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収益物件の消費税還付は可能?個人が知るべき条件と方法を解説

2025-05-19
目次

収益物件を建築したり購入したりするとき、建物には高額な消費税がかかりますよね。「この消費税が戻ってきたらいいのに…」と考えたことはありませんか?実は、一定の条件を満たせば、支払った消費税の還付を受けられる可能性があります。しかし、制度が少し複雑で、特に2020年の税制改正でルールが大きく変わりました。この記事では、個人が収益物件で消費税の還付を受けるための仕組みや具体的な条件、注意点について、わかりやすく解説していきますね。

そもそも消費税還付ってどんな制度?

不動産投資における消費税還付の話をする前に、まずは「消費税還付」そのものの基本的な仕組みについて簡単におさらいしましょう。この仕組みを理解することが、還付を受けられるかどうかの判断につながる大切な第一歩になります。

消費税還付の仕組み

事業者は、お客様から商品やサービスを売ったときに消費税を預かります(これを「仮受消費税」といいます)。一方で、事業のために材料を仕入れたり、備品を購入したりするときには消費税を支払います(これを「仮払消費税」といいます)。事業者は、確定申告の際に「預かった消費税」から「支払った消費税」を差し引いた差額を国に納めるのが基本です。
このとき、もし「支払った消費税」のほうが「預かった消費税」よりも多かった場合、その差額分が国から返還されます。これが消費税還付の仕組みです。例えば、建物の建築などで高額な支払いが発生した年度は、支払った消費税が預かった消費税を大きく上回り、還付を受けられるケースがあるのです。

収益物件で消費税がかかるもの・かからないもの

収益物件の取得には、消費税がかかるものとかからないものがあります。特に重要なのは、土地には消費税がかからず、建物にのみ消費税がかかるという点です。また、家賃収入も物件の用途によって扱いが異なります。主なものを表にまとめました。

消費税がかかるもの(課税取引) 消費税がかからないもの(非課税取引)
建物の購入費・建築費 土地の購入費
不動産会社への仲介手数料 居住用物件の家賃・礼金・共益費
司法書士・土地家屋調査士への報酬 個人間の不動産売買(売主が事業者の場合は課税)
店舗・事務所など事業用物件の家賃収入 火災保険料・地震保険料

不動産投資で消費税還付が難しい理由

収益物件の建築や購入では多額の消費税を支払うのに、なぜ還付を受けるのが難しいのでしょうか。それには主に2つの理由があります。

一つ目の理由は、アパートやマンションなど「居住用」物件の家賃収入が非課税売上だからです。消費税還付は、預かった消費税と支払った消費税の差額を精算する制度です。しかし、居住用の家賃収入には消費税が含まれていない(預かる消費税がゼロ)ため、建物の購入で支払った消費税を差し引くという考え方が成り立ちません。これが、居住用物件で還付が原則として受けられない最大の理由です。

二つ目の理由は、多くの不動産オーナーが「免税事業者」であることです。消費税の還付申告ができるのは、消費税の納税義務がある「課税事業者」だけです。基準期間(個人の場合は前々年)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、原則として納税義務が免除される「免税事業者」となります。不動産投資を始めたばかりの個人の方は、ほとんどがこの免税事業者に該当するため、そもそも還付の対象にならないのです。

居住用物件で消費税還付が原則できなくなった経緯

「以前はアパートでも消費税還付ができたと聞いたことがある」という方もいらっしゃるかもしれません。その通り、かつては特定の「スキーム」と呼ばれる手法を使うことで、居住用物件でも消費税還付を受けることが可能でした。しかし、その方法は税制改正によって次々と封じられ、現在では原則として利用できなくなっています。

