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受益者連続型信託とは?遺言を超える資産承継のメリット・デメリット

2025-02-23
目次

「自分が亡くなった後は妻に財産を渡し、妻が亡くなったら、次は自分の甥に財産を引き継いでほしい…」このように、ご自身の財産を特定の想いとともに、何代かにわたって引き継いでいきたいと考えたことはありませんか?実は、通常の遺言では一代先までしか財産の承継先を指定できません。しかし、その想いを実現できる可能性を秘めた制度が受益者連続型信託です。今回は、この受益者連続型信託の仕組みから、メリット・デメリット、具体的な活用事例まで、わかりやすく解説していきますね。

受益者連続型信託とは?基本的な仕組みを解説

受益者連続型信託は、家族信託の一つの形で、2007年の信託法改正によって可能になった比較的新しい制度です。まずは、その基本的な仕組みについて見ていきましょう。

受益者連続型信託の登場人物と役割

家族信託には、基本的に3人の登場人物がいます。受益者連続型信託もこれは同じです。

委託者 自分の財産を信頼できる人に託す人(例:父親)
受託者 委託者から財産を託され、管理・運用する人(例:長男)
受益者 信託された財産から生じる利益を受け取る人(例:父親→母親→孫)

通常の家族信託では、最初の受益者(多くの場合は委託者本人)が亡くなると信託が終了することが多いです。しかし、受益者連続型信託の最大の特徴は、最初の受益者が亡くなった後、あらかじめ契約で定めておいた次の人(第二受益者)、さらにその次の人(第三受益者)へと、リレーのように受益権を引き継いでいける点にあります。

遺言とはここが違う!二次相続以降も指定可能

受益者連続型信託のすごさを理解するために、遺言との違いを見てみましょう。一番大きな違いは、財産の承継先をどこまで指定できるか、という点です。

受益者連続型信託
遺言 一代限り(例:「妻に相続させる」まで)
承継先の指定 数世代先まで可能(例:「妻に、妻の死後は長男の子(孫)に」と指定できる)

例えば、「私が死んだら財産は妻に、妻が死んだら長男に」という内容の遺言を書いたとしても、「妻が死んだら長男に」の部分は法的に無効になってしまいます。妻が相続した財産は妻自身のものになるため、その財産を次に誰に渡すかは、妻の意思(遺言など)で決まるからです。
一方で、受益者連続型信託を使えば、このような二次相続(妻の次の相続)以降の財産の行き先まで、最初の契約で決めておくことができるのです。これは「超遺言」とも言える画期的な機能なんですよ。

どんな人が利用するのに向いている?

受益者連続型信託は、特に以下のような想いやお悩みを持つ方に向いています。

  • 先祖代々の土地を、自分の家系(直系の子孫)に確実に引き継いでいきたい方
  • お子様がいないご夫婦で、まずは配偶者に財産を遺し、配偶者が亡くなった後は自分の兄弟姉妹や甥・姪に財産を戻したいと考えている方
  • 障がいのあるお子様がいて、自分たち夫婦が亡くなった後も、その子の生活を生涯にわたって支える仕組みを作りたい方(親なきあと問題)
  • 会社の株式などを、後継者、さらにその次の後継者へと円滑に引き継いでいきたい事業経営者の方

受益者連続型信託のメリット

受益者連続型信託には、遺言や通常の相続では実現できない多くのメリットがあります。ここでは主なメリットを4つご紹介します。

数世代にわたる資産承継の指定が可能

これが最大のメリットです。前述の通り、遺言では一代限りしか指定できませんが、この信託を使えば「自分 → 配偶者 → 子 → 孫」というように、ご自身の想いに沿った長期的な資産承継のプランを実現できます。これにより、意図しない人に財産が渡ってしまうのを防ぐことができます。

認知症による資産凍結リスクに備えられる

最初の受益者である親が元気なうちに信託契約を結んでおけば、もし将来、親が認知症などで判断能力が低下しても、受託者である子どもが契約に基づいて財産の管理を続けることができます。最初の受益者が亡くなり、次の受益者(例えば高齢の配偶者)に権利が移った後も、受託者が財産管理を継続できるため、世代をまたいだ認知症対策としても非常に有効です。

