ご家族が亡くなられた後、故人が厚生年金基金に加入していた場合、ご遺族が「死亡一時金」を受け取ることがあります。「この一時金って、相続税の対象になるの?」「非課税だから申告しなくていいと聞いたけど本当?」など、税金の取り扱いについて不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、厚生年金基金から支給される死亡一時金は、法律上の根拠があり、相続税がかかりません。この記事では、なぜ非課税なのか、他の年金との違いは何かを、わかりやすく丁寧にご説明しますね。
厚生年金基金の死亡一時金は相続税がかからない?
まず結論からお伝えしますと、厚生年金基金から支給される死亡一時金(遺族給付金)は、相続税の課税対象外です。そのため、相続税の申告書に記載する必要もありませんし、相続財産に含めて税額を計算する必要もありません。これは、多くの方が「そうらしい」と聞いているだけでなく、法律で明確に定められていることなのでご安心ください。
非課税の根拠は「改正前の厚生年金保険法」
では、なぜ厚生年金基金の死亡一時金は非課税なのでしょうか。その根拠は、「(改正前の)厚生年金保険法」という法律にあります。具体的には、この法律の第41条第2項で「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金銭を標準として、これを課することができない。」と定められています。そして、厚生年金基金の給付については、同法第136条でこの規定が準用されることになっています。少し難しい言葉ですが、要するに「厚生年金基金からの給付(死亡一時金も含まれます)には税金をかけられませんよ」と国が法律で決めているのです。このため、相続税だけでなく、受け取った方の一時的な所得として課される所得税もかかりません。
「みなし相続財産」にもあたらない
相続税の計算では、亡くなった方の預金や不動産といった「本来の相続財産」の他に、「みなし相続財産」というものも対象になります。これは、亡くなったことをきっかけにご遺族が受け取る生命保険金や死亡退職金などが該当します。これらは厳密には故人の財産ではありませんが、実質的に相続と同じ効果があるため、相続税の対象とみなされるのです。しかし、厚生年金基金の死亡一時金は、先ほどご説明した法律の規定が優先されます。そのため、このみなし相続財産にも含まれません。したがって、生命保険金や死亡退職金で使える非課税枠(500万円×法定相続人の数)とは全く関係なく、全額が非課税として扱われます。
要注意!相続税の対象になる年金関連の一時金
「厚生年金基金が非課税なら、他の年金の一時金も大丈夫だろう」と考えてしまうのは少し危険です。年金制度は非常に複雑で、種類によっては相続税の課税対象になるものがあります。ここで間違えやすい代表的なケースをいくつかご紹介しますので、故人が加入していた制度をよく確認してみてください。
企業年金(確定給付企業年金など)の死亡一時金
厚生年金基金とよく似た制度に「確定給付企業年金(DB)」があります。これは、厚生年金基金制度の廃止後に多くの企業が移行した制度です。この確定給付企業年金から支払われる死亡一時金は、みなし相続財産として相続税の対象になります。厚生年金保険法ではなく、企業の規約などに基づいて支給されるため、非課税規定の適用がないのです。ただし、死亡退職金と同じように扱われるため、状況に応じて非課税枠が使える場合があります。
死亡したタイミング | 相続税の取り扱い |
---|---|
年金の受給を開始する前に死亡した場合 | 死亡退職金とみなされ、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠の適用があります。 |
年金の受給を開始した後に死亡した場合 | 残りの期間分を受け取る権利(定期金に関する権利)とみなされ、非課税枠の適用はありません。 |
民間の個人年金保険の死亡一時金
生命保険会社や損害保険会社で契約する個人年金保険も注意が必要です。亡くなった方がご自身で保険料を負担していた場合、ご遺族が受け取る死亡一時金(または年金を受け継ぐ権利)は、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。こちらは生命保険金と同じ扱いになるため、死亡保険金の非課税枠が適用されます。
死亡したタイミング | 相続税の取り扱い |
---|---|
年金の支払い開始前に死亡した場合 | 死亡保険金とみなされ、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠の適用があります。 |
年金の支払い開始後に死亡した場合 | 年金を受け取る権利を相続したとみなされ、非課税枠の適用はありません。 |
「未支給年金」との違いは?
死亡一時金とともによく耳にするのが「未支給年金」です。この二つは名前が似ていますが、全くの別物で、税金の取り扱いも異なります。違いをしっかり理解しておきましょう。
未支給年金とは
未支給年金とは、亡くなった方が受け取る権利があったにもかかわらず、亡くなったために受け取れなかった年金のことを指します。公的年金は、偶数月にその前2ヶ月分が支払われる「後払い」方式です。そのため、例えば9月20日に亡くなった場合、亡くなった月である8月分と9月分の年金が支払われていない状態になります。この、まだ支払われていない年金のことを「未支給年金」と呼びます。
未支給年金の税金の取り扱い
この未支給年金は、相続財産にはあたりません。法律上、ご遺族がご自身の固有の権利として請求して受け取るものとされています。そのため、相続税の対象にはなりませんが、代わりに受け取ったご遺族の「一時所得」として所得税の課税対象となります。ただし、一時所得には年間で最高50万円の特別控除があるため、他に一時所得がなければ、未支給年金の額が50万円以下の場合、実質的に所得税はかからず、確定申告も不要です。
課税・非課税の判断ポイントまとめ
少し複雑に感じられたかもしれませんので、ポイントを表に整理してみましょう。どの法律や契約に基づいて支払われるかで、税金の取り扱いが大きく変わることがお分かりいただけると思います。
一時金の種類 | 相続税の取り扱い |
---|---|
厚生年金基金の死亡一時金 | 非課税((改正前)厚生年金保険法に基づくため) |
国民年金の死亡一時金 | 非課税(国民年金法に基づくため) |
確定給付企業年金等の死亡一時金 | 課税(みなし相続財産) |
民間の個人年金保険の死亡一時金 | 課税(みなし相続財産) |
未支給年金(公的年金) | 非課税(ただし、受け取った遺族の一時所得として所得税の対象) |
手続きでわからないことがあったら?
故人がどのような年金制度に加入していたのか正確にわからない場合や、手続きに必要な書類で迷った場合は、まず年金事務所や、故人が加入していた厚生年金基金、勤務していた企業に直接問い合わせるのが最も確実です。死亡に関する給付の請求には、死亡日の翌日から2年や5年以内といった期限が設けられていることがほとんどです。手続きが遅れて権利を失うことがないよう、できるだけ早めに確認し、手続きを進めるようにしましょう。税金の取り扱いについて、ご自身のケースでどうしても判断に迷う場合は、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、厚生年金基金の死亡一時金と相続税の関係について詳しく解説しました。最後に大切なポイントを振り返っておきましょう。
- 厚生年金基金の死亡一時金は、(改正前)厚生年金保険法という法律に基づき非課税です。
- 相続財産やみなし相続財産には含まれないため、相続税の申告は一切不要です。
- 確定給付企業年金や民間の個人年金保険から支給される死亡一時金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となるため注意が必要です。
- 亡くなった方が受け取るはずだった未支給年金は相続財産ではなく、受け取ったご遺族の一時所得となります。
年金や相続の制度は複雑ですが、一つひとつ正しい知識を身につけることで、余計な心配や手続きの間違いを防ぐことができます。今回の内容が、皆様の不安を少しでも解消する一助となれば幸いです。
厚生年金基金の死亡一時金と相続税のよくある質問まとめ
Q. 厚生年金基金から支給される死亡一時金は、相続税の対象になりますか?
A. はい、原則として「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。ただし、死亡退職金などと合算して非課税限度額(500万円 × 法定相続人の数)の適用を受けることができます。
Q. 厚生年金保険法で非課税と聞きましたが、なぜ相続税がかかるのですか?
A. 法律で定められている非課税は「所得税」に対するものです。相続税法上は、被相続人の死亡を原因として遺族が受け取る財産とみなされるため、相続税の課税対象として扱われます。
Q. 死亡一時金は、死亡保険金とは別物ですか?
A. はい、別物です。死亡一時金は「死亡退職金」と同じ扱いです。生命保険会社から支払われる「死亡保険金」とは区別されますが、相続税の非課税限度額を計算する際は、これらを合算して考えます。
Q. 死亡保険金の非課税枠と、死亡一時金の非課税枠は別々に使えますか?
A. いいえ、別々には使えません。死亡保険金と死亡一時金(死亡退職金)は合算した金額に対して、一つの非課税限度額「500万円 × 法定相続人の数」が適用されます。
Q. 死亡一時金を受け取ったら、相続税の申告は必ず必要ですか?
A. 必ずしも必要ではありません。死亡一時金を含めた相続財産の総額が、相続税の基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)以下であれば、申告は不要です。超える場合は申告が必要です。
Q. 自分のケースでの正確な取り扱いを知りたい場合はどうすればよいですか?
A. 故人が加入していた厚生年金基金の規約によって詳細が異なる場合があります。まずは基金に直接問い合わせるか、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。