税理士法人プライムパートナーズ

医療法人の相続対策!認定医療法人制度活用の意思決定フローチャート

2025-08-15
目次

クリニックや病院を経営されている理事長先生、先生の引退後の「医療法人の相続対策」について、お悩みではありませんか?特に、出資持分のある医療法人の場合、後継者の方が高額な相続税に頭を抱えるケースが少なくありません。今回は、その強力な対策の一つである「認定医療法人制度」について、自院で活用すべきかどうかを判断するための「意思決定フローチャート」を使いながら、分かりやすく解説していきますね。

そもそも医療法人の相続で何が問題になるの?

まず、なぜ医療法人の相続が問題になりやすいのか、その根本的な理由からお話しさせてください。問題の中心にあるのは、多くの医療法人が持つ「出資持分」というものです。これが、予想以上に高額な相続税を生み出す原因になっているんですよ。

出資持分あり医療法人の相続税リスク

平成19年の医療法改正以前に設立された医療法人の多くは、「出資持分あり」の形態をとっています。この「出資持分」は、株式会社でいうところの株式のようなもので、財産的な価値があります。長年、真面目にクリニック経営を続けてこられると、利益が内部留保としてどんどん積み上がっていきますよね。その結果、法人の純資産額が大きくなり、それに連動して出資持分の評価額も非常に高額になっているケースが多いのです。相続が発生すると、この高額な出資持分が相続財産として扱われ、多額の相続税が課せられてしまう、というわけなんです。

相続税が払えないとどうなる?

もし、後継者の方が高額な相続税を支払うための現金を用意できなかったら、大変な事態になりかねません。例えば、後継者の方が個人で金融機関から多額の借り入れをしたり、最悪の場合、相続した出資持分そのものを手放さなければならない可能性も出てきます。そうなると、医療法人の経営権が第三者に渡ってしまう恐れもあり、先代が築き上げてきたクリニックの理念や医療サービスを守れなくなるかもしれません。これは、何としても避けたい事態ですよね。

相続対策の必要性

このようなリスクを避けるためにも、理事長先生がお元気なうちに、計画的に相続対策を進めておくことが本当に大切です。対策を講じておくことで、後継者の方が安心して事業を引き継ぎ、これまでと変わらない質の高い医療を地域の患者さんに提供し続けることができます。円滑な事業承継は、医療法人の永続的な発展のために不可欠な準備と言えるでしょう。

相続税問題を解決する「認定医療法人制度」とは?

そこで登場するのが、今回ご紹介する「認定医療法人制度」です。この制度をうまく活用すれば、医療法人の出資持分にかかる相続税の悩みを、根本から解決できる可能性があるんですよ。一体どのような制度なのか、詳しく見ていきましょう。

制度の目的と最大のメリット

認定医療法人制度は、医療法人の非営利性を高め、より地域医療に貢献してもらうことを目的に作られた制度です。この制度の認定を受けると、なんと、出資持分を相続または贈与されても、一定の要件を満たし続ける限り、相続税や贈与税の納税が猶予され、最終的には免除されるという、非常に大きなメリットがあるのです。つまり、実質的に相続税がゼロになる可能性がある、画期的な制度なんですね。

認定を受けるための主要な要件

もちろん、これだけ大きなメリットがある分、認定を受けるためにはいくつかの厳しい要件をクリアする必要があります。ここでは、特に重要となるポイントを表にまとめてみました。自院がこれらの要件を満たせそうか、イメージしながらご覧ください。

要件のポイント 具体的な内容
運営の適正性 役員に対する報酬が不当に高額でないことや、法令に違反する重大な事実がないことなどが求められます。
同族役員の制限 理事・監事の総数のうちに、理事長の親族などが占める割合を3分の1以下にする必要があります。
公的な事業 社会保険診療に係る収入金額が、全体の収入金額の80%を超えていることが必要です。
残余財産の帰属 法人が解散した場合、残った財産は国や地方公共団体などに帰属する旨を定款に定める必要があります。

この他にも細かい要件はありますが、特に経営のあり方に大きく関わるのが「同族役員の制限」や「残余財産の帰属」の部分です。

【実践】認定医療法人制度活用 意思決定フローチャート

では、実際にあなたの医療法人でこの制度を活用すべきか、簡単なフローチャート形式で一緒に考えていきましょう。一つずつ質問に答えてみてくださいね。

Step1: 貴院は「出資持分あり医療法人」ですか?

【YES】→ Step2に進みましょう。
【NO】→ もし貴院が「出資持分なし医療法人」であれば、そもそも相続税の問題は発生しませんので、この制度の対象外となります。お疲れ様でした。

Step2: 相続税のシミュレーションをしましたか?

【YES】→ 素晴らしい準備です!Step3に進んでください。
【NO】→ まずは、税理士などの専門家に相談し、現状の出資持分評価額と、将来発生しうる相続税額を正確に把握することが最優先です。具体的な数字が見えないと、対策の必要性も判断できませんからね。

Step3: 試算した相続税は高額で、納税資金の確保が困難ですか?

【YES】→ 認定医療法人制度の活用が非常に有効な選択肢となります。Step4に進みましょう。
【NO】→ もし納税資金に十分な余裕がある場合は、後述する制度のデメリットも考慮し、他の相続対策(生前贈与など)と比較検討してみるのが良いでしょう。

Step4: 認定医療法人の要件を満たせそうですか?

【YES】→ 制度活用の可能性がぐっと高まります。最後のStep5に進みましょう。
【NO】→ 例えば、「同族役員が3分の1を超えている」などの場合、要件を満たすために役員構成を変更することが可能かを検討する必要があります。もし改善が難しい場合は、他の対策を探ることになります。

Step5: 制度のデメリット(経営の自由度低下など)を許容できますか?