かつて主流だった「自動販売機スキーム」

過去に広く使われていたのが「自動販売機スキーム」です。これは、アパートの敷地内に自動販売機を設置し、ジュースの売上という「課税売上」を意図的に作る方法です。物件が完成した初年度は入居者を入れずに家賃収入(非課税売上)をゼロにし、自動販売機の売上だけを計上します。これにより、課税売上割合が95%以上となり、建物の建築費にかかった消費税の全額還付を受けるというものでした。
しかし、この方法は平成22年度(2010年度)の税制改正で規制が強化されました。100万円以上の資産を取得して課税事業者になった場合、原則として3年間は免税事業者に戻れなくなったため、スキームの利用が難しくなりました。

次に登場した「金地金売買スキーム」

自動販売機スキームが規制された後、次に登場したのが「金地金売買スキーム」です。これは、金の売買を短期間で繰り返すことで高額な課税売上を作り出し、3年間の課税売上割合が著しく下がらないように調整する方法でした。家賃収入という非課税売上が増えても、それ以上の課税売上を金地金の売買で作ることで、一度受けた還付金の返納を回避する狙いがありました。

令和2年度税制改正で完全に封じられる

こうした状況に終止符を打ったのが、令和2年度(2020年度)の税制改正です。この改正により、「居住用賃貸建物」の取得にかかる消費税は、仕入税額控除の対象外となりました。つまり、アパートやマンションといった居住用物件の建築費や購入費に含まれる消費税は、そもそも控除(差し引くこと)ができなくなったのです。これにより、どのような方法を使っても、個人が居住用物件で消費税の還付を受ける道は完全に閉ざされることになりました。

今でも個人が消費税還付を受けられるケース

居住用物件での還付が不可能になった一方で、現在でも消費税還付を受けられる可能性が残されています。それは、特定の条件を満たす「事業用物件」を取得する場合です。ここでは、今でも還付が可能なケースとそのための条件を具体的に見ていきましょう。

事業用物件(店舗・事務所など)を建築・購入する

消費税還付が可能なのは、店舗、事務所、倉庫、テナントビル、工場といった事業用物件です。これらの物件から得られる家賃収入は「事業用の貸付け」として課税売上になります。課税売上があるということは、お客様から消費税を預かることになるため、建物の取得時に支払った消費税と相殺し、還付を受けられる可能性があるのです。例えば、1階が店舗で2階以上が住居の「店舗併用住宅」を建てた場合、店舗部分にかかる建築費の消費税は還付の対象となります。

課税事業者になる必要がある

事業用物件を取得しただけでは、自動的に還付は受けられません。最も重要な条件は、ご自身が「課税事業者」になることです。前述の通り、免税事業者は消費税の申告も還付もできません。
課税売上高が1,000万円以下の方でも、自ら選択して課税事業者になることができます。そのためには、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出する必要があります。この届出書は、還付を受けたい課税期間の初日の前日(個人の場合は前年の12月31日)までに提出しなければならないため、物件の取得計画と合わせて早めに準備することが重要です。

簡易課税制度を選択しない

課税事業者になったとしても、もう一つ注意点があります。消費税の計算方法には「原則課税」と「簡易課税」の2種類があり、消費税還付が受けられるのは「原則課税」を選択している場合のみです。「簡易課税制度」は、事務負担を軽減するための制度で、預かった消費税に一定の割合(みなし仕入率)を掛けて納税額を計算します。この方法では、実際に支払った消費税額は計算に関係ないため、還付は発生しません。「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している場合は、還付を受けられませんのでご注意ください。

消費税還付を受けるための具体的な手続き

事業用物件で消費税還付を受けるための具体的な手続きの流れは、以下のようになります。タイミングが非常に重要ですので、しっかりと確認しておきましょう。

ステップ1:「消費税課税事業者選択届出書」の提出
まず、ご自身の住所地を管轄する税務署へ「消費税課税事業者選択届出書」を提出します。提出期限は、課税事業者になりたい年の前年の12月31日です。例えば、2025年に物件を購入して還付を受けたい場合、2024年12月31日までに提出する必要があります。

ステップ2:収益物件(事業用)の建築・購入
課税事業者になった年に、店舗や事務所などの事業用物件を建築または購入します。このとき、建物代金や仲介手数料などに含まれる消費税額が、還付申告の基礎となります。領収書や契約書は必ず保管しておきましょう。