特定の親族への財産承継を実現しやすい

例えば、お子様がいないご夫婦の場合、夫が亡くなると財産は妻に相続されます。その後、妻が亡くなると、妻の財産は妻の親族(兄弟姉妹など)に相続されるのが一般的です。夫の親族には財産は戻ってきません。
しかし、受益者連続型信託で「最初の受益者を夫、第二受益者を妻、妻の死亡後の財産の帰属先を夫の甥」と定めておけば、夫婦の生活を守りつつ、最終的には夫の血縁者に財産を戻す、という希望を叶えることができます。

「親なきあと問題」への有効な対策になる

障がいのあるお子様がいるご家庭では、「自分たちが亡くなった後、この子の生活はどうなるのだろう」という切実な悩み(親なきあと問題)があります。受益者連続型信託を使えば、親を最初の受益者、親の死亡後は障がいのある子を第二受益者とし、信頼できる親族(兄弟など)を受託者とすることで、親亡き後も継続的にお子様の生活費などを信託財産から支える仕組みを作ることができます。

受益者連続型信託のデメリットと注意点

非常に便利な受益者連続型信託ですが、知っておかなければならない注意点も存在します。契約を結ぶ前に、デメリットもしっかりと理解しておきましょう。

「30年ルール」という期間制限がある

受益者連続型信託は、永久に続けられるわけではありません。信託法第91条には、通称「30年ルール」と呼ばれる期間制限が定められています。
これは、「信託契約が開始されてから30年を経過した後に、新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで」で信託は終了するというルールです。
少し難しいですが、簡単に言うと、信託を開始してから30年経った後に受益者の交代が起こると、その次の代で信託は強制的に終了してしまう、ということです。永遠に資産承継先を指定できるわけではない、という点は必ず覚えておきましょう。

受益者が変わるたびに相続税がかかる可能性がある

受益者連続型信託は、直接的な節税対策にはなりません。むしろ、注意が必要です。最初の受益者が亡くなって第二受益者に受益権が移る際、その受益権は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の課税対象となります。同様に、第二受益者が亡くなって第三受益者に移る際も、再び相続税の課税対象となる可能性があります。世代を超えるごとに課税が発生する可能性がある点は、大きなデメリットと言えるでしょう。

遺留分を侵害するリスク

遺言と同様に、信託契約の内容も遺留分を無視することはできません。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、最低限の遺産の取り分のことです。例えば、特定の相続人にだけ有利な内容の信託を組んだ場合、他の相続人から「遺留分を侵害された」として、遺留分侵害額請求を起こされる可能性があります。トラブルを避けるためにも、信託を組む際は、相続人全員の理解を得て、遺留分に配慮した設計にすることが非常に重要です。

受託者と受益者が同一になると信託が終了する可能性

信託は、財産を「管理する人(受託者)」と「利益を受ける人(受益者)」が分かれていることが前提です。もし、受益者の交代によって「受託者と受益者が同一人物」という状態が1年間続くと、その信託は強制的に終了してしまいます(信託法第163条2号)。例えば、受託者である長男が、父親(第一受益者)の死亡により第二受益者になった場合、この状態に陥ります。これを避けるためには、第二受託者を定めておくなどの対策が必要です。

受益者連続型信託の具体的な活用事例

ここでは、受益者連続型信託が実際にどのように活用されるのか、具体的なケースを見ていきましょう。

ケース1:子どものいない夫婦が、配偶者の死後、自分の親族に財産を戻したい場合

Aさん(夫)とBさん(妻)は子どものいない夫婦です。Aさんは、自分が亡くなった後は妻Bさんに不自由なく暮らしてほしいと考えていますが、先祖から受け継いだ自宅不動産だけは、Bさんが亡くなった後、妻側の親族ではなく、自分の甥であるCさんに引き継いでほしいと願っています。

【信託の設計】

  • 委託者:夫Aさん
  • 受託者:甥Cさん
  • 第一受益者:夫Aさん
  • 第二受益者:妻Bさん
  • 信託終了時の残余財産の帰属先:甥Cさん

この設計により、Aさんが亡くなった後は妻Bさんが受益者として自宅に住み続けたり、賃貸に出してその収益を得たりすることができます。そして、Bさんが亡くなった時点で信託は終了し、自宅不動産は甥のCさんに引き継がれることになります。Aさんの想いを実現できる設計ですね。

ケース2:先祖代々の土地を直系の子孫に継がせたい場合

地主のDさんには、長男Eさんと次男Fさんがいます。長男Eさんには子どもがおらず、次男Fさんには息子のGさん(Dさんの孫)がいます。Dさんは、先祖代々の土地をまずは家を継ぐ長男Eさんに継がせ、Eさんが亡くなった後は、血のつながった孫のGさんに確実に承継させたいと考えています。

