親から相続した不動産や、何十年も前に購入した不動産を売却しようと考えたとき、「そういえば、いくらで買ったんだろう…?」と困ってしまうこと、ありますよね。不動産を売却して利益が出ると「譲渡所得税」という税金がかかりますが、その計算には不動産を買ったときの金額、つまり「取得費」が絶対に必要なんです。でも、購入時の売買契約書が見つからず取得費が分からない…。そんなときでも諦めるのはまだ早いですよ。この記事では、不動産の取得費が分からない場合の対処法、「推定取得費」の計算方法について、わかりやすく解説していきます。
そもそも不動産売却の「取得費」とは?
不動産を売却した際にかかる税金を計算するために、まずは「譲渡所得」というものを知る必要があります。譲渡所得とは、簡単に言うと「不動産売却による儲け」のことです。以下の計算式で求められます。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
この計算式にあるように、取得費が大きければ大きいほど、譲渡所得は小さくなり、結果的に支払う税金も少なくなります。だからこそ、取得費を正確に把握することがとても大切なんですね。具体的に何が取得費に含まれるのか、見てみましょう。
取得費に含まれる主な費用
取得費には、不動産の購入代金そのものだけでなく、購入時に支払った様々な費用が含まれます。
| 不動産の購入代金・建築代金 | 土地や建物を買ったときのお金です。 |
| 仲介手数料 | 不動産会社に支払った手数料です。 |
| 各種税金 | 登録免許税、不動産取得税、印紙税など、購入時にかかった税金です。 |
| 改良費・リフォーム費用 | 資産価値を高めるためのリフォーム費用などです。(通常の修繕費は含みません) |
| その他 | 測量費や整地費、建物の解体費用なども含まれる場合があります。 |
これらの費用を証明する領収書や契約書は、大切に保管しておきましょう。
取得費が分からないとどうなる?「概算取得費」のルール
「昔のことだから契約書なんてどこにもない…」そんな場合でも、税金の計算ができないわけではありません。国税庁は、取得費が不明なケースのために特別なルールを用意しています。それが「概算取得費」です。
概算取得費は、以下のとてもシンプルな計算式で求められます。
概算取得費 = 売却価格 × 5%
例えば、不動産を4,000万円で売却した場合、取得費は「4,000万円 × 5% = 200万円」として計算することになります。これは、実際の取得費がいくらだったかに関わらず、また、実際の取得費がこの金額を下回っていたとしても使える便利なルールです。
しかし、大きな注意点があります。多くの場合、この概算取得費は、実際の取得費よりもかなり低くなってしまいます。例えば、本当は3,000万円で購入した不動産でも、取得費は200万円とみなされてしまうのです。その結果、譲渡所得が不当に高くなり、支払う税金も高額になってしまう可能性が高いというデメリットがあります。
概算取得費は最終手段!推定取得費の計算方法
税金が高くなるなら、概算取得費は使いたくないですよね。実は、合理的な根拠があれば、概算取得費を使わずに取得費を「推定」して申告することが認められる場合があります。ここでは、その代表的な方法を2つご紹介します。
【土地の場合】市街地価格指数を使って計算する
土地の取得費を推定する方法として、「市街地価格指数」を用いる方法があります。これは、一般財団法人日本不動産研究所が公表している、全国の主要都市における市街地の宅地価格の動向を示す指標です。
計算式は以下の通りです。
推定取得費 = 売却価格 × (取得時の市街地価格指数 ÷ 売却時の市街地価格指数)
例えば、売却価格が5,000万円で、売却時の指数が100、取得時の指数が40だったとします。その場合の推定取得費は「5,000万円 × (40 ÷ 100) = 2,000万円」となります。ただし、この方法はあくまで推定であり、税務署に必ず認められるわけではありません。計算の合理性を客観的に示すことが重要です。
【建物の場合】建物の標準的な建築価額表で計算する
建物の取得費は、国税庁が公表している「建物の標準的な建築価額表」を参考にして推定できます。この表には、建物の構造と建築年ごとの1平方メートルあたりの標準的な建築単価が示されています。
まず、建物の建築当時の価額を計算します。
建物の建築価額 = 建築年の標準建築単価 × 延床面積
ただし、建物は年月の経過とともに価値が減少する(減価償却)ため、その分を差し引く必要があります。
減価償却費 = 建物の建築価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
