税理士法人プライムパートナーズ

収益物件を売らず妻に相続!現金なしで子供の遺留分を解決する方法

2024-12-01
目次

築30年のRC一棟収益物件。時価は5億円あるものの、借入も3億円残っていて、毎月の収支はギリギリ。資産はこの不動産だけで現金はない…。こんな状況で、もしものことがあったら、どうやって妻に物件を相続させ、子供たちには遺留分を渡せばいいんだろう?不動産を共有にはしたくないし、売却もしたくない。そんなお悩みを抱えていませんか?とても複雑に思えるこの問題ですが、実は生前にきちんと準備をすれば、円満に解決できる方法があるんです。この記事では、あなたの状況に合わせた具体的な解決策を、ステップバイステップで優しく解説していきます。

まずは現状の問題点を整理しましょう

問題を解決するためには、まず現状を正確に把握することが大切です。ご自身の状況を客観的に見つめ直してみましょう。今回のケースでは、いくつかの重要なポイントが複雑に絡み合っています。一つひとつ丁寧に整理していくことで、やるべきことが明確になりますよ。

資産と負債の状況

まず、財産の全体像を確認します。資産はプラスの財産、負債はマイナスの財産(借金)のことです。

資産(プラスの財産) 収益物件(時価5億円)
負債(マイナスの財産) 金融機関からの借入金(3億円)

この表を見ると、時価ベースでの純資産は2億円(5億円 – 3億円)となります。これが、ご家族に残される実質的な財産の価値と考えることができます。一方で、相続税を計算する際に使う「相続税評価額」は2億円なので、借入金3億円を差し引くと、相続税計算上の純資産はマイナス1億円(2億円 – 3億円)となります。この評価額の違いが、相続を考える上で非常に重要なポイントになります。

相続人と希望する分割方法

次に、誰が財産を受け取るのか(相続人)と、どのように分けたいのか(希望)を確認します。

相続人 配偶者(妻)と子供2人
希望する分割方法 ・収益物件は売却せず、妻が単独で相続する
・子供たちには遺留分に相当する現金を渡したい
・不動産の共有は避けたい

相続人が3人いる場合、法律で定められた相続の割合(法定相続分)は、配偶者が1/2、子供たちがそれぞれ1/4ずつとなります。しかし、ご希望は「妻にすべて相続させる」というもの。この場合、子供たちには「遺留分」という最低限の相続権を主張する権利が生まれます。この遺留分を現金で支払う必要があるのですが、次の問題が立ちはだかります。

最大の課題「遺留分のための現金がない」

今回のケースで最も大きな壁となるのが、子供たちに支払う遺留分相当の現金が手元にない、という点です。では、子供たちの遺留分は一体いくらになるのでしょうか?具体的に計算してみましょう。

遺留分の計算は、相続税評価額ではなく、時価を基準に行います。

  1. 遺産の総額を計算する
    時価5億円(不動産) – 3億円(借入金) = 2億円
  2. 子供たちの法定相続分を計算する
    2億円 × 1/2(子供全体の法定相続分) = 1億円
  3. 子供たちの遺留分を計算する
    1億円 × 1/2(遺留分の割合) = 5,000万円

つまり、子供2人に対して、合計で5,000万円(1人あたり2,500万円)の現金を支払う必要があるのです。資産が不動産のみという状況で、この5,000万円をどうやって準備するかが、円満相続を実現するための鍵となります。

遺留分を支払うための現金を準備する具体的な方法

「5,000万円もの大金、どうやって用意すれば…」と不安になりますよね。でも、ご安心ください。不動産を売却しなくても、現金を準備する方法はあります。ここでは、代表的で現実的な3つの方法をご紹介します。

生命保険を活用して代償分割の資金を準備する

最もおすすめで、多くの方が利用されているのが生命保険の活用です。ご自身を被保険者、奥様(配偶者)を受取人とする生命保険に加入します。

相続が発生した際に奥様が受け取る死亡保険金は、奥様固有の財産となり、遺産分割の対象にはなりません。この保険金を使って、奥様が子供たちに遺留分相当の現金(5,000万円)を支払うのです。これを「代償分割」といいます。

さらに、死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があります。今回のケースでは、500万円 × 3人 = 1,500万円までが非課税で受け取れるという大きなメリットもあります。