【信託の設計】

  • 委託者:Dさん
  • 受託者:長男Eさん
  • 第一受益者:Dさん
  • 第二受益者:長男Eさん
  • 第三受益者:孫Gさん

もし遺言で「長男Eに相続させる」とだけ書くと、Eさんが亡くなった場合、その財産はEさんの配偶者に相続される可能性が高く、Dさんの家系から土地が離れてしまうかもしれません。しかし、この信託設計なら、Dさんの想い通りに、Dさん→長男Eさん→孫Gさんという流れで財産(からの利益)を引き継いでいくことが可能です。

受益者連続型信託にかかる税金について

受益者連続型信託を検討する上で、税金の問題は避けて通れません。どのタイミングで、どのような税金がかかるのかを整理しておきましょう。

信託設定時 委託者と受益者が同一人物(自益信託)の場合は、財産が移動したわけではないので、贈与税や不動産取得税はかかりません。もし委託者と受益者が異なる場合(他益信託)は、受益者に対して贈与税がかかります。
受益権の承継時 前の受益者の死亡によって、次の受益者が新たに受益権を取得した場合、その受益権は相続または遺贈によって取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。これが世代交代のたびに発生する可能性があります。
信託終了時 信託が終了したときに残っていた財産(残余財産)を受け取る人(帰属権利者)が、最後の受益者と異なる場合は、その財産は贈与または遺贈されたものとみなされ、贈与税または相続税がかかります。

このように、受益者連続型信託は税務の観点からも非常に複雑です。安易な判断はせず、必ず税理士などの専門家に相談しながら進めることが大切です。

まとめ

受益者連続型信託は、遺言では実現できない数世代にわたる資産承継を可能にする、非常に強力なツールです。ご自身の想いを未来の世代にまで届けたい方にとっては、まさに画期的な制度と言えるでしょう。
しかし、その一方で「30年ルール」という期間制限や、受益者が変わるごとの相続税課税、遺留分の問題など、専門的な知識がなければ思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性も秘めています。

大切なのは、ご自身の想いやご家族の状況を整理した上で、この制度が本当に最適なのかを慎重に検討することです。そして、実際に進める際には、家族信託に詳しい司法書士や弁護士、税理士といった専門家のサポートを受けながら、ご家族全員が納得できる形で契約内容を設計していくことを強くお勧めします。

参考文献

国税庁|信託税制

受益者連続型信託のよくある質問まとめ

Q.受益者連続型信託とは何ですか?

A.委託者(財産を託す人)が亡くなった後、第一次受益者(例:配偶者)が亡くなったら第二次受益者(例:子)へ、というように受益権を数世代にわたって承継させられる信託のことです。遺言では一代限りしか指定できない財産の承継先を、長期にわたって決められるのが特徴です。

Q.受益者連続型信託の最大のメリットは何ですか?

A.自分の死後、さらにその次の世代までの財産の承継先を指定できる点です。例えば、「妻に財産を遺し、妻の死後は長男に」といった想いを実現できます。これにより、先祖代々の土地などを特定の家系で引き継がせたい場合に有効です。

Q.デメリットや注意点はありますか?

A.はい。信託設定から30年経過後に新たに発生した受益者の死亡により信託は終了する「30年ルール」があります。また、信託する不動産には登録免許税などのコストがかかる点や、柔軟な財産処分が難しくなる可能性がある点も注意が必要です。

Q.遺言とはどう違うのですか?

A.遺言では財産を渡す相手は一代限りしか指定できませんが、受益者連続型信託では二次受益者、三次受益者と数世代にわたる承継先を指定できる点が大きな違いです。より長期的かつ詳細な財産承継の意思を実現できます。

Q.どのようなケースで利用するのがおすすめですか?

A.先祖代々の土地や事業用資産など、特定の家系で守り引き継いでいきたい財産がある方におすすめです。また、お子さんに障がいがある場合など、ご自身の死後も長期的に生活を支える仕組みを作りたい場合にも活用されます。

Q.何代にもわたって無制限に受益権を引き継げますか?

A.いいえ、制限があります。信託法により、信託が設定されてから30年を経過した後に、現在の受益者が死亡した場合、その次の受益者への承継をもって信託は終了します。これを「30年ルール」と呼び、永続的に承継させることはできません。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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対応責任者
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