最終的な建物の取得費は、以下のようになります。
建物の推定取得費 = 建物の建築価額 - 減価償却費
償却率や経過年数の計算は少し複雑なので、国税庁の資料を確認するか、専門家に相談することをおすすめします。
まだある!取得費の手がかりを探す方法
上記の指数や表を使う以外にも、取得費の根拠となる資料が残っているかもしれません。諦めずに探してみましょう。
登記簿謄本(全部事項証明書)を確認する
法務局で取得できる登記簿謄本には、不動産を購入した際に住宅ローンを利用した場合、金融機関が設定した「抵当権」の情報が記載されています。「債権額」として書かれている金額が、借入額です。この借入額から、購入代金をある程度推測することができます。
その他の資料を探してみる
自宅やご実家を隅々まで探してみると、以下のような資料が見つかるかもしれません。これらも取得費を証明する助けになります。
| 購入当時のパンフレットやチラシ | 販売価格が記載されていることがあります。 |
| 住宅ローンの契約書 | 「金銭消費貸借契約書」や返済予定表などです。 |
| 預金通帳 | 購入代金を支払った際の出金記録が残っている場合があります。 |
どの計算方法が一番お得?注意点
「概算取得費」と「推定取得費」、どちらを選ぶべきか迷いますよね。これはケースバイケースで、一概にどちらが良いとは言えません。
例えば、非常に古い建物の場合、減価償却が進んで推定取得費がほとんどゼロになってしまうことがあります。その場合は、売却価格の5%で計算できる概算取得費の方が有利になることもあります。
一方で、比較的新しい不動産であれば、推定取得費で計算した方が、税金を抑えられる可能性が高いでしょう。
最も重要なのは、推定取得費で申告する場合は、その計算方法に合理的な根拠があることを税務署に説明できなければならないという点です。もし根拠が乏しいと判断されると、申告が認められず、追加で税金を支払うことになるリスクもあります。どの方法を選択すべきか、判断に迷った場合は、必ず税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
まとめ
不動産の取得費が分からない場合でも、対処法はあります。まずは基本となる「概算取得費(売却価格の5%)」を覚えておきましょう。ただし、これは税金の負担が大きくなりやすいので、あくまで最終手段と考えるのがおすすめです。
その前に、市街地価格指数や建物の標準的な建築価額表などを用いて、合理的な「推定取得費」を計算できないか検討してみましょう。また、契約書以外にも取得費のヒントになる資料が残っていないか、諦めずに探すことが大切です。
どの計算方法がご自身の状況にとって最適なのかは、専門的な判断が必要です。損をしてしまったり、後から税務署に指摘されたりしないためにも、不動産売却に詳しい税理士に一度相談してみることを強くおすすめします。
参考文献
不動産の推定取得費(概算取得費)計算に関するよくある質問まとめ
Q.不動産の取得費が不明な場合に使う「推定取得費(概算取得費)」とは何ですか?
A.売却した不動産の購入時の契約書などを紛失し、実際の取得費が分からない場合に、売却価格の5%を取得費として計算できる特例制度です。これを概算取得費といいます。
Q.推定取得費(概算取得費)の具体的な計算方法を教えてください。
A.計算方法は非常にシンプルで、「不動産の売却価格(譲渡収入金額) × 5%」で算出します。例えば、3,000万円で売却した場合、150万円が概算取得費となります。
Q.どのような場合に推定取得費(概算取得費)を使うことができますか?
A.先祖から受け継いだ土地や、購入時期が古すぎて売買契約書や領収書が見つからないなど、客観的な資料で実際の取得費を証明できない場合に適用できます。
Q.推定取得費(概算取得費)を使うメリットとデメリットは何ですか?
A.メリットは、複雑な計算や書類集めが不要な点です。デメリットは、実際の取得費よりかなり低くなるケースが多く、その結果として譲渡所得が大きくなり、税金が高額になる可能性がある点です。
Q.推定取得費(概算取得費)を使わずに、実際の取得費を証明する方法はありますか?
A.はい、あります。当時の不動産広告、住宅ローンの契約書、登記費用や不動産取得税の領収書など、様々な資料を基に合理的な取得費を算出し、税務署に認めてもらう方法があります。ただし、専門的な知識が必要になる場合があります。
Q.もし実際の取得費が売却価格の5%より低い場合、どうすれば良いですか?
A.その場合は、実際の取得費を証明するよりも、売却価格の5%を概算取得費として申告する方が有利になります。これにより譲渡所得を圧縮でき、節税につながります。