不動産を担保に金融機関から借り入れ(リファイナンス)

もう一つの方法は、相続した奥様が、収益物件を担保にして金融機関から新たにお金を借りる方法です。これをリファイナンス(借り換えや新規借入)と呼びます。借り入れた資金を、子供たちへの遺留分の支払いに充てます。

ただし、この方法には注意点があります。

  • 既存の借入が3億円あるため、物件の収益性や奥様の信用力によっては、追加の融資が難しい場合があります。
  • 毎月の収支がトントンの中で、新たな返済負担が増えることになります。返済計画を慎重に立てる必要があります。

金融機関との交渉が必要になりますが、遺留分支払いのための資金調達方法として、選択肢の一つになります。

遺言書で「代償分割」を明確に指定する

上記の方法をスムーズに進めるために不可欠なのが、遺言書です。遺言書で「収益物件はすべて妻に相続させる。その代わりとして、妻は長男と長女にそれぞれ金2,500万円を支払うこと」といった形で、代償分割を行うことを明確に指定しておきましょう。

遺言書があることで、あなたの意思が明確になり、相続人同士の無用なトラブルを防ぐことができます。特に、法的な効力が強く、確実性の高い「公正証書遺言」を作成しておくことを強くおすすめします。

このケースで相続税はかかる?シミュレーションしてみよう

「資産が5億円もあるなら、相続税も高額になるのでは?」と心配されるかもしれません。しかし、今回のケースでは、おそらく相続税の心配はほとんどありません。その理由を具体的に見ていきましょう。

課税遺産総額の計算

相続税は、財産の時価ではなく「相続税評価額」を元に計算します。

相続税評価額 2億円
債務(借入金) – 3億円
相続税計算上の純資産 -1億円

このように、相続税の計算上は財産がマイナスになっています。相続税には「基礎控除」という、誰でも使える非課税枠があります。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

今回のケースでは、3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円が基礎控除額です。
純資産がマイナス1億円なので、基礎控除額4,800万円を差し引くまでもなく、課税対象となる遺産はゼロです。したがって、相続税はかかりません

配偶者の税額軽減という強力な特例

万が一、他の財産が見つかるなどして相続税が発生する状況になったとしても、奥様(配偶者)には「配偶者の税額軽減」という非常に強力な特例があります。これは、配偶者が相続した財産のうち、最低でも1億6,000万円までは相続税がかからないという制度です。

今回は奥様がすべての財産を相続する形になるため、この特例を使えば、相続税の負担を心配する必要はほぼないと言えるでしょう。

相続発生前に必ずやっておくべき3つのこと

ここまで見てきたように、あなたの希望を叶えるためには、事前の準備が何よりも重要です。いざという時にご家族が困らないよう、今からできることを始めていきましょう。

公正証書遺言の作成

あなたの意思を法的に有効な形で残すために、公正証書遺言を作成しましょう。公証役場で専門家である公証人が作成に関与するため、内容が不備で無効になるリスクが極めて低く、原本が役場で保管されるため紛失や改ざんの心配もありません。誰に、何を、どのように相続させるのか、そして代償分割の方法まで、明確に記しておくことが円満相続への第一歩です。

生命保険への加入

子供たちへ支払う遺留分5,000万円を確実に準備するために、生命保険への加入を具体的に検討しましょう。保険の専門家に相談し、必要な保障額を確保できるプランを選ぶことが大切です。健康状態によっては加入が難しい場合もあるため、できるだけ早く行動に移すことをお勧めします。

家族会議で意思を伝えておく

法的な準備と並行して、ご家族で話し合う時間を持つことも非常に大切です。なぜ不動産を奥様に残したいのか、その不動産がご家族にとってどのような意味を持つのか、そして子供たちには感謝の気持ちとして現金を残したいという想いを、ご自身の言葉で伝えておきましょう。事前に意思を共有しておくことで、相続が「争続」になるのを防ぎ、家族の絆をより深めることにつながります。

【最重要】必ず確認すべき注意点

最後に、今回の計画全体を大きく左右する可能性のある、非常に重要な注意点についてお伝えします。

相続登記(名義変更)の義務化

相続によって不動産を取得した場合、その不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する手続き(相続登記)が必要です。この相続登記は2024年4月1日から義務化されており、正当な理由なく手続きを怠ると過料が科される可能性があります。遺産分割協議がまとまったら、速やかに手続きを行いましょう。