ステップ3:消費税の確定申告(還付申告)
物件を取得した年の翌年に、消費税の確定申告を行います。この申告で、支払った消費税が預かった消費税を上回ることを証明し、還付を申請します。個人の場合の申告期限は、翌年の3月31日です。申告後、税務署の審査を経て、通常1か月から1か月半ほどで指定した口座に還付金が振り込まれます。

消費税還付を受ける際の注意点

消費税還付は大きなメリットがありますが、良いことばかりではありません。還付を受ける前に知っておくべき注意点やデメリットもしっかりと理解しておくことが大切です。後で「こんなはずではなかった」と後悔しないようにしましょう。

課税事業者になると消費税の納税義務が発生する

一度課税事業者になると、原則として2年間は免税事業者に戻ることができません。さらに、税抜1,000万円以上の高額な資産(事業用建物など)を取得して還付を受けた場合は、その取得した年から3年間は免税事業者に戻ることも、簡易課税制度を選択することもできません
この期間中は、店舗家賃などの課税売上にかかる消費税を国に納める義務が生じます。還付で一時的に大きな金額が戻ってきても、その後の数年間は納税が必要になるため、トータルでどちらが有利になるのかをシミュレーションすることが非常に重要です。

3年間の縛りと調整計算のリスク

還付を受けた事業用建物を、取得してから3年以内に居住用に転用したり、売却したりする場合には注意が必要です。このような場合、「調整計算」というルールが適用され、還付された消費税の一部または全額を返納しなければならない可能性があります。事業計画の変更が予想される場合は、このリスクも考慮に入れておく必要があります。

まとめ

個人が収益物件で消費税の還付を受けるためのポイントをまとめます。
まず、令和2年度の税制改正により、アパートやマンションなどの居住用物件では消費税還付は完全にできなくなりました。これは最も重要なポイントです。
一方で、店舗や事務所などの事業用物件であれば、現在でも消費税還付を受けられる可能性はあります。そのためには、事前に「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になり、「原則課税」方式で申告する必要があります。
ただし、還付を受けると3年間の納税義務の継続や、用途変更時の返納リスクなどのデメリットも存在します。消費税還付は、制度を正しく理解し、ご自身の事業計画と照らし合わせて慎重に判断することが不可欠です。少しでも疑問や不安がある場合は、必ず税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁「居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度の制限等」

国税庁 タックスアンサー No.6225「地代、家賃や権利金、敷金など」

国税庁 タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」

収益物件の消費税還付に関するよくある質問

Q.居住用アパートを新しく建てた場合、消費税の還付は受けられますか?

A.いいえ、令和2年度の税制改正により、アパートやマンションなどの居住用建物の建築・購入では、消費税の還付は受けられなくなりました。

Q.消費税の還付を受けるには、まず何をすればよいですか?

A.還付を受けたい課税期間が始まる前(個人の場合は前年の12月31日まで)に、税務署へ「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、任意で課税事業者になる必要があります。

Q.どのような物件であれば、消費税還付の可能性がありますか?

A.店舗、事務所、倉庫など、家賃収入が消費税の課税対象となる「事業用物件」であれば、建物の取得にかかった消費税の還付を受けられる可能性があります。

Q.土地の購入代金に消費税はかかりますか?

A.いいえ、土地の売買や貸付けは非課税取引と定められているため、消費税はかかりません。消費税の課税対象となるのは、建物部分の価格や仲介手数料などです。

Q.消費税還付を受けたら、すぐに免税事業者に戻れますか?

A.いいえ。税抜1,000万円以上の事業用建物を取得して還付を受けた場合、原則としてその年から3年間は免税事業者に戻ることはできません。

Q.消費税還付を受けることのデメリットはありますか?

A.はい。課税事業者になるため、消費税の納税義務が発生します。還付を受けた後も数年間は、事業用家賃などに含まれる消費税を申告・納税し続ける必要があります。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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