に、明細書を作成する上での大切なポイントをいくつかお伝えしますね。

最新の様式を使いましょう

税法の改正によって、評価明細書の様式は変更されることがあります。必ず国税庁のホームページから最新の様式をダウンロードして使うようにしてください。

必要な資料を事前に準備しましょう

評価明細書を作成するには、多くの情報が必要です。スムーズに進めるため、以下の資料を手元に準備しておくと良いでしょう。

  • 会社の定款
  • 株主名簿
  • 過去3年分の決算書および法人税申告書(勘定科目内訳明細書などの別表も全て)
  • 会社が所有する土地・建物の固定資産税評価証明書や登記事項証明書
  • 会社が所有する有価証券の内容がわかる資料

迷ったら専門家に相談を

非上場株式の評価は、税務の中でも特に専門性が高い分野です。特に、資産の評価(例えば広大な土地や複雑な権利関係のある不動産など)が難しい場合や、どの評価方法を選べばよいか判断に迷う場合は、無理せず相続税に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

「取引相場のない株式の評価明細書」の作成は、一見すると複雑で難しく感じるかもしれません。しかし、第1表から順番に、各表の役割を理解しながら進めていくことで、必ずゴールにたどり着けます。まずは会社の状況を正しく判定し、どの評価方法を使うべきかを見極めることが何よりも大切です。この記事が、皆さんの評価明細書作成の一助となれば幸いです。もし、手続きの中で不安な点や難しいと感じる部分があれば、専門家の力を借りることもぜひ検討してみてくださいね。

参考文献

取引相場のない株式の評価明細書の書き方 よくある質問

Q. 取引相場のない株式の評価明細書は、どのような場合に必要ですか?

A. 相続税や贈与税の申告で、上場していない会社の株式(非上場株式)の財産価値を計算するために必要となります。会社の規模などに応じて適切な評価方式を選んで作成します。

Q. 会社の規模の判定(第1表の1)はどのように行いますか?

A. 「総資産価額」「従業員数」「直前期末以前1年間の取引金額」の3つの基準で判定します。いずれか上位の会社区分に判定されるため注意が必要です。国税庁のサイトで計算シートが公開されています。

Q. 類似業種比準価額と純資産価額は、どちらで評価すればよいですか?

A. 会社の規模によって異なります。原則として大会社・中会社は類似業種比準価額と純資産価額の併用方式、小会社は純資産価額方式で評価します。ただし、特定の条件に該当する場合は評価方法が変わります。

Q. 第4表の類似業種の株価や各要素(配当・利益・純資産)はどこで調べますか?

A. 国税庁ホームページで毎月公表されている「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」で確認できます。評価する時期に対応する月の数値を正しく使用する必要があります。

Q. 第5表の「相続税評価額によって評価した純資産価額」とは何ですか?

A. 会社の資産・負債を、帳簿価額ではなく相続税法上の評価額(例:土地なら路線価)に置き換えて計算した純資産価額のことです。特に土地や有価証券を保有する会社は評価額が大きく変動する可能性があります。

Q. 評価明細書の作成で特に注意すべき点はありますか?

A. 評価方式の選択ミス、各表で参照する数値の転記ミス、添付書類の漏れがよくある注意点です。特に資産の相続税評価は専門知識が求められるため、不安な場合は専門家への相談をおすすめします。

事務所概要
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対応責任者
税理士 島本 雅史

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