団体信用生命保険(団信)の有無を確認

これが最も重要な確認事項です。収益物件を購入した際の住宅ローンに「団体信用生命保険(団信)」が付いているかどうか、必ず確認してください。

もし団信に加入していれば、あなたが亡くなられた際に、借入金3億円は保険によって全額返済されます

その場合、状況は一変します。

  • 遺留分の金額が大きく変わる
    借入金がなくなるため、遺産の総額は時価5億円そのものになります。その結果、子供2人の遺留分額は、(5億円 × 1/2) × 1/2 = 1億2,500万円に跳ね上がります。生命保険で準備すべき金額もこの額に合わせて見直す必要があります。
  • 相続税が発生する可能性
    相続税計算上の純資産も、借入金がなくなるため2億円となります。基礎控除4,800万円を差し引いた1億5,200万円が課税対象となり、相続税が発生します。ただし、この場合でも前述の「配偶者の税額軽減」を使えば、奥様の納税額をゼロにすることは可能です。

団信の有無によって、準備すべき資金額や税金の有無が全く変わってきます。まずはローン契約書を確認し、団信に加入しているかどうかを把握することが、全ての対策のスタートラインとなります。

まとめ

現金がなく、収益物件と多額の借入金があるという複雑な状況でも、諦める必要はありません。ポイントは、「公正証書遺言」「生命保険」「家族会議」という3つの対策を、生前の元気なうちに行うことです。

まずはローンの契約内容を確認して団信の有無を把握し、それに基づいて必要な生命保険の金額を算出しましょう。そして、遺言書であなたの意思を明確に残し、ご家族にその想いを伝えることで、不動産を売却することなく、奥様に大切な資産を引き継ぎ、お子さんたちにも感謝の形を示すという、あなたの理想の相続を実現することができます。少しでも不安な点があれば、相続に詳しい専門家に相談してみるのも良いでしょう。早めの準備が、ご家族の未来の安心につながります。

参考文献

No.4152 相続税の計算|国税庁

No.4158 配偶者の税額の軽減|国税庁

No.1750 死亡保険金を受け取ったとき|国税庁

No.4603 宅地の評価単位|国税庁

収益物件の相続で現金がない!遺留分対策のよくある質問まとめ

Q. 資産は不動産のみで現金がありません。子供たちに遺留分を支払うにはどうすればいいですか?

A. 物件を相続した方がその不動産を担保に金融機関から融資を受けて現金を用意する「代償分割」という方法があります。また、生前に生命保険に加入し、死亡保険金を遺留分の支払いに充てる方法も有効です。

Q. 物件のローンも相続しなければなりませんか?

A. はい、相続します。相続ではプラスの資産(不動産)だけでなく、マイナスの資産(借入金)も引き継ぐことになります。物件を相続する方がローン返済の義務も負うのが原則です。

Q. このケースで相続税はかかりますか?どうやって支払うのですか?

A. 相続税評価額(2億円)から借入金(3億円)を差し引くと課税遺産額がマイナスになるため、基礎控除の範囲内となり、相続税はかからない可能性が高いです。そのため、納税の心配は不要と考えられます。

Q. 遺言書で「全財産を妻に」と書けば、子供に現金を渡さなくてもよいですか?

A. 遺言は有効ですが、子供には「遺留分」という最低限の相続権が法律で保障されています。お子さんが遺留分を請求した場合、それに応じた現金を支払う必要があります。遺言書だけでは遺留分の問題を解決できません。

Q. 今からできる相続対策はありますか?

A. 遺留分支払いのための現金を準備する目的で、生命保険に加入することが最も有効な対策の一つです。死亡保険金は受取人固有の財産となるため、スムーズに納税資金や代償金を準備できます。合わせて、遺言書を作成しておくことも重要です。

Q. 妻が物件を相続しても、収支トントンでは生活が成り立たないのでは?

A. ローン返済や経費を支払って収支がトントンだと、固定資産税や将来の大規模修繕費を賄えず、赤字になる可能性があります。生前のうちに繰り上げ返済でキャッシュフローを改善したり、管理コストを見直したりする対策が考えられます。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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