【YES】→ おめでとうございます!貴院にとって、認定医療法人制度は非常に魅力的な選択肢です。ぜひ、専門家を交えて具体的な移行手続きの検討を始めましょう。
【NO】→ デメリットが許容できないと判断された場合は、無理に移行する必要はありません。次の章でご紹介する他の対策を検討することをおすすめします。

認定医療法人制度の注意点(デメリット)

相続税対策として非常に強力な認定医療法人制度ですが、もちろん良いことばかりではありません。移行を決める前に、必ず知っておいていただきたい注意点(デメリット)がいくつかあります。

経営の自由度が低下する可能性

先ほどの要件にもあった通り、役員のなかに親族が占める割合を3分の1以下に抑えなければなりません。これは、これまでのようなスピーディーな同族経営が難しくなることを意味します。重要な意思決定に時間がかかったり、外部の役員との調整が必要になったりする場面が増えるかもしれません。

要件を維持し続ける必要がある

一度認定を受けたら終わり、ではありません。6年ごとに厚生労働大臣の再認定を受ける必要があります。もし、途中で要件を満たせなくなってしまうと、認定が取り消され、猶予されていた相続税を利子税とあわせて一括で納付しなければならなくなります。これは非常に大きなリスクですので、継続的に要件をクリアし続けられる体制を整えることが不可欠です。

元の「出資持分あり医療法人」には戻れない

この移行は、一度行うと後戻りができません。認定医療法人になるということは、「出資持分なし医療法人」へ移行することを意味します。一度「持分なし」に移行してしまうと、将来的に「やっぱり持分ありに戻したい」と思っても、それは制度上不可能です。非常に重要な決断であることを心に留めておいてください。

認定医療法人以外の相続対策とは?

フローチャートの結果、認定医療法人制度の活用が難しいと判断された場合でも、がっかりしないでください。他にも相続対策の方法はあります。ここでは代表的なものをいくつかご紹介しますね。

生前の出資持分贈与

理事長先生がお元気なうちに、後継者の方へ少しずつ出資持分を贈与していく方法です。年間110万円まで非課税の「暦年贈与」や、2,500万円まで非課税となる「相続時精算課税制度」などを活用することが考えられます。ただし、出資持分の評価額が高いと、多額の贈与税がかかる可能性があるため注意が必要です。

退職金による出資持分の買い取り

理事長先生が退職される際に、医療法人から支払われる退職金がありますよね。その退職金の一部、または全部を使って、先生の持つ出資持分を法人自身に買い取ってもらう方法です。これにより、個人の財産を法人に移すことができますが、税務上の「みなし配当」と判断されないよう、慎重なプランニングが必要です。

特定医療法人・社会医療法人への移行

認定医療法人と同じように、相続税が非課税となる「特定医療法人」や「社会医療法人」といった形態もあります。これらは、救急医療やへき地医療など、より高い公共性が求められるため、認定医療法人よりもさらに厳しい要件が課せられますが、選択肢の一つとして知っておくと良いでしょう。

まとめ

今回は、医療法人の相続対策の切り札とも言える「認定医療法人制度」について、活用のための意思決定フローチャートを交えながら解説しました。この制度は、高額な相続税の負担をなくすことができる非常に強力な選択肢です。しかし、その一方で経営の自由度が制限されるなどのデメリットも存在します。大切なのは、メリットとデメリットの両方を正しく理解し、ご自身の医療法人の状況や将来のビジョンに合っているかどうかを慎重に見極めることです。相続対策は、準備が早ければ早いほど、取れる選択肢も多くなります。少しでも不安に感じたら、まずは医療法人の税務に詳しい税理士などの専門家に相談してみてくださいね。

参考文献

厚生労働省:持分の定めのない医療法人への移行に関する計画の認定制度について(認定医療法人制度)

医療法人の相続対策と認定医療法人制度のよくある質問まとめ

Q.認定医療法人制度とは、どのような制度ですか?

A.持分あり医療法人が「持分なし医療法人」へ移行する際、その出資持分にかかる相続税や贈与税の納税が猶予・免除される制度です。これにより、後継者の税負担を軽減し、円滑な事業承継を支援します。

Q.認定医療法人になる最大のメリットは何ですか?

A.最大のメリットは、理事長の死亡等による相続が発生した際に、後継者が支払うべき多額の相続税の納税が猶予され、最終的に免除される点です。これにより、資金繰りを圧迫することなく安定した経営を継続できます。

Q.認定医療法人になるための主な要件を教えてください。

A.主な要件として、①役員報酬等が不当に高額でないこと、②同族関係者の役員数が3分の1以下であること、③社会保険診療収入が全体の80%以上であること、などが定められています。これらの厳しい要件をクリアする必要があります。

Q.どんな医療法人がこの制度の活用を検討すべきですか?

A.出資持分の評価額が高く、多額の相続税が見込まれる「持分あり医療法人」で、後継者が決まっており、円滑な事業承継を目指している場合に特に有効です。相続対策の選択肢として、まず検討すべき制度と言えます。

Q.認定医療法人制度にデメリットや注意点はありますか?

A.デメリットとして、認定後も厳しい運営要件を継続して満たす必要がある点や、自由な法人運営が一部制限される可能性が挙げられます。要件を満たせなくなると認定が取り消され、猶予されていた税金を支払うリスクがあります。

Q.認定申請の手続きは自分たちでできますか?

A.申請には、事業計画の策定や多数の書類準備など、高度に専門的な知識が必要です。手続きが非常に複雑なため、医療法人の税務や制度に詳しい税理士などの専門家へ相談しながら進めるのが一般的です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

税理士と
30分オンラインMTG
下記よりご都合の良い時間をご確